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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第五章 忙しい冬休み
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グレンジャーの冒険者ギルド

 ハープシャーの冒険者ギルドより、グレンジャーのギルドの方が人が多い気がする。

 受付のお姉さんは年配だけど、依頼板にはかなりの数の紙が張り出してある。

「巨大毒蛙の粘液」うっ、思いっきり身に覚えがある依頼だね。


「これらは通年の依頼みたいですね」

 パーシバルも興味を持って依頼板を見ている。

「あっ、これは領主館の掃除」

 ふうん、一応は掃除をしているの? あまりちゃんとはできていないけどさ。


「グレンジャーの領主館は、建て直した方が良いかもしれません。多分、配管も古いでしょう」

 そうかも?

「そういった調査を専門家にして貰わないといけませんね」

 パーシバルが王都の新居の専門家をこちらにも派遣すると言ってくれた。

「ああ、そうだわ! 配管をやり直すなら、風呂場を考えなくては!」

 新居のお風呂環境は、もっと改善したい。

 使用人のお風呂もね!


 ギルドマスターが貴族の子息と令嬢が長居しているのを不審に思って声を掛ける。

「何か御用でしょうか?」

 丁度良い! この土地について質問したかったのだ。

「私は、パーシバル・モラン。こちらは、ペイシェンス・グレンジャー女子爵(ヴァイカウンテス)です」

 ギルドマスターがグレンジャーの名前に反応した。

「王都のグレンジャー子爵のお嬢様ですか? 私は、ヘインズ・ラッシャー。グレンジャーの冒険者ギルドの責任者です」

 まぁ、そう思うよね?

「いや、ペイシェンス様は女子爵(ヴァイカウンテス)に叙されて、領地候補を視察されているのだ」

 ヘインズの目が驚きで見開かれた。12歳の女の子だからね。


女子爵(ヴァイカウンテス)様、失礼いたしました。それで、何を質問されたいとお考えなのでしょう」

 応接室に通されて、お茶の接待を受ける。

「ここの産業や働き手について訊きたいと思っています」

 一応、管理人から書類は貰ったけど、収入とかの金額だけでは見えてこない事も多い。

「もしかして、女子爵(ヴァイカウンテス)様が領主になられるのですか?」

 パーシバルが言質を取られないように間に入る。

「まだ決めた訳ではありません。その前の調査をしているのです」

 ふぅと、ヘインズが息を吐いた。

「領主がいない土地は荒れます。王家の管理人が巡回してくれますが、細かい所までは目が行き届きませんからね」

 まぁ、それは管理人も認めていたよ。

「この数年、次男以下の男子や女子は、他所の領都に働きに行くのが多いです。冒険者達も成り手が少なくて困っています」

 ふぅ、大変みたいだね。

「では、働き手は少ないのですか?」

 先ずは味噌工場と麦芽糖工場を作ろうと思ったのだけど、働き手がいないなら難しいかな?


「いえ、働く場所があれば、外に出たくはないでしょう」

 そんなものかな?

「親元でなら、下宿代がありませんから、結婚資金に回せます」

 なるほどね! お針子達も下宿代が払えないと困っていた。


 あとは、ここで米が栽培できるか? 豆はできそう。

「米は栽培した事がありますか?」

 ヘインズが首を捻る。

「南部では栽培していると聞きますが、グレンジャーでは知りませんね」

 では、気温の調査をしないといけないね。

「ペイシェンス様? 米をグレンジャーで栽培するのですか?」

 パーシバルは麦芽糖の材料は知っていても、米の栽培は話していなかったかも?


「ええ、三角州は上流から細かな土を運んでくるから、稲作に適していると本に書いてありました。ただ、気温がある程度ないと実の入りが悪いみたいです」

 前世では、北海道でも栽培できる品種ができていたけど、グレンジャーの夏がどの程度の暑さなのか知らないからね。

「グレンジャーの夏は、かなり暑いですよ」

 それなら試す価値はあるよ! 前世の生活科の農家の暮らしを思い出しながら、少し米を作ってみよう。

 できれば短粒種の米が良いな! 王都に帰ったら、カルディナ街で短粒種の籾米を手に入れよう。


 ハープシャーの館を住めるように改築して、週末ごとにこちらに来よう! 

