家政婦さん、やっと来てくれた!
モラン伯爵とパーシバルが帰ってから、メアリーが「少し時間を頂けますか?」なんて言うから、グレアムと結婚の相談かな? と思ったけど、違った。
領地の視察に行ったりして、すっかり忘れていたわけじゃないけど、バタバタと雇ったお針子さん達、メアリーに引率されて、挨拶をしに来たよ。
来た時はフラフラだったけど、皆が元気になったようで安心した。
モリーとマリーが最初に連れてきた三人は、同じ孤児院出身だ。
「アンナ、ヘザー、ライラ」
三人とも、茶色の髪で14歳ぐらいに見える。
うん? ライラって魔力を感じるけど?
メアリーが名前を呼ぶと、習ったお辞儀を順にしていく。
次は、同じ下宿の四人だけど、幼く見える。12歳になっていないかも?
「イルマ、ジェニー、ニーナ、カミーユ」
あらら? 黒髪のイルマと茶髪のカミーユからも魔力を感じるのだけど?
ノースコートでも生活魔法を使える領民は多かったから、不思議ではないけど、本人達は知っているのかな?
「お針子の仕事は、モリーとマリーの指示に従いなさい。他の事はメアリーに従うのよ」
家政婦が来たら、メアリーの負担も少なくなりそう。バーンズ公爵夫人の手紙で、もうすぐ来ると書いてあった。
それと、魔法について質問したい。
「ライラ、イルマ、カミーユは教会で能力判定を受けた事はないの?」
三人ともキョトンとしている。
「ちゃんとお答えしなさい」
メアリーに注意されて、慌てて「ありません」と答える。
「この三人からは、魔力を感じるわ。後で、教会に行かせましょう」
私や弟達の能力判定は、金貨一枚だったけど、もっと安い所もありそう。ワイヤットに要相談だ。
「能力判定ですか? では、下町の教会に連れて行きます」
庶民は、能力判定を受けないのが普通みたい。
「でも、ノースコートでは何人もの生活魔法を使える領民がいたわ」
ワイヤットは王都育ちなので、田舎の事情は知らないと断ってから話した。
「王都よりも田舎の方が教会に気楽に出入りするのかもしれません。だから、能力判定を受ける領民が多いのかも?」
王都の貴族街の立派な教会にお参りする人は少ないのかな?
「領地の教会は教育機関と孤児院を兼ねていると聞きました。王都は違うのに何故かしら?」
できれば、分離したいと思うけど、今までそれで問題なかったのに新たに来た領主が口を出して良いものか分からない。
「王都の孤児院は、王家が運営しています。学校は補助はありますが、親から月謝を貰っています」
ふうん、なるほどね! と言う事は、貧しい家庭の子は勉強できないのかもしれない。
「では、本来は孤児院は領主が作るべきなのかしら?」
ワイヤットもそれは分からないみたい。
「視察して、問題がないか調べてみないといけませんね」
まぁね! エステナ教会が全て悪い訳ではない。中には立派な司祭もいるだろう。
「教育機関も、調べないといけないのだわ。領都には教会があるけど、他の村はどうなっているのかしら?」
ワイヤットが肩を竦める。
「地方から王都に来る貧しい子は、文字が読めませんから、多分、教育など受ける機会は無いのでしょう。それは、王都でも同じです。私も子爵様に拾われるまでは、簡単な文字しか読めませんでした」
へぇ、ワイヤットの過去なんて初めて聞いたよ。ついでに相談しておこう。
「メアリーとグレアムの結婚についてだけど、どこに住まわせたら良いのかしら?」
できたら、屋敷で暮らして欲しいけど、良いのかな?
