マーガレット王女の訪問
今日は、マーガレット王女がお茶会に来られる。
朝からメアリーは下女達を使って掃除をやりなおさせている。昨日もしたよね?
元々、グレンジャー家は綺麗に保たれているし、そんなに大騒ぎしなくても、なんて言わないよ。テンションMAXのメアリーに叱られるから。
これからは、こんな事も家政婦のタラ・ミッチャム夫人に任せられるのかな?
ワイヤットにバーンズ公爵家の家政婦見習いを譲って貰うと話したら、歓迎された。
「私だけでは、お嬢様の嫁入り支度に不備があったらと不安でした」
まぁ、ワイヤットも細かい花嫁道具までは知らないだろうしね。
給金は、バーンズ公爵家に聞いてあまり低くならない様に配慮してくれるそうだ。
やはり、公爵家の家政婦と子爵家の家政婦とでは給金も違うみたい。良いのかな? 少し不安そうな顔になったら、ワイヤットに笑われた。
「聞けば、まだ若い方のようですから、お嬢様と長いお付き合いになります。バーンズ公爵家の嫡男の奥方と気が合うかどうかもわかりませんし、お嬢様にお仕えした方が良かったと思われるようにされれば良いのです」
ふうん、カエサルが変な人と結婚するとは思えないけど、私もちゃんとしなくてはね。
朝からは馬の王を久しぶりに運動させた。
「明日は、馬の王と遠乗りですから、練習しておいた方が良いですね」
パーシバルは、自分の疾風号で第一騎士団の馬場まで行く。
王立学園から屋敷まで連れて来る時は、早朝だった。
パーシバルが毎日馬の王を運動させているのは、少し見慣れていたのだろうけど、私が乗っている姿を見て、立ち止まる人がいる。
「もしかして、変な乗り方なのでしょうか?」
パーシバルが「上手ですよ」と褒めてくれたけど、馬の王は「ブヒヒン!」『まぁまぁだな』と厳しい。
第一騎士団の馬場では、他の騎士達もスレイプニルの運動をさせていた。当たり前だけど、全員上手い!
「ペイシェンス様、今朝は馬の王の運動に来られたのですね」
第一騎士団長のガブリエルに声を掛けられた。
「ええ、でも、馬の王に交代して欲しいと言われましたの」
パーシバルと交代すると、全速力で走る。
「やはり、馬の王は素晴らしいですね」
ガブリエル騎士団長は、団員に椅子を持って来させたので、座って話をする。
「あのペイシェンス様が作られたソースのお陰で、騎士団員も喜んでおります」
まだまだ討伐をしているんだね。
「いつまで討伐は続くのですか? シュヴァルツヴァルトにはトレントはいるのでしょうか?」
ガブリエル騎士団長は、ガハハハと笑う。
「春になるまでは討伐は続きますね。トレントは北部ほどはいませんが、少しはいますよ」
そうか、やはり11月よりは南下しているのだ。
「トレント征伐ですか?」
笑われちゃったよ。
帰りはパーシバルと二人乗りで帰った。
そろそろ人が動き始める時間なので、私だけよりパーシバルと一緒の方が安心だからだ。
明日も、私は門までは馬車で行って、そこからパーシバルと二人乗りだよ。そのくらいのハンデがないと、他の馬がついて来れないからね。
今朝は、パーシバルも朝食を食べたら早目に帰る。明日の用意もあるし、マーガレット王女が来られるのを知っているからね。
早くお昼を食べて、着替えて待っていると、エリザベスとアビゲイルが先に着いた。
これは、一緒に出迎えようと相談していたからだ。
「マーガレット様は1時ごろにおいでだと思いますわ」
まだ12時過ぎだよね。応接室で待つけど、お茶は一緒で良いと断られた。
その間に、シャーロッテ伯母様が描いたデザインを見せる。
「なるほどね! こちらの方が縫うのは簡単そうだわ」
エリザベスは、デザインは色々と思いつくのだが、縫う方は素人だからね。
それと、私が思いついた案もシャーロッテ伯母様に可能かどうか確認したんだ。
「プリント生地を作ろうと思うのです」
前世はあらゆるプリント生地があったけど、ここでは織物の柄生地だから高価になるんだよね。
後は、細かい刺繍だし、プリントは南の大陸では人気だから、ここでもできる筈だよ。
「簡単な水玉や花柄を考えました」
何色ものプリントは上手くいってからにしよう。
水玉は型紙にするのも簡単だよね?
