優先順位
先ずは腹ごなしにゲームをしよう! 人生ゲームでも良いけど、何回かしたから、今日は違う物だよ。
リバーシを3面用意したから、くじ引きで対戦相手を決める。
「優勝した方には新作のチョコレート一箱プレゼントしますわ」
ゲイツ様がやる気になったよ。一回戦は、アンジェラとヘンリー、パーシバルとサミュエル、ゲイツ様とナシウス! 私は不戦勝だ。
「ナシウス、頑張ってね!」
応援したけど、本気のゲイツ様は強い。大人気ないな。
ヘンリーとパーシバルが勝ち、対戦する。私はゲイツ様だ。
「ナシウスの仇を討ちます!」と頑張ったけど、負けちゃった。初めは、リバーシの勝ちパターンを他の人が知らなかったから良かったけど、今は駄目だね。
「パーシー様、頑張って!」声援虚しく、ゲイツ様が勝った。
「優勝のチョコレートですわ」
にっこり笑うゲイツ様だけど、子どもに勝って嬉しいのかな?
「アンジェラ、サミュエル、ハノンを弾いて下さる?」
二人が仲良くハノンの連弾をしているのを聴きながら、パーシバルと今年の寮生の華やかさについて溜息混じりに話す。
「やはりパリス王子も来られるのですね」
リュミエラ王女は、もう王立学園に馴染んでいるから、付き添いはいらないのだ。
「カレン王女の付き添いだそうです」
ふぅ、溜息がでるよ。
「アンジェラ様にも言っておいた方が良いかもしれませんが、リチャード王子と話してからでも良いかも」
そうなんだよね。でも、決まった事は教えておこう。いきなりだと困るだろうから。
二人の演奏が終わったので、ナシウスとヘンリーに演奏してもらう。
「ナシウス、上手くなったわ。それにヘンリーも!」
やはりカミュ先生に来て貰って正解だな。週末だけ教えていた頃より上達が早いもの。
「アンジェラ、今年からソニア王国のカレン王女が王立学園に入学されるのよ」
アンジェラは、よくわからない顔をしていたけど、段々と青褪めた。
「ペイシェンス様、もしかしてカレン王女の面倒もみなくてはいけないのでしょうか?」
「それは、わからないわ。私はリュミエラ王女の髪を整えるのを手伝っているけど、その程度なのかも?」
カレン王女の自立具合がわからないから、はっきりとは言えない。
「簡単な髪型ならできると思います。今日も自分でやったのです」
可愛いツインテールで、クルクルとカールしている。
「アンジェラ、とても上手くできているし、可愛いわ」
褒めたら、頬を染める。この風情が私には不足しているんだよ。
「はっきり決まったら、きっと王妃様から何か沙汰があると思うわ」
王妃様の言葉で余計に緊張させちゃった。
「アンジェラなら大丈夫だよ」
おお、サミュエル! 良い仕事しているね。
「ジェーン王女と一緒に仲良くしてあげれば良いのよ」
これは、リュミエラ王女がかなり自立しているし賢かったからだけど、悪い方に考えても仕方ないもんね。
「そのくらいなら、なんとか」
ゲイツ様は暇そうにしているから、鈴を鳴らしてお茶にしてもらう。
「これは! ペイシェンス様! 酷いです」
アフタヌーンティースタンドを見て、約一名が騒いでいるけど、無視しよう。
今日は下の段には、ミニサンドイッチ、それと瓶詰めの雲丹が乗ったカナッペ、真ん中の段は、ミニケーキ、上の段はチョコレート。
全部、小さくして、一口サイズ。だって昼食会の後だからね。
「甘いのとしょっぱいの、いくらでも食べられます」
それはゲイツ様だけだよ。
「これ、とても素敵だわ」
アンジェラは、可愛い物が好きだからね。
サミュエルも甘い物が好きだから、ヘンリーと一気に食べている。
「新年会が終わったら、領地を申請しなくてはいけませんね」
そうなんだよね。ゲイツ様の言う通りだけど、グンと肩の荷が重くなったよ。
「私の領地の葡萄管理人の次男夫婦をハープシャーに送りたいですが、住めるようになったら教えて下さい」
それは、とても有り難い。
「急いで補修させますわ」
「春になる前にする作業もあるそうなので、急いだ方が良いでしょう」
ゲイツ様がフォークをおいて、悪戯っ子の様な顔で私を見る。
「それで、私が推薦する管理人が解りましたか?」
これ、昨日も考えたけど、わからないんだ。
「もしかして、カミュ先生の息子さんでしょうか?」
二人は騎士志望だけど、一人は文官だったよね?
