打ち上げパーティー!
こちらでは、基本的に肉は塊で売っている。まぁ、グレンジャー家は、経済的な理由で薄切りだったけど、寮や上級食堂の肉料理は分厚い。
討伐の食事場の焼肉、前世では薄切りステーキぐらいの厚さだった。それを皆は山盛り食べて、お代わりをしていたのだ。
エバにはすき焼きの平鍋を何枚も用意しておくように注意しておいたけど……私は1枚で十分!
ああ、もしお代わりするなら、すき焼きじゃなくて、しゃぶしゃぶだよね。
思いついたら、しゃぶしゃぶが食べたくなったけど、流石に今日はしないよ! 明日のお昼にしよう!
すき焼き肉も、ここの肉の切り方としては、凄く薄いけど、しゃぶしゃぶはねぇ、もっともっと薄くしないといけない。
でも、エバなら薄く切ってくれると思う。
なんて、明日の食べ物を考えているなんて、弟達には内緒にしたいけど、つい暇を見つけたのでエバに渡すレシピを書く。
タレは、胡麻タレの胡麻! あっ、カルディナ街で探すの忘れたよ。胡桃タレと柚子ポン酢!
個別鍋に、水と昆布を入れたら、それで準備はOK! 沸騰したら……お箸でしゃぶしゃぶは難しいかも? トングなら大丈夫かな? なんて、レシピを書きながら夢中になっていた。
「お嬢様、お嬢様! ゲイツ様がいらっしゃいましたよ」
思わず腕時計を見ちゃったよ。凄く長い間、トングと箸で悩んでいたのかと思った。
「まだ10時半なのに……」
招待した時刻の30分も前に来るのは、マナー違反だよ。
でも、メアリーが困るだろうから、玄関ホールに出迎えに行く。
「おお、ペイシェンス様、良い手土産を思いついたので、少し早いが来てしまった。失礼だが、グレンジャー家には大きな冷凍庫が無くて、お困りでは無いかと思ったのです」
えっ、それは嬉しいよ! 玄関を出たら、大きな荷馬車からはみ出しそうな冷凍庫が積んである。
「ワイヤット、洗濯場に冷凍庫を下ろさせて!」
悔しいけど、私が作ろうとしていた簡易冷凍庫より上等だ。それに、今必要だからね。
「ありがとうございます」とお礼を言って、応接室に案内する。
ナシウスとヘンリーがゲイツ様に挨拶している。
「ゲイツ様、いらっしゃいませ!」
良い子達だよねぇ! ちゃんと、マナーが身についている。
お茶を出しても良いけど、昼食会だし……と悩んでいるうちに、テーブルの上に置いたままのレシピを書いた紙にゲイツ様が気づいた。
「これは、新しい料理のレシピですか?」
あああ、それはまずいかも?
「ほほほほ……それは、また今度にしますわ」
レシピを取り上げようとしたけど、真剣に読んでいる。
「これは、肉を薄く切って、しゃぶしゃぶ? 鍋の中で揺らすのですか? どんな感じなのか気になります!」
あああ、面倒な事になったな!
「そのレシピを差し上げますから、家で作らせたら如何ですか? 肉を薄く切るだけがポイントです」
逃げようとしても、こうなった時のゲイツ様はしつこい!
「お嬢様、サリンジャー様がいらっしゃいました」
まだ11時前だけど、きっとゲイツ様のお守りに来て下さったのだ!
「お通しして!」
メアリーは心得た侍女だから、すぐにサリンジャーさんを案内した。
「今日はお招きありがとうございます。子爵様はワインはお好きでしょうか?」
ワインやお酒も少しは用意はしてあるけど、嬉しい! ワイヤットが受け取っている。
そう、昼食会の手土産、このくらいが常識的だと思う。冷凍庫は、少し高価過ぎるんだよ。嬉しかったけどさ。
「ゲイツ様、一緒に来る予定でしたでしょう。早く来すぎるのはマナー違反ですよ」
サリンジャーさん、土日もお世話係モードだよ。
「ああ、そんなことより、ペイシェンス様が新しいレシピを考えているのに、食べさせてくれないなんて意地悪をされるのだ!」
いや、すき焼きだって新しいメニューでしょう。
この後、パーシバル、サリエス卿、ユージーヌ卿、カエサル、ベンジャミン、アーサー、ブライスがやってきて、ゴネているゲイツ様に呆れた。
それぞれ、ワインやブランデーや高級な紅茶などを手土産に持ってきてくれて、嬉しい。
「ペイシェンス様? 何だかゲイツ様は、ご機嫌斜めですが?」
パーシバルが、側に来て、心配そうに小声で訊ねる。不機嫌オーラ、振り撒かないでよ!
