金曜日も帰れない!
土曜はルシウス様の結婚式だけど、馬の王の世話があるから、その日の朝の運動を済ませてから家に帰る予定だ。
馬を買ってからは、金曜に帰るのが普通になっていたから、悲しい。
「金曜に弟達と会えないのが辛いです!」
土曜の結婚式は、馬の王の朝運動が終わった後に帰って、お風呂に入っても十分に間に合う。
「ペイシェンスは、弟達が大好きですから」
パーシバルに呆れられたかな?
「馬の王には土曜は朝だけで、日曜の午後には帰ると言い聞かせるつもりだけど……大丈夫かしら?」
できれば、日曜の午前中はカルディナ街デートしたい。調味料が無くなっているんだもん。
「サンダーとジニーにも慣れてきたから、大丈夫でしょう」
そうだよね! 他のスレイプニル達も騎士や馬丁の世話を受け入れている。
金曜の1時間目の錬金術クラブはパスするつもりだったけど、ベンジャミンにホームルームで話しかけられた。
「カエサル様が、来て欲しいと言っていたのだが……」
何だろう?
「午後から行こうと思っていたけど、カエサル部長が呼ばれるのって珍しいですね」
1時間目は、今日こそレポートを纏めるつもりだったけど、それは4時間目にしても良い。
ホームルームまで迎えに来てくれたパーシバルに「錬金術クラブに行くことになったので、ベンジャミン様に送って貰うわ」と断る。
「2時間目の前に錬金術クラブに迎えに行きます」
まだパーシバルは、警戒しているのかな?
私が訝しんでいるのが、ベンジャミンにもわかったみたい。
「婚約者のエスコートは、普通だろう?」
えっ、そうなの?
「忙しいのに、面倒だと思われないかしら?」
ベンジャミンに呆れられた。
「一緒にいたくないのか?」
「それは、一緒にいたいけど……」
どうも、恋愛脳にはなりきれないのかな? かなり、パーシバルに夢中だと思うけど?
なんて話しながら錬金術クラブに向かう。
「おお、ペイシェンス! 女子爵おめでとう!」
カエサルとアーサーに祝福してもらう。そのために呼んだの?
「ペイシェンス、あの沸くポット、ティーバッグ、焼肉のソース、簡易カイロ、長靴、シュラフ、注文が殺到しているのだ! 私達は討伐を終えたけど、まだまだ冬は長いからな」
そうか、騎士団と冒険者はまだ基地キャンプで討伐しているのだ。
長靴は、全員が冬場なら中に暖かい毛皮か布が欲しいと言う。できれば、それも魔法防衛力があればなんて言い出す。
「今年は特に寒いからな! だが、ぬかるんだ土地でも滑りにくくて良かった」
「しかし、冒険者なら、安価な方が買いやすいだろう」
安い長靴と高級な長靴の両方に需要がありそう。ふむ、ふむ、参考にしよう!
「沸くポットとティーバッグは、ここにサインしてくれたら、増産する予定だ。簡易カイロも是非商品化したいとパウエルが言っていた」
あと、第一騎士団からソースの注文も来ている。
何故か、バーンズ商会に書類が回ったみたい。
「これは、エバに作らせますわ」
辛味噌、醤油ベース、ポン酢、甘味噌、胡桃タレ、どれも大量注文だけど、今は助手が大勢いるからね。
カレースパイスは、値段が高くなりそうだから、次回にするみたい。
「カエサル様、このティーバッグは、孤児院の内職にしているのですが……」
それは、そのままで良いと言われた。
「他でも作らせるが、孤児院にもこのまま発注するよ。第一騎士団だけでなく、他の騎士団も欲しがるのは目に見えているからな」
ふぅ、書類が多いよ!
「子爵にサインを貰いたいから、今日、ペイシェンスに書類を渡したかったのだ」
なるほどね! でも、クラブハウスの隅に置いてある樽は?
「ペイシェンスがチョコレートなんか配るから、注文が殺到している! 討伐の間の補給にも手軽で良いからな」
うっ、5樽に増えているんだけど……まぁ、良いけどさ!
「滑らかになれ!」と5回掛けて、内職終了だ。
「ペイシェンス、また魔力が増えているようだな。詠唱を省くのはやめておいた方がいいぞ」
カエサル部長にも注意された。
「ええ、それはゲイツ様にも言われているのです。魔法使いコースに転科した方が良いと昨日もさんざん言われましたわ。当分はお休みしたいと言って許可して下さったのに、今度は乗馬訓練なのです」
3人が勿体無い! と溜息をつく。
「王宮魔法師のゲイツ様に直接ご指導願えるだなんて、とても貴重なのだぞ」
それは、わかっているけど……。
「今は、朝の4時から馬の王の世話ですもの。夜も寝かしつけてやらないといけないし……他の人ならもっと大切にしてあげるのに、何故、私なのかしら」
ああああ……と全員が私の乗馬の下手さを思い浮かべたみたい。
「だから、ゲイツ様が乗馬訓練されるのか? ふうむ、魔法を駆使した乗馬術か、興味があるな」
ベンジャミンも普通に乗馬が上手い。というか、今まで見た貴族で下手な人を見た事が無いのだけど、父親はどうだったのかな?
