あちこち訪問しなきゃ!
シャワーを作ったので、前から考えていたグレンジャー屋敷の風呂場改築をしてもらう。
「半地下の洗濯場の一部に大浴場を作りたいと考えています。これは、シャワーといって、上から温かいお湯がでる装置です。ここで身体を洗ってから、浴槽で温まる感じです」
それと、脱衣所も作らなきゃね。
「こんなに大きな浴場が必要でしょうか?」
本当は、男女作りたかったけど、今は一週間に一回程度だと聞いたから、交代でも良いことにした。
ワイヤットが工事を頼んでくれるみたい。これは、任せておこう!
冬休みの残りは、訪問ラッシュになりそうなんだよね。
「ノースコート伯爵家には、パーシー様も一緒に行かれますか?」
グレンジャーやハープシャーの領地に行く時に、二人で泊まらせて貰う予定だからね。
「ええ、そうさせていただきます」
リチャード王子との話し合いも二人で行く予定。王妃様のは、私だけ。
「サティスフォード子爵も話したいと手紙が来たの。私は、アンジェラにも会いたいから、それは良いのだけど……冷凍車をレンタルしようかと考えていますの」
パーシバルがポンと手を打つ。
「今は、まだグレンジャーのマッドクラブを運ぶ段取りができていませんからね」
本当は、魚や魔物も急速冷凍した方が良いとは思うけど、まだ魔法陣だけだからね。
「いずれは、サティスフォード子爵に冷凍車を作って売ろうとは考えていますが、今は忙しくて無理ですわ」
それに、サティスフォードには立派な港があるから、グレンジャーほど急ぐ必要はなさそう。
「後は、バーンズ公爵夫人のお茶会ですね」
これも、私だけかな? ベネッセ侯爵夫人との顔つなぎだからね。
「冬休み、もっと遊びたかったですわ」
領地の視察があったから仕方ないけど、早朝は馬の王の運動もあるし、パーシバルとデートしていないよ。
「ペイシェンス、忘れていましたが、ナシウスの入学祝いの時計を買いに行きましょう!」
なんて事! 一番大切な事を忘れていたわ。
「ええ、それと他にも寮で必要な物を揃えないと!」
ナシウスに選ばせても良いのだけど、あの子は遠慮しそうだから、パーシバルと買い物に行く。
メアリーも一緒だけど、これはショッピングデートだよね。
「先ずは、時計屋に行きましょう!」
これは、パーシバルに任せた方が良さそう。アップタウンの時計屋に行く。
中は、当たり前だけど時計ばかりだった。
「懐中時計は、あちらですね」
私は腕時計を使っているけど、これは特注みたい。
「値段も色々ですね」
どれを選べば良いのか、悩むよ。
「私は金時計をお勧めします。長年使える物ですから、途中で買い替えるより良い物を最初から買った方が良いですよ」
だよね! そうしよう。ナシウスは文官を目指しているから、壊す事も無いだろう。
「これに、名前を刻んで頂けますか?」
店員は、そんな注文にも慣れているみたい。
「ええ、数日掛かりますが、宜しいでしょうか?」
良かった! 入学までには間に合いそう。
「ええ、ナシウス・グレンジャーと名前を刻んで下さい」
パーシバルが「姉からの入学祝いと刻まなくて良いのですか?」と揶揄う。
「あの子が大人になっても使うなら、それは無い方が良いと思いますわ」
お金はメアリーが支払って、文房具を扱っている店に行く。私のレターセットも買っておくよ。きちんとした上質な物、可愛いお友達用、そしてロマンチックなラブレター用。
「文房具はこれで良いけど、ファイルはバーンズ商会でしか売っていないのね」
私がナシウス用に作っても良いけど、ファイルする紙は、買わないといけない。
「では、バーンズ商会に行きましょう」
同じ、アップタウンだから、近い。
「ペイシェンス様、ようこそ!」
支配人のパウエルさん直々の案内になった。
「弟にファイルと紙を買いに来ただけですのよ」
忙しい支配人に案内して貰う程の買い物では無い。
「いえ、いえ、ペイシェンス様にはいつもお世話になっておりますから」
