王都に到着したよ
馬の王と王都に到着したのは、夕方だった。
でも、馬車はまだ着いていないから、パーシバルと少し相談する。
「門の前で待つのも人目を引きますから、グレンジャー家に向かいましょう」
警護の人もいるから、先に屋敷に行く事になった。
何故か、ゲイツ様も一緒だよ。
「わっ、スレイプニルだ!」
やはり馬の王は目立つよね。
警護の人に囲まれて移動するけど、普通の馬や戦馬よりも大きいから、王都の人々の目につく。
「お嬢様、お帰りなさい」
ワイヤットに出迎えて貰い、サンダーやジニーが馬の王や他の馬の世話をしてくれるので、パーシバルとゲイツ様を応接室でおもてなしする。
お茶とクッキーだけど、寒かったからホッとするね。
父親も応接室に来たので、領地の話をする。
「ハープシャーとグレンジャーに決めたのか?」
父親は、少し心配そうだ。
「ええ、グレンジャーは海があるから、期待できますわ。それに、ハープシャーの葡萄畑は管理人がいれば美味しいワインができますから」
ゲイツ様が自分の領地の葡萄畑の管理人の一人を回してあげると言う。
「それは有り難いですが、よろしいのでしょうか?」
それは、そうだよね?
「ああ、うちには何人もいるから良いのですよ。主任と後継がいれば、十分です。それと、管理人も任せて下さい。ペイシェンス様もご存知の方ですよ」
えっ、誰だろう?
「私が知っている方なのですか? 魔法省の方ですか?」
質問したのに、ゲイツ様は笑って答えてくれない。
「まぁ、相手が引き受けてくれたらの事ですから」
それは、そうだけどさ。
父親は、グレンジャーの名前で決めたのではないかと心配しているみたいだ。それは無いとは言えないけど、それだけで決めたわけではない。
「お前がちゃんと考えて決めたのなら、それで良いのだが……」
話していたら、馬車が着き、ナシウスとヘンリーが応接室に入ってきたので、ゲイツ様とパーシバルは自分の屋敷に戻る。
「冷凍車が着いたら、マッドクラブを持ってきて下さい」
これを言わなければ、ゲイツ様も良い人なのだけど。パーシバルは、そんな事は言わないけど、ちゃんと持って行って貰うつもり。
少し疲れたので、部屋に上がって休憩する。
机の上に、あちこちからの手紙が届いていた。
トレイの上に積み上がっている手紙の差出人の名前をチェックする。
「エリザベス様、アビゲイル様、マーガレット様は、お茶会のお礼だと思うわ」
これは、ゆっくりと返事を書けば良い。私がモラン伯爵領に行ったのを知っているからね。
「伯母様方からも来ているけど……何かしら?」
これも昼食会のお礼だと思うから、後でも良さそう。
「バーンズ公爵夫人からだわ!」
これは、早く読まないといけない。
ペーパーナイフで上質な封筒の封印を切る。
「まぁ、ベネッセ侯爵夫人とのお茶会に招待されたわ」
この前もベネッセ侯爵夫人が会いたいと言っていたから、これは会わないといけない。
でも、新年会が終わってからだから、返事は後でも良さそう。
次も高級な封筒で手に取るのが怖かった。
「リチャード王子は何の用かしら?」
嫌な予感しかしないけど、グレアムとメアリーの件もあるから、会いたいとは思っていた。
恐る恐る封を切ると、パーシバルと一緒に訪ねて欲しいと書いてある。
「ううう、これってカレン王女が留学するとかの話かしら?」
この手紙の山は、下になるほど重要になるのかな?
「王妃様も新年会の後で会いたいと言われているわ」
ふう、溜息がでちゃう。もしかして、マーガレット王女のドレス、駄目だったのかしら? デザイン画で駄目だしかな?
「これは、すぐに返事を書かなくてはいけないわ」
後は、アルバートからも手紙が届いていた。
「新曲を書けと言うのかな? 忙しいんだけど?」
内容がわからないから、開けてみる。
「えええ、カルメン・シーターを保護して欲しい?」
驚いた! アルバートにコナをかけていたカルメン・シーターにチャールズ様が怒って、クレーメンス教授への援助も打ち切ると言ったみたい。
クレーメンス教授は、ラフォーレ公爵の庇護を打ち切られたくないから、カルメン・シーターを大学の官舎から追い出したのか。
「へぇ、アルバートがホテル代を立て替えているんだ。嫌がっていたけど、カルメン・シーターの能力は認めているんだね」
ただ、チャールズ様がこれに気づいたら、きっと打ち切られると書いてある。
「ふぅ、これはワイヤットやパーシー様と相談しなくてはいけないわ。うちにも弟達がいるから、変な真似はされたくないし」
次の手紙は、意外な人からだった。
「リリーナ? 何故? 彼女とは仲良くなかったわ」
Bクラスに落ちると噂されているけど、もしかして父親にAクラスに残れる様に頼んで欲しいとか?
それは無理だと思うけど、一応、読んでおく。
「えっ、勉強をみて欲しい? それって私に頼む事かしら?」
クラリッジ伯爵家なら家庭教師を頼める筈だよ。
それに、私は忙しいからパスだね! サミュエルは親戚だから、家庭教師したけど、リリーナに義理はない。
ハッとして、マーガレット王女の手紙を開ける。
「リリーナが可哀想だなんて、優しすぎるわ。でも、皆で勉強会なら、そこにリリーナが一緒でも良いかも?」
私も甘いけど、あのままじゃあCクラスになりそうだからね。
Bクラスでも上級貴族として恥ずかしいけど、Cクラスは致命的だ。
この件は、少し保留にして、他の手紙を読む。
「カエサル様とベンジャミン様からも手紙が! もしかしてトレント?」
ベンジャミンは領地でトレントをいっぱい討伐したみたい。
私がカエサルに話した、甘い樹液や油が多いトレントを探してくれたよ。
「これは、嬉しいわ!」
王都に戻って来たら、是非会いたいと返事を二人に書いておく。
ええい、ついでだから、保留のリリーナ案件とカルメン・シーター案件以外の返事を書こう!
リチャード王子のは、パーシバルと話してからだね。
休憩するつもりが、手紙の返事を書きまくったよ。疲れた!