リチャード王子と王妃様と面会
リチャード王子との面会は、次の日になった。王妃様の呼び出しも続いてだよ。やれやれ!
その前に、エリザベスとアビゲイルのドレスの仮縫いをする。マーガレット王女のは仮縫いまで済ませたのを持って行く予定。後は、王宮で縫うんじゃないかな? これは、王妃様が良いと判断されてからになるね。
私やエリザベスと違って、やはり王女様だから、皆の注目度が違うもの。
エリザベスとアビゲイルの仮縫いは、ちゃんとできていたから、すぐに終わったよ。
「ふふふ、やはり自分の好みのドレスは縫い上がるのが待ち遠しいですわ」
特に、エリザベスのはデザインが凝っていたから、縫う方は大変だったみたい。
簡単にお茶を飲んで解散する。彼女たちも新学期が始まると寮暮らしになるから、準備が大変みたい。
「リリーナ様も寮に入られるそうです」
それは、マーガレット王女から聞いているみたいだけど、歓迎はしていない感じ。前の学友三人組は感じ悪かったからね。クラスメイトにも偉そうな態度だったから、エリザベスとアビゲイルが少し不満そうなのも理解できるよ。
「リリーナ様は、勉強する気があるのかしら?」
それは、分からない。
「流石にCクラス落ちは拙いと思うのではないかしら? リリーナ様はとても綺麗だけど、やはり評判を落としてしまうわ」
アビゲイルの言葉に、全員が頷く。
「私たちも秋学期までに修了証書をいっぱい貰っておかないと、社交界デビューなんかしてられなくなるわ」
今回、Bクラスにリリーナとハリエットが落ちたので、母親たちは戦々恐々なのだ。
「ええ、キャサリン様はなんとかAクラスをキープしたみたいだけど……来年は税金が払えそうにないそうよ」
エリザベス、何処からその情報を?
「だから、格下でも金持ちの方との結婚を必死で探しているとの噂だわ。でも、こんな噂が流れたら、評判は落ちるばかりね」
貴族の令嬢の評判が落ちるのは、本当に簡単なのだ。しみじみ実感したよ。
次の日、パーシバルとリチャード王子との面会をする。今度も、婚約者がいるから、メアリーは控え室だ。
「ペイシェンス、領地を決めたと聞いたぞ。長年、放置されていたから、立て直しは大変だろうが、お前ならできるだろう」
ああ、重たい荷物が肩にのしかかる気分だよ。
「はい、頑張ります」としか答え様はないよね。
忘れないうちに願い出ておこう。
「グレアムの任を解いて下さいませんか? グレンジャー家で雇いたいと考えています。実は、私の侍女と結婚をしたいと言っているのです」
リチャード王子もグレアムから報告を受けていたみたい。
「ああ、それはかまわない。グレアムは、元々、グレンジャー家の護衛に行かせたのだからな」
グレアムの事は快諾される。一つ解決して、ホッとした。
「それと、リュミエラ様の世話をよくしてくれて、感謝している。コルドバ王国からも王立学園の生活を楽しんでいるようだと王妃様から感謝の手紙が届いた」
これも、問題ないんだよね。さて、ここからが呼び出しの本題だよ。
「マーガレットとパリス王子の件は、流れに任せるしかない。まぁ、ペイシェンスには引き続き、二人っきりにしない様に気をつけて欲しいが、領地の方で忙しい時は、学友達に頼んでから側を離れて欲しい」
あら? 半年前とはニュアンスが変わったね。王太子になったからかも? それと、パリス王子がそんなに嫌な奴じゃないと、リチャード王子も感じたのかもね?
「パーシバル、パリス王子はどの程度、本気なのだろう?」
これは、同じ性別の方が分かりやすいと思ったのか、パーシバルに質問する。
「パリス王子は、常に周りに気を張って成長されていたのではと思います。王立学園の寮での暮らしは不便も多いでしょうが、気を張らずに生活できて、マーガレット王女の素直な性格に惹かれておられると思います」
リチャード王子は「素直な性格ねぇ」と溜息をつく。
「私の兄弟は、仲が良くて温かい性格だ。それは、素晴らしい長所でもあるが、冷たい王宮暮らしにマーガレットは耐えられるだろうか?」
それは、私も心配だよ。マーガレット王女は、少し考えが甘いし、我儘な音楽愛溢れる欠点もあるけど、心根は優しい。
「そこをパリス王子が支えてくれるかどうかが問題ですね」
パーシバルは、私を色々とサポートしてくれるけど、パリス王子は王子様だからね。人を支えるなんて、した事がなさそう。
「それをマーガレットが見極めれば良いのだけどな」
結論は、それになるね。これ以上、私たちが話しても無駄な気がして、リチャード王子は話を変える。
「これもまたソニア王国絡みなのだが、カレン王女が留学されることになった。キースとの縁談も打診されているから、カレン王女の為人を注意して観察して欲しい」
嫁に貰う方が、リチャード王子としては気が楽な感じで話している。
「ジェーンと同級生になるから、カレン王女の世話は、側仕えのアンジェラと学友達にも頼むつもりだ。ただ、まだ初等科の一年生だから、ペイシェンスも手助けして欲しい」
これは、言われると思っていたんだ。
「少しならお手伝いします」と答えておく。
これは、パーシバルは黙っているよ。女子寮には入れないからね。
「そうだな、カレン王女の世話は、キースとジェーンに任せてみよう」
えっ、それは……私とパーシバルが顔を見合わせる。
「キースにも王族としての自覚を持って欲しいのだ。案内も二人にして貰おう」
それは、分かるけど、大丈夫かな?
