ハープシャー館
今日は、パーシバルと弟達はゲイツ様とグレンジャー海岸でマッドクラブ狩りだ。
魔法の特訓だと言っているけど、蟹が食べたいだけかも? まぁ、冷凍車はまだ空きが多いから、もっと積んでいきたいな。
「ペイシェンス、本当にメアリーだけで良いのですか?」
パーシバルが心配そうだけど、モラン伯爵領の管理人が説明して下さるからね。
「クーパー様も一緒だから、大丈夫ですわ。昼は、グレンジャーの食堂で一緒ですし」
マッドクラブ以外にも、何か取れたら良いな。期待しておく。
今日は馬車移動だ。冬だから、こちらの方が楽だね。
「ホカホカクッション、なかなか良い感じだわ」
私はケチなので、メアリーを横に座らせて、1つだけ付けている。節約だよ!
「ええ、それにこのステンレスボトルも重宝しますわ」
私はモラン領まで、ほとんど馬の王で移動したけど、弟達は馬車移動だったから、ステンレスボトルも使ったみたい。
メアリーとハープシャー館の改善点を話し合う。
「一応は、水洗トイレも使えるようですけど、何もかも古びていますわ」
特に応接室の壁紙は雨漏りしたのか酷いあり様だった。つまり、屋根の補修もしなくちゃいけないのだ。
「王都に戻ったら、サリエス卿の新居を見せて貰いに行かなくては!」
生活魔法で新しくしても良いけど、できたらリフォームしたい。
だって、放置されたのが14年前としても、壁紙はもっと古い感じだもん。かなり重厚で私の好みじゃないんだ。
「そうですわね!」
メアリーも好みじゃないみたい。
「ヒューバート・グリーンが私の好みを汲み取ってくれると良いのだけど」
それと、王都の新居とハープシャー館とは別の雰囲気にしたいな。
こちらは、フランスの田舎のシャトー風にしたいのだ。まぁ、ワインの産地ってだけで思いついただけだけどさ。
つまり今の暗い重厚な感じは嫌なのだ。カジュアルフレンチっぽくしたい。
グレンジャー館は、海が近いから、もっと開放的な感じに改築したいな。
これは、ハープシャー館の後になるけどね。
今日は、モラン伯爵領の管理人アダムス・クーパーが一緒だ。内装はヒューバートに任せるけど、基礎部分や蔵とかは相談に乗って貰う。
「ペイシェンス様ですね」
もう来て、館を開けてくれていた。
クーパーさんは、落ち着いた中年の男の人で、少し白髪混じりの茶色の髪だ。
「お世話になります」
こちらの管理人が見つかるまでは、クーパーさんに管理して貰うことになる。
「いえ、早く管理人が見つかると良いですね。放置されていた領地はやる事が多いので、私が何処までできるかはわかりません。国の管理人よりはマシ程度に思って下さい」
うっ、はっきりと釘を刺されたよ。でも、色々と相談には乗ってくれるみたいだ。ホッとした。
「今日は、このハープシャー館を視察したいのです」
ここを住めるようにしないと、ノースコートから通うことになるからね。
「お嬢様は、ノースコート伯爵館から通われると聞きました。馬なら1時間ですが、馬車だと2時間近く掛かりますからね。早く、ここに住めるようにしないといけません」
だよね! まだ学生だから週末にしか来れない。時間の無駄は省きたい。
「それと、管理人の家が用意できていないなら、当分はここに住んでもらわないといけませんからね」
クーパーさんは、モラン伯爵館の横の家に住んでいるそうだ。
ここには見当たらないね。
「あと、教会も手入れしないと神父さんが気の毒ですね」
ええっと、それも領主の仕事なの?
「教会ですか?」
私が驚いているのに、クーパーさんが呆れている。
「ハープシャーにもグレンジャーにも教会がありますよ。田舎では教会が教育機関と孤児院を兼ねていますから、重要です」
はぁぁ、これ信心深くないグレンジャー家で育ったから盲点だね。
「領主に決まったら、教会に挨拶に行かれた方が良いです」
ふむ、ふむ、メモしておこう。管理人のクーパーさん、アドバイスが具体的で助かる。
「もし、管理人が独身なら、同じ館は外聞が悪いので、家を借りても良いと思います」
そうか、それもあったね! メアリーが横で頷いている。夫婦者なら、オッケーなんだ。そっち希望だよ。
館の中を見て回る。ここも一階は応接室、食堂、モーニングルーム、書斎、そして王都とは違って領民達との話し合いの部屋があった。
2階は、主人の部屋、子供部屋、そして客間が多い。地方に来た親戚を泊めたり、遠い領地の貴族を泊めるみたいだ。
ただ、トイレとお風呂が1箇所しかない。これ、困るなぁ。
「トイレとお風呂は増やしたいわ」
メアリーも頷いている。グレンジャーの屋敷にも2階には、お風呂とトイレが2箇所あるからね。
三階は召使部屋みたいだ。トイレもお風呂も無いんだけど、どうしていたのかしら?
