ステンレスを作ろう!
冬休み3日目! 今朝も早起きして、パーシバルが来るのを待つ。
「馬の王、今日はどんな気分なの?」
ゆっくり走っても良いのなら、パーシバルと2人乗りでも良いなと思ったのに『速く走りたい!』だ。
やってきたパーシバルに不満そうに告げたら、笑われた。
「ペイシェンスも馬の王に慣れてきましたね。旅行中は一緒に乗りましょう」
「ブヒヒヒン」と急かすので、パーシバルは第一騎士団の馬場に向かった。
1時間から、2時間空いた。やる事はいっぱいだ。
「ワイヤットに荷車を手配して貰うけど、家にもあるのよね」
今、家には馬の王とマロンとシャドー、そして馬車を曳く馬がいる。
つまり、餌や寝藁を買う必要があるので、荷馬車はあるんだよね。
勿論、運んでもらう時もあるけどさ。野菜を売る時も使っているみたい。
新しい馬の王の馬房ではなく、元からある馬房に向かう。
「ううん、古いね!」
まぁ、新品を買うわけないよね。ワイヤットも節約が身についているもの。
「荷馬車だけ、あまりスピードが遅かったら困るよね?」
今回の旅行、馬の王を連れて行くから、先発の馬部隊、後発の馬車と分かれちゃうんだ。
モラン伯爵夫妻や弟達は後発の馬車部隊で、それにも護衛も付くよ。
そこに荷馬車も同行させるつもりだったけど……これは無理っぽい!
新しくしたら何とかなるレベルじゃないよ。
「ワイヤット、荷馬車を旅行に連れて行くから、もっとしっかりしたのを用意してね」
ワイヤットの部屋に押しかけて言っちゃった。
「何に使われるのでしょう?」
だよね! 目的を伝えてなかった。
「大きな冷凍庫を乗せたいの。海で取れる蟹や魚を冷凍して、ロマノに運べるか実験したくて!」
ワイヤットが少し呆れている。
「お嬢様、それはこの前ゲイツ様が運んで来られた冷凍庫ぐらいの大きさを考えておられるのですか?」
そうだけど?
「モラン伯爵領から、あんなに重い冷凍庫を乗せた荷馬車を運ぶのは、今回はおやめ下さい。どう考えても、馬車から遅れてしまいます」
「荷馬車を改造するつもりだけど……駄目かな?」
「改造しても、馬車よりは遅いのでは? それを護衛する者の事をお考え下さい」
ワイヤットに、護衛が大変だと叱られちゃった。
今回は、それでなくても馬の王がいるから、護衛は2つに分かれるのだ。
その上、荷馬車で3つに分かれるのは良くないとワイヤットは言う。
メアリーが横で聞いていて、一言口を挟む。
「あのう、荷馬車は冒険者ギルドに護衛して貰ったら良いのでは?」
ワイヤットが驚くの初めてみたよ!
「そうでしたね。荷馬車なら、冒険者の護衛でも大丈夫です」
私も一緒に行動しなきゃと思い込んでいたよ。
冷凍なんだから、少しぐらい遅くなっても平気なのに。
モラン伯爵家の人々や私達の護衛を冒険者ギルドに依頼するのは駄目みたいだけどね。
「ああ、それなら良いですね! なるべくしっかりした荷馬車を買いましょう」
冷凍庫、重そうだもんね。荷馬車は、割とすぐに買えるみたい。馬車は高級品だけど、荷馬車は日常品だからかな?
そちらは任せて、こちらはステンレスを作ろう!
でも、昨夜ナシウスにそれとなく訊いたら、一緒にしたいと言ったので、もう少し待つけどね。
その間に、ホカホカクッションの魔法陣とロケットとオン、オフ、スイッチを作っておく。
「お姉様、おはようございます!」
ナシウスとヘンリーが起きてきたので、ステンレスを作る。
「重たいから、気をつけてね!」
金属って重たいんだよね。ジョージに手伝ってもらおうかな?
「錬金釜に、鉄、クローム、ニッケルを入れるのだけど、この分量を量りながら入れなきゃいけないの」
ステンレス18-8を作るつもりだから、鉄との割合を計算しておいた。
一番大きな錬金釜いっぱいに作るけど、冷凍庫を作るには、何回か作らなきゃいけないかも。
こんな時、魔法省の錬金術部屋の大きな錬金釜が羨ましいよ。
うっ、いけない! いけない! ゲイツ様の思う壺だ。
「ステンレスという合金を作るのよ」
2人に手伝って貰って、鉄とクロムとニッケルを量った。
「これを錬金釜に入れるのですね」
ナシウスは、この割合を見て覚えている。
「ええ、後は熔かすのだけど……ある程度、熔けたら錬金術で完全に混ぜるの。それをナシウスもやってみないかな? と思ったの」
ナシウスが「はい!」と良い返事だ。
熔解するまでの間は、ホカホカクッションの組み立てだよ。
「これは、暖かくなるのですね」
ヘンリー、座ったらわかるよね。
「ええ、冬の移動には良いと思って作ったのよ」
今日は伯母様方が馬車で来られるから、クッションをホカホカクッションにするつもり。
ファスナーをつけるのは、モリーとマリーに任せるけど、他のは作ってある。
底面に魔法陣を描いた布を敷き、魔石をロケットにセットして、スイッチの棒をクッションの底部分を少し穴を開けて出す。
組み立ては、割と簡単だ。
「お姉様、熔けてきましたよ」
ヘンリーは少し離れてずっと見ていたみたい。
「ええ、ナシウス、混ぜてみる?」
ナシウスと一緒に混ぜる!