「あのぅ、マーガレット王女の元学友のリリーナ様についてなのですが、寮に入られるし、勉強会にも参加されると聞いて、少し戸惑っています」
リチャード王子も苦笑している。
「クラリッジ伯爵も、やっと貴族至上主義者から離れるみたいだし、リリーナがマーガレットに泣きついたようだ。ペイシェンスには不満もあるだろうが、勉強会に出る機会があれば、少し教えてやってくれ」
ふぅ、やはり父親のクラリッジ伯爵を取り込みたいのだね。
「ペイシェンス様、忙しい時は放置で良いのでは?」
パーシバルは、あの三人組には厳しい。
「私が勉強会に出て、自分の勉強が終わったら、教えますわ」
それで良いと、リチャード王子も頷いた。
「最後に馬の王の件だが……」
ああ、気が重たいよ。
「ペイシェンス、そんなに嫌そうな顔をしなくても……」
リチャード王子に言われちゃったけど、馬の王は良いけど、デーン王国の人とは関わりたくないんだ。
「少なくとも雪が溶けるまではマチアス陛下も来られないだろう」
「では、オーディン王子も来られないのですか?」
期待したけど、笑われちゃったよ。
「いや、新学期までには来られるのではないかな? スレイプニルもこちらに残っているし、連れて帰りたいから騎士も来そうだ」
はぁ、溜息をつく私を、リチャード王子は笑ったけど、パーシバルも少し嫌みたいだね。
「オーディン王子とジェーン王女の縁談はどうなるのですか?」
リチャード王子は、できたら進めたい感じだけど、スレイプニル愛が強すぎるよ!
ここでパーシバルと別れて、私はシャーロット女官に案内されて王妃様の所に行く。パーシバルは、父親の執務室で待っているそうだ。
王妃様は、いつも通り麗しくて、素敵な笑顔で迎えて下さった。
「ペイシェンスが領地を決めたと聞きました。これから、色々と大変でしょうが、身体にだけは気をつけるのですよ」
それは、ありがたく拝聴しておこう。
「ベネッセ侯爵夫人が、やっとペイシェンスに会えたと喜んでいましたよ」
それは、こちらの方です。
「母との思い出を話して頂き、とても楽しいひと時を過ごさせて頂きました」
ここまでは、問題ないね。
「今年の秋には、社交界デビューするのですから、ペイシェンスも殿方には注意しなくてはいけませんよ。婚約者のパーシバルがいるのですから、不注意に庭に出るとか、バルコニーで涼しい風に当たろうとか誘われても、うかうかとついて行ってはいけません」
それは、伯母様達にも散々言われたよ。
「はい、わかりました。注意致します」
少し小さな声で「パーシバルに誘われても駄目ですからね」と言われちゃった。
「ペイシェンスは、側仕えとしてだけでなく、マーガレットの良き友人として支えてくれて、とても感謝しています。それに、あの子は勉強に真剣ではありませんでしたが、近頃は真面目に取り組む様になりました。これもペイシェンスの影響です」
いや、それはパリス王子と話が合わないと困ると思ったからでは? そんな恐ろしい事は言わないけどね。
少し、私の服を見て、満足そうに頷く。
「マーガレットが新しいデザインのドレスをペイシェンスに作って貰うと言っていました。どうかしら? と思っていましたが、とても素敵ですね。いつまでも子供服を着させてはいられないのね」
ああ、それもあって、子供服はいつまでも子供服のままなのかもね。仮縫いまでしたドレスは、メアリーがシャーロット女官に渡したよ。料金は後払いだね。
「ペイシェンス、リュミエラ王女とジェーンの事も、お願いしておきますね。領地管理で忙しいでしょうから、少し気にかけてくれているだけで良いわ」
そのくらいなら、私も気楽に引き受けられる。
「ええ、わかりました」
ここからは、少女歌劇の話だよ。アルバートが凄く乗り気で、公爵を説得したみたい。バーンズ公爵夫人やベネッセ侯爵夫人やモラン伯爵夫人も賛成してくれたそうだ。
「ペイシェンス、貴女の発想力は素晴らしいわ。ラフォーレ公爵以外は、女性だけでパトロンになろうと話しているのよ。先ずは、団員を募集する事が決定しているわ」
それは良いけど、住む場所や練習場所は決まっているのかな?
「女の子だけだから、寮母をおこうと考えていますわ」
ああ、それは良いわね!
「とても素敵ですね」と感想を言ってお終いだった。あれ? 凄く楽なんだけど? まぁ、楽なのは良い事だよね。