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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第四章 中等科一年の秋学期
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討伐は続く!

 朝食の後は、討伐に皆は出かける。

「ペイシェンス様、馬の王(メアラス)が呼んでいます」

 デーン王国の騎士に馬房にドナドナされた私以外はね!

「ブヒヒン!」『遅かったな!』と嘶く。

「朝食ぐらいゆっくりと食べさせて!」

 ここまでは良かったのだ。

「ブヒヒン! ブヒヒン!」

 馬の王(メアラス)が無茶を言う。それは無理だから、無視するよ!

「ブヒヒン! ブヒヒン!」

 でも、諦めない。


 バレオスが心配そうな目で訊ねる。

馬の王(メアラス)は、何が不満なのでしょう」

 不満は……ああ、言いたくない。

「お願いです!」

 私は年寄りに頼まれても、心は動かさないよ! って、無理じゃん!

「走りたいそうですわ!」

 バレオスは「なら、鞍と手綱を!」と張り切るけど、私は乗れないよ。

「あのう、私は乗馬が苦手だし、こんな大きな馬に乗るのは無理です!」

 ゲッと言う顔をバレオスがする。

「乗馬が苦手なのに馬の王(メアラス)に選ばれたのですか? 普通はスレイプニルは、技量の劣った人を選んだりしませんよ」

 そんな事を言われても……困るよ。

馬の王(メアラス)は、パーシバル様が乗っても良いと言っていましたわ。でも、討伐に出かけられたかも?」

 バレオスは、部下の騎士に「パーシバル様をお連れしろ!」と命じ、騎士達が走り去った。


「あのう、今は冬の魔物討伐の最中なのです。だから、元々、戦力外扱いの私は兎も角、パーシバル様は迷惑だと思いますわ」

 バレオスが首を傾げる。

「私は、ペイシェンス様が学生なのに討伐数は3位だと聞いていますし、雪狼(ニックスルプス)を多く討伐し、フェンリルも追い返したのでしょう。パーシバル様よりも活躍されているのでは?」

 げー! それは言わないで!

「それは、王宮魔法師のゲイツ様が良い狩場に連れて行って下さったのと、私が外しても討伐するから大丈夫だと言って下さったから、安心して魔法を放った結果ですわ。私なんかより、パーシバル様の方が凄いのです!」

 年寄りのバレオスは「おお、青春ですなぁ」と笑う。


「二人乗り用の鞍を用意しましょう!」

 いや、パーシバルだけで良いよ!

「私は、乗れません!」

 断っても、耳が遠いのか、知らない顔をして、二人乗り用の鞍を持ってくる。

「さて、これを馬の王(メアラス)に付けなくてはな。ペイシェンス様が付けられますか?」

 このお爺さん、何を言い出すの? 無理に決まっているじゃん!

「私は、家政コースと文官コースなのですよ。それに乗馬は苦手だし、まして鞍など自分で付けた事などありません!」

 ふーとバレオスが溜息をつく。

馬の王(メアラス)は、何故、そんな令嬢を選んだのでしょう。騎士なら誰でも、もっとマシな相棒になるのに……」

 酷い言い方だけど、事実だからね。


「ペイシェンス様? 何事でしょう?」

 パーシバルがやってきたので、甘えてしまう。

「バレオス卿が無茶を言われるのです。私に馬の王(メアラス)に鞍を付けろだなんて、やった事も無いのに……」

 えっ、パーシバルも呆れている気がする。

「ええっと、良い機会だからバレオス卿に教えて貰っては如何ですか? バレオス卿といえば、ローレンス王国にも知られているスレイプニルの大家です。私も習いたいぐらいです」

 うっ、騎士志望だったパーシバルなら、そうだろうね。


「ペイシェンス様、さっさと馬の王(メアラス)に鞍を付けて、討伐に行きますよ。のんびり、馬房で休んでいる場合ではないのです。あの銀ちゃんが走り去ったから、魔物が少なくなると期待したのですが、デーン王国の冬も厳しいみたいで、続々とビッグバードが飛来しています。騎士達は苦手ですからね!」

 ええええ……この恐ろしげな馬の王(メアラス)に鞍をつけるの?