「違いますよ! ほら、ノースコートで会ったでしょう?」
サミュエルとナシウスとヘンリーとアンジェラも会ったのかなと考え出した。
「あそこにいたのは、私の家の使用人達と騎士、それと錬金術クラブメンバーと歴史クラブのフィリップス様。後は、調査隊メンバーだけど……?」
サミュエルはお手上げみたい。
「調査隊メンバーは管理人にはならないでしょう? あっ、もしかして扉の開け閉めに来られた方ですか?」
ナシウスのヒントで思い出した。
「モンテス様ですか!」
本を読みながら、扉の開閉をしていた人だよね?
「やっと分かりましたね。彼は有能なのに、馬鹿な上司の為に官吏を辞めてしまいました。田舎の騎士爵の次男なので、領地に帰ってもする事がありません。まだ若いし、こき使っても大丈夫ですよ!」
それは、良いけど独身なのかな?
妻帯者の方が、私的には安心なんだ。
「モンテス様は結婚はされているのですか?」
私の代わりにパーシバルが質問してくれた。
「彼は独身ですが、何か? ああ、ペイシェンス様の評判を気にされているのか? これだから困るのですよね。結婚に向かない人間もいるし、独身で楽しく生きている人もいるのに、結婚しないと世間が煩いのです!」
途中から、自分の愚痴になっているような?
「ハープシャー館に一緒には住めませんわ」
ふぅとゲイツ様が溜息をつく。
「なら、小さな管理人の屋敷を用意したら良いだけですよ。当分は、宿屋でも良いと思います」
それなら、彼に来て貰おう!
「私も良いと思います」
パーシバルと決めたよ。
「後は川の浚渫は、雪が溶ける前が良いですね」
ふぅ、やる事だらけだ。
「冬休みの間に強力なポンプと卵の浄化装置を作りましょう」
それと、もう二つ作りたい!
「急速冷凍の設備とシャワーも!」
パーシバルに呆れられている。
「ペイシェンス様、確かドレスも作られるのでは? それとサリエス卿の新宅を見学に行くし……美麗様は?」
美麗様の話は小声で私の耳元で囁く。
「ふぅ、相変わらずあちこちに手を出しているのですね。その他にもあるなら言ってください」
地獄耳だね! 耳が尖っている分、よく聞こえるのかな?
「これからペイシェンス様の魔法訓練の計画を立てなくてはいけないのです。領地にも行かれるだろうし、他の用事があるなら配慮しなくてはいけません」
有り難いような、有り難くないような話だよ。
でも、パーシバルは頷いている。
「そうですね! ゲイツ様にも相談に乗って貰った方が良いかもしれません。ペイシェンスは何もかも引き受けすぎますから。先ず、優先するべき事を決めて、その他の事は後回しにしなくてはいけませんよ」
後回しにしたいのは魔法訓練なんだけどさ。
アンジェラやサミュエルや弟達は退屈な話になるので、子供部屋でブロックで遊んでもらう。色々な部品を増やしたから、大きな城でも、ドールハウスでも作れる筈。
ゲイツ様とパーシバルとだけになって話し合う。
「ペイシェンス様の優先順位の付け方がおかしいのです。マーガレット王女の側仕え、辞めれませんか?」
えっ、それは駄目なのでは?
