新しい食品、ゲット!
店を出たら、パーシバルに案内してもらって、路地に入った所の豆腐屋に行った。
前は、メインストリートしか歩いて無かった。あっ、養鶏場の浄化をして回った時は、路地も歩いたけど、それどころじゃなかったからね。
「まぁ、色々な豆腐があるのね!」
テンションMAXだけど、すき焼きに適した焼き豆腐はない。
「固めの豆腐はどれですか?」
エバが横で真剣に聞いている。
店員は、片言のローレンス語しか話せないみたい。
バッグから手帳を出して、筆談だよ。
「ああ、固いの! これ!」
木綿豆腐っぽいのが桶に浮かんでいる。
「これを貰うわ! それとニガリも分けて欲しいのです」
ニガリは、漢字で書けないから、絵で説明する。豆を潰した鍋に、容器から入れる液体の絵を描いて、これが欲しいと伝える。
「ああ、これ?」
変な顔をしたけど、小さな瓶に入れてくれた。やったね! 海水から塩を作る時に、ニガリもできる筈だけど、今は手に入ったのが嬉しい。
「お嬢様? これをどうされるのですか?」
エバが興味津々みたい。
「ふふふ、これを煮て潰した豆の液に入れたら、豆腐ができるのよ。これがあれば、ここまで買いに来なくても新鮮な出来立ての豆腐が食べられるわ」
豆腐料理、色々あるよね! でも、先ずはすき焼きに入れたい。
豆を潰す機械を作らなきゃ!
「ペイシェンス、豆腐はもう良いのなら、果物屋に行きましょう」
またメインストリートに出てから、他の路地に入る。
こちらには、野菜や果物屋が並んでいた。
「あああ、いっぱいの果物!」
目的の店に着くまでに、私は果物屋に釘付けだ。
「ペイシェンス、あちらの店ですよ」
パーシバルは、私の扱いが上手い。あちこちに引っかかっていたら、いつまでも買い物は終わらないのだ。
「ああ、良い香り!」
柚子を一つ手に取って香りを楽しむ。ふふふ……丸ごとの柚子、ゲット! 柚子は種子が多いんだよ。
差枝の方が栽培しやすいけど、私には生活魔法があるからね。
それに、柚子は寒くても大丈夫な気がする。京都の北部で栽培していたテレビを見たもの。柚子に雪が積もっている映像を見たから、寒くても大丈夫じゃないかな?
「柚子をあるだけ頂くわ!」
エバも匂いを嗅いで、私の意図に気付いたみたい。
「さっぱりソースに合いそうですね!」
ポン酢の柚子風味、大好きだったんだ。
「ええ、少し入れるだけで風味が良くなると思うの! それに、この皮の黄色い所は、利用できそうよ!」
柚子の皮のチョコレート掛け、想像しただけで涎が出てくる。
それに柚茶、蜂蜜に皮を入れたのにお湯を注いで飲めば、身体も温まりそう。
メアリーが支払いをしている間に、横の果物屋を見る。
冬なので、ローレンス王国の果物も少なくなっているけど、大きな黄色い文旦ぽいのが気になる。
文旦は、日本でもたまに売っていたけど、割と甘味は少ないから好きじゃなかった。大味な気がしたんだよね。
「わぁ、大きいですね! 私の頭ぐらいあります」
ヘンリーが目をまん丸にしているけど、味はどうなのかな?
ここの店員もローレンス語は片言だ。メインストーリートの店は、割と話せる人が多いけど、路地の店は少ないな。
「美味しい! 人気!」
ううん、悩むなぁ!
買うか悩んでいたら、包丁で切って差し出す。
「食べてから考えましょう」
私が一切れ取って口にすると、全員が手を伸ばす。
「あら、酸っぱいけど、美味しいわ!」
前世で食べたのは、薄甘い味だった。こちらのは酸味が強いけど、甘味も強い。
「これも買いましょう!」
このままでも美味しいけど、コンポートにしたら良さそう。一房が大きいから、剥きやすいのも良いな。
「晩白柚かぁ! 柚の名前がついているけど、味は文旦系ね」
香りは淡白だけど、味は良い。それに、ローレンス王国も冬は果物が少ないから貴重だよ。
「これで食材の買い物は終わりですわ。お付き合いありがとうございました」
パーシバルも柚子の入った大きな紙袋を抱えているし、グレアムも晩白柚の入った木箱を持っている。
ナシウスとヘンリーも柚子の紙袋を持っているし、エバは豆腐の入った小鍋を慎重に持っている。
こちらは、鍋を持って買いに行くみたい。私達は鍋を持っていなかったから、近くの店で小鍋を買ったんだよ。これ、要注意!
ニガリは手に入れたけど、来週の打ち上げパーティーまでに手作り豆腐は無理だからね。
帰ったら、焼き豆腐を作ってみるつもり!
メインストリートには、私を誘惑する生地屋もある。
「ああ、駄目だわ! 少しだけ、寄っても良いかしら?」
メアリーは喜んでいるけど、他の人は両手に荷物を持っているからね。
さささと何色かを大量に買って、今度こそ馬車に戻る。
「2台で来て良かったですね!」
パーシバルに呆れられたかな?
