カルディナ街デートへ行くよ!
ルシウス様の結婚式から帰って、弟達と久しぶりにゆっくりと過ごす。
ああ、疲れが癒やされるよぉ!
温室のいちごを摘んだり、弟達が弾くハノンを聴いていると討伐の疲れが飛んでいく気がするけど、カエサル部長から預かった書類もいっぱいあるのだ。
朝、ワイヤットに渡しておいたけど、父親が目を通してくれたら良いな。
父親も週末は読書三昧で過ごしたいみたいなので、ルシウス様の結婚式で土曜が潰れて疲れているかもね。
「ペイシェンス、またいっぱい錬金術の書類があるのだな」
夕食の時、少し苦笑して言われた。
「ええ、討伐の時に便利かもと考えた品々が好評だったのです。私達は王都に帰りましたが、まだ討伐は続いているので、早く販売したいそうです」
父親は、頷いて、書類を読んでサインしておくと言った。
ついでだから、明日の許可も取っておく。
「明日は、パーシバル様とカルディナ街に買い物に行こうかと考えているのですが、弟達も連れて行って宜しいでしょうか? お昼も食べて帰るつもりです」
婚約者と弟も一緒なので、父親も許可してくれた。
まぁ、うちの場合は、割と放任主義なんだけどね。
日曜、ぐっすり眠ったので疲れが取れたよ。若いって良いね!
オルゴール体操をして、朝食だ!
「お姉様、本当にカルディナ街に連れて行って下さるのですか?」
ヘンリーは、嬉しそうだけど、何故、疑問形なのかな?
「ええ、勿論! このところ忙しくて一緒に過ごせなかったから」
ヘンリーの顔がパッと顔が輝く。ううん、弟達ともっと一緒に過ごす時間を取らないとね。反省!
外出着に着替えて、パーシバルが迎えに来てくれるのを待つ間に、父親の書斎で書類を読んでサインする。
「おや、これは違う書類だ」
ああ、ソースの注文書も混ざっていたみたい。
「これは、エバと相談しなくてはいけませんの。討伐では塩味の焼いた魔物肉ばかりなので、ソースを作って持って行ったら、とても好評でした。それで、騎士団から追加注文があったのです」
父親も少し食べてみたそう。討伐に行く前の日のポン酢が気に入ったみたいだったからね。
「今日、カルディナ街で調味料を買うので、家でも使って貰いますわ。それと、来週の土曜にお世話になったゲイツ様やサリンジャー様やサリエス卿やユージーヌ卿、それとお友達を招いて、打ち上げ会をしたいのですが、宜しいでしょうか?」
それは、したら良いと簡単に許可が出た。事後承諾だけど、うん、この点は本当に楽なんだよね。
私、パーシバル、ゲイツ様、サリンジャーさん、サリエス卿、ユージーヌ卿は決定だけど、後は誰にしよう? 女子テントの騎士コース4人とルーシーとアイラは呼びたいな。カエサル、アーサー、ベンジャミン、ブライスもね!
やはり、新居に大きな食堂の家を選んで良かったのかもね。人数を絞るのって難しいと実感したよ。
招待客と家族で19人になる。後はすき焼き鍋を個別にするか、大鍋にするか? ローレンス王国では、ひとつの鍋を皆でわいわいつつく文化はないから、個別鍋かな?
前世の深鍋とは違う平鍋にしたい。上を換えれば良いかも? しゃぶしゃぶ、オイルフォンデュ、焼肉もしたいな。
朝食を終えたら、エバと相談だ。
「ソースがとても好評で、第一騎士団から追加注文があったの。エバ、庭に小さな工場を作って販売しない? 利益は分配するわよ」
エバは、驚いている。
「でも、お屋敷の食事もありますし……」
ああ、エバはソース作りを自分でするつもりなのだ。
「エバは、総監督よ。調理助手を交代で監督させて、何人か雇ってソースを作るの」
目をぱちぱちさせている。
「できるでしょうか?」
エバなら大丈夫だと思う。
「初めは、台所で作れば良いわ。注文が多くなってから工場について考えましょう」
それならとエバは頷く。
「今日は、カルディナ街に調味料を買いに行くの。エバも一緒に行きましょう。次からは、買いに行って欲しいから」
今日の昼食は、カルディナ街で食べるつもりだ。父親だけなら、助手でも大丈夫だろう。
エバは、収穫祭の新しい外出着とコートを着て行くチャンスだと喜ぶ。
「私、パーシバル、ナシウス、ヘンリー、メアリー、エバ……1台では狭いかも?」
それに大量の調味料を買うのだ。2台の方が良さそう。ただ、私は欲張りだから、パーシバルとも弟達とも一緒に乗りたい。
メアリーは、側から離れないだろうけど、今回はエバと2台目に乗って欲しいな……駄目かな?
