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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第五章 忙しい冬休み
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ハープシャーとグレンジャー

 次の日の朝、窓から見える湖の美しさに見惚れてしまった。

「夏とは違う美しさだわ」

 緑に囲まれて煌めく湖も美しかったけど、雪化粧した木々と湖の白の風景は、とても静謐で魂が浄化される気がした。

「お嬢様、今日は忙しいのでしょう?」

 メアリーに急かされて、服に着替える。

 今日は、ハープシャーとグレンジャーを視察するのだ。


「お姉様、おはようございます」

 弟達はもう朝食の場にいた。

「おはようございます」

 パーシバルやモラン伯爵に挨拶する。伯爵夫人は、朝食は自分の部屋で食べるみたい。

「おはようございます」

 ゲイツ様もやってきたので、素早く朝食を済ませる。


「ハープシャーの館に管理人を呼んでいるから、そこで合流しなさい」

 食後のお茶を飲みながら、モラン伯爵に今日の段取りを訊く。

「ザッとした収入と支出の資料もある。今は、収入はほぼ国に納入されているが、ハープシャー、グレンジャーの納めるべき税金などについても相談してみなさい」

 うっ、それって来年の秋には納めないといけないの?

「モラン伯爵、いつ領地を決めなければいけないのでしょう?」

 ゲイツ様が呆れている。

「普通、貴族が陞爵されたら、速やかに領地を決めます。そうしないと収入を得られませんからね」

 そうだよね。

「ペイシェンス様、グレンジャー家は法衣貴族だから知らないのは仕方ありません。でも、なるべく早く決めて、最低限の管理はしなくてはいけませんよ」

 モラン伯爵の言うとおりみたい。

「ハープシャーとグレンジャーの視察をして、なんとかなりそうなら、そうします」

 見てみないと決められないよ。


「お姉様、私達も馬で行きたいです」

 ヘンリーは大丈夫かな?

「馬の方が機動力はありますが、雪が降りだしたら寒いですよ」

 ゲイツ様の提案で、馬車を一台出すことになった。そして、馬も人数分!

 メアリーは馬車で移動する。私もハープシャーまでは馬車にしよう。実は身体の節々が悲鳴をあげているのだ。

 一回は馬車に乗ったけど、ほぼ馬の王(メアラス)で移動したからね。


 馬車でメアリーとハープシャーに移動しているけど、ホカホカクッションが温かくて気持ちいい。

 馬車が一緒なので、川沿いを離れて、道を行く。

「かなりの下り坂ですね」

 そうなんだよね。ここの峠に砂防ダムを作ろうと考えていたんだ。


 少し迂回したけど、ハープシャーに着いた。

 途中の丘陵地帯は葡萄畑みたいだった。雪に埋もれているから、よくわからないけどさ。

 今は冬だけど、春から秋までは陽がよく当たりそうだ。


「ハープシャーは、よく開けていますね」

 えっ、そうなの?

「東は森が多くて、あまり耕作地に向いていないのです」

 メアリーは、母親の実家のケープコット伯爵領からきたのだ。

「そういえば、魔物の小物を狩って食べると言っていたわね」

 メアリーが懐かしそうに笑う。

「ええ、そうしないと肉は手に入りませんでしたから」


 これ、難しい問題なんだよね。森を残すと魔物が出てくる。大きな魔物は怖いけど、小物は大切なタンパク源になるのだ。

 王都にいると気が付かないけど、田舎では重要だ。


「ここら辺には森はないわ。魔物は出ないのかしら?」

 そこら辺は、管理をしている官僚に訊くしかない。

「森でなくても湿地や農地にも魔物は出ますよ」

 えっ、それは知らなかった……いや、巨大毒蛙とか湿地に出るんだよね。

「農地にも?」

 メアリーが嫌そうに眉を顰める。

「ええ、作物を荒らすモグラ(フルド)は見つけ次第殺さないと、あっという間に増えます」

 こう言った小物の魔物は図鑑にも載っていなかった。

 普通のモグラとは違うのかな?

「田舎には野鼠(ラットス)も多いですよ。あれも、1匹見つけたら10匹はいますから、即殺さないと!」 

 うっ、なんだか田舎暮らしが嫌になりそうだ。


「でも、森がないと薪とかはどうするのかしら?」

 この異世界では、料理も暖房も薪なのだ。王宮や金持ちの貴族は炭を使っているけどさ。

「あちら辺には森もありそうですわ」

 丘陵の上部分は森みたい。今は、雪化粧している。

「丘陵から平らになった場所には、十数箇所ほどの村があるとは聞いたけど……小さいのね」

 今までも王都からノースコート伯爵領とかの旅はしたけど、こんなに小さかったかな? 

 ノースコートの港町も小さいとは思ったけど、ここは集落に過ぎないよ。


 ハープシャーの館の近くは、流石に数軒って感じではなく、町になっていた。

 街の周りには石垣で囲ってあるけど……崩れそう。要修理だね!