「申し訳ありません、買い物につき合わせてしまって」
でも、パーシバルは笑っている。
「いえ、討伐の時に美味しいソースで助かりましたから。それに来週の打ち上げパーティーが楽しみです」
ふふふ、それは任せておいて! まぁ、エバが作るのだけど。
屋敷に戻って、少し父親に挨拶したら、パーシバルは家に帰る。
「私も早めに寮に行きますから、ペイシェンスも早めに行った方が良いかもしれません」
ああ、馬の王が良い子にしていますように!
「エバにキャロットケーキを焼いて貰ったのです」
パーシバルは、プッと吹き出した。
「馬が甘いものが好きだとは知りませんでした。疾風号にも人参をあげましょう」
疾風号は、馬の王に乗るのを嫉妬しないのかしら?
「疾風号は、機嫌悪くありませんか?」
パーシバルは、考えていなかったみたい。
「騎士コースから転科した時に、疾風号は屋敷に戻しましたからね。そんなことは考えていませんでした。そうか、屋敷に帰ったら少し運動させてやります」
パーシバルを見送って、私は台所に急ぐ。
「エバ、焼き豆腐を作りましょう! 来週のすき焼きには入れたいの。すき焼きの割下も作りましょうね!」
エバに少し豆腐の水切りをして貰っている間に、私はすき焼きの割下の作り方や、すき焼きのレシピを書く。
「甘醤油の味なの。砂糖と醤油とお酒と味醂、あとは少しの水で良いの」
お出汁は必要ない! 入れるのかもしれないけど、私の実家は割下すら作らなかった。関西風というか、砂糖とお醤油と酒と味醂で味付けをしていたからね。
割下を作るのは、実は初めて! では、なぜ割下にしたのか?
それは、他の人はすき焼きを目の前で調味料を入れて作れそうにないから、予め作った鍋を運ぶ予定だからだよ!
と言う事で、前の一人鍋の上の鍋部分を取り替えて平鍋にする部分を作らなきゃ!
工房で、なんとか大きな平鍋にならないか試行錯誤したけど、基礎部分より大きくはできない。
「私はこれでも良いけど、男の人は小さいかも?」
鍋部分は、初めから取り外して洗える様に作ってあるから、それは簡単なんだけど、もう少し大きく作っていたら良かったな。
「平鍋を取り換えたら良いのでは?」
横で見ていたナシウスが図面を見て、提案してくれた!
「そうね! 生の肉を皿に並べて持って来て貰う予定でしたけど、それより、平鍋を交換した方が安心だわ」
女学生もゆで卵を爆発させるほど、料理スキルがない貴族達なのだ。
薄切り肉だけど、サリエス卿とかは、皿からそのままドボンと入れそうだもの。中まで火が通るのが遅くなると、外は火が通り過ぎそう!
なら、平鍋が小さくても大丈夫! ただ、何枚も余分に作らなきゃいけない予感。ルーシーやアイラもよく食べていたからね。
「それと、焼肉のタレの瓶を作らなきゃ!」
タレはエバに任せれば良いけど、瓶は作れない。
これは、ナシウスやヘンリーにも手伝って貰って、錬金釜に珪砂とスライム粉を少し入れて熱して作る。
「エバがソースを作ったら、これに入れて貰いましょう」
50本ほど作ったから、大丈夫だね!
「お姉様、ラベルは?」
ああ、そうだった!
「ふふふ……、今回のさっぱりソースは美味しいわよ! 柚子を入れるのです」
二人とも、柚子の香りを思い出したみたいで笑っている。
「そうだわ! 柚子の種を植えましょう!」
台所で、柚子を半分に切っていたエバに種を貰う。
「まさか、植えるのですか?」
エバは驚いているけど、柚子は実がなるまで何年かかかるかも?
「ええ、でも実がなれば良いけど……やってみるわ」
大きくなったら、外でも大丈夫だと思うけど、最初は温室で育てる。
植木鉢の土に穴を指で開けて、種を1個ずつ植えていく。
ヘンリーは、水をジョウロに入れて持って来てくれた。気が利くね!
「ありがとう!」
私も褒められると嬉しいタイプだから、良い事はじゃんじゃん褒めるよ。
「お姉様、これを育てるのをやってみても良いでしょうか?」
あっ、ナシウスも自分から提案できる様になったね。
「ええ、ナシウス! やってみて!」
ナシウスが、精神を集中して「芽を出せ!」と唱えると、植木鉢から芽が出た。
「素晴らしいわ! ナシウスも生活魔法が上手く使える様になったわね!」
嬉しそうなナシウス。もっと、もっと自信を持った方が良いよ。
「冬の間は、温室で育てましょう。春になったら外に植えて大きく育てたいわ」
柚子は、色々と使えるからね! いっぱい育てたい。
後は、梅! 梅も手に入れたいけど、梅干しや加工した梅の実では、育てられない。