冬休みも終わり
色々あったけど、明後日から中等科二年生! ナシウスの入学だよ。
「明日、入寮する準備はできたかしら?」
私にはメアリーが、ナシウスにはマシューが付き添う。
「ええ、お姉様! 時計も届きました。ありがとうございます」
入学祝いの懐中時計も名前を刻んで出来上がった。
「ナシウス、入学して一週間はテスト期間なの。そこで合格したら、学年飛び級できると思うわ」
技術も、乗馬と剣術も合格ラインに達しているし、音楽も美術もダンスも問題ないと思う。魔法実技も大丈夫だし、ペーパーテストは中等科に飛び級できそうだよ。
ただ、一学年しか飛び級できないので、初等科二年になると思う。
「もしかしたら、二年Aクラスにはサミュエルだけでなく、エドもいると思うわ。それと、もしかしたら入学する妹のクラリッサも飛び級して同じクラスになるかも?」
エドは錬金術クラブだし、クラリッサも入ると言っていたから、ナシウスの友だちになるかもね?
「お姉様、飛び級できるかどうかはわかりませんよ」
ナシウスは謙遜するけど、カミュ先生も中等科で十分やっていけると言っていた。
今日は、昼からはパーシバルとノースコート伯爵の屋敷を訪問する。これから、何回も泊めて貰う事になりそうだからね。サミュエルにも進級祝いのファイルをプレゼントするよ。
「ペイシェンス! 雪狼の毛皮ありがとう!」
リリアナ伯母様の熱烈歓迎を受けた。
「いえ、冬の魔物討伐で手に入ったので」と答えておく。
応接室で、領地に行く時の宿代わりにさせてもらう件を頼む。
「それは、勿論良いが、これからは貴族の客が増えそうで、少し困惑している」
去年の夏休み、錬金術クラブの合宿状態だったから慣れていると思っていたよ。
「ペイシェンスのお友だちは、賢くて無茶は言われないもの。中には気を使わないといけない方もいらっしゃると思うと気が重たいわ」
それは、嫌だろうね! パーシバルも少し難しい顔をしている。
「貴族至上主義者やエステナ教団の方がお泊まりの時は、避けた方が良いでしょうか?」
ノースコート伯爵は、私があれこれやらかしているのを知っているからね。
「その時は、予めそちらに連絡しておきましょう。それか、サティスフォード子爵の館から視察しても良いですね」
サティスフォード子爵は、よく領地に帰っているからね。モラン伯爵は、ロマノで外務大臣の仕事があるから、長期休暇しか領地に戻らないんだ。
サティスフォードから、グレンジャーは二時間半。ちょっと遠いね。
「それと、ペイシェンスにはホテルの件を相談したかったの」
ベンジャミンには笑われたけど、リリアナ伯母様は真剣に受け止めていたんだね。
「ええ、これから遺跡を見学にくる客を全員館に泊めるのは大変ですもの。とは言え、港の宿は少し……」
ノースコートには軍の宿舎と、商人の宿があるけど、貴族は泊まりたいとは思わないだろう。
「そうだな。私もずっと領地にはいられないし、高級なホテルがあると安心だ」
それでも、断れない客はいそうだけどね。
「ホテルを建てるなら、高級なのと、少し上等な程度のを建てたほうが良いと思いますわ。歴史クラブのメンバーも夏休みには遺跡巡りをしたいようです。他国の学生や貴族も滞在して、遺跡を調査するでしょう」
貴族の観光客は高級ホテル、学生や長期滞在して調査するには、ちょっと上等なホテルがいいと思う。
「建物は、建て始めているが、従業員も雇わないといけないな」
リリアナ伯母様が「コックもですわ」と付け足す。それ、大事だよね!
「そこで、ペイシェンスに頼みたいのよ。グレンジャーの料理人は凄腕だわ。二人ほど、調理助手を送るから、修行させて欲しいの」
ああ、これは断れないよ。私も宿にする心積もりだからね。
「それと、何かお土産を作って売れば良いと思いますわ。遺跡関連で来た客に飲食や物販でお金を使って頂けば、ノースコートの町を発展させるのに良いと思いますの」
サティスフォードに比べて、ノースコートは少し田舎町だからね。
「お土産物か! それは考えていなかったな」
パーシバルがハッと閃いた。
「ペイシェンスが考案したブロックでカザリア帝国の遺跡をセットにして売り出したらどうでしょう?」
それ、名案だよ! あっ、どこまで公開するのかな?
