弟達と一緒にあれこれ!
昼食は、家庭教師のカミュ先生も一緒だった。
「ロマノ大学は、明日から冬休みみたいですね」
父親は、大学だ。馬車は早朝に使っただけだから、今日は良かったけど、やはり2台必要だね。
「お姉様、馬の王に会わせてくれますか?」
ヘンリーはスレイプニルに興味津々だね。
「ええ、落ち着いたみたいだから、昼食の後に会いましょう。カミュ先生、昼からは馬の王に会わせたり、いちごを摘むのを手伝って貰っても良いでしょうか?」
カミュ先生は笑って許可をくれたので、昼からは弟達と遊ぼう!
馬の王がいる馬房に入る前に注意をしておく。
「大きな声を突然出したりしたら、馬の王が驚くから駄目よ。それと、後ろから近づくのも嫌がるし、蹴られるから、しては駄目よ」
ナシウスもヘンリーも馬術は私より上手いけど、蹴られたりしたら大変だから、言っておく。
門に2人、馬房の前にも2人、警備の人が立っている。
交代で食事をしたり、休憩をするみたい。
今よりも、メアリーが台所や召使部屋に近寄らせなくなりそう。
「入ります!」
一声掛けて、馬房の中にナシウスとヘンリーを連れて入る。
「ブヒヒン!」『遅かったな!』
いや、昼食が済んで、すぐに来たんだよ。
「馬の王、こちらがナシウスとヘンリーよ」
馬の王がチロッと見て「ブヒヒン!」『乗せてやる!』と言い出した。
「えっ、危険じゃないの?」
サンダーとジニーも驚いているみたい。
「ブヒヒヒヒン! ブヒ、ブヒン!」
ちょっと失礼なんだけど! 私より上手そうだなんてさ。
「ナシウス、ヘンリー、乗ってみる?」
2人は顔を真っ赤にして頷く。
「こんなに綺麗な馬に乗っても良いのですか?」
「乗りたいです!」
馬の王に「落とさないでよ!」と言ったら「ブヒヒヒヒン!」と笑われた。
「サンダー、男の子用の鞍を付けて」
サンダーは、馬の王が私やパーシバル以外を乗せるのに驚いていたが、徐々に人に慣れてきたのだと喜んで鞍を付ける。
「先ずはナシウス、乗ってみなさい」
ナシウスも、乗馬台が無くても乗れるんだね。
私はエア乗馬台で乗るんだけどさ。
「ゆっくりと庭を歩くだけよ!」
厳しく言い聞かせたからか、馬の王は大人しく庭を一周した。
「ブヒヒン!」『走りたい!』
やはり、そう来たか!
「庭は狭いから駄目よ」
不満そうな馬の王。やれやれ、公園に運動に連れて行かなきゃいけないかも?
「サンダー、運動は公園でさせても良いのかしら?」
慌ててサンダーが止める。
「それは、困ります。第一騎士団の馬場をお使い下さいと、ガブリエル団長が言われていました」
それって、王宮の中じゃないの?
「他のスレイプニルもいますから、馬の王も喜ぶでしょう。それか、障害の練習なら庭でもできるのでは?」
えっ、障害はまだ無理だよ! パーシバルに慣らして欲しい。
「ブヒヒン!」『跳びたい!』
ああ、言葉が分かるスレイプニルなんて厄介だ。
「低い障害なら、跳べます!」
ナシウス、心配で胸がドキドキするよ。こんな事なら、パーシバルに来て貰えば良かった。
近頃、デートばかりで、弟達と過ごす時間が取れないから、明日の午前中までは約束していないんだ。
ジニーが低い障害を並べていく。
「馬の王、跳べる?」
私が心配そうに訊くと「ブヒン!」と馬鹿にしたように答える。
まぁ、山も登れるのだから、低い障害ぐらい平気だとは思うけどさ。
ナシウスが馬の王と障害を跳ぶのを、心配しながら見ていたが、私より上手だね。
「ナシウス、とても上手だわ!」
前に見た時よりも、スムーズに跳んでいた。
「馬の王が上手く跳ぶのです」
相変わらず、ナシウスは自分を褒めるのが下手だ。もっと自信を持って欲しい。
ヘンリーの目がキラキラしている。
「ヘンリー、代わろう!」
ナシウスは、弟思いのお兄ちゃんだね。
「うん! 乗りたい!」
ヘンリーは、パンと馬の王に跳び乗った。
「ゆっくりと走らせるのよ!」
後ろから叫ぶけど、ヘンリーと馬の王は障害をものともせずに跳び越しながら爆走する。
「凄いですわね! それに美しいですわ!」
カミュ先生は、王立学園で乗馬クラブだっただけはある。
馬の王を惚れ惚れとした目で見ている。
確かに馬の王は美しいけど、ヘンリーが心配だよ。
「そろそろ、止まりなさい!」
私が命じてから、もう一周して止まった。
「ブヒヒン!」『もっと高いのを跳びたい!』
ふぅ、我儘なスレイプニルだよ。
「今日は、これでお終いよ。さぁ、馬房に入ったら、ブラシを掛けてあげるわ」
ヘンリーに馬房に入るように言うと、素直に馬の王を向かわせる。
「綺麗になれ! と私が唱えても良いですか?」
えっ、ヘンリーも少しは生活魔法が使えるけど、大丈夫かな?
