モラン伯爵領へ!
目の前の街道は雪に覆われていた。
「昼ごろには街道の雪は溶けるのですがね」
パーシバルは、何回もモラン伯爵領との往復をしているので、慣れているみたい。
南の門までは馬車で行ったけど、そこからは馬の王にパーシバルと二人乗りだ。
そうしないと、他の戦馬や馬がついていけないのだ。
「さぁ、行きましょう!」
何故か、ゲイツ様も戦馬に乗っている。寒いの苦手なんだから、馬車にしたら良いのにね。
私とパーシバルは、ダウンコートだよ。
もこもこだったけど、かなりスッキリとさせたので、変じゃないと思う。
「馬の王、ゆっくり走るのよ」
言い聞かせたけど、久しぶりの王都の外なので、興奮しちゃっているよ。
弟達も(特にヘンリー)馬で先行したかったみたいだけど、護衛と馬の世話をするサンダー達を優先したから、馬車に乗っている。
「このコート、温かいですね」
久しぶりに二人っきりだけど、後ろにはゲイツ様や護衛達もいるから、前世の話はできない。
これは、新学期になってからかな?
「ええ、ビッグバードの羽毛がいっぱいありますから」
パーシバルが笑う。羽布団だけではなくて、服にするとは思わなかったみたいだ。
「馬の王、あまりスピード出さないのよ!」
ちょっとパーシバルと話していると、馬の王のスピードが上がる。
「二人乗りでも馬の王には負担にならないみたいですね」
パーシバルも背は高いけど、筋骨隆々って感じじゃないものね。
あまり、ムキムキだとちょっと好みから外れちゃうかも?
この異世界には魔法があり、身体強化も使えるから、見るからにゴツイって騎士はあまり見当たらない。
なんて、自分の趣味を考えながら、馬の王をなるべく抑えながら走らせる。
早朝の出発だったので、初めは街道に馬車も馬も見当たらなかったが、1時間程経つと、ポツポツ馬車や荷馬車が出てきた。
「ペイシェンス、馬の王に気をつけるように言って下さい」
パーシバルに注意されて、私も馬の王に言ったけど「ブヒヒヒン!」『そのくらいわかっている』と返事があった。
街道を西に進み、二個目の街で休憩する。
「ペイシェンス、お疲れ様」
エア階段で降りられるけど、パーシバルに抱き下ろして貰った。
途中で粉雪も降ったけど、馬の王が逸らしてくれたから、然程は寒くはなかった。
「お疲れ様です」
予め、モラン伯爵家の使用人が宿屋に待機していたので、私は中に入って休憩だ。
「馬車が合流するまで1時間は掛かるでしょう」
それまで、馬の王や他の馬達を休憩させる。
宿屋の女中が心得て、私の休憩する部屋にも付き添ってくれる。
「温かい飲み物をお持ちしましょう」
お湯で手を洗って、ソファーに座って休憩する。
馬車が到着して、その馬も休ませるから、2時間近く休憩するのだ。
旅立ちは早朝だったので、ちょっと眠い。
温かな暖炉の前で、お茶を飲むとうとうとしちゃうよ。
「ペイシェンス」
ノックの音で、うたた寝していたのに気づいた。
「パーシー様?」
女中にドアを開けてもらうと、パーシバルが立っていた。
「馬車が着きました」
なら、下に降りて、伯爵夫妻に挨拶しなきゃね。
「お疲れ様です」
馬車から降りてきたモラン伯爵夫妻を下で出迎える。
「馬車だから、疲れていませんよ。それにあのクッションが温かくて快適でしたわ」
弟達やメアリーやエバも合流して、少し休憩だ。
「次の休憩所で昼食になります」
ここから、私は馬車に乗る予定。昼食休憩は時間を多めに取ってあるし、伯爵夫妻と一緒に食事をするからだ。
「馬の王、早く走りすぎないのよ」
そう言い聞かせて、弟達とメアリーと馬車に乗る。
「なかなか快適だわ!」
ホカホカクッションがいい感じだ。
「お姉様、外は寒かったでしょう」
ナシウスに気遣われたけど、そこまでではない。
その後、昼食休憩した後は、また馬の王に乗ることになった。
パーシバルだけだと、かなりスピードがでてしまうみたい。
午後も一度休憩して、夕方前にはモラン伯爵領に着いた。
「馬の王、お疲れ様」
労ったけど、まだ元気いっぱいみたい。
サンダーとジニーが馬の王と馬の世話をするので、任せて屋敷に入る。
メアリーはまだ着いていないけど、メイドはいるので、夏休みに泊まった部屋に案内された。
暖炉の火が一番のご馳走だよ。3時を過ぎると急に寒くなったからね。
メイドがお湯を運んできてくれたので、顔と手を洗う。
「綺麗になれ!」でできるけど、やはり気分スッキリだよ。
休憩していたら、パーシバルが下の応接室で待とうと呼びにきた。
ここで一人でぼぉっとしているよりは、良いかもね?
応接室にはゲイツ様も居て、地図を眺めていた。
「このミラー湖からライナ川がハープシャー領を経由してグレンジャーまで流れているのですね」
その途中の峠でダムを作りたいのだけど、それは後になりそう。
「ハープシャーの特産品はワインだと聞きましたが、近頃はどうなのでしょう?」
特産品があるのは嬉しいよね?
「領主がいないと、葡萄畑も手入れが不十分みたいですね」
パーシバルが近所なので噂を聞いていた。
「葡萄の木を植え替えないといけないのでしょう」
ワインは好きだったから、ちょこっとだけ知っている。
「でも、古い葡萄の木から作るワインも美味しいと聞きますわ」
まぁ、ちょこっとだけの知識だけどね。
「それは、ちゃんと管理されている葡萄畑の場合でしょう?」
うっ、そうなのかも?
「なら、新しい葡萄の木を植えないといけないのかしら? すぐには収穫できないのですよね」
徐々に植え替えていっても良いのかも?
「葡萄畑を管理している人もいると思いますよ」
だよね! 素人の私の良い加減な知識より、専門家に訊きたい。
そう言う事で、明日からのスケジュールを決めていく。
「マッドクラブを討伐しましょう!」
ゲイツ様、それって蟹を食べたいだけでは?
「先ずは、ハープシャーとグレンジャーを視察しましょう。管理人にも説明して貰いたいので、予め手紙を書いています」
うっ、やはりパーシバルは頼りになるよ。というか、それ私がしなきゃいけなかったんだよね。
「ありがとうございます」
感謝する私にパーシバルは、苦笑する。
「いえ、私も気が付かなかったのです。父に言われて……」
うちの父親なんか、全くのノータッチだよ。
この夜は、皆疲れていたので、簡単な夕食で休むことになった。
「メアリー、マシューとルーツはちゃんと弟達の世話をできているのかしら?」
メアリーは、くすくすと笑う。
「ここでなら、他の使用人に尋ねることもできますから、大丈夫ですよ」
なら、良いのだけど。ヘンリーは夕食は別だったけど、部屋でルーツと一緒に食べてバタンキューだった。
「明日から視察なので、早く寝なきゃ!」
あれこれ見て判断しなくてはいけないのだ。寝不足でやりたくないからね。