 全員が私に注目している。渋々、バレオスから鞍を受け取る。


「ブヒヒヒヒヒン!」

 馬の王(メアラス)は、『鞍なんかつけなくても落とさない』と言っているけど、やはり乗りにくいよ。

「私は、本当に乗馬が下手なの。パーシバル様に乗せてもらうけど、鞍と手綱が無いと怖いわ」

 馬の王(メアラス)は、ふぅと溜息をつく。

「ブヒ、ブヒヒン!」

 なら、『早く付けろ』と言っているよ。


「バレオス卿、どうやって付けるのですか?」

 こちらも溜息をつきながら、手取り足取り教えてくれる。と言うか、ほとんどバレオスが付けた。

「さぁ、乗って下さい。討伐に行きますよ。ぐずぐずしていたら、ビッグバードが巣から飛び立ちます」

 ああ、この馬の王(メアラス)に朝早く起こされたのだ。まだ巣にいると良いな。

「ペイシェンス様、乗せますよ!」

 パーシバルは、生き生きと私を抱き上げて、馬よりもずっと背の高い馬の王(メアラス)の上に私を乗せる。

 素早く後ろに乗ると「良いスレイプニルですね!」と絶賛しているけど、普通の馬でもまだ少し怖いのに、高いよ!

「ブヒン!」

 『落としたりしない!』って言っているけどさ。

「ペイシェンス、馬の王(メアラス)を信じるのです」

 パーシバル、それができたらね!


 ゲイツ様も今日は馬に乗っている。まだらの戦馬だ。サリンジャーさんは栗毛の戦馬に乗っている。

「魔法使いなのに、戦馬を持っているのですね?」

 ゲイツ様には馬車のイメージしか無いよ。

「緊急事態もありますからね」

 ふうん、そうなんだね。

「ペイシェンスも馬の王(メアラス)に乗れる様にならないとね!」

 えええ、パーシバル、それは無理じゃない?


 岩場に着いたら、ビッグバードの討伐だ。今日もルーシーとアイラはいないけど、パーシバルが生徒だ。

「ちょっと待っていてね!」

 良い子にしている様に馬の王(メアラス)に言い聞かせる。

「ブヒヒン!」わかったみたい。


「パーシバルは、風の魔法か……ビッグバードとは相性が悪いが、より強く速く攻撃したら良いだけだ」

 私が馬の王(メアラス)を大人しく待っているようにと言い聞かせている間に、ゲイツ様が魔法指導を始めていた。

「さて、攻撃開始だ! ファイヤーボール!」

 ここは、毎朝来ている岩場だけど、昨日、討伐しなかった間に三倍のビッグバードが巣を作っていた。

 空が暗くなるほどのビッグバードが飛び立つ。


「ペイシェンス様、今日は素材より、討伐数を稼ぎましょう!」

 つまり機関銃攻撃だ。

 剣の先から、土の塊を連続発射していく。

 ダダダダダダダ……!

 横で、パーシバルが剣を振り抜いて、ウィンドカッターを飛ばす。

「もっと速く飛ばさないと避けられます!」

 ゲイツ様の厳しい指導のお陰か、最後の方では、避けられずにビッグバードを討伐できる様になっていた。


「さぁ、次の岩場に急ぎますよ!」

 サリンジャーさんが名札を書いて置くとすぐに出発だ。

 馬の方が森を抜けるから、早く次の岩場に着いた。

 あああ、すごい数の巣ができている。

「さぁ、パーシバルもコツを掴んだ様だから、バンバン攻撃しなさい!」

 全員で攻撃したけど、数が多過ぎる!

