飲茶ランチ!
前に行った高級茶店で、飲茶ランチだ。
今回も、エバとメアリーとグレアムは別の席に座る。一緒でも良いのにと思うけど、そちらの方が気が楽みたい。
「飲茶ランチ! これにしたいわ」
「足りなければ、追加で注文しましょう」
綺麗なドレスを着た店員のお姉さんに、パーシバルが全員分を注文して、お茶を一口。
「ああ、まだまだ買い足りないわ!」
パーシバルとナシウスがお茶を吹き出しそうになった。
「ペイシェンス、あんなに買ったのに……あっ、もしかして注文があったのですか?」
パーシバルは、気がついたみたい。
「ええ、カエサル様から渡された書類の中に、第一騎士団からの注文書が混ざっていましたの。だから、今度の週末の打ち上げパーティ用だけではありません」
業務用なら仕方ないと、パーシバルは肩を竦める。
「それと、エバに売っている店を覚えて欲しいのです。毎回、私が買いには来れませんから」
ただ、季節ごとには来たい! また、新商品があるかもしれないもの。
干貝柱のスープ、小さな焼豚肉まん、肉焼売、乾燥エビの春巻き、青菜炒め、ビッグボアの角煮、そしてシメに麺がでた。
「この麺は、お箸で食べた方が美味しいです」
私は、焼売もお箸で食べていたけど、弟達はフォークだった。
「ペイシェンス、お箸の使い方が上手いですね」
パーシバルもカルディナ帝国風のテーブルマナーを習ったみたいで、お箸は使えるけど、まだぎこちない。
「手先は器用なのです」と誤魔化す。
ナシウスとヘンリーに、お箸の持ち方を教える。
「こうして一本を固定して、後の一本を挟むだけなの。ほら、片方は幾らでも動かせるでしょう?」
ナシウスは、私の手元を見ながら、なんとかクロス箸にならずに、少しずつ麺を掬って食べている。
「お姉様、無理です」
ヘンリーは、焦るから、箸がクロスになって、麺が掴めない。
「今日は、フォークで食べたら良いわ」
いきなり麺は難しい。それも、割り箸とかなら、麺が引っ掛かりやすいけど、ツルツルとした象牙っぽい太い箸なのだ。
「カルディナ帝国では、太い箸が高級みたいだから、難しいわね。今度、家では食べやすい箸を作りましょう」
それと、躾箸も良いかも! 甥や姪達の為に実家にも準備してあったから、よく知っている。あれならヘンリーも使い方をマスターできそう。
私も転生して初の麺を食べる。こちらでは、食事の音はマナー違反だから、啜らないように気をつけなきゃね。
「ああ、美味しい!」
香港の麺みたいな、細い縮れ麺でラーメンとは違うけど、そんなの関係ないよ! 鶏のスープと麺とネギと焼豚! 泣きそう。
「麺は買って帰らなきゃ!」
買い物に疲れているパーシバルも、これには賛成する。
「ええ、是非!」
シンプルなスープも良いけど、味噌味も美味しそう! 雲呑を浮かべても美味しそう。
ビッグバードの骨で良い出汁が取れそうなんだよね! ビッグボアで焼豚作らなきゃ!
私はシメでお腹いっぱいになったけど、パーシバルとナシウスとヘンリーは、肉まんや角煮などを追加注文する。
へへへ、私はスイーツだよ。甘い物は別腹!
「メアリー達のスイーツも追加注文しておくわ」
グレアムの分は、パーシバルが一緒に注文していた。
杏仁豆腐、美味しい!
「もう、良いの?」
いつもは、弟達はもっと食べるのに?
