弟達と狩り
今日でモラン伯爵領での滞在は終わりだ。
領地は、ハープシャーとグレンジャーに決めた。結婚した後、管理がしやすいのと、今は手入れができていないけどハープシャーの葡萄畑は魅力的だし、グレンジャーの海も期待できるからだ。
「王都に帰ったら、すぐに事務手続きをした方が良いだろう。ペイシェンス様は、経験がないでしょうが、こんな場合は国務省に書類を提出するのだ」
その手続きは、モラン伯爵が手伝ってくれるそうだ。私は、署名するだけで良さそう。助かる!
「これから大変ですよ」
ゲイツ様が管理人を見つけてあげると笑う。ありがたい! だけど、魔法の訓練の時間を作る為ってのは、ちょっと私の考えとは違うけどね。
「先ずは、雪溶け水で川が増水する前に、浚渫を行った方が良いですね。ポンプを作りましょう。それと、卵の浄化装置も作らなくては!」
はっ、卵の浄化装置で思い出したけど、それって魚も浄化できないかな? 半生でも寄生虫の怖さがあるけど、浄化すれば良いのだ!
「ええ、作りましょう!」
積極的になった私をゲイツ様が訝しがる。
「何か思いつかれたのですね」
まぁ、それは後のお楽しみだよ。
「そうだわ! ハープシャーとグレンジャーには養鶏場はあるのかしら? そこの浄化はできているのかな?」
誰も知らないから、調査しておかなきゃね。
「多分、グレンジャーにはないだろう。あそこは放置されて長いからな。ハープシャーもないかもしれない。管理できないと困るからな」
司祭が浄化できるとは限らないみたい。
それは、領主になってから、教会に挨拶して訊ねてみよう。浄化できるなら、養鶏場を作りたい。
今日は弟達と一緒にグレンジャー海岸で色々と狩りたいな。
冷凍庫もあと少しは積めるからね。
それと、前世の雲丹の瓶詰め、あれを作りたい。冷凍の雲丹も試すけど、絶対に瓶詰めは美味しいもんね! あれがあれば、パスタも作り放題だよ。それに、前菜にも使えそう。
缶詰工場は、設備を作るのが大変そうだけど、瓶詰めなら煮沸消毒だけで作れる。良い内職にならないかな?
「さぁ、行きましょう!」
ゲイツ様はマッドクラブを狩りたいみたいだけど、私は雲丹と鮑が獲りたいな。
乾燥鮑を作りたいからね。貝柱が取れる貝も獲りたい。
「ペイシェンス? 何か考えていますね」
パーシバルにはお見通しだね。
「ええ、最終日ですから、保存食を考えています」
ゲイツ様に聞こえないように二人で話していたつもりなんだけど、地獄耳だね。
「ペイシェンス様! 何か美味しいものを作ろうとしていますね」
まぁ、秘密にする程のことではない。ただ、全部欲しがりそうだから、ちょこっと知られない方が楽だと思っただけ。
「雲丹の瓶詰めと貝柱や鮑の干物を作りたいと思ったのです」
ゲイツ様は、サティスフォードの干物を思い出したみたい。忘れていたのかな? 暗記術あるのに?
「あああ、私とした事が! マッドクラブに惑わされていました」
まぁ、これから作れば良いだけだよ。それに売っている物もあるかも?
「とにかく、グレンジャーに急ぎましょう!」
やれやれ、張り切っているけど、私は弟達とのんびりと狩りをしたいな。
今日も私は馬車で移動する。やはり、いくら馬の王が雪や風を防いでくれても、馬車よりは寒い。それにホカホカクッションが良い仕事をしているんだ。
グレンジャー海岸では、先についたゲイツ様やパーシバルや弟達がマッドクラブを討伐していた。
「毎日、討伐しても、大丈夫なのかしら?」
資源保護とかで怒られないかな? 地元の漁師とかにも?
「マッドクラブは魔物ですよ。本当なら冒険者ギルドが討伐するのですが、レベルの高い冒険者は人数が少ないみたいですね」
まぁ、それなら良いんだよ。
「ペイシェンス? 魔物は放置しておくと蔓延って大変な事になりますよ。見つけた魔物を討伐しても、問題にはなりません」
パーシバルに呆れられた。
「ナシウス、風の魔法で脚を攻撃していくのです。ヘンリーも脚を一本ずつ攻撃しなさい」
パーシバルは、昨日マッドクラブを討伐したから、今日は弟達に任せているみたい。
「ペイシェンス様、トドメを刺しますか?」
いや、弟達に任せるよ! 首を横に振る。
「ナシウス、ヘンリー! 頑張ってね!」
応援して見物していると、ナシウスがガツンと甲羅に剣を撃ち下ろした。風の魔法が乗っていて、かなりのダメージを与えた。
「ええい!」
ヘンリーも続けて、甲羅を剣で叩き切る。
「おお、良い攻撃です!」
ナシウスもヘンリーも強くなったね! 感激して、涙が出てきそう。
「素晴らしいわ! ナシウス、ヘンリー」
思わず二人を抱きしめちゃった。
「お姉様……」
ナシウスは恥ずかしそうだから、すぐに手を離したけどね。ヘンリーはニコニコ笑っているから、頬にキスしておこう。
「蟹はもう十分ですわ。雲丹と貝柱と鮑を獲りたいです!」
ゲイツ様も乾物は手に入れたいから、船を借りる事になった。
「お嬢様、あんな船に乗られるのですか?」
小さな船だから、メアリーは心配みたい。
「大丈夫よ! 沖には出ないそうだから」
人数が乗らないから、メアリーは海岸で待つ事になる。
「寒いから、グレアムと馬車の中にいなさい。これからどうするか、ちゃんと話し合うのよ」
これは、メアリーの耳元で小声で話しておく。
もう、そろそろ結婚しても良いんじゃないかな?
