シャワー! と急速冷凍!
お茶を飲んで休憩したら、シャワーと瞬間冷凍の魔法陣を作る。
「シャワーは、必要ですか?」
私の絵を見て、ゲイツ様が首を捻る。
「大浴場には、シャワーで身体を洗ってから入った方が良いのです」
パーシバルは、何となく理解してくれた。
「これは、騎士団や兵舎にあると便利ですよね。何人も素早く汗を流せますから」
だよね! 使用人だけでなく、領地の兵舎にも作りたい。汗臭いのは嫌だからさ。
シャワーヘッドを壁に固定するやり方なら簡単だけど、私はそれは嫌いだったんだ。外国のホテルでは時々そのタイプもあったけどね。
「シャワーヘッドを上下させる必要があるのですか?」
いや、上下だけでなくシャワーヘッドを取り外して身体を洗いたい。
「固定で良いのでは?」
パーシバルも理解していない。こちらのお風呂は、中で洗って、すすぎのお湯を掛けて貰って出るからね。あまり、ちゃんと石鹸とか洗い流していない感じなんだよ。
まぁ、外国映画なんかでも、あまり洗い流していない感じだったし、お皿もちゃんとすすがないとか、私的には無理な事が多かったな。
「兵舎とかは、上からお湯が出るタイプで良いでしょう」
パーシバルもそちら派だよ。
「冬場は浴槽も必要ですが、夏場はいらないのでは?」
ゲイツ様、無茶だよ。必要でしょう!
「お湯に浸かると、疲れが癒やされますわ」
二人は、私の剣幕にちょっと引いている。
「まぁ、シャワーはお湯を上から出すだけですから、そんなに難しくはありませんよ。ただ、ペイシェンス様が考えているホースとかが難しいかもね」
本当は、全部そうしたいけど、壁にシャワーヘッドを取り付ける方が簡単だと言われてしまった。
「新居にはシャワーブースも作りたいです」
そちらは、取り外しできるシャワーヘッドに絶対にするからね。
「配管工事をしなくてはいけませんね」
パーシバルの言葉で、グレンジャーの屋敷のお風呂も作らないといけないと思い出した。
「何箇所、お風呂を作れば良いのかしら? グレンジャーの屋敷、ハープシャー館、その兵舎、葡萄畑の管理人小屋、そして管理人の家」
ゲイツ様がけたけた笑う。
「お風呂だけではないのに、そんなに豪華にして良いのですか?」
それは、そうだけど、清潔は大事だもの。
「では、大切な瞬間冷凍の魔法陣について考えましょう。蟹の味を左右するなら、とても重要ですからね!」
気合いが入っているね! でも、私も冷凍庫で凍らせた蟹と、ゲイツ様が魔法で凍らせた蟹の味の違いは大きいと思うから、頑張るよ!
「冷凍の魔法陣はあるのだから、それを強化したら良いのでは?」
ゲイツ様に呆れられた。
「ペイシェンス様は、やはり錬金術をもっと勉強しないといけませんね。それができるぐらいなら、もう皆がやっていますよ。時間を短縮するのは難しいのです」
そうか、そりゃ、そうかもね。パーシバルも笑っている。
「毎回、ゲイツ様に凍らせて貰える訳じゃありませんし……私が現地にいる時だけ? やはり、それも無理がありますね」
ゲイツ様がにっこりと笑う。
「ペイシェンス様、魔法で、瞬間冷凍の魔法陣を紙に描いたらどうでしょう?」
えっ、それって前に浄化の魔法陣を描いたのと同じだよね。
「それは……できるかしら?」
パーシバルが驚いている。
「ペイシェンス、できるのですか?」
ええっと、できるかどうかは分からない。
「試す価値はありますよ。冷凍庫のより美味しい蟹を王都に運べるのですから」
どうもゲイツ様に唆されている気がするよ。
「そうだ! 川の浚渫も、ポンプを使っても難しい岩とかは、魔法で退けたら良いのです。それは、私も協力しますから、瞬間冷凍の魔法陣を描いて下さい」
えっ、魔法で川の浚渫ができるの?
「魔法でできるなら、ポンプはいらないのでは?」
ゲイツ様が必死に力説する。
「川の浚渫を魔法でできるのは、私かペイシェンス様ぐらいですよ。それに、全部をしていたら、流石に何日も掛かりますし、疲れて倒れます。ポンプでできない箇所だけするのです」
それと、蟹は関係ないと思うけど、ゲイツ様的には協力するから、美味しい状態の蟹を手に入れたいって感じなんだろうな。
「ゲイツ様、ライナ川の浚渫を手伝って下さるのですか?」
パーシバルが言質を取っている。
「ええ、美味しい蟹が手に入るなら、そのくらい大した事ではないですよ。それに、私はローレンス王国の王宮魔法師なのですから、洪水が起きそうな川を放置しておけません」
いや、今まで放置していたじゃん。
できるかどうか分からないけど、挑戦してみよう。
「椅子に座ってからにしますわ。魔力切れで倒れたら困りますから」
パーシバルが驚いて止める。
「ペイシェンス、そんなに危険な事だとは知りませんでした。やめましょう!」
真剣な濃紺の瞳に見つめられて、うっとりしちゃうけど、これができたら、領地の海産物が王都に運べるんだよね。
「いえ、領地の開発の為に必要ですもの。それに、できるかどうかは分かりませんの」
ゲイツ様は、やるだけやってみましょうと嗾ける。
メアリーは、部屋の隅で心配そうだけど、大丈夫だと頷いて、集中する。
「瞬間冷凍の魔法陣よ! 現れろ!」
あああ、かなり魔力が吸い取られていく。
「ペイシェンス!」「お嬢様!」
パーシバルとメアリーに支えられて、倒れなかったけど、ふらふらする。
「ランド!」ゲイツ様が執事を呼んで、気つけ薬とお茶と甘いケーキを持って来させた。
「すみません! こんなに魔力が必要だとは思わなかったのです。冷凍まではあるから……ああ、これが瞬間冷凍の魔法陣ですね!」
謝っていた途中から、魔法陣の方に興味が移ったゲイツ様に、パーシバルが怒る。
「ゲイツ様! ペイシェンスに危険な事をさせないで下さい」
メアリーも厳しい目で見ている。
「だから、こんなに魔力が必要だと思わなかったのです。ペイシェンス様、すみませんでした」
やれやれ、今回は私も軽率だったね。欲張り過ぎたんだよ。
「これで急速冷凍庫を作って、そこにマッドクラブを入れたら、美味しい蟹が王都でも食べられますね!」
全く反省していないゲイツ様に、執事さんの怒りが爆発した。
「ペイシェンス様、申し訳ありません。ゲイツ様にはチョコレートは当分は必要ありません」
きちんと直角にお辞儀して、丁重に謝ってくれた。
「ランド! 何を言うんだ! チョコレートがあるから、退屈な魔法省の仕事も我慢できるのだ」
いや、サボっているよね?
「わかりました。魔法省のサリンジャー様にチョコレートを渡しておきますわ」
そのくらい良いよね!
「魔法省でサリンジャーから貰うのですか? でも、またハープシャーに行かなくてはいけないのに?」
うっ、痛いところを突いてくるけど、新学期までは行けないんだ。あちこちから、招待されているからね。
それに、ノースコート伯爵夫妻も今は王都にいるんだもん。早くハープシャーの館を補修しないと、行きたくても行けないんだよ。