「ええ、私としては、せめて降りれるようになりたいのです」
アーサーにも呆れられたよ。
「あんなに美しい馬の王の持ち主なのに、それでは情けないだろう。教えてやろうか?」
いや、遠慮しておきます!
「アーサー、ペイシェンスの婚約者はパーシバルだぞ。普通の乗馬術なら、そちらに習ったら良いのだ!」
そうだな! と全員に笑われた。
「そうか、パーシバル様の婚約者なのですから、もっとちゃんと乗れるようにならなくては!」
頑張ろう! と思ったのだけど、なかなかね!
昼からの裁縫の時間では、かなり皆はテンパってきていた。
「裏地は、無しでも良いのでは?」
全員が裏地まで付けるのは無理だと泣きが入っている。
「冬物のドレスで裏地無しなんて考えられません。助手を増やしますから、頑張りましょう!」
私は、キャメロン先生にミシンについて説明する。
「布を縫う機械を作ったのですが、まだ大量生産はできていません。来学期、試してみませんか?」
今は、特許申請用のと、自宅用の2台だけだ。
「まぁ、でも高価になりそうですね」
そうなんだよね! 部品が多いから、生産ラインができあがるまでは、1つずつ錬金術で作るから高価になりそう。
「そのうち、大量生産ができるようになれば安価になります。試作品を授業で使って貰う事は可能ですわ」
マーガレット王女が裁縫の授業ばかりで、大変そうだから、作ったのだからね! まぁ、最初の動機だけどさ。
「是非、試してみたいわ! 縫わない糊も、裾上げは使っても良いけど、やはり縫う方が良い箇所が多いですからね」
裁縫が終わったら、今度こそレポートの纏めだ。
4時間目と放課後にかなり頑張って纏めたよ。金曜は、マーガレット王女とリュミエラ王女は、グリークラブの練習だから、集中して勉強した。
「経営2の学食の改善案は、これで良いと思うわ。上級食堂にも手洗い場を付けるのは、テーマとは少し外れるけど必要だわね」
上級食堂で2時間目の空き時間にパーシバルと話し合ったりして、より喫茶スペースの必要性を感じた。
その分、食堂のおばちゃん達は、余分に働かなくてはいけないけど、有料にした利益分は給料に上乗せする案だ。
今回の流行病は、ロマノに入り込ませなかったけど、食事の前の手洗いは絶対にするべきだ。
トイレとは別に、食堂の近くに手洗い場を増設するのもプランに入れておく。
学食のメニューは、ロマノ大学の学食を真似て、いつものシチュー(煮込み)と軽いサンドイッチとかパイなどから選べるように改善する。
こちらのパイ、料理では使っていたんだよね。この前、討伐の時にエバがアップルパイを焼いて箱に詰めてくれたけど、皆がスイーツのパイに驚いていた。
基本的にミンスパイか鶏肉が入っているパイが多いみたい。
「経済学は……やはり温室栽培を増やすのがメインになりそうね!」
スパイスや南の果物は、やはり輸入に頼っている。出来るだけ、国内で栽培したいけど、無理なスパイスもありそう。
「輸出するのは、基礎的な穀物や豆類になりそうなのよね。南の大陸には、やはりコルドバ王国の方が地理的に有利なのですもの。だから、輸出するなら加工しないと不利だわ」
トマトの水煮とか、トマトソースとか、キャベツの酢漬けとか、加工した食品なら、遠くても売れるかも?
「やはり、瓶詰めだと重いのよね!」
まだ缶詰はできていないから、瓶詰めか樽になる。
ワインとか酒類も輸出商品だけど、それはコルドバ王国やソニア王国も同じだ。
ローレンス王国の強みは、錬金術なのだから、やはり加工技術をなんとかしたい。
レポートの纏めをする筈が、缶詰について考えていた。
「ああ、4時間目が終わったのね」
外交学のディベートの資料は、後日にしよう。少し、休もうと思ったけど、爆睡しちゃった。
「しまった! 暗記術の宿題もあったのに……もう、クラブは終わっているわね! 1人だと寝てしまうから、マーガレット王女の部屋で外交学の資料を纏めましょう!」
やはり、1時間半早く起きているのが、身体にこたえている。お昼寝は必要なのかも?
なら、それに合わせた生活を考えなくてはいけないのかな?
「キース王子とオーディン王子は、お昼寝は必要無いのかしら? 考えたら、罰掃除の方が体力が要るかも?」
私なら「綺麗になれ!」で罰掃除は終わるから、出来たら代わって欲しいよ。でも、馬の王の主人は、私なのだから代わりようも無いのだ。
「ゲイツ様に風の魔法で騎乗できるように習うしか無いのかも……」
トホホな気分で、女子勉強会に向かう。