この場合、白を残すのには糊を置いて染料を入らなくする。
濃い赤や青の水玉模様にする方が簡単なのかも?
「花模様は、春のドレスに素敵だわ」
エリザベスの描く模様は素敵だけど、型紙にし難いな。これは、友禅染みたいに手描きじゃないと無理かも? シルクスクリーンならいけるのか?
「もう少し、型紙にしやすい模様でないと難しいですわ」
アビゲイルは、パステル風の花模様で、これは良さそうだ。
今回は、それぞれのデザインを優先して作るオーダーメイドだけど、これからは基本のドレスの形を決めて作りたい。
そうしないとお針子の手間が大変だからね。
でも、飾りとかで違う感じにはするつもりだけどさ。
わいわい話し合っていたら、時間の経つのも早い。
「マーガレット王女様が御着きになりました」
父親も一応はお出迎えする。弟達もね。
「ようこそ、おいで下さいました」
父親は挨拶だけして、書斎に籠る。弟達もお辞儀だけして子供部屋に上がった。
今日は、マーガレット王女がお忍びで遊びに来たのだから、長々と挨拶されたくないだろう。
シャーロット女官は、部屋の隅の椅子で待機している。
「ペイシェンス! とても楽しみにしていたのです」
テンション高めのマーガレット王女に、布地を見せる。
「まぁ! とても素敵だわ。いつもドレスは仮縫いの時に見るだけなのよ」
そうか、マーガレット王女が生地やデザインを決めてないんだね。
わいわい騒ぎながら、布を肩に掛けていく。
「マーガレット様は、赤がお似合いになるわ」
プラチナブロンドに赤が映える。
「でも、もっと大人っぽい色が着てみたいの」
それは分かるな! 14歳って大人っぽく見せたい年頃だよね。
「もっと大人なら赤も魅力的なのでしょうが、今は子供っぽくなってしまうかも?」
エリザベスも悩ましそうだ。似合う色だから、勧めたのだが、子供っぽくなると言われると、それもわかる。
「セクシーに胸元を開けたら、良いのだけど……そんなドレスは着せて貰えないわ」
そこが問題なんだよね。社交界のドレスは、かなりローブデコルテの露出があるのに、令嬢が昼に着るドレスは慎ましやかなのが相応しいって感じなんだよ。
社交界は、煌びやかな大人の世界なのにね! まぁ、あんなドレスでは暮らし難いけどさ。
一昔前のスカートにフープが入っている流行が廃れて良かったよ。椅子に座るのも大変そうだもの。
今は、大人のドレスは後ろの裾が長いタイプが流行っている。勿論、そんなのは貴族だけだよ。
庶民は、裾なんか引き摺らない。まぁ、貴族も夜のパーティとかだけだね。
リリアナ伯母様は、地方の貴族を招待した晩餐では、そういったドレスを着ていたけど、普段はレース多めのスラッとしたデザインのドレスだね。
「露出は少な目でも、今の流行に合わせたスッキリとしたデザインにすれば、子供っぽくはならないと思うわ」
エリザベスがサラサラとデザイン画を描く。
シンプルなラインだけど、王女様がこれで良いのかな? レースも少ない。
「これでは裁縫の授業で作ったドレスみたいだわ」
そう! 何かに似ていると思ったら騎士コースの二人のドレスだよ。
あちらは、もっと裾は長かったけどね。
「このシンプルなドレスに、カルディナ帝国の薄い絹を合わせるのです」
デザイン画にも、薄らとシンプルなドレスの上に重ねて描く。
「同じ色の生地が無いわ」
真っ赤な薄い生地は、誰も選ばないだろうと除いていたのだ。
「メアリー、赤の生地を持ってきて」
赤でもニュアンスが違うと合わないかも? と心配したけど、ほぼ同じ赤で、重ねた部分は少し暗く落ち着き、薄い生地の部分は明るく軽やかな雰囲気になった。
「これ、良い案だわ! 子ども服のようにスカートが広がっていないのに、華やかだし、エレガントだわ」
確かにね! それに、スカートのボリュームが抑えられているから、生地も少なくて済む。二重にしても価格は高くならないかも?
一般的なデザインに採用したいな。
マーガレット王女の一着目が決まったので、お茶にする。