「メニューを読んでも、何か分からないのです」
ナシウスが悲しそうだ。
「そんな時は、聞けば良いのですよ」
パーシバルが店員のお姉さんを呼んで「何かお勧めは?」と訊ねる。
「焼き麺もおいしいですよ!」
それ、食べたい! 顔に出たみたい。
「なら、それを大皿で願いします。取り分けて食べられますよね」
私達は、飲茶ランチだから、一人ずつ出たけど、他のテーブルではアラカルトを頼んで分けて食べていた。
「ええ、カルディナ帝国では、大皿でだして、それを分けて食べる方が多いのです」
今度は、それにしてみよう。
「では、もう一皿お勧めをお願いします。この子達は食べ盛りだから、ガッツリとした肉料理が良いです」
飲茶店なので、ガッツリした肉料理は無いのでは? と心配したけど、大皿に山盛りの唐揚げが出てきた。
そちらは、もう手が伸びないけど、焼き麺は少しだけ、店員さんに給仕してもらう。
餡掛け五目焼きそばっぽい味で、麺は揚げてなくて、表面をカリッと焼いた私好みの焼き麺だった。
「あちらの席にも少し取り分けてね」
この味を覚えてほしいから、食べてもらいたい。
それと、もう一品、デザートを食べたいから、メニューを眺める。
「口をさっぱりさせたいから、梅ゼリーかしら?」
眺めていたら、季節が変わったので新しいデザートが並んでいる。
私達にはローレンス語のメニューだけど、却って何かわからない。これなら漢字の方がまだイメージが掴みやすいかも?
「何かお勧めのデザートは?」
パーシバルの真似をして、店員さんに訊ねる。
「冬のデザートで人気なのは豆花です。温かい豆腐に甘いピーナッツ餡を掛けた物です。それかさっぱりされたいなら、柚子ゼリーがお勧めです」
豆腐! 柚子! あったんだ!
「両方、たのみます! それと、豆腐と柚子は買えますか?」
店員のお姉さんは、私の勢いに少し驚いていたけど、売っている店を教えてくれた。
「パーシー様、覚えて下さった?」
聞いたのは私だけど、方向音痴だから見つける自信がない。
「ええ、両方とも割と近くの店ですよ」
なら、安心してデザートを食べられるよ。
私が頼んだデザートをパーシバルや弟達も食べて、お腹いっぱいになったみたい。
来年は冬の討伐に行かないつもりだったけど、ナシウスとヘンリーの食べっぷりを見たら、少し考えちゃうな。
パーシバルも私よりは食べていたけど、ナシウスとヘンリーは倍以上食べているんだもん。お腹いっぱい食べさせてあげたいからね。
「麺を買うことはできますか?」
ここで買えなかったら、麺を売っている店を教えて貰うつもりだったけど、麺はこの店でも売っているみたい。
「ええ、人気なのです。スープも売っていますよ」
おお、商売熱心だね! でも、スープはいらない。
「5人分、お願いします」
持ってこられたのは、乾麺だった。
「さっき食べたのも乾麺ですか?」
違う気がしたけど?
「いえ、店のは打ち立てです。でも、お持ち帰りは乾麺なのです。茹で方は紙に書いてあります」
ふむ、乾麺の方が日持ちがするから良いかもね!
支払いはパーシバルがしてくれたけど、こちらの方が人数が多いのに良いのかな?
「パーシー様? 良いのかしら?」
パーシバルが驚いている。
「そのくらい支払わせて下さい。買い物代はペイシェンスが払っていたのだから」
えええ、それは当たり前でしょう? それに騎士団からは料金をもらうのだ。
どうやら、こちらでは男性が食事代を払うのが普通みたい。割り勘とか無いのかも?
「パーシー様、ご馳走様でした!」
「パーシバル様、ご馳走様でした」
弟達やメアリー達も口々にお礼を言う。
「いや、ペイシェンスには討伐の時のソースや沸くポット、ティーバッグ、それにチョコレートをいっぱい頂きましたから。とても助かりました。エアマットレスと長靴も! それに守護魔法のマントがあったから木の蛇を討伐できたのです」
長靴は改善してから売り出す。中に毛織物を張ったのと、魔法防衛が高い毛皮を張った物を作るよ。
守護魔法のマントは、遅れた誕生日プレゼントだしね。
さぁ、お腹はいっぱいになったから、お豆腐と柚子を買いに行こう! うん? パーシバルと弟達の目が死んでいる様に見えるけど、錯覚だよね?