「ペイシェンス様、ゆっくりと進めましょう」

 パーシバルに忠告された。

「ええ、先ずはハープシャーの館の整備ですね」

 ヘインズが驚いている。

女子爵(ヴァイカウンテス)様はハープシャーの領主にもなられるのですか?」

 まぁ、決まればだけど? 何か問題があるのかな?

「視察中なのだが、何か諍い事とかあるのか?」

 それ、問題だよ! ヘインズは、もごもごと言い訳をする。

「ハープシャーの葡萄畑は手入れができていないと噂を聞きました。前は、高級なワインを作っていたのですが、今では……」

 まぁ、それはゲイツ様が斡旋してくれる葡萄畑の管理人に任せよう。


「それだけではなさそうだが?」

 パーシバルが問いただすと、渋々口を割る。

「あと……ライナ川の氾濫が多くて、グレンジャーの農作物に被害が出ています。その件で、ハープシャーとは少し揉めた事があります」

 それって、治水管理ができていないって事だよね。

「治水管理しなくてはいけないが、それでハープシャーと揉めるのは何故だ?」

 ヘインズは、言いにくそうだけど、水は農作物を作るのに必要で、あれこれ喧嘩の元になるとしどろもどろに説明する。


「つまり、雨が降らない時は、両方とも水が欲しい。大雨が降ったら、洪水になるのは、ハープシャーが水止めしていたのを外したからだと?」

 今は、冬だからライナ川沿いに視察したけど、水止めをしている様子は無かった。

「川の浚渫をしなくてはいけませんね。それに用水路の設備も……至急、専門家に調査して貰いましょう」

 氾濫するのは川底に土砂が溜まっているからだ。


 水利の諍いは起こさせるわけにはいかない。これは、一番先に手をつけなくてはね。

 パーシバルと顔を見合わせる。

「それと、もし女子爵(ヴァイカウンテス)様が二つの領地を治めるなら、どちらを領都にされるのですか?」

 先程、ハープシャーの館を改修しようと話したのを思い出したみたい。

 どちらも領都ってほどでは、ない。田舎の町だけど……住んでいる人にとっては大問題なのかな?


「まだ考えていない。それに領地に決めた訳でもないからな」

 パーシバルがキッパリと言ってくれたけど、本当は私が言わないといけないのだ。

 ほぼ、ここに決めたけど、領都とかは考えていなかったよ。


「マッドクラブを解体して欲しい!」

 下からゲイツ様の叫び声が聞こえた。

「昨日に引き続き、マッドクラブを討伐されたようですな。凄腕ですね」

 ちょっと気まずい雰囲気だったから、少し助かったよ。

「王宮魔法師のゲイツ様ですからね」

 ヘインズが驚いて立ち上がる。

「王宮魔法師様がここに! 挨拶しなくては」

 領主候補の女子爵(ヴァイカウンテス)より、そちらが大事みたい。

「失礼します!」と、階段をダダダダダと駆け降りる。


「ふぅ、どちらを領都だなんて、考えていませんでしたわ」

 パーシバルは肩を竦める。

「そんなのどちらでも良いのでは?」

 そうだとは思うけど、住んでいる人はそう思わないのかも?


