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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第五章 忙しい冬休み
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ハープシャー子爵?

 モラン伯爵が領地の申請をしてくれた。私と父親は、署名しただけだったよ。

 モラン伯爵は、パーシバルと家に来て、懐かしそうに眺めていた。そう言えば従兄弟だから、若い頃に来たことがあるのかもね。内装は綺麗にしたけど、そのまんまだもん。

「何から、何までありがとうございます」

 お礼を言ったけど、笑ってスルーされた。

「いえ、とんでもないですよ。それより、ペイシェンス様はハープシャー子爵を名乗られるのですか? グレンジャー子爵は、ウィリアム様がいらっしゃるからややこしいでしょう」

 えっ、思ってもみなかったよ。


「そういうものなのでしょうか?」

 モラン伯爵が驚いている。パーシバルがフォローしてくれる。

「ええっと、ペイシェンスの周りにも爵位持ちの方はいらっしゃると思うのですが……」

 そう言えば、カエサルとかベンジャミンとかアーサーとか……あっ、サミュエルもだね!

「でも、誰もそんな事は言われていませんわ」

「正式な名乗りなど、社交界以外ではしないだろう。ペイシェンス、それは常識だぞ?」

 父親も驚いている。これって貴族の常識なの?


「サミュエルは準男爵の称号を持っていますけど?」

 正式な呼び方はどうなるのか?

「サミュエル・ノースコート準男爵が正式な名乗りになるな」

 では、私も……ああ、子爵が二人は駄目なのかしら?

「ペイシェンス・グレンジャー・ハープシャー子爵ですかな?」

 モラン伯爵の言葉に少しショック。

「サミュエルは、そのままなのに……」

 サミュエルの場合は領地がないから、父親の名前と自分の称号みたい。


「跡取りの方は苗字に称号が普通です。次男以下の方は、結婚までは親の苗字と称号ですね。結婚してからは称号だけになります」

 パーシバルが説明してくれた。別の苗字で分家っぽい扱いになるんだ。


「えっ、では結婚したらどうなるのですか?」

「ペイシェンス・モラン・ハープシャー子爵ですね」

 ふう、グレンジャーが無くなるのは寂しいな。父親が笑う。

「普段は、ペイシェンス・モランだけで良いだろ」

 そうか、そうだよね。ペイシェンス・モラン! その名前を聞くと、結婚するんだなぁとパーシバルを見て頬が赤くなる。


 今日は、モラン伯爵と父親もいるので、これからの領地管理について話し合う。

「ハープシャー館を住めるようにしなくてはいけませんな」

 そうなんだよね! ゲイツ様が管理人を世話してくれるし、葡萄畑の件もあるからね。

「葡萄畑の管理人の家もあのままでは駄目でしょう。それと、領地の管理人の家も用意しなくてはいけません」

 モラン伯爵は、ゲイツ様が両方世話をしてくれたのに驚いている。

「ゲイツ様は、ペイシェンス様を本当に気に入っていらっしゃるのですね」

 そうだけど、困る点もある。

「ありがたい事ですが、その動機が困るのです」

 一瞬、モラン伯爵は私に気があるのではと思ったかも? 慌てて弁解する。

「葡萄畑の管理人も領地の管理人も、私が領地管理に時間を取られない為に紹介して下さったのです。魔法の訓練計画に障りが出ないようにと言われましたわ。私は、魔法省に入る気はありませんのに、困っています」

 周りから外堀を埋められている気がするんだ。


「王宮魔法師のゲイツ様から直接魔法訓練をして貰えるのは、とても名誉な事ですよ」

 それは分かってはいるけど、魔法省はね……。

「ペイシェンス、子爵になったら、兵を管理しなくてはいけないのですよ。いざ、戦争になったら、領民を徴兵して送り出さなくてはいけません。その時に、備えるのは悪い事ではありません」

 うっ、その覚悟が足りないのだ。

「パーシバル様は、貴族としての誇りがありますのね。私は、その点が欠けているのですわ」

 パーシバルが私の手を取って励ましてくれた。

「ペイシェンスは、か弱い令嬢ですから、その覚悟がなくても仕方ありません。でも、子爵として、領地を拝領したのですから、少しずつ自覚していかなくてはね!」

 そうだよね! モラン伯爵は頷いている。


「そうか、その方面は私は詳しくないからな。法衣貴族として、戦争が起こったら、自分も従軍するのはあると考えていたが、やはり甘かったのかもしれない」

 父親も反省している。いや、父親は、従軍しても役に立ちそうにないけどさ。

「ウィリアム様、従軍するだけが務めではありませんから」

 モラン伯爵も、父親に従軍されても足手纏いだと止めている。乗馬も苦手そうだし、剣も無理だと思う。


「後方支援もありますから」

 パーシバルも同じ考えみたい。あれ? 私は?

