魔法的乗馬訓練!
馬の王の運動の為に4時起きの生活だけど、少しずつ慣れてきた。
私じゃなくて、馬の王がね!
サンダーやジニーの世話を受け入れる様になったんだ。これ、大事!
朝の運動はするけど、夜は行かなくて良くなったんだよ。
空き時間に身体をちょこちょこ休めて、なんとか体力の調整をしている。
今日も、昼からは本当はお休みしたいけど、ゲイツ様が馬術訓練にやってくるんだ。
「私も一緒に受けたいぐらいです」
パーシバル、本当に代わって欲しいよ。昼食を終えたら、寮に送って貰う。メアリーが来ている。
ゲイツ様は独身だから、侍女の付き添いが必要みたい。なら、学園は? 少し皮肉な気分になるけど、余計な事は言わないよ。
乗馬服に着替えて、特別馬房に行ったら、もうゲイツ様と何故かサリンジャーさんも来ていた。
「サリンジャー様、何故ここに? 仕事は良いのですか?」
にっこりと笑って「逃げ出されるより、見張っていた方が楽なのです」とサラッと言う。
ああ、中間管理職の悲哀を感じるよ。
ゲイツ様は、サンダーから馬の王の様子を聞いていたみたい。
「かなり、人に慣れた様ですね。これなら、グレンジャー家に連れて帰れそうです」
あっ、まだ馬房は作っていないんだよ。ワイヤットに頼んではいるけどね。
「あれっ? もしかして馬房が狭いのですか? それなら、そうと言って下されば、魔法省に建てさせますのに! この特別馬房も、2日で建てたのですよ」
サリンジャーさんが頭を抱えている。きっと無茶をさせたんだね。
「いえ、冬休みまでには間に合う筈ですわ」
断っておくよ! 魔法使い達の恨みを買いたくないからね。
「それでは、乗馬訓練をしましょう!」
それが目的だからね。
「ここでは狭いので、馬場でしましょう」
簡単に言うけど、乗れないんだよ!
「ペイシェンス様、乗馬台まで引いて行きましょうか?」
ゲイツ様は、クスクス笑う。
「それでは、進歩がありませんね! 乗馬台がなくても乗れる様にならなくては」
うっ、なら跪いて貰うしか無いのかな?
「ペイシェンス様、空気で階段を作るのです。土でも良いですが、壊すのが面倒ですよ」
ゲイツ様が、馬の王の横に空気の階段を作った。
「先ずは、これで乗る練習をしましょう」
薄く見える空気の階段を1段、2段と登ったら、鐙に足が届く。
「ああ、もう1段必要みたいですね」
3段目が現れて、そこに登ったら、鞍に座れた。
「鞍壺に片脚を掛けて、片脚を鐙に置いて下さい」
貴婦人乗りは、家庭教師のカミュ先生に詳しく教えて貰ったからできる。
「ふぅ、乗るのはできましたね。では、馬場まで行きますよ」
えっ、いつの間にかゲイツ様とサリンジャーさんは戦馬に乗っている。
「素早いですね!」
私が褒めたら、サンダーとジニーが深い溜息をついたよ。これが普通みたい。
「馬の王、歩いて!」
「ブヒヒン!」『やっとか!』って言われた。
馬場まで歩くのはできる。馬でも歩かせるのはできていたし、馬の王は賢いからね。
「さて、これからは乗り降りの練習です。降りるのも、乗る時と同じですよ」
えっ、いきなり実践ですか?
