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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第五章 忙しい冬休み
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お針子生活4……マリー視点

 討伐された魔物の肉や素材が届いた。

「お嬢様が魔物をたくさん討伐されたから、ご親戚や孤児院に配りましょう!」

 パントリーに入りきらない程の肉、肉、肉! それに羽毛の袋がどっさり!

「これをお嬢様が討伐されたのですか?」

 エバさんに尋ねたら、ハハハと笑われた。

「あの小さなお嬢様が子爵様になられたのだからねぇ! ルシウス様の結婚式の後は、打ち上げ会もされるそうだから、モリーとマリーも新しいドレスを作らないといけないかもね」

 それは、楽しみだ! お嬢様のドレスなら絹だからね。メイド服や使用人の服は綿か毛織物だから、絹を縫えるのは嬉しい!


 打ち上げの日、召使い達にも夜にすき焼きがでた。

「美味しすぎるわ!」

「ミミが言っていた意味がわかったわ。ほっぺたが落ちそう!」

 美味しい物を食べるたび、胸の奥がズキンとするのは、自分だけが幸せだからかしら?


 冬休みになると、お嬢様が変なコートを私たちに作らせる。まるで布団を身に纏う感じなのだ。ふぅ、意味不明だよ。

 一応、言われた通りの魔物の羽根の細かいのを入れたコートを作った。

「ダウンコートの見本はできましたけど、もこもこで格好悪いです」

 モリーは、ずけずけ言うから、メアリーさんに睨まれている。

 私が差し出したコートをお嬢様も格好悪いと思われたみたい。

「こんなにパンパンに羽を詰めなくて良いの。それと、もっと縫い目の間隔を狭くして。特にウエスト部分は他の所より狭い方が格好良いわ」

 新しく描き直されたデザインのダウンコートは、ウエスト部分は狭くミシン目が入っていて、スマートに見えるようになっていた。

「なるほど! これなら何とか着てもおかしくないかも?」

 モリー! メアリーさんに後でお説教されるよ! 私も道連れにされそう。もっと言葉に気をつけなきゃ!

 私が冷や冷やしていたら、お嬢様が凄い提案をしてくれた。


「モリー、マリー、お針子の腕の良い子で、うちに雇っても問題の無さそうな子は居ないかしら? 実は、私だけでなく、お友達のドレスも縫う事になりそうなの。縫い賃は払うわよ」

 えっ、本当に! ドキドキする。

「良いのですか? ドレスメーカーのお針子は、大変なのです。マダム達は少しの失敗でもクビにするし、縫い賃を払ってくれないから。部屋代を払うのも困っている子が多いのです」

 モリーが、驚いて口がきけない私の代わりにお嬢様に言ってくれた。


「メアリー、何人なら引き受けても良いかしら?」

 メアリーさん、三人って言って! 指を固く絡めて、祈る。

「メイドや下女の教育もしないといけませんし、二名ぐらいなら」

 えっ、二名? 困る!

「モリー、マリー、良い子を紹介してね!」

 私とモリーは顔を見合わせる。言うだけ、言ってみよう!

「私達と同じ孤児院出身の三人でも良いでしょうか? まだ独立したばかりで、食べるのも大変そうなのです」

 お嬢様がメアリーさんに視線を向けると、頷いている。

「ええ、良いわ」とお嬢様が許可してくれた! 嬉しい!

「三人は一部屋で暮らしているから、二人だけと言われたらどうしようかと考えていました。あのう、早速、連れて来ても良いでしょうか? 年が越えられないかもしれないのです」