「伯父様、地下通路や発着所も公開するのですか?」
ノースコート伯爵は頷く。
「そこを公開しなければ、これまでと同じだからな。ただ、ガイウスの丘の場所は機密にする。遺跡から、発着所までの地下通路だけ公開する予定だ」
ふむ、ふむ、開閉できる発着場とかをカザリア帝国の遺跡の地下通路から組み立てたら面白そう。
「やはり、カザリア帝国の遺跡の丘も作らないと駄目ですよ」
パーシバルは、前からブロックの丘が欲しいと言っていたからね。土台を丘状にするのはできそう。
「崩れ落ちた建物やそこに生える木とかも組み合わせたら、雰囲気は出そうですね」
残っている城壁とかも組み立てたら良いのかも。
「でも、ブロックなんて子どもは喜びそうですが、ご婦人方はどうかしら?」
そうだよね! 私はブロックも楽しいけど、貰っても困る人もいそう。
「魚や海老、貝柱の干物もお土産になりますわ。ホテルで、その料理を出せば、買って帰る人も出ると思います」
これは、ノースコート伯爵が喜んだ。
「領民の手にお金が落ちるし、それは良いな!」
ただ、これも貴族の令嬢とか喜びそうにないんだよね。たとえば、アンジェラが干物を貰って喜ぶか? 微妙だと思う。
「やはり、キラキラした物が必要ですね! ノースコートの浜で取れる貝殻とかで工芸品を作るとか?」
パーシバルが首を傾げている。
「ペイシェンス、それはカザリア帝国の遺跡のお土産になりますか?」
そう言われると微妙だね。
「カザリア帝国の遺跡の絵葉書はどうでしょう?」
絵葉書って、この世界にはないのかも? 紙を貰って説明する。
「表にカザリア帝国の遺跡を描いてあって、裏面に届ける方と少しの文章を書くスペースがあるのです」
「これでは、内容が丸見えだわ!」
リリアナ伯母様は少し不満そう。
「そんな詳しい事は書かないのです。カザリア帝国の遺跡にきたよ! ってくらいの内容なら、読まれても平気だと思いますわ。それに、何種類も作って、それを貝殻の額に入れて飾る事もできるのです」
絵葉書を入れる大きさの簡単な額を作って、そこを貝殻でデコレーションする絵を描く。
「これは、良いな! 絵師に何種類か描かして、それを黒白印刷すればいいのだ。色は、内職で付けさせても良い」
多色刷り印刷もあるけど、高くなるからね。
「あら、絵師に何枚か絵を描かすなら、それを売っても良いのですわ」
ちょっと高いお土産も用意しよう。
「夏場は、遺跡でアイスクリームを売っても良いかもしれませんわ」
ノースコート伯爵はメモを取りだした。
「あのう、飛行艇の件はどの程度公開されるのですか?」
「古文書の件は機密だけど、壁画は公開される。あれは、前から公開されていたからな」
なるほどね! なら、面白い物が作れそう。
「クッキーに焼き印を付けて売ったらどうでしょう。缶には遺跡の絵を描いた紙を貼れば、良い感じのお土産になりますわ」
ざっとクッキーに飛行艇の焼印を入れた絵を描く。
「これは良いわ! お土産に最適だと思うもの」
やはり消え物が良いよね!
「それか、飛行艇に注目が集まるのを陛下が心配されるなら、カザリア帝国の刻印にしても良いし、最後の執政官ガイウスの焼印でも良いのです」
飛行艇の方が格好良いけど、実際に作っているから機密にした方が良いかもね。
「それは、陛下にお伺いを立てておこう。カザリア帝国の刻印も良さそうだし、ガイウス執政官のでも良いと思う」
それと、やはりキラキラした物も欲しいから、サティスフォードから半貴石を購入して、ネックレスや腕輪を売ったら良いとアドバイスする。
「そうね、夫人方は遺跡だけでは退屈されるかもしれないわ。やはり、ショッピングできる店がないといけないわ」
夏は海水浴もできるし、なかなか良いんじゃないかな?
「ペイシェンス、近くの領地の発展だけではなく、自分の領地の為にアイデアを取っておかなくてはいけませんよ」
パーシバルに帰りの馬車で苦笑された。
「うちの領地にも色々と考えていますわ。でも、遺跡はありませんから、あれはノースコートの方が良いお土産ですの」
現地を見たら、いきなりの開発は難しいのが理解できた。
「でも、海産物の干物やマッドクラブの冷凍は、王都でも売れると思いますわ」
それと、葡萄畑をテコ入れする間に、ハープシャーでは味噌と醤油を作ろう! これは、蔵を別に建てたいな。
「ペイシェンス、また色々と考えているのですね。ちゃんと話して下さいよ」
パーシバルと領地の事も話すけど、新学期の時間割も相談しながら決めて、冬休みは終わった。
これで第五章はお終いです。