「ブヒヒン!」『早くやれ!』
「空気の階段よ、出ろ!」
片脚を鞍壺から外して、鐙に体重を掛けて、外した片脚をエア階段に置く。
そして、鐙から外した脚を1段下へ、あとは降りるだけだ。
「できたわ!」
「ブヒン!」『よし!』と褒めてくれたよ。
「さぁ、何回もして、素早く乗り降りできる様になりましょう!」
うっ、厳しいね。
でも、一度やったら、簡単に乗り降りできる様になった。自分で、自分を褒めたい気分だったのに……。
「では、1人で走らせる練習ですね」
えええ、それは早いと思うよ。
「走るのは、パーシバル様がさせておられるから……」なんて言ったら、全員から睨まれた。
「ほら、乗りなさい」
渋々、乗ったら「ブヒヒン!」『走るぞ!』と馬の王が走り出した。
「身体を真っ直ぐに!」
横を並走しているゲイツ様から指示が飛ぶ。
「もう少し、ゆっくり走って!」
「ブヒヒン!」『十分ゆっくりだ!』
確かにパーシバルと2人で乗っているよりゆっくりな気がする。
30分ぐらい走らせたら、こちらが体力切れになった。
「もう降りるわ」
馬場の柵の横で、階段を出して降りる。
脚がガクガクしているよ。
「まぁ、今日はここまでにしておきましょう」
土曜のすき焼きパーティに呼ぶのやめたくなったよ。
「この調子で練習すれば、馬の王の主人として格好が付きますし、絆も深くなるでしょう」
うっ、それを言われると仕方ないかなって思ってしまう。主人としての方じゃなく、絆の方だよ。
馬房まで歩かせて帰って「綺麗になれ!」と掛けておく。
「ご褒美のニンジンよ!」
嬉しそうにニンジンを食べる。
「ブヒヒヒン?」
『夜は来るのか?』そんな事を言われると弱い。ヘンリーが明るくないと眠れないと言っていたのを思い出しちゃう。
「行くわ!」と答えるしかない。
「ブヒヒン!」『待っている』だってさ。
ゲイツ様は、私と馬の王の会話を聞いていたみたい。
「信頼関係がつくられているようですね。これで、乗馬技術が身につけば、良いのです」
乗り降りはできるようになったけど、他は?
「馬の王はかなり上手い走り方をしているのに、ペイシェンス様は上下に移動が激しいですね。それは、身体の軸が安定していないからです」
そんな事言われても、下手なんだから仕方ないよね?
「馬の王の上にズドンと乗るのではなく、軽く空気の層の上にちょこっと座る感じでやってみてください」
えっ、やっと馬房に帰ったのに?
エア階段を登って鞍に座る。
「ああ、そこですよ! 椅子に座るのとは違います。馬の王は走る動物なのですよ。少し空気の層を感じて、ちょこっとだけお尻が接触している程度の座り方をして下さい」
難しいね。エア椅子じゃなくて、エア鞍だよ。
また馬場まで歩かせるけど、揺れない!
「ブヒヒン!」『その調子だ!』馬の王に励まされたよ。
馬場に入ったら「軽く走らせてみてください」と言われた。
「馬の王、ちょっと走ってみて」
鞍の上の空気の層を意識して、軽く乗っている感じをキープしたら、あまり上下しないし、お尻も打たない。
「ブヒヒン!」『良くなった!』
馬の王に初めて褒めて貰ったよ。
なんて喜んだら、大暴走してくれました。
「馬の王、止まりなさい!」
3周して止まったけど、あれ? お尻は痛くない。浮かせている感じだったからかな?
パチパチとゲイツ様とサリンジャーさんが拍手してくれた。
それにサンダーとジニーも嬉しそうだ。関係ないのに、バレオスまで見学に来て、手を叩いている。
「なかなか様になっていましたよ。この練習を毎日少しでも良いから続けましょう」
「ブヒヒン!」『そうしろ!』と馬の王にも言われたし、今日の1時間で凄く上達した気がする。
もう一度、馬房で「綺麗になれ!」と掛けて、レッスン終了だ。
「ゲイツ様、サリンジャー様、ありがとうございました!」
サロンの喫茶タイムは終わっているし、メアリーに持って来て貰ったチョコをあげて解散だね。と思っていたけど、学園長室にドナドナされた。
えええ、学園長って話が長いから苦手なんだよ。