 モリーの言葉にメアリーさんがキツい目をする。夜の商売をしていると誤解されたのかも? 違うと否定するまえにお嬢様が命令した。

「すぐに連れて来なさい!」

 お嬢様が、そう言ってくれたので、私とモリーで下宿に行って、三人を連れて来た。


 私たちが連れて来た三人は、本当にガリガリだった。

「貴女達、すぐに何か食べなさい!」

 お風呂は後でいいからと、メアリーさんが慌てて、半地下の女中部屋に連れて行った。

 エバさんのスープと上級回復薬で、少し人心地ついたみたい。


 三人を部屋で休ませて、お嬢様にお礼と報告に行く。

「三人が住んでいた部屋の隣は四人が住んでいるのです。本当は一人部屋なのに……」

 お嬢様が首を捻っている。

「ベッドは一つで二人寝るのです。だから、二人は床で寝るしかありません」

 困惑しておられるみたい。

「その下宿は、そんなお針子ばかりなの?」

 私達は、気まずそうに首を横に振る。

 メアリーさんは、「お嬢様!」と止めているから、夜の商売に身を堕とした子もいるのだと察したみたい。

「その四人も連れて来なさい」

 今度は、馬車を出してもらって四人を連れて来た。下町から貴族街まで歩けない程弱っていたから、良かったよ。


 後から雇われたアンナ、ヘザー、ライラの三人とイルマ、ジェニー、ニーナ、カミーユの四人もすぐに元気になった。

 お風呂に入って、メイド服をと思ったけど、小さいのしかなかったので、私とモリーのを貸してあげる。

「先ずは、自分のメイド服を縫わなきゃね!」

 七人は、それをしながら、掃除や言葉遣いを習う。


 私とモリーは、お嬢様のお友だちのドレス作りだ。

「マリーはなんとかなりますが、モリーはもう少し口のきき方を直すまでは、お客様の前には出せないわ」

 モリーは不服そうだけど、できたら代わって欲しかったよ。

 でも、お嬢様のお友達のエリザベス様は背が高くてスタイルも良いし、センスも素晴らしい。

 アビゲイル様は、お嬢様よりほんの少し背が高いだけだけど、可愛い令嬢で、ふわっとした雰囲気が癒される。

 素敵な布をあれこれ肩から掛けて、顔映りを試したり、デザインを考えるのって、凄く贅沢だよね。

 エリザベス様のデザインは、縫うのが難しいけど、ジッパーを使えばなんとか脱ぎ着できるようになりそう。


「良いわねぇ! 私も一緒にデザインを考えたかったわ」

 モリーに愚痴られたけど、メアリーさんにそれを聞かれて、叱られたよ。

「今度は、マーガレット王女様が来られるのですよ。もっと真剣にマナーを学ばないといけません」

 ひぇ〜! それは私も緊張しちゃう。

「お嬢様は、マーガレット王女様の側仕えなのですから、王妃様とも面会をよくされます。召使いが無作法では恥になりますよ」

 ふぅ、今度から言葉遣いを普段からちゃんとしなきゃね。


 冬休みにお嬢様は、メアリーさんと弟君とエバさんもマシューやルーツも連れて婚約者のモラン伯爵領に行かれた。

 少し私達の気が緩んだのは仕方ないよね。

 ミシンを使って、後から雇われた七人のメイド服を縫ったり、お嬢様や、お友達の令嬢、そしてマーガレット王女様の仮縫いまでを頑張って縫ったけど、マナーは向上しなかった。

 ワイヤットさんは、忙しそうだし、アンさんは、エバさんがいないから、料理が忙しそう。

 調理関係は、お針子と同じぐらい人が多いけど、ほとんどは他家の調理助手みたい。

 つまり、キャリーがメイドのトップ? わいわい、がやがや喋りながら縫い物をする日々になっちゃった。

「モリー、言葉遣いが荒くなっているわよ」

 なるべく丁寧な口調にしようと約束したのに、監督のメアリーさんがいないと、すぐに元に戻っちゃう。

「そうだね! メアリーさんに叱られるね」

 叱られるからじゃなく、自分の為なんだけどさ。


 お嬢様とメアリーさんが旅行から帰って来て、全員がガツンと叱られたよ。

「新年から、家政婦さんが来られるから、しっかりと躾けて貰いましょう。それと、貴女達も先輩になるのだから、自覚を持たないと新任の子達に追い抜かれるわよ」

 全員の気が引き締まったよ。特に、キャリーとミミは同じ孤児院から何人か雇われるから、しっかりしなきゃと言い合っていた。


 お嬢様が帰って来られると、何故か忙しくなる。あちこちに手紙やお土産をメアリーさんとキャリーが配っている。

 そしたら、また手紙が届くのだ。これを、本当は私たちも手伝わないといけないのだけど、マナーができてないから、外の用事はさせられないとメアリーさんが渋い顔をしている。