「ここが領都になるのかしら?」

 領都とは言い難い小さな町だけど、一応、商店が数軒と、冒険者ギルドっぽい建物、そして領主館らしき建物はある。


 馬車は領主館に向かっている。周りを先の尖った鉄柵で囲まれていて、門の横には門番小屋もあるけど……要修理だ。

 馬車は開けてある門を通り抜け、雪が積もっている庭を通り、領主館の前に止まる。

 領主館、古びている。ここを返納したのは13年前? 14年だったっけ?

「手入れが必要ですね」

 馬車から降りる前から、不安材料だ。


「ペイシェンス、こちらがこの地方の管理をしているグレアム・カルディ様です」

 先行していた馬のメンバーが先に挨拶していたみたい。

 パーシバルにエスコートして貰って馬車から降りる。

「ペイシェンス・グレンジャー女子爵(ヴァイカウンテス)様ですね」

「カルディ様、今日はありがとうございます」

「ここでは寒いでしょう」

 カルディに案内されて領主館に入る。


 大きさは、やはり王都の貴族の館より大きい。土地がいっぱいあるからね。

 でも、古びている。グレンジャー家どころじゃないよ。人が住まない家って良くないのかな?


 応接室、めちゃでかい! なので、多分、朝から火をつけていた暖炉だろうけど、寒い。

「カルディ様は、視察の時は館に泊まられるのですか?」

 ここって住めるのかな? 疑問に思っちゃった。

「問題が起これば、そこに数日滞在します。宿屋があれば、そこに泊まります」

 つまり、館は放置されているのだ。

「ただ、裁判は領主館でしますから、数人は雇って維持……まぁ、手入れは行き届いてはいませんが、浮浪者が入り込んだりしない程度には使用人は置いてあります」

 つまり、雑草に埋もれない程度の管理ってことなんだ。


「カルディ様、ハープシャーとグレンジャーはどうなのでしょう?」

 凄く大雑把な聞き方だけど、まだ具体的な質問はわからない。

「ローレンス王国の西南部になりますし、気候には恵まれています。王都からも1日で来られますし、管理次第では良い土地ですよ」

 そうなの?

 横で聞いていたゲイツ様が、カラカラ笑う。

「まぁ、北部よりはマシってだけですね。途中の葡萄畑も手入れ不足ですし、川の管理もできていません。カルディ、去年も洪水があったのでは?」

 えっ、洪水? カルディは、ハンカチで汗を拭いている。

「領主がいないと土地は荒れます。川がどんどんと土砂に埋まり、大雨が降れば水が溢れてしまうのです」

 ふう、先ずは川を浚渫しなくちゃいけないみたい。


「本来なら、それも管理人の仕事でしょうが……カルディは、何件受け持っているのですか?」

 王宮魔法師のゲイツ様に質問され「20件ほど」と答える。

「ふむ、多過ぎますね! それでは見回るだけで、対処はできないでしょう。何件程度なら、管理できますか?」

 カルディは、パッと顔を輝かす。

「5件程度なら、なんとか……それでも大規模な治水は無理ですが、洪水を起こさない程度の管理はできるようになります」

 20件では、見て回るだけだよね。

「今度、陛下に話してみます。収入も増える話ですからね」

 だよね!


 資料を見せて貰ったけど、ハープシャーの方がまだマシだと思った。

「グレンジャーは、領主不在が長いので……」

 汗を拭くカルディのせいじゃないよ。

 ライナ川の運ぶ土砂で川は何度も氾濫を起こしている。

 三角州って、前世では大都市が多かった気がするけど、ここでは駄目なの? やはり治水ができていない。


 使用人のお婆さんとメアリーがお茶を出してくれた。うん、薄い! グレンジャー家に転生した頃を思い出す味だよ。

 全員が白湯の方がマシだと思ったと思う。

 メアリーが申し訳なさそうだ。


「宿屋はあるのですが……あまり清潔とはいえません。ここの館は、まだ雨漏りはしていませんから、私はここに宿泊しています」

 ふぅ、問題山積みだね。

「ワインはどうなのかしら?」

 またカルディがハンカチで汗を拭く。

「葡萄の木を植え替える時期なのですが……」

 古い葡萄の木といっても、やはりある程度の時期が来たら、植え替えなきゃいけないんだね。

「それは、責任者はいないのですか?」

 ハープシャー子爵が葡萄畑を管理していた訳じゃないはず。専門家がいたと思うけど?

「数年前に亡くなって、後は……」

 つまり放置というか、専門家はいなくて農民がやっているのだ。だから、評判が落ちたんだね。


「グレンジャーは、もっと酷い状態なのですね」

 推して知るべしだよ。

「でも、海がありますから、冒険者ギルドは機能しています」

 ここのは? ああ、開店休業状態なんだね。

「さぁ、マッドクラブを討伐しましょう」

 ゲイツ様だけが元気だよ。私は、ここで良いのか迷い中!


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― 新着の感想 ―
[一言] 国王には、領地の状況確認をちゃんとするよう、おすすめしたい 少なくとも、屋敷に1人も役人がいない状況は、駄目だろう
[一言] まずは、現地管理人(執事)を置くべきだよ!
[良い点] 領地決めの現場に現役領主の未来の舅と姑が居るのでかなりの部分お委せ(顧問)出来そう! 何せペンシェンス12歳パーシバルもまだ少年で後見人の大人が当主代理していてもおかしくないし、持参金でペ…
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