「良いですよ」
綺麗にならなかったら、こっそりと掛けたら良いだけだ。
ヘンリーは、凄く集中して「馬の王、綺麗になれ!」と掛けた。
「まぁ、ヘンリー! 上手に掛けられたわね」
少し嬉しそうなヘンリー。
「この前から、練習していたから、成果が出たね!」
ナシウスが褒めたら、嬉しそうに笑う。
「お兄様に教えて貰って、生活魔法が使えるようになったのです」
ナシウスを褒めておこう。
「ナシウス、上手く教えてくれたのね。ありがとう! 騎士は討伐とかの時に生活魔法が使えると便利なのよ」
臭いヘンリーは困るからね。これは、本当に使えるようになって、良かったと思う。
馬の王に弟達とブラシを掛けて、馬房から温室に向かう。
「いちごをいっぱい採って欲しいの」
食べるのは6個までにする。今回は、フリーズドライいちごに挑戦するからね!
籠にいっぱい採って、工房に運ぶ。
「いちごを洗うのでしょう!」
考えたら、子爵家の子息なのに、いちごを2人で仲良く洗っている。
まぁ、可愛いし、良いんだけどさ。
「ヘタを切るのは、ヘンリーは無理かしら?」
プチナイフでヘタを切っていくのだけど、口に入れる時もあるからね。
「もう8歳だから、大丈夫です!」
そうか、6歳だったのに、大きくなったね。
でも、まだ私の方が少しだけ背が高い。ホッ!
ナシウスには抜かれちゃったけどさ!
3人でいちごのヘタを切って、もう一度洗う。
「お姉様、何故洗うの? さっき、洗ったのに?」
ヘンリーが変な顔をして訊く。
「よく見て、いちごのヘタを切った後に、少しだけオシベが残っているでしょ。今日は、これで新作のチョコレートを作って、バーンズ公爵家に届けるの。オシベのブツブツが口に入ったら嫌でしょ」
ふうん! とナシウスも頷いている。
洗ったら乾かす。上手くいくか分からないから、半分やってみよう。
「フリーズドライ!」
弟達の目がまん丸だよ。
「お姉様、枯れちゃった!」
ヘンリーが叫ぶ。
「ふふふ、違うのよ。ドライいちごになったの。食べてみましょう」
サクサクで甘酸っぱいのも濃縮されている。
「「美味しい!」」
ホワイトチョコのレシピを書いて、フリーズドライいちごと一緒にエバに渡す。
ドライいちごをエバに試食させる。
「これ、美味しいですね! でも残りのカカオバターは?」
カカオバターの3分の1は残しているのを不思議がる。
「これは、実験に使うの。あとのカカオマスは乾かして、美味しい飲み物になるのよ」
これも、レシピを書いて渡す。
ついでに細かく粉砕して、ココアパウダーにしておこう。
お茶の時間まで、弟達と応接室でハノンを弾いて過ごす。
「収穫祭の『歓喜の歌』と『再会の歌』なの」
『再会の歌』は歌詞を教えて、一緒に歌うよ。
ゆっくりと弟達と過ごせて良かった。
なのに邪魔が入る!
「サミュエル? どうしたの?」
もしかして馬の王が見たかったのかな? なんて思ったけど違った。
「ナシウスは、多分1週間で2年に飛び級するだろう。そして、ペイシェンスと同じく、来年は中等科になると思う。私も飛び級して、一緒に中等科になりたい」
えっ、あの勉強嫌いを拗らせていたサミュエルが! 凄い進歩だよ。
「それと、中等科では、騎士コースと文官コースを選択するつもりだから、1つでも多くの修了証書を取りたい」
それは、そうだと思う。私が家政コースと文官コースの掛け持ちができるのも、必須科目の修了証書が取れているからだ。
「それで、何故、ここに?」
弟達との寛ぎタイムを邪魔しないでよ!
「ナシウスと勉強するためだよ!」
えっ、私の弟達との親睦は? なんて言えないよ。
ナシウスが嬉しそうに、サミュエルの手を取って子供部屋に案内しているからね。
「ヘンリーも一緒に勉強をしなさい」
ヘンリーもサミュエルのやる気に、感化されたみたいだからね。
「お姉様は?」
「私も勉強しなくてはね!」
久しぶりに一緒に勉強をしよう!
それと、視察に行くグレンジャーとハンプシャーの資料を探して読まなくてはね。
あっ、トレントの種類の本があるかも探さなきゃ!