新年会
翌日は新年会だ。父親は王宮に行かないけど、家でちょっとだけ贅沢な昼食会をする。
なぜ、夕食じゃ無いかは、ヘンリーが一緒に食べられないからだよ!
この十歳にならないと夕食は一緒に食べられないのって、嫌な習慣だよね。
マナーを守らない子どもと同じ食卓につきたくない大人の勝手なのか、夜遅くまで起きていない方が良いからなのか、どちらが本当の理由かわからないけど、私的にはヘンリーはちゃんと食べられると思うんだけどさ。
でも、いつも夕食の後に子供部屋に行ったら、ヘンリーは寝ているから、ゆっくりと給仕して貰いながらはまだ無理なのかもしれない。ふぅ。
まだ家は朝食と昼食は一緒だから、マシだと気持ちを切り替えて、昼食会を開く。
今日は、サミュエルとアンジェラを招待しているんだ。勿論、パーシバルもね!
大人は王宮の新年会だから、子どもだけだね。
こんな時、父親は簡単に許可をくれるから、それは良いと思う。まぁ、関心がないとも言えるけどさ。
昼食会にはカミュ先生も一緒だよ。サミュエルは、旅行中に真面目に勉強したみたいで、カミュ先生も喜んでいた。前は、不貞腐れて全く勉強しなかったみたい。
「ペイシェンス様、酷いです!」
約一名、招待していないのに来た人がいるけどさ。
ワイヤットがエバに一人増えたと言ってくれると思う。
「大人の方は王宮に行かれたと思ったのです」
ゲイツ様は、許してくれない。
「新年会には行かないと言ったじゃないですか! それにグレンジャー子爵も行かれないのでしょう」
それは、そうだけど、良いのかなぁと思ったんだよ。だって陛下の次の権力者がパスして良いの?
パーシバルやサミュエルやアンジェラがやってきたので、昼食会を始めるよ。
一人増えたから、少しバランスが悪いけど、誕生日席には父親。反対側はホステス役の私。
身分の高い順に、ゲイツ様、パーシバル、サミュエルだけど、パーシバルは私の側にいて欲しい。
だからゲイツ様、サミュエル、ナシウス、アンジェラ、ヘンリー、カミュ先生、パーシバルを左右に分けて座ってもらう。
サミュエルはアンジェラが隣で嬉しそう。
「パーシー様、後ろの席で御免なさいね」
パーシバルも何故この席なのかは分かっているから、嬉しそうに笑う。
「ペイシェンスの近くで嬉しいです」
前菜は、蟹のテリーヌ! 美味しいよね。
スープは、蟹の内子のスープ!
「これは、美味しいな」
父親には好評だけど、やはり採れたてよりはねぇ。でも、エバが上手く使っている。
そして、瓶詰めの雲丹のパスタ!
「ペイシェンス様、これは美味しいです! レシピを貰ってはいましたが、まだ作らせていないのです」
ゲイツ様も気に入ったみたい。
「これをグレンジャーの特産品の一つにしたいのですが、売れるかしら?」
ゲイツ様が「売れなかったら、私が全て買います!」と宣言してくれた。
まぁ、これで一つは産業になりそう。
今日は、昼食会なので、メインを二つ出す。
本当は魚、肉だけど、メインが蟹鍋だから、肉を先にだすよ。
ビッグバードの照り焼きだ。あまじょっぱくて美味しいよね。
私のは数切れにして貰ったけど、ゲイツ様やパーシバルや弟達はかなり大きめだ。
「これは、とても美味しいですね。レシピを教えて貰っているのでしょうか?」
エバがちゃんと調理人助手に教えているよ。
温室のいちごのシャーベットを食べて、メインの蟹鍋だ。
「サミュエル、アンジェラ、トングで蟹の脚を持ってお湯でしゃぶしゃぶするのよ。身がぱぁと開いたら食べられるわ」
個人鍋は何回か出したけど、蟹鍋はなかったからね。
ゲイツ様は、私が説明している間に、一本目をしゃぶしゃぶしていた。
「あれ? これは味がついているのですか?」
そうなんだよ! しゃぶしゃぶなら昆布の入ったお湯で良いけど、やはり冷凍だから、少し味が落ちる気がしてさ。これは、冷凍車で凍らせた蟹だから、薄い鍋出汁にしたんだ。
蟹鍋って蟹すきと蟹ちりがあったよね。お出汁の蟹すきも好きだったから、こちらにしてみた。
「これは、これで美味しいですが、さっぱりソースも欲しいです」
そう言われると思って用意はしてある。
「ペイシェンス? 何故、今回は味のついた出汁なのですか?」
「冷凍車で凍らせた蟹は少し味が落ちるので、こうやって美味しさを足したら良いかなあと思って。それに、この方が雑炊は美味しいのですよ」
二枚目の皿を食べていたゲイツ様が聞き耳を立てる。
「雑炊が美味しい! なら、これでやめておきましょう」
いや、二枚目じゃん!
結局、男の人は二皿食べた。私とアンジェラとカミュ先生は、一皿にしておいたよ。
雑炊は、やはり「ちり」より「すき」の方が美味しい気がする。
「美味しすぎます! お代わりしたいです」
ゲイツ様が泣いているけど、デザートもあるからね。
デザートは、新年を祝う木のケーキだ。前世のブッシュドノエルとバームクーヘンを混ぜた感じだけど、ここのは本当は砂糖ザラザラで保存食っぽい。
勿論、エバの手に掛かれば、ふわふわの薄いケーキ生地を茶色のチョコ生クリームをつけて巻いて、外はチョコレートでコーティングしてある力作だよ。
「まぁ、本当の木みたいだわ」
アンジェラが手を叩いて喜んでくれた。可愛いな。
ワイヤットが切り分けて、サービスしてくれる。
「ペイシェンス、とても美味しいですね」
パーシバルもいつもの新年のケーキより美味しいと喜んでくれたよ。
「これ、お持ち帰りしたいです」
二切れでギブアップしたゲイツ様が強請るけど、残りは使用人達が楽しみにしているんだ。ほんの一口しか食べられないだろうけどね。
「ゲイツ様、応接室でお茶をしますわよ」
つまり、他のデザートもあると言って席を立つ。パーシバルにエスコートしてもらう。アンジェラは、すかさずサミュエルがエスコートしている。
父親は断って書斎に籠り、カミュ先生も自分の部屋に行った。