ふう、仕方ないな! まぁ、個別鍋の上部分を交換するだけだし、どうせすき焼きのお代わりが多そうだからね。
「エバに、このレシピを渡して下さい。すき焼きに飽きたら、こちらのしゃぶしゃぶ鍋もあっさりとして良いかもしれませんわ」
ゲイツ様の圧力に屈したよ! ワイヤットにレシピを渡す。
騎士コースの4人は一緒に来たよ! 籠にワインを何本か手土産だ。
普通のドレス姿なのだけど、姿勢がシャンとしているからか凛々しく見える。
アイラとルーシーは、少し変わった手土産だった。
「お招き、ありがとうございます。これは、家の領地の特産品なのです」
籠を見たら、黒い塊! トリュフだね!
「まぁ、ありがとう!」
これ、本当に嬉しい! このまま魔物のステーキに薄く切ったのを添えても良いし、トリュフソースとか美味しそう。
「グレンジャー子爵家に招待されると知った親が領地から取り寄せたのです」
やったね! グレンジャー家には領地がないから、こういった特産物は嬉しい。
弟達を紹介し、やっと書斎から出てきた父親に全員を紹介して、昼食会だ!
「今日はカルディナ帝国で人気のすき焼きがメインですから、他のは少しずつです」
説明しておかないと、ケチに思われたら嫌だからね。
前菜は、ビッグバードの蒸したのに、ピリ辛胡桃タレをかけた物。前世の棒棒鶏みたいな感じ!
そして、スープは干貝柱とビッグバードの肉団子。生姜が効いてて、食べやすい。
「メインは、すき焼きです。ご飯と食べたら美味しいです」
目の前の個別鍋に、調理済みのすき焼きの平鍋が置いていかれる。
「良い香りですね!」
パーシバルには、カルディナ街の買い出しを手伝って貰ったからね。
「ええ、お代わり自由ですわ。それと、生卵は浄化してあります。このように肉を浸けて食べても美味しいのですが、生卵に抵抗のある方は平鍋に入れて、少し火を通して食べても良いですよ」
パーシバルとゲイツ様とサリンジャー様と弟達は、私の真似をして生卵で食べる事にした。
父親は、ジョージに平鍋に入れて貰っている。
意外な事に錬金術クラブメンバーは全員が生卵派だった。
「ペイシェンスが勧める方が絶対美味しい!」
ベンジャミンの言葉に、他の3人も頷いている。信頼があると思うと嬉しい気もするけど、餌付けした感じもあるから微妙!
「美味しい! 味の濃い肉を生卵につけることでより美味しくなります!」
ゲイツ様は、あっという間に肉を食べちゃった。ポロネギや焼き豆腐も美味しいんだよ!
「ペイシェンス様、とても美味しいですわ」
騎士コースの女の子達も食べるのが早い。
弟達もね! サリエス卿とサリンジャーさんは、ワインと一緒に楽しんでいるから、少しゆっくりなペースだ。父親もワインを飲んでいる。
「お代わりが欲しいです!」
ゲイツ様は、ネギも豆腐も食べ切っている。
次々とすき焼きのお代わりが出るので、ワイヤットがお代わりをマシューやメアリー達に運ばせる。
「ご飯、前のと違いますね!」
そう、ナシウスはやはりよく気がつくね。
ゲイツ様は、すき焼きに夢中で、ご飯と一緒に食べたら美味しいのに気づいていない。
「ええ、新米ですから、美味しいですわ」
前世の高級コシヒカリと比べたら、少し粘りが少ないのかもしれないけど、異世界に来て、普通のご飯とすき焼き! このマリアージュ、泣きそうだよ。
「ペイシェンス様は、もう良いのですか?」
パーシバルに訊ねられるけど、ご飯を一緒に食べたから、すき焼きはもう良いかな?