「辞めたいとは思っていませんけど?」
「でも、王立学園は今年で卒業できるのでしょう?」
うっ、それはそうなんだよ。
「領地管理の授業は、今年からだから……」
ゲイツ様に笑われた。
「あんなの教科書を読むだけですし、実際に領地の管理をするペイシェンス様には無用ですよ」
横でパーシバルも頷いている。
「一緒にロマノ大学に進学しましょう!」
うっ、パーシバルに言われると弱い。
「でも、リチャード王子に呼び出されていますわ。きっとカレン王女の件だと思います」
ははは……とゲイツ様が笑う。
「そんなのは、他の令嬢でもできます。それとマーガレット王女がパリス王子の手を取るか、国内の貴族と結婚するかは、本人に任せなさい」
王宮魔法師のゲイツ様の突き放した言い方に、ビクンとした。その通りなんだけど、側仕えだけじゃない感情もある。
「私は、マーガレット王女のお側にいたいと思います!」
反論されるかな? と思ったけど、ゲイツ様は肩を竦めただけだ。
「そう、ペイシェンス様が考えられるのなら、それで良いのですよ。でも、カレン王女は見守る程度で手を出さないようにしなさい。アンジェラは、賢い子ですから、ちゃんとやります」
それは、そうかも?
「冬休み計画ですが、何か省けない用事は馬の王以外でありますか?」
その馬の王は、ほぼパーシバルに丸投げ状態だ。
「招待状は、リチャード王子と美麗様とバーンズ公爵夫人とノースコート伯爵夫妻ですわ」
バーンズ公爵夫人と聞いて、ゲイツ様は肩を竦める。
「母がペイシェンス様と会いたいと無理を言ったのでしょう。これは、仕方ありませんね。きっと、社交界デビュー前にケープコット伯爵家との和解を目指しているのでしょうが、それを望まないならハッキリ断っても良いのですよ」
ゲイツ様に言われて考える。
「一番、援助が欲しかった時に絶縁されていましたが、母は恨んでいないと思います。ただ、彼方も感情が拗れているでしょうし、和解が無理なら、それで結構です」
つまり、和解は相手次第だって事だよ。
「ふふふ、それで良いと思います。後は……何かまた変な事に巻き込まれているのでは?」
精神防衛を引き上げるけど、余計に怪しまれた。
「ペイシェンス、話した方が良い」
パーシバルに言われて、アルバートとカルメンの話をする。
「はははは、そんなの何故ペイシェンス様が関わらなくてはいけないのですか? 本当に手を出しすぎです!」
きっぱり断るように言われたけど、あのアイデアを捨てるのが惜しい。
「少女歌劇団は、とても面白いと思います」
説明は、ちゃんと最後まで聞いてくれた。
「確かに、ローレンス王国の文化面は遅れていると言われています。少女歌劇団は良いアイデアです。これは、ラフォーレ公爵と王妃様、ベネッセ侯爵夫人、モラン伯爵夫人に任せましょう! 話は通しておきます。ペイシェンス様は、マーガレット王女から無茶振りされないように注意して下さい。断り文句は『領地が荒れ果てていて、洪水被害が起きそうです!』と言えば、誰でも理解してくれますよ」
それは、その通りだ! きっぱりと断ろう。
「やはりゲイツ様に相談して良かったです」
パーシバルも同じ考えだったけど、私を止める力不足だったと苦笑する。
「後は、サリエス卿の新居見学して、インテリアデザイナーを雇うか決めないといけませんわ」
それは、したら良いとゲイツ様はスルーする。
「そう言えば、ペイシェンス様は古い物を新しくできましたね! それで館は綺麗になるのでは?」
あっ、覚えていたんだ。
「でも、お風呂が一つしかありませんし、召使いの風呂は無いのです。配管工事もしないといけませんし、壁紙も古臭いのですもの!」
これは、大事だよ。壁紙は後でも良いけどさ。
「不衛生なのは困りますね。配管工事は頼まないといけません」
だよね! 自分だけでなく周りの人も清潔を心がけて欲しい。
「優先順位かぁ」
難しいな。私的には、弟達、パーシバルは最優先だ。後は、領地になるのかな? 馬の王はサンダーに世話は任せているし、マーガレット王女は他にも世話をする人がいる。
少し考えてみなきゃいけないね。じゃないと、何もかもが中途半端になりそう。