「ペイシェンス様は、冬の魔物討伐でも素晴らしい成果を得ておられますから」

 私の疑問の視線を受けて、モラン伯爵はにこりと笑う。凄く、敏感に人の気持ちが分かる人だね。パーシバルも似ているかも?


「館や管理人の家の補修はしなくてはいけませんが、それと並行して川の浚渫も行わないといけません」

 それ、本当に洒落にならないほど重要だよ。

「当分は、ノースコート伯爵の館に泊めて貰えば良いでしょう。ただ、他の貴族達と一緒になりそうで、少し厄介ですがね」

 新年会で陛下がノースコートのカザリア遺跡を発表したのだ。

 かなり前から噂にはなっていたけど、大評判になったみたい。


「まぁ、真冬のうちは、本当に遺跡に興味のある客だけでしょうが、季節が良くなったら、物見遊山の貴族が押しかけるでしょう」

 リリアナ伯母様、大変だね。なんて思っていたけど、それも貴族の常識としては違うみたい。

「千客万来で宜しいですなぁ」とモラン伯爵は、少し羨ましそうだ。

 貴族は恩を売って、それが貴族社会で生きていくのに大きな財産になるみたい。実感はないけどさ。


「ペイシェンス様は、マーガレット王女の側仕えとして、王族の庇護下にありますから、あまり実感が無いのでしょう。社交界デビューも王妃様が後見なさるし、他の貴族には羨望の的なのですよ」

 そうなのかしら? パーシバルにも笑われる。

「私なんか、ペイシェンスとの婚約を射止めたと、嫉妬の視線が痛いです。まぁ、そんな有象無象の輩など無視していますが……カエサル様とアルバート様は気をつけて下さいね」

 ゲイツ様は良いのかな? パーシバルの前でも結婚したいと何回か叫んでいたけど?

「ゲイツ様は、ペイシェンスが結婚したいと思わない限り、大丈夫ですよ」

 それは無いな! なんて、二人で甘いムードになりかけたけど、保護者がいたのだ。


「治水工事の専門家も雇って工事をして貰わないといけません。ウィリアム様、ロマノ大学で優秀な助手とかはいませんか?」

 えっ、考えてもなかったよ。

「ああ、それは建築学の教授に聞いてみましょう。良い技術者を紹介して貰えば、安心できます」

 ああ、初めて父親がロマノ大学の学長だと実感したよ。

「その人達が泊まる施設が無いのが、やはり問題ですね。宿はありますが……工事の職人は泊まれますが、ちょっとね」

 やはり、館の補修を急ごう。

「それと、インテリアコーディネーターを決めないといけませんね」

 パーシバルにも釘を刺されたよ。


「ハープシャーの管理人が決まっているなら、管理人の家が用意できるまで、モラン伯爵館に住んで貰っても良い」

 モラン伯爵の好意は嬉しい。

「そうして頂けると、ありがたいです」

 でも、用意する物も言われたよ。

「管理人が視察して回れるように、馬と馬車を購入した方が良いだろう」

 そうか、それもあったね! 賃金とかはどうなるのかも、私にはわからない。

「ハープシャー館が住めるようになったら、うちからも執事見習いと女中頭を派遣する。後の下男と下女は領民を雇った方が良いだろう」

 やる事がいっぱいだ。

「それらを、管理人にして貰うのですよ」

 パーシバルに言われて、そうだと驚く。

「川の浚渫もポンプはゲイツ様と作るのでしょうが、工事は管理人に任せたら良いのです。治水工事も、専門家を雇って、計画を立てて貰い、後は任せて、視察しましょう」

 ふぅ、それなら何とかなりそうな気がするよ。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] >「パーシバル様は、貴族としての誇りがありますのね。私は、その点が欠けているのですわ」 閑話でパーシバルの内面を知ってしまったために パーシバルのセリフが薄っぺらく感じてしまう。
[良い点] ペイシェンスはか弱い令嬢なんですから、、、ってパーシバル、愛ですね。首チョッパーされた魔物が解せぬ、、、って思ってそうw
[一言] もともとToDoリストがパンクするような生活なのに、領主としての仕事も細かく予定入ってもうメチャクチャに 突然領主になるのだから最初にやるべきは部下の整備と掌握じゃないかな。君主論的に考えて…
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