「この地方では、召使は半地下でお風呂に入ります」
そうなんだ? なら、半地下も見ないとね。
ただ、このハープシャー館、やたらと広い。田舎だから、ドーンと大きく建てたのかな?
下まで行くだけで、疲れそうだよ。
半地下は、台所、召使部屋、執事部屋、家政婦部屋があった。食物庫も広いし、洗濯場には染め場もあった。
ただ、お風呂って、これは桶だけじゃん! お湯を沸かして、洗濯場を仕切った所で入るみたい。要改善だ! メアリーも眉を顰めている。
「後は、ワイン蔵と兵舎です」
それもあったね! 兵舎は、館の裏側にあったけど、勿論、空だ。
「クーパーさん、どの程度の兵が必要なのでしょう?」
それ、全くわからないよ。
「ペイシェンス様は、普段はここには住まないのですね。なら、数名で良いでしょうが、王都との往復にも護衛が必要ですよ」
ふぅ、今回はモラン伯爵家の護衛とグレンジャー家の護衛だったのだ。
つまり、王都のグレンジャー家には護衛はいない状態だ。父親は、別にいなくて良いと言ったけど、やはりまずいよね。
「まぁ、これは騎士を雇って、任せれば良いと思います」
その騎士も必要なんだね。領地って本当にあれこれ大変だよ。
ワイン蔵は、立派だった。でも中はスカスカだけどさ。何年か寝かせるんじゃないの? 売っちゃったんだね。
「ここには、葡萄畑の管理人が住めるみたいですね」
ワイン蔵の横には小さな家があり、一家で住めるようになっている。
「兵舎にも騎士が住める部屋もあります」
ただ、兵舎にもお風呂っぽい物は見当たらない。桶で全部済ませるのがここら辺の習慣なの?
「兵舎にもお風呂は無かったけど?」
クーパーさんが、苦笑している。
「お風呂は必要だと思いますね」
だよね! これは作るしかなさそう。
「やはり、ある程度の生活環境を整えてやらないと、良い兵士も集まりません」
食事は召使と一緒で半地下の食堂で良いそうだ。
「一気に大人数は必要ありませんが、何人かは雇わないといけませんよ。留守を護らないといけませんから」
今は、館の中には貴重品は無いけど、住むようになったら不用心だって事だね。
「ギルドに頼んでも良いですが、ずっとの事なら雇った方が良いです」
了解ですが、これは私の手にあまりそう。騎士を世話して貰って、任せよう。
敷地は広いから、管理人の家を建てても良いと提案された。
「管理人は、使用人とは違いますが、家族ではありません。同じ屋敷に住むよりは、別の家の方が暮らしやすいです。昔は、一緒に暮らすパターンが多かったですけどね」
それは、管理人の立場からのアドバイスなので、真面目に受け止めた方が良さそう。
「私は学生なので、管理人に任せる事が多くなりそうなのですが、大丈夫でしょうか?」
クーパーさんが笑った。
「殆どの管理人は、そんな感じですよ」
サティスフォード子爵は、マメに領地と行き来しているけど、他の領主は夏とかに纏まって帰る程度が多いみたい。
社交界シーズンの秋から春は、王都にいるのが普通なのかな? それと、モラン伯爵みたいに仕事をしていたら、領地は管理人に任せるしかなさそう。
「ハープシャーとグレンジャー、二人の管理人が必要でしょうか?」
これ、悩んでいたんだけど、クーパーさんは、笑う。
「必要ないでしょう。というか、二人だとややこしいかも? 管理人が対立したりしたら困りますよ」
二つの領を合わせても、モラン伯爵領程は大きくないからね。
「ただ、グレンジャーにも泊まれる部屋があると便利ですね。あちらの管理をする時に、いちいち通うのは疲れますから」
なるほどね! グレンジャーの宿屋って、食堂の上だけど、どうなのかな? 改築する時に、管理人が泊まれるようにするか、別棟を建てるか? これは、パーシバルに相談しよう。
「まぁ、少しずつやっていくしかありません」
結果として、それになるよね。
「ありがとうございました」
本当に助かったよ!
「いえ、管理人が見つかるまでは、微力ですがお手伝いします」
頼んでおこう! さて、マッドクラブは狩れたかな? グレンジャーに行こう。