まぁ、買い物がスムーズにできるから、良いけどね。
「これは、便利そうですね。ノートを何冊も使うより、ファイルだけで済みますから」
パーシバルも購入する。
「あっ、アンジェラとサミュエルにもプレゼントしましょう。ただ、このファイル、色が黒しか無いのですね。アンジェラには可愛い色のファイルを作ってあげましょう」
ついでに、私のも作ろう。文房具って可愛い物の方がテンション上がるよね。
「ペイシェンス様? それは女性向けだけでしょうか?」
遣り手のパウエル支配人が、新しい商品に飛びついた。
「いえ、男性の方も好みの色を選ぶと楽しいと思いますわ」
目がキラリン! と光っている。
「それは、良いアイデアを頂きました。他の商品も見て、何か改良点がありましたら、ご指導下さい」
いや、今はデート中だからね。と言いつつも、あれこれ見て歩く。
「ペイシェンス、楽しそうですね!」
見ているだけなのに? とパーシバルは不思議そうだ。
「ええ、見ていると、アイデアが浮かんできますし、他にも必要な物がわかりますわ」
どんな物が欲しがられているのか、どんな物が無いのか、市場調査は必須だよ。
「是非、新商品ができたら、教えて下さい」
パウエルさんに見送られて、屋敷に帰る。
「アンジェラは、ピンクのイメージなのよね。私は、明るいライトブルーにしよう。ああ、ついでだからマーガレット王女やリュミエラ王女やエリザベス様やアビゲイル様のも作りましょう」
パーシバルは、黒で良いと言うから、作らないけど、作る工程は見ておきたいと言うから、一緒に工房に移動する。
「ナシウスも黒で良いのかしら?」
午前中は、勉強しているけど、ナシウスは少しくらい抜けても大丈夫そうなので、呼んでもらう。
「このファイル、黒しか売っていなかったの。私は色を変えようと思っているの。ナシウスは、どうする?」
ナシウスは、別に黒でも良いけど、遣り方は見ていたいと言うので、見学だ。
「このファイルの材料は、スライム粉、珪砂、ネバネバなの。ナシウス、混ぜてみる?」
錬金術クラブに入るなら、少しずつ練習しておいた方が良いからね。
「ええ、やってみます」
容器に入った物を混ぜるけど、スライム粉がぶつぶつになっている。
「こういう時は、滑らかになれか、混ざれを掛けると良いのよ」
ナシウスは、少し考えて「混ざれ!」と唱えた。
「うん、とても上手にできたわね。後は、これを少しずつ小分けにして、色をつけていくの」
ビーカーに小分けして、ピンク、ライトブルー、グリーン、青、濃紺、若草色、赤、オレンジに色付していく。
「ペイシェンス、これを見ていたら、黒より濃紺とかの方が欲しくなりました」
だよね! パーシバルの瞳の色に合わせたんだもの。
「私は……灰色はイマイチですね」
ナシウスの目の色は灰色だけど、それに合わせる必要はないよ。
「色々なファイルを作るから、気に入った物を選べば良いわ」
赤も真っ赤だけでなく、少し薄い赤とか、オレンジがかった赤とか、色々作る。
調子に乗って作り過ぎたけど、友だちにプレゼントするには良いかもね。安いし、受け取る方も気が楽だと思うよ。
「これにします!」
ナシウスは落ち着いたダークグリーンにした。
「アンジェラには、ベビーピンクにしましょう。サミュエルは、濃い青かな?」
プレゼント用には、少し紙を挟んでおく。すぐに使えるようにね! 後の追加用は、バーンズ商会で買って貰おう。
「錬金術って、もっと難しく考えていましたが、これは楽しいですね!」
パーシバルの言葉で、ハッとしたよ。
「二月の体験コーナー、これにしたら良いのかも? 自分の好きな色のファイルを作るのって楽しいですよね!」
別のを考えていたけど、新学期が始まった所だし、良いと思う。
「カエサル様に手紙を書きますわ! ああ、トレントも調査したいのです」
パーシバルに「忙しい冬休みですね」と呆れられたよ。