困った手紙
メアリーとキャリーにお土産と手紙を配って貰うんだけど、そうするとパーシバルと私を見張る侍女がいなくなるので、今日は弟達が一緒だ。
「パーシバル様、御免なさいね」
弟達は、話に割り込んだりしない様に言い聞かせてあるけど、やはり気になるよね。
でも、話し合いたい事がいっぱいあるのだ。
「留守の間に、いっぱい手紙が届いていましたの」
それはパーシバルも同じみたい。
「リチャード王子からも手紙が届きましたね」
二人で顔を見合わせて、苦笑する。はぁ、溜息しか出ないよ。
「きっとカレン王女が留学されるのでしょう」
そのお世話を押し付けられるのだ。困るよ!
「確かアンジェラは、ジェーン王女の側仕えですね」
そちらも大変そうだけどね。
「ジェーン王女とカレン王女を一緒にお世話するのは、ちょっと……」
アンジェラが可哀想だよ。
「ペイシェンスとは違いますからね」
それ、褒めているの? アンジェラは豊かなサティスフォード子爵家のお姫様だからさぁ。貧乏なグレンジャー家とは天と地の違いだもん。
「ペイシェンスほどしっかりとした側仕えはいませんから」
パーシバルが慌ててフォローする。
「ふふふ……良いのです。グレンジャー家には召使いも少なくて、自分の事は自分でしていましたから。アンジェラはしっかりとした侍女が身の回りの世話をしていますから、寮生活だけでも大変だと思います」
つまり、カレン王女のお世話のお手伝いをしないといけないみたい。
やれやれ、新学年からは週末は領地に行く事が増えるのに、困ったな。
「困った手紙が他にも二通ありましたの」
まぁ、正確に言えば三通だけど、リリーナのは無視しても良い。でも、マーガレット王女のは無視できないんだよね。
「何でしょう?」
パーシバルに説明したら、笑われた。
「ペイシェンスに意地悪していた元学友のリリーナの勉強を見てあげるのですか? まぁ、クラリッジ伯爵家は、悪巧みには関わってはいませんが……私は賛成しませんね」
パーシバルは、こう言うところをキチンと断れるんだね。
「私もリリーナだけなら拒否しますわ。マーガレット王女の勉強会にリリーナを参加させると言われては、駄目だとは言えなくて……。それと、一応、リリーナから謝罪の言葉もありましたし……寮に入ると言われたら、マーガレット王女の部屋での勉強会参加になりそうです」
まぁ、キャサリンやハリエットと違って直接意地悪を言われた事はない。頷いているだけだったからさぁ。
「これは、リチャード王子に相談してみても良いですね。彼の方は、貴族至上主義者を少しずつ削っていきたいと考えておられますから。クラリッジ伯爵を彼方から此方に引き抜く気なのかもしれません」
ただ、ゲイツ様やサリンジャーさんに言わせると、クラリッジ伯爵はあまり賢くなさそうだけどね。
「クラリッジ伯爵領は、代々、優れた家令が管理しているのです。だから、まともに運営されていますから、引き込むメリットを感じられるかも」
ふうん! そうなんだね。税金が納められないで慌てているウッドストック侯爵とは大違いだ。自分の無能を知って、家令に任せる賢さはあるのだ。
「リリーナも少しは賢いのかもしれませんね」
辛辣な言い方になったけど、収穫祭でのキャサリンとハリエットの態度で、少しは考えたのかも? それで、マーガレット王女に泣きついたのなら、なかなかリリーナとしては賢い判断だったね。私には迷惑だけどさ。
「ペイシェンス様は、マーガレット王女の側仕えだけど、リリーナの友だちではありませんから、程々で良いのでは?」
その割り切り、できたら良いんだけど。
「もう一つは、何故、私が面倒を見なくてはいけないのか理解不能なのです」
アルバートの手紙の内容を説明すると、パーシバルが爆笑した。
「歌姫のカルメンに誘惑されるアルバート!」
ツボにハマったみたいで、笑いが止まらない。
「彼女の才能は認めますが、家には弟が二人もいますから、引き取る訳にはまいりません」
アルバートを誘惑するのは、笑い話で済むけど、弟達は絶対に駄目だ。
「引き取らなくても、アパートに住まわせたら良いのですが、それをペイシェンスがする必要はありませんね」
だよね! これは、アルバートにお断りの手紙を書こう。
でも、パトロンがいない歌手って、この世界では生き難いんだよなぁ。
「ペイシェンス? また人の良い事を考えていますね」
パーシバルに苦笑された。
「チャールズ様をアルバート様が説得できたら良いのですが……」
パーシバルは難しい顔をする。
「チャールズ様は、マーガレット王女の降嫁先の候補ですからね。弟が歌姫を囲っているなんてスキャンダルは御免でしょう」
パリス王子との婚姻も可能性はあるけど、私もチャールズ様との結婚の方が望ましいと思うもの。
「それに、アルバートはまだ15歳です。女を囲うなんて20年早いですよ」
だから、ラフォーレ公爵にしたら良かったのだ。でも、カルメンは親に金持ちの年寄りに売られそうになって飛び出したと言っていたから、年寄りは嫌だったのかも? まぁ、それは理解できるよ。想像するだけで身震いしちゃう。
「20年後でも嫌ですからね!」
釘を刺しておく。
「私は、ペイシェンスだけですよ」
甘いムードになったけど、弟達が本を読んでいる振りをして、此方の会話を聞いている。残念!
「何か良いアイデアが……ああ、少女歌劇団よ!」
この世界では、貴族のパトロンを持つ歌手や女優が多く、少し軽蔑されたりしている。これって問題だよ!
「少女歌劇団? 何でしょう」
パーシバルに私の考えを説明する。
「少女歌劇団のパトロンは、貴婦人方になって貰います。清く、美しくですわ」
まぁ、陰からラフォーレ公爵にパトロンになって貰っても良いけどね。
「母も興味を持ちそうですが……言い難いですが、貴婦人方は自由にお金を使える方が少ないですよ」
ドレスや宝石には贅沢するけど、自分の手持ちのお金を持っている方は少ない。
「王妃様や親戚の伯母様方を説得します。ローレンス王国の文化興隆の為ですもの」
勿論、アルバートには、父親の公爵と兄のチャールズを説得して貰うよ。
ほぼ、ラフォーレ公爵家に丸投げするつもりだからさ。
「アルバートと会う時は、絶対に同席します。彼は、まだペイシェンスを諦めていませんから」
パーシバルが、私の手を取って熱く説得する。
わぁ、嫉妬されているの? 濃紺の瞳に見つめられると、ドキドキしちゃうよ。