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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第五章 忙しい冬休み
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グレンジャー海岸

 ハープシャーからグレンジャーに向かう。

 雪景色は綺麗だけど、寒いね。弟達は馬に乗っているけど、寒くないのかな?

「ここがグレンジャーなのですか?」

 メアリーが周りの景色を見てポツッと呟いた。

「名前だけ残っているのよ。四代前が返納したのだから、70年は経っているわ」

 その間、誰もこの土地を欲しがらなかったのだ。手に入れる意味があるのかな?


 雪に覆われているから、寂しく感じるのではなさそう。

 ハープシャーより、より寂れている感じがする。

「あそこがギルドね」

 海の魔物を討伐して、なんとか運営されているのだろう。

 確かにハープシャーのギルドより人気がある。

 グレンジャーの町は、海岸より少し小高い丘の上にあった。

 

「海が見えますね」

 メアリーは、何回も海を見ている筈なのに、やはり嬉しいみたい。私もだけどさ。

「冬の海はもっと荒れていると思ったわ」

 遠浅だからか、波は静かだ。ただ、夏の青いキラキラ光る海ではなく、少しどんよりとしている。


「物悲しい雰囲気だとお父様は言われたけど……その通りね」

 グレンジャーの領主館もかなり大きいけど、朽ちかけている感じだ。

「この館を修繕するのは大変そうね」

 まだハープシャーの方がマシかも?


「どうされますか?」

 馬車を領主館の前に止めたら、パーシバルが窓越しに話しかけて来た。

「ここの領主館にも連絡はしていますが……かなり古そうですね」

 でも、ここはご先祖様の館だったのだ。中に入ってみたい。


 馬車から降りて、弟達にも意見を訊く。

「中にはいってみますか?」

 ナシウスとヘンリーが頷くので、入る事にする。

「これは……」

 うん、ここには住めそうにないな。

「わぁ! お化け屋敷みたいですね!」

 ヘンリー、それは言わないで! オカルトは苦手なんだ。


 ここには、使用人もいないみたい。

「屋敷の管理はギルドに依頼しているのでしょう」

 なるほどね! それもありなのかも。


 そう言うことで、グレンジャー海岸に向かった。

「遠浅ですね」

 館からは、パーシバルと馬の王(メアラス)に二人乗りだよ。

 メアリーは馬車移動だけどさ。グレアムと結婚しないのかな? 旅行中に尋ねておきたい。


「お姉様、あそこ!」

 ヘンリーは身体強化だから、目も良い。

「マッドクラブですね!」

 ゲイツ様が張り切っている。

「ペイシェンス様、マッドクラブは水属性の攻撃をしてきます。だから、火の魔法攻撃が有効なのですよ」

 

 かなり遠いけど、私の考える蟹の大きさではないね。軽四より大きいのでは?

「ファイヤーボール!」

 マッドクラブに命中したけど、焼き蟹になったかも?

「ゲイツ様、生の蟹が欲しいのですけど?」

 風の魔法で海岸にマッドクラブを運ぶと、湯気がたっている。

「ははは、食べられるから良いじゃないですか?」

 そうなのかな? この場で解体するの?


 蟹を捌くと言っても、脚の太さが半端ない。大人の腕より太いんじゃないかな?

 この味はどうなんだろう?

「これ、ギルドで解体して貰った方が良いのでは?」

 どの部位が食べられるのかも知らないんだからさ。


「それも、そうですね! ギルドに持って行きましょう」

 馬車に乗りそうにないけど? 甲羅部分は何とか乗りそうだけど、脚は無理だね。

 どちらかと言うとズワイ蟹に似て、脚が長い。まぁ、こんなにデカくはなかったけどさ。

 タラバ蟹って蟹じゃないと聞いたけど、どちらも好きだったよ。


「では、早くギルドで解体して貰いましょう!」

 ゲイツ様は、大きなマッドクラブを空に浮かせて、馬を走らせる。

 何だか、蟹を凧揚げしているみたいで笑える。


「今日は、この辺で引き揚げましょう」

 パーシバルもクスクス笑っているよ。

 グレンジャーの冒険者ギルドには、受付のお姉さんにしては年配の女性が座っていた。

「マッドクラブの解体をお願いします!」

 バン! と扉を開けて、中に入ったゲイツ様が大きな声を出す。


「ええっと、マッドクラブを討伐されたのですか?」

 見知らぬ貴族に叫ばれて、受付は驚いているよ。

「ええ、マッドクラブを討伐したのですが、少し焼いてしまったみたいで、どうしたら宜しいのでしょう」

 私はこれが心配なのだ。半分火が入っているんじゃないかな? 茹でるなら、解体しちゃ駄目かも?


「ああ、火の魔法を使われたのですね。美味しく食べるなら、中途半端に火を通すのは避けた方がいいのですが」

 ゲイツ様が愕然としている。

「もう一匹、討伐してきます!」

 ちょっと待ってよ!

「いえ、ちゃんと解体方法や調理法を聞いてからにしましょう」

 

 ということで、裏の解体場に皆で移動する。

「ペイシェンス、大丈夫ですか?」

 冬の討伐の時に、内臓とか駄目だったからパーシバルが心配してくれた。

「大丈夫だとは思いますが、無理だったら外に出ますわ」

 メアリーが心配そうに側に付いていてくれるしね。


「おお、コイツは立派なマッドクラブだな」

 解体場の責任者が、ゴム擬きのエプロンと長靴を履いてやってきた。

 うん、あれは漁師に良いだろうと思ったけど、解体場でも使われているみたい。

「だが、ファイヤーボールを何発撃ち込んだんだ? 半分、火がとおっているのか? なら、このまま脚は焼き蟹にした方が良さそうだな」

 焼き蟹! 茹でるより、味が濃くなるけど、家では無理な調理方法だったな。匂いがカーテンとかに付くから母が嫌がるのだ。


 先ずは、脚を切っていく。関節をバンバンと叩いて落とす。

 甲羅は、ガッバン! と二つに割った。

「ふむ、よく身が詰まっている」

 じゅるっと涎が出そう。


「食べられるのですか?」

 ゲイツ様は、蟹を食べたことがないのかな?