「まだ、お姉様にやって貰っている感じです」
それは、仕方ないね。
「私は、読書クラブと歴史研究クラブに入るつもりですが、お父様に訊いたら、読書クラブは月に2回程度しか活動は無いみたいなのです。読む本を決めて、後は各自で読んで読書会を開くだけだから」
えっ、それってもしかして! 押し付けてないよね?
「だから、錬金術クラブにも入ろうかなと考えているのです」
嬉しい! けど……。
「ナシウス、私がやっているからといって、錬金術クラブに入る必要は無いのよ」
ナシウスが笑う。
「お姉様の影響がないかと言われたら、あります。だけど、物を作るのを見て、とても楽しそうだと思ったのです」
嬉しい! ナシウスは初等科だし、寮も男子寮だから、あまり接点が無いかなと思っていたんだ! 食事も私はマーガレット王女と一緒だしね。
「私も錬金術クラブに入りたいです!」
ふふふ、負けん気が強いね。でも、ヘンリーが入園する時は、私は卒業しているよ。
「それは、嬉しいけど、ヘンリーは騎士クラブに入るのでしょう? あそこは厳しいわよ」
読書クラブのように月2回とかじゃ無いからね。
「ヘンリーは乗馬クラブにも入ると言っていたじゃないか」
ナシウスにも呆れられたよ。
「でも、お姉様のお手伝いをしたいです」
あらら、仲間はずれになったと感じたのかな?
「ヘンリーは、温室のいちごを育てるのを手伝ってくれているでしょう。それに、馬の王の運動もしてくれているわ」
パッとヘンリーの顔が輝く。
「馬の王の世話をします!」
いや、それはサンダーとジニーがいるから。
「ヘンリーは、勉強して、剣の稽古をするのが仕事だよ。それと、少し畑を手伝ったら十分だと思う」
そう、そう! やはりナシウスは弟と一緒にいるだけあって、私より言い聞かせるのが上手いかも。
「熔けたら、ここからは錬金術で塊にするの」
一気に冷凍庫を作る分のステンレスはできなかったからね。
イメージは、インゴットだ。
「塊になれ!」
錬金釜の中に何十個もの塊ができた。
「あと、何回かステンレスの塊を作らなきゃいけないわ」
ふぅ、冷凍庫は今回は無理かもね!
領地が決まってからにしても良いのかも? エリザベス達とドレスについてのお茶会、今日は伯母様方から淑女教育、明日はバーンズ公爵家に行くし、明後日はマーガレット王女とお茶会!
無理して、変な物を作るより、落ち着いて作った方が良さそう。
弟達に手伝って貰って、ステンレスをもう一回作って、終わりにした。
パーシバルが帰ってきたからね。
「パーシバル様、馬の王に乗っても良いですか?」
ヘンリーが乗りたくて仕方ないと声を掛ける。
「馬の王、良いかしら?」
チラリとヘンリーを見て「ブヒヒン」と承知する。
「驚きました! 馬の王があんなに優しいとは!」
パーシバルは、ヘンリーを乗せて庭を何周かしている馬の王を見て笑う。
「私より、ヘンリーの方が乗馬が上手いからかも?」
少し考えて、パーシバルが話し出す。
「馬の王をここに置いていても良いのかもしれませんね」
えっ、それは新学期も?
「でも……馬の王は我儘ですわ。今でも、朝と夜に会いに行っていますのに?」
「そろそろ、ペイシェンスと離れていても大丈夫になっています。勇者だって、オーディン王子と離れていても平気でしたよ」
ああ、そうなんだね!
「それと……言いにくいのですが……春になると繁殖期になります。王立学園にいるより、グレンジャー家の方が宜しいかと……」
言いながら顔を赤くされると、こちらも恥ずかしくなる。真っ赤になっちゃうよ!
「ペイシェンスは、2年生はスケジュールを調整して、金曜の午後は取らないとか、月曜の午前中は取らないとかできませんか? 領地を視察しても良いし、馬の王と接する時間も増やせます」
それ、王立学園に入学した時に、私が考えていた事だよ。弟達と過ごしたくてね!
「私が取る授業は、経済学3、経営学3、外交学3、国際法2、第二外国語2、織物3、染色3。そして領地管理ですわ」
少ないね! 本当にパーシバルと一緒に卒業できるかも?
「領地管理は……行政と法律とよく似た感じだとクラスメイトが言っていました」
あああ、だから、父親も大学で学べばと言ったのだ。もっと、ちゃんと教えてよ。
「ほぼ、一緒の授業を受けられますね」
パーシバルは、領地管理は取らないみたい。管理人に任せているからと、教科書を読むだけだからだそうだ。テンション下がるけど、全く知識がないから取るけどさ。