新しいドレスデザイン
マーガレット王女もアフタヌーンティースタンドに驚き、喜んだ。
「ペイシェンス、こんなのみたことないわ」
うん、これはあちらの物だからね。
エリザベスとアビゲイルは二回目だけど、マーガレット王女と同じように喜ぶ。
「他の人は、どういったドレスを考えているの?」
お茶を飲みながら、エリザベスがテキパキと説明する。
「カルディナ帝国の鮮やかな色の布は、生地が薄いからプリーツ加工をして使う予定なのです」
エリザベスのは、上から下までプリーツ加工で、上身頃はクロスさせてある。
「また、凝ったデザインね」
アビゲイルのも上からプリーツ加工だけど、ストンと下に落ちる感じで可愛い雰囲気だ。
「これは、アビゲイルに似合いそう」
私のが一番大人っぽいかな? 上は他の生地で作り、下はプリーツスカート。首元にはプリーツ加工した生地で蝶結びにする。
「ペイシェンス? 一番落ち着いているわ」
それか、シャーロッテ伯母様のデザインでも良いと思っている。
「こちらの方が似合いそう」
うん、あちらは大学生になってから着た方が良いかも。
「全部、今流行りのスッキリしたスタイルなのね。でも、レースも流行りなのだけど?」
そう、スッキリしたスタイルなのにレースが多用されているんだよね。
ユージーヌ卿が拒否るの、少しわかるよ。砂糖菓子のように甘いんだ!
ただ、流行を少しは取り入れたいな。
レースを使うデザインも考えよう。ただし、小公女風の子供服にはしないよ。
「何故、子供服は昔のままの膨らんだスカートで、フリルが多めなのかしら?」
マーガレット王女の不満に、全員が頷く。
フープは流石に入っていないが、パニエで膨らませてあるのだ。
「あの格好が子供らしくて可愛いと思われているからかもしれませんわ」
アビゲイルの発言に、それぞれの年配の貴婦人達を思い出して、溜息をつく。
私の場合は、アマリア伯母様だね。
リリアナ伯母様やシャーロッテ伯母様は、もう少しセンスが良い。
アフタヌーンティースタンドのお菓子を摘みながら、わいわい話をする。
カルディナ帝国の鮮やかな色のドレスは決まったので、今度は普通の生地と柄物だ。
「やはり縞模様か、チェックなのね」
複雑な柄の織物は高級品だから、まだ私の手には余るよ。
「でも、ペイシェンス様が柄を染めようと考えていますのよ」
来られる前に描いていた柄を見て、マーガレット王女も喜んで、自分でもデッサンする。
「あまり複雑な柄は、今は難しいですわ」
江戸時代とか、柿渋を塗った型紙に細かな模様を彫って、小紋とか染めていた筈。
それを真似しようと思っているのだ。
「今はできていないのね。なら、この中から選ぶのですね」
いや、1着でも良いのだけど、他の人が3着選んでいるから無理かも?
私もベビーピンクの生地が顔映りは良いのだけど、デザインで悩んでいる。
かなり厚みのあるしっかりとした生地なので、スーツっぽくしたい。
ツイードならシャネルスーツにするのだけど……ああ、でも良いかもしれない。
マーガレット王女が緑色の生地と薄い緑に黄色の太いチェックが入った生地を選んだので、一旦、休憩してお茶を淹れかえてもらう。
「またペイシェンスは大人っぽいデザインを描いているのね」
ベビーピンクのシャネル風スーツだ。エリと前立ての所は白にしている。
「中に着るブラウスはレースを大胆に使うつもりです」
ワンピースより、動きやすいかも?
「この白の部分に銀ビーズをあしらえば豪華になるわ」
エリザベスは、このままでは地味だと思ったみたい。
「銀ビーズの刺繍! この薄緑のドレスに取り入れたいわ」
それって手間が掛かるのだけど、仕方ないかな?
レースをどう取り入れるか、アビゲイルは悩んでいる。
やはり胸元に使うと華やかになるけど、高いんだよね。
まぁ、アビゲイルは値段で悩んでいるわけじゃなさそうだけどさ。
ユージーヌ卿は似合わないだろうけど、小柄なアビゲイルには甘い雰囲気のドレスも似合いそう。まぁ、それは私もなんだけど、子供っぽくなるのは避けたいな。
わいわいとデザインを出し合いながら、決めていく。
「なかなか素敵なドレスができそうだわ」
マーガレット王女も満足そうだ。
ひと段落したので、リップクリームをプレゼントする。
マーガレット王女も薄いピンクの口紅をつけていたけど、喜んで受け取る。
「これなら学園でも使いやすいわ」
一応、口紅も寮に持ってきているけど、食事で落ちちゃうから、あまりつけない。
「ええ、ポケットに入れておけば、いつでも塗れますもの」
なんだか中高校生の頃を思い出したよ。
マリーを呼んで、採寸したら、マーガレット王女は王宮に戻る。
やはり、長時間にならないようにシャーロット女官が気にかけていた。
見送ったエリザベスとアビゲイルも屋敷に帰ったので、私は弟達の旅行の準備ができているか、メアリーに尋ねる。
「マシューとルーツに任せています。何か足りない物があったとしても、それも勉強ですわ」
うっ、それはマシューとルーツにとっては勉強になるだろうけど、弟達が不便な目に遭わないようにして欲しい。
「大丈夫ですよ。一応、用意する物はリストに書いて渡してあります」
なら、良いのだけど?
「メアリーは家政婦が来る事に不安はないかしら?」
今は、メアリーが侍女兼女中頭なのだ。家政婦が来たら、その下になる。
「とても嬉しいですわ。お嬢様には家政婦が必要ですから」
家全体の管理は執事がするけど、台所や衣服費などは、家政婦が管理するみたい。
今は、その管理をしている者がいないから、私がやっている。
「カミュ先生も二年後には秘書になって下さるし、少しずつ体制を整えていかなくては」
メアリーは、その前の社交界デビューについても考えて欲しいって顔をした。
今回のドレスは、昼のドレスだ。先ずは、それを作ってから、夜のドレスを作りたい。
この夜は、明日から旅行なので、少し豪華な夕食だった。
エバも連れていく予定なんだけど、準備できているかな?
夕食後は、ヘンリーにお休みのキスをしに行く。
いつもは、寝ていることが多いのに、目を開けている。
「明日、旅行だと思うと、眠れません」
モラン伯爵領には夏休みも行ったよね?
「ヘンリー、よく寝ておかないといけませんよ」
そう言い聞かして、額にキスして部屋に戻る。
「お嬢様も早くお休み下さい」
メアリーに言われたよ。私も早く寝ないとね。
馬の王に乗るから。