「使用人同士の結婚は、取り扱いが難しいですよ。田舎なら、館の近くの家から通わせたら宜しいのですが、王都の場合は下町から通うのは時間が掛かります。だから、屋敷で生活する方が良いでしょう」
そうか、アップタウンの部屋を借りるのは無理なんだね。
「あと、家政婦がそろそろ着くそうだけど……」
賃金とかはワイヤットに丸投げだよ。
三人は、下町の教会で能力判定を受けて、生活魔法を授かっていると分かった。やはり、生活魔法って庶民にも多いんだよね。
使い方は、私がまとめて指導する事にしたけど、実は習った経験がないのだ。
ジェファーソン先生に一発合格を貰ったからね。
「どうやって教えたら良いのかしら?」
悩んでいたら、ナシウスが笑った。
「お姉様は、私達に教えて下さったではないですか? それと同じようにしたら良いのでは?」
そうか! だよね!
「先ずは、お掃除の仕方を教えます」
ライラ、イルマ、カミーユを並べて、お掃除のやり方を教える。
「あの手が届かないカーテンの上を掃除してみましょう」
ライラの手を取って「綺麗になれ!」と一緒に掃除してみる。
「まぁ、綺麗になりましたわ!」
驚いているけど、もう魔力切れだ。他の子もやらせてみる。
「こうやって、少しずつ練習していれば、段々と使える回数も増えてくるわ。服のアイロンとかにも使えるけど、それはまた今度にしましょう」
生活魔法を使える庶民はいるけど、魔力量が少ないのだ。でも、毎日使っていたら、増えると思う。
これは、少しずつ教育しておこう。孤児院から雇う予定の下女は、家政婦さんが落ち着いてから来てもらう予定だった。
「お嬢様、タラ・ミッチャムという女性が来られています。バーンズ公爵家からの紹介状も持って来られていますが……」
前に、ワイヤットに家政婦について話していたと思うけど? まぁ、良いか。
「通してちょうだい」
ああ、何故、ワイヤットが変な顔をしていたのか分かった。タラ・ミッチャムはとても若く見えたのだ。
「初めまして、バーンズ公爵夫人から紹介されて参りました。タラ・ミッチャムです」
先ずは座って貰って、話をしよう。
「あのう、私が若くて驚かれたのではないでしょうか?」
タラは賢いみたい。すぐに私の戸惑いを察知した。
「ええ、家政婦のイメージがもう少し年長の方だったので」
タラは、ヘーゼルの目を輝かして笑う。
「本来は、あと数年後の予定でしたから」
ああ、カエサルが結婚した時に家政婦になる予定だったからね。
「私も、結婚するのは五年後ですわ。ただ、宜しかったのかしら? 公爵家の家政婦と、子爵家の家政婦では違うと思うのです」
タラは、私の話を聞いてから、話しだす。
「お嬢様は、公爵家に何人の家政婦がいるかご存知ではないのですね。
王都の屋敷、領地の館、それぞれ正副の家政婦がいます。それと、その見習い。だから、ご心配されなくても良いのですよ」
ふぅ、それだけじゃなくて、立場的に彼方の方が上だからと心配したのだけど?
「バーンズ公爵夫人からペイシェンス様のことをお聞きして、是非、お仕えしたいと思いました」
それは、恥ずかしいほど嬉しい。
「お願いします」
後は、ワイヤットに任せたよ。父親はノータッチだったけど、まぁ、それはいつものことだよね。
家政婦になったから、タラではなく、ミッチャム夫人と呼ぶんだよね。まだ若いから、少し違和感があるけど、そのうち慣れると思う。
ミッチャム夫人が来てから、私の暮らしは、本当に楽になった。
あの三人の生活魔法の指導も、彼女がしてくれたのだ。生活魔法を使えるみたい。
「やっと、本来の暮らしになりましたね」
メアリーは、侍女の勤めに専念できるから嬉しそうだ。
孤児院から下女も来たけど、その子達の指導もミッチャム夫人がしているみたい。
「でも、エバに直接言えないのは、困るわ」
料理のレシピも、ミッチャム夫人を通して渡す感じなんだよね。
でも、メアリーは満足そうだ。台所とかは、令嬢に相応しく無いと前から言っていたからね。
ただ、これについてはミッチャム夫人と話し合わなくてはいけないかも? 彼女なら柔軟に対処してくれそう。