「お偉い様は脚の綺麗な身しか食べないが、この味噌が美味しいのだ」

 だよね! 日本酒を入れて焼いたら美味しい甲羅焼きだ。

 でも、どうやら人気はないみたい。

 

 脚も関節で切り分けて貰う。

「ここを、こう薄くそげは、食べられるぞ」

 シュ! と蟹の殻を長い包丁で削ぎ切る。

 中には薄いオレンジ色の身が見えた。

「ああ、やはり火が通っているな! なら、焼いた方が良い」

 

 グレンジャーの宿屋には、マッドクラブを調理する釜と焼き台があるそうなので、そちらに移動する。


 解体代金と運搬費を払って、モラン伯爵館にあらかたは運んでもらう。

 残りは、宿屋で焼き蟹だよ!


 小さな宿屋だけど、マッドクラブの料理は慣れているみたい。

「お嬢様、ここで召し上がるのですか?」

 メアリー的には、令嬢が食べに来る場所ではないと袖を引っ張る。

 確かに、庶民がわいわい取れたての魚や蟹を食べる食堂だよね。でも、こんな場所の料理って美味しいんだ!


「これを焼いて欲しいのだ」

 ゲイツ様がオーダーする。宿屋の女将さんと亭主は、多くの貴族が来て驚いている。

「焼くだけで宜しいのでしょうか?」

 あら? 他にも食べ方があるなら知りたい。甲羅も持ってきているのだ。

「お任せでお願いしたいです」

 メアリーが驚いているけど、現地の食べ方を知りたいのだ。


「それなら、マッドクラブスープもお勧めです」

 それって、絶対に美味しそう! ビビってきたよ。エバを連れて来るべきだったね。

「うむ、やはり来て正解だったな」

 ゲイツ様、マッドクラブ目当てを隠しもしなくなったよ。


 テーブルに座って料理が出て来るのを待つ。

 パーシバルとゲイツ様と弟達が同じテーブルだ。

 護衛とグレアムとメアリーは、違うテーブルだ。

 

 いつもの客が入ってきて、ギョッとした顔をして出て行った。営業妨害かしら?

「貸切にして貰った方が良いみたいですね」

 パーシバルも、こんな庶民的な食堂で食べるのは初めてみたい。


「マッドクラブのスープでございます」

 若い女の子がスープを女将さんと運んできた。茶色の髪と緑の目が一緒だから、娘さんなのかも?

 マッドクラブスープ、潮煮っぽい。塩味だけだけど、蟹の良い出汁が出ているし、温かくて美味しい。


「ふむ、美味しいですね」

 うん、こういう現地の料理ってハズレはないよね。

「これは、蟹の甲羅の味噌かしら?」

 身もほぐして入っているけど、全体が濃厚なグリーンぽいのは、蟹味噌だと思う。


「雌だと内子もあるのですが、雄だったみたいですね」

 スープの皿を下げながら、娘さんが説明してくれた。

 オレンジ色の内子! 子供の頃は苦手だったけど、大人になってからは大好きになったんだ。

「なら、明日は雌を討伐しなくては!」

 ゲイツ様が張り切っている。


 私は、明日はライナ川を視察するつもり。浚渫工事と砂防ダムを作れるか、考えなきゃね。

 そう、寂れているけど、ハープシャーとグレンジャー、なかなか開発しがいがありそうなんだ。


「ペイシェンス、海があるとやはり良いですね!」

 パーシバルもグレンジャーの海は魅力的に感じたみたい。

「ええ、新鮮な魚や蟹は、食べたいですわ」

 

 焼きマッドクラブは、凄くジューシーだった。

「お姉様、美味しいです!」

 それに、脚を焼いて、身だけにしてあるから、食べやすい。

「もう一本頂こう」

 男性陣はお代わりしたけど、私はお腹いっぱいだよ。一関節分の半分にもならないだろうけど、大きいんだもの。


 弟達もお腹いっぱいになったみたい。

 このマッドクラブ、王都に運べば大人気になりそう。

「ゲイツ様は、生で冷凍するのと、湯掻いて冷凍するのと、どちらが良いと思われますか?」

 ゲイツ様は、魔法は天才だけど、料理関係は駄目だ。

「さぁ、どちらでも美味しければ良いのです」

 相談した私が馬鹿だったよ。

「試してみましょう」

 パーシバルの方がちょこっとだけマシだね。

「ええ!」

 弟達は、王都でもマッドクラブが食べられるのだと喜んでいる。上手くいくと良いな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲイツ様のせいで脳内BGMがPUFFYの『渚にまつわるエトセトラ』になってしまいましたw あーカニ食べたくなっちゃった!
[一言] 領地のイメージが蟹で塗り潰されたなww
[良い点] ゲイツさん蟹食ってニッコリw うまくいけば特産品にばっちりですねw [気になる点] 食べてる時に沈黙があったのかw [一言] この土地の改革が今始まる!! 食欲の為にw
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