「ええ、カルディナ街までなら良いです。それに同じ馬車にナシウス様やヘンリー様も一緒ですから」
なんと、メアリーがエバと2台目の馬車に乗るのを承知してくれた。弟達が一緒なのと、近いからだ。
パーシバルが迎えに来て、父親に挨拶したら、カルディナ街へと向かう。
「お姉様、前の調味料を買うのですね」
ナシウスは、よく覚えているね。
「ええ、それと新米が届いていたら嬉しいのですが……」
今年は、カルディナ帝国は流行病で大変だったみたいだから、もしかしたら新米どころじゃないかも?
「カルディナ帝国の流行病も収束したそうです。あちらの導師は、治療の技も優れているみたいですね。それと、こちらの上級回復薬とは違う薬がとても効果があったと聞きました。ペイシェンス様、駄目ですよ!」
行ってみたい! と顔に出ていたみたい。
「ふぅ、どのような薬なのかだけでも、情報が手に入れば参考になるのに」
上級回復薬は、流行病の初期に飲めば効くけど、症状が進んでからは効果が少ない。だから、前の流行病の大流行の時は、貴族も大勢犠牲者が出たのだ。
「それは、どの国も情報を得ようとしている筈です。ただ、カルディナ帝国は、こちらとは気候や風土も違いますから、薬草がわかっても栽培できるかどうか」
それは、そうだけどね……気になるな? 漢方薬っぽいのかしら?
なんて事を考えているうちに、カルディナ街に着いた。
「まぁ、相変わらずの賑やかさね!」
カルディナ帝国で流行病が発生した時は、風評被害を恐れて、カルディナ街に自由に行き来できないように兵が配置されていた。
「ええ、賑やかでないとカルディナ街らしくありませんね」
パーシバルにエスコートされて、領事館の前で馬車から降りる。
「あああ、そちらにいらっしゃるのはペイシェンス様ではありませんか?」
パーシバルが一言領事に挨拶すると寄ったら、中でサティスフォードで会った王 芳 に再会した。
「まぁ、王 芳 様はロマノにいらしていたのですね」
私が挨拶していると、パーシバルも挨拶する。
「サティスフォードでお会いしたパーシバル・モランです」
王 芳 さんは、領事館に用事で来ていたようだ。
「モラン様と言えば、外務大臣をされている方のご子息ですか?」
情報通だね! パーシバルが「はい」と答えると、にっこりと笑う。
「ペイシェンス様には、サティスフォードでご親切にしていただきました。屋敷が整ったら、パーシバル様と是非遊びにいらして下さい」
うん? カルディナ街に近い空き屋敷?
「すぐにご招待したいのですが、少し手直しをしないと美麗様のお住まいには相応しくございませんので……引っ越しが済みましたら、お手紙を差し上げても宜しいでしょうか?」
それは、良いけど……やはり、あの成金趣味の屋敷なのかもね!
今日は、買い物だから、私達も領事館に馬車を停めさせて貰うだけだ。王 芳 も忙しそうなので、挨拶だけして別れた。
「では、買い物に行くわよ!」
張り切る私を、パーシバルがエスコートする。
ナシウスとヘンリーは、グレアムが世話をしてくれている。
「あの店に行きましょう!」
新米が届くと教えてくれた店にまず行くよ!
「お姉様、お米を買うのですね!」
ヘンリーはカレーが気に入っているから、嬉しそう。
「ええ、短い米があると良いのだけれど……」
ドキドキしながら店に向かう。
「あああ『新米入荷!』張り紙があるわ!」
パーシバルもカルディナ語を習っているから、単語の意味は分かる。
「ペイシェンス、良かったですね!」
でも、私はまだ緊張している。だって、前世の、特に日本のお米とは違うかもしれないのだ。
「見た目は……短くて、美味しそうに見えるわ」
炊いてみないとわからないけど、長粒種ではない。
「この新米を1包貰うわ!」
買い占めたい欲求を抑えて、1包買う。ほぼ5キロぐらいかな?
「お嬢様、このお米は前のと違いますね」
エバは興味あるみたい。
「ええ、書物には柔らかくて美味しいと書いてあったわ。前のカレーよりも、普段の食事に合うかもしれないわ」
今日は、エバも一緒だから、調味料もいっぱい買うよ! 醤油、味噌、辛味噌、味醂、昆布、鰹節、それとお酒も!
はぁはぁ、パーシバルに呆れられたかな?
「お姉様、もう持てません!」
グレアム、パーシバル、ナシウス、ヘンリー、メアリー、エバ、それに私も両手いっぱいだ。
「そうね、馬車に置いて、食事にしましょう」
アドレナリン全開で、買い物しちゃいました。