 キャリーも親戚関係だけで、王宮や公爵家などは、メアリーさんが行く。本当は、お嬢様の側にいたいけど、なかなか忙しいみたい。

 私たちが留守中に縫ったお嬢様の赤地に黒の格子模様のドレス、とてもお似合いだった。少し大人っぽくて、あの素敵な婚約者様ともお似合いだと思う。


 新年会でマッドクラブという蟹を初めて食べた。私が新年会に出たのではなく、お嬢様のお客様を招待して開いた後で、少し頂いたのだ。

「こんな美味しいものが世の中にあるんですね!」

 ミミも初めて食べたみたいで、半分泣いているよ。他の調理助手も味を確認しながら食べている。特に、他家から来た人達は、真剣さが違うよ。

 私たち、お針子組は無言で完食した。美味しい!


「今日は、お嬢様にご挨拶しなさい」

 旅行にいかれたので、挨拶をしていなかった七人は緊張して、お嬢様の前に立つ。

「アンナ、ヘザー、ライラ」

 メアリーさんが名前を呼ぶと、習ったお辞儀を順にしていく。これは、何回も練習していたから、大丈夫だと思う。

「イルマ、ジェニー、ニーナ、カミーユ」

 四人もお辞儀をしていく。何も変だとは思わないのに、お嬢様は、じっと見つめている。何だろう? もしかして、クビなのかな?


「お針子の仕事は、モリーとマリーの指示に従いなさい。他の事はメアリーに従うのよ」

 良かった! 首じゃなかった。ホッと安心したけど、次の言葉に驚いた。

「ライラ、イルマ、カミーユは教会で能力判定を受けた事はないの?」

 そんなのないよね? 三人が驚いて固まっていると、メアリーさんが叱る。

「ちゃんとお答えしなさい」

「ありません」と慌てて答える。

「この三人からは、魔力を感じるわ。後で、教会に行かせましょう」

 

 後日、この三人は生活魔法が使えると判定があったみたい。少し羨ましい。これがあると、メイドに雇われやすいと噂があったから。

 初めはお嬢様が使い方を教えたけど、家政婦のミッチャム夫人も使えるから、こちらに交代した。


「全員のマナー教室を開かないといけませんね!」

 メアリーさんより優しそうだと思ったミッチャム夫人だけど、マナーには倍厳しかった。特に、モリーは口のきき方がなっていないと叱られる事が多い。

「それでも、ここに来られて良かったわ」

 今日も、かなり絞られたモリーだけど、そう言い切った。

「ふふふ、そうね! 本当に幸せだわ」

 下宿代を払えるか冷や冷やしなくて良いし、食事は美味しい。それに一つのベッドで二人で寝なくても良い。私的には絹のドレスを縫えるのが、とても嬉しい。レースや銀のビーズ刺繍とか、マダム・メーガンの所では扱わせてもらえなかったから。

「お嬢様みたいにビーズ刺繍ができるようになりたいわ」

 学園でお嬢様が縫われた濃緑のドレスの銀ビーズ刺繍、その素晴らしさにお針子全員がうっとりしちゃった。

「マリーなら、できるようになると思うわ」

 それは、嬉しいな!

「私は、いつかお金を貯めて、ドレスメーカーになりたいわ!」

 モリーの夢は素敵だね。

「その前に、型紙を作れるようにならないとね!」

「それは、言わないで!」

 モリーが私にふざけて殴りかかる真似をした。

「モリー&マリー! 良い感じだと思うわ」

「マリー&モリーよ!」

 いつか、アップタウンにお店を開けたら良いな。

ゴールデンウィーク、少しお休みさせて頂きます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 440 冬休み初日は終わらない 「3人が住んでいた部屋の隣は4人が住んでいるのです。本当は2人部屋なのに……」  うっ、4人で2人部屋? ベッドに2人ずつって事かな? なんて甘かった。…
[良い点] 孤児の子達が楽しそうにキャッキャしてると、なんだか嬉しくなります。
[良い点] 他者視点、特に孤児院から来たから貴族の生活との差がよく分かる。メアリーが居ないとだらけるのが、家政婦が来てから躾が行き届くようになり皆がビシッとなるのが良い(*^^*) カニを食べた時に無…
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