「ペイシェンス様! 今度は鍋にしましょう!」

 下で騒いでいる人がいるから、パーシバルと一緒に降りる。

「生のマッドクラブを半分は冷凍して王都に運んでみようと思います」

 ゲイツ様も上手く行ったら、王都でマッドクラブが食べられるから、これには反対しない。


 昼に食べる分だけを食堂に、残りはモラン館に運んでもらう。

 今日は、生のマッドクラブを料理してもらう。

「また、大きなマッドクラブを討伐したのですね。おや、これは雌ですね! 内子が美味しいから、茹でて食べましょう」

 

 茹で上がるまで、ゲイツ様にギルドマスターから聞いた話をする。

「水利の問題はどこでも起きます。特にちゃんと管理されていない土地ではね。ペイシェンス様は、先ずは浚渫して、それから治水工事をしなくてはいけませんね」

 ふぅ、それと領都についても悩む。グレンジャーの名前を大切にしたいけど、あの館には住めない。


「ゲイツ様の領都は、どう決めたのですか?」

 ゲイツ様は肩を竦める。

「祖父が決めたままですね。その後も土地を拝領しましたが、領都は変えていません。えっ、どちらにするか悩んでいるのですか? どちらも田舎の小さな町じゃないですか!」

 それは、その通りだけどさ。

「ペイシェンス様は、どちらに力を入れて開発したいのでしょう? 葡萄畑を手入れして、ハープシャーのワインを有名にするのか、グレンジャーでマッドクラブの缶詰工場を作るのか?」

 缶詰工場は、まだ作れない。

「治水工事をしないといけません。それと同時に、マッドクラブを王都に運びたいです。後は、設備投資が少なくて済む味噌と醤油と麦芽糖を作りたいです」

 ゲイツ様は、ケラケラと笑う。

「調味料関係は良いですね! それをハープシャーかグレンジャーのどちらで作るかです」

 今のままなら、ハープシャーだと思う。グレンジャーの館が使えないからだ。


「ワイン蔵で味噌を作っても良いのですよ」

 それは、ちょっと違う気がする。

「ワイン蔵は、ワインを貯蔵したいです」

 麹菌は、蔵に住みつくと聞いたことがある。蔵は別にしたい。最初は小さな蔵でも良いのだ。


「内子のスープです」

 昨日の女の子がオレンジ色の内子が浮かんだスープを運んで来た。

「わぁ、美味しそう!」

 弟達は、すぐにスプーンで飲む。

「ウニとはまた違いますね」

 内子って濃厚だよね! これをポテトサラダに入れたら、美味しいと思う。

 メアリーとエバも美味しそうに食べている。グレアムも一緒にね!


 茹でた蟹は、焼いた蟹よりも柔らかい。

「焼き蟹も美味しかったですが、茹で蟹も捨てがたい!」

 後は、地元で取れた魚を焼いて貰う。蟹ばかりじゃね!

 大皿からはみ出す魚! ただ焼いてあるだけだけど、美味しい。

「取り分けて食べましょう」

 丸焼きの鶏や大きな魚の取り分け方、図解で見た事がある。

 本当は、執事がしてくれるのだけど、ここでは女将さんがやってくれたよ。

「私は少しにして下さい」

 他の人は取り皿の上にどっさりと魚が乗っているけど、私はちょこっとだ。茹で蟹でお腹一杯だからね。


「生の魚は売って貰えませんか?」

 美味しい魚料理もエバには覚えて欲しいからね。

 女将さんに何匹か分けて貰って、モラン館に戻る。

 ふぅ、ハープシャーかグレンジャーか悩んじゃうよ。

 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 政治と経済だけ考えるなら海から荷揚げする港を拠点にするのがいいですね まだできてないけど 一番仕事が多くなる場所でしょうし、物流拠点は動きやすい 領都って領ごとにあるんじゃなくて貴族家ご…
[良い点] 第366部分でライナ川と呼んでいましたが、ライナー川が正しい名前なんですね。 あと領地を呼ぶときはグレンジャー男爵領とハープシャー子爵領でいいのかな。 [気になる点] 葡萄畑を手入れして…
[一言] どちらを主要な領都にした方が良いかと言えばグレンジャー? ハープシャーの主要産業がワインならば、領主はあまり見回る必要が無いしね。 ハープシャーで他の菌を使う産業はしない方がワイン産業にとっ…
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