「ペイシェンス、お手をどうぞ」
浜の漁船にパーシバルに乗せてもらう。
漁師は、昨日に引き続き王都の貴族に船をチャーターして貰って嬉しそうだ。ゲイツ様はケチじゃないから、たっぷりとお金を払ったのだろう。
これ、大事だよね! お金を領地に落とさなきゃいけないんだ。どう見てもグレンジャーは、貧乏そうなんだもん。
「雲丹と貝柱が取れる貝と鮑が獲りたい」
ゲイツ様は、漁師に任せるみたい。そりゃ、そうだよね!
「雲丹と貝柱は同じ所にいますが、鮑は岩場にいます」
ふう、長くなりそう。
「ナシウス、ヘンリー、船酔いになったら言いなさいね」
二人はキョトンとしているから、昨日も船酔いはしなかったんだね。
「先ずは雲丹が取れる所に行きます」
それは、嬉しいな! 雲丹の瓶詰めを作りたいから、1キロは欲しいんだ。
「どうやって、雲丹を獲るのですか?」
漁師は、四角い箱を取り出した。
「これで海底を見ながら、この槍で雲丹を突いて獲るのですが……」
言葉を濁している。ゲイツ様は違う遣り方なんだね。
「さぁ、雲丹を獲りますよ!」
パーシバルとナシウスとヘンリーは、小舟から身を乗り出して、海面を見ている。
「あっ、いました!」
ヘンリーは目が良いね! でも、どうやって獲るの? 雲丹取りの槍は持っていないけど?
「ヘンリー、剣を慎重に向けて、雲丹を刺すのです」
えええ、届かないのでは? 幾ら遠浅でも無理じゃ……なかったね。
魔法を剣の先から出して、雲丹を刺し、引き寄せる。
「凄いわ! ヘンリー」
本当に目を離していたら、凄い事ができるようになっている。
「お姉様、雲丹が獲れました!」
馬糞雲丹、デカい! こんなの見たことないよ。まぁ、この世界の動物はデカい気がするけどね。
「あっ、見つけた!」
ナシウスも見つけたみたい。風の魔法で、雲丹を海面に持ち上げて、剣で刺している。
「ナシウスも凄いわ!」
パーシバルも黙って雲丹を獲っている。
「パーシー様も雲丹をいっぱい獲って下さいね」
ゲイツ様と私も頑張って雲丹を山ほど獲った。
「王都の貴族様は凄いです」
漁師に呆れられているけど、大丈夫かな? 漁場を荒らしていない?
「こんなに獲って良かったのかしら?」
漁師は、他の漁場もあるからと笑う。
「貝柱が取れる貝は、あれですよ」
海面に置いた下がガラスの箱を見させて貰う。前世のホタテ貝よりかなり大きい! 顔ぐらいの大きさだ。
これは棒の先に付いている網で獲るみたいだけど、まぁ、ゲイツ様はそんな事はしないし、弟達やパーシバルも別な方法を教えて貰っている。
私達が獲る横で、漁師も網で獲っている。
「これは、期待できるかな?」
私も何個か貝を獲ったけど、もう十分だと思って休憩していた。
前のめりの体勢で、腰が痛くなったのだ。
「それは、貝柱の貝とは少し違いますね」
漁師が嬉しそうにしているのは、美味しいのかな?
「ええ、これは偶に真珠が入っているんですよ。あれば、儲けになりますからね」
あああ、真珠! 忘れていたよ。養殖できたら、ボロ儲けだ。
「あるのかしら?」
漁師は、滅多に入っていないと言いつつも期待しながら、ナイフで貝を開ける。
「おっ、あるぞ!」
日に焼けてゴツイ顔の割に慎重にナイフで貝の身から真珠を取り出す。
「ああ、これはクズ真珠だ……まぁ、半分は使えそうだから、買取はしてくれるだろう」
半分ぐらいしか真珠層がなかった。でも、ボタンとかブローチにできそうだね。
「この真珠が取れる貝は、いっぱいいるのですか?」
漁師は、腕を組んで考えて考えている。
「まぁ、1日海に出たら、何個かは見つかりますが、真珠は滅多に入っていませんよ」
ふふふ、それは良いんだよ! それと、貝を増やしたい。
「ここの海は寒くないのですか?」
漁師は笑っている。
「暖流が流れているから、割と寒くはないですね。風は冷たいけど」
ふうん、これはちょっと本気で考えてみよう。
貝柱は十分だから、鮑を獲りに行く。海底に岩があって、鮑が見つけ難いけど、やはりヘンリーが最初にみつけた。
皆で、何個も獲って今日は終わりだね!
海岸に戻って、いっぱいの収獲物をギルドに運んで貰う。