「ふぅ、キリがありませんね。一度、一斉攻撃をします」

 ゲイツ様の長い詠唱が始まる。

「空を揺るがす稲光の神よ! 我が祖国の空を汚す、ビッグバードに怒りの鉄槌を与えたまえ! サンダーバースト!」

 空気がバリバリする。稲妻が、ビッグバードに襲い掛かる。

「相変わらず派手な魔法ですね! ペイシェンス様、パーシバル様、撃ち残しを討伐しますよ」

 サリンジャーさんは、そう言うけど数羽しか残っていないよ。


「この魔法は、疲れるからあまり使いたくないのです。ペイシェンス様、チョコレートを下さい」

 討伐を終えて、もう1箇所に向かう途中で、ゲイツ様にチョコレートを強請られる。

「仕方ないですね。もう、残り少ないのですよ」

 割って手渡すと「来年は、シュトーレンもチョコレートも倍持って来て下さい!」なんて事を言う。

「えええ、来年はもう良いのでは? だって実地訓練して、攻撃魔法を使える様にするのが目的だったでしょう?」

 えっ、全員が驚いているけど、そう言う話だったよね。

「魔物の肉が食べられるのですよ!」

 まぁ、今は魔物の肉より野菜が食べたい。でも、一年後には考えが変わっているかもね? ナシウスもヘンリーも食べ盛りだから。


 3箇所目の岩場でも、いっぱいビッグバードを討伐して、パーシバルもウィンドカッターの腕がすごく上がった。

「パーシー様、凄いわ!」

 パーシバルは、苦笑したよ。

「いえ、ペイシェンス様には負けます。でも、いつか追いついてみせます」

 ふう、それより、馬の王(メアラス)が運動が足りないと不満そうなのが困る。


「ペイシェンス様?」

 パーシバルが訊ねるから、仕方ないから答える。

「運動不足? 他のスレイプニル達は、今日は疲れているみたいですが、馬の王(メアラス)は違うのですね!」

 頼もしいと笑うけど、笑い事ではなかった。ビッグバードの討伐が終わって、基地キャンプに帰る筈が、大疾走してくれたのだ。


「ペイシェンスがスレイプニルの群れを確保したので、ローレンス王国は、かなりデーン王国に外交問題で強く出られますね」

 2人っきりなので、私の知らない情報を教えて貰う。

「それは、スレイプニルの半分をデーン王国に譲るからなの?」

「ええ、本来なら最初にデーン王国の騎士が捕まえた数頭だけでも良いのです。でも、半分を譲ったのは、岩塩や鉱山についての所有権を有利にしたいからでしょう」

 そう言えば、リチャード王子が海水から塩を作るのに積極的だったのは、岩塩が取れる場所が国境近くだからだった。

「でも、オーディン王子には気をつけて下さい」

 あれは決着が付いたのでは?

「オーディン王子は、ジェーン王女との縁談があるから留学されているのでしょう?」

 パーシバルは苦笑する。

「ええ、だから私もデーン王国までお出迎えに行ったのですが、あれほどスレイプニル愛が強いとは考えていませんでした。だから、気をつけて下さい」

「私は、パーシー様としか結婚しませんわ!」

 外交問題より、私はパーシバルと2人っきりなのが嬉しい。

 

 遠乗りは疲れたけど、途中で雪が降ってきた時、一つ気づいた。

馬の王(メアラス)? 雪を退けてくれているの?」

 前にオーディン王子の勇者(アンドレイオス)に乗った時は、顔にばんばん風が当たって痛かった。

 でも、雪すらも当たらない。

「ブヒヒヒヒヒン!」

 『当たり前だ!』と自慢しているけど、そろそろ帰って欲しい。

「ブヒン!」

 トイレに行きたいと言ったら、やっと基地キャンプに帰ってくれた。

 パーシバルは、何とはなく察しているみたいだけど、紳士だから口にはしないよ。

「綺麗になれ!」とパーシバルに降ろして貰ってから馬の王(メアラス)に掛けて、トイレに走る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 時計うさぎ氏のコメント >ここまでくると、スレイプニルをペイシェンスに >総取りされてガチ凹みするデーン王国の人達が >早く見たいですね♡ のような状況は私も見てみたい。 とても胸熱であ…
[良い点] 馬の王は、風系の魔法で周囲の風をコントロールしてるのでしょうか?乗り手を選ぶけど、慮ってくれる優しさがありますね♪偉そうだけど、ツンデレさん?なところが可愛いくもあります^_^ [気になる…
[良い点] このお話は、どんどん登場人物が増え、面白さも、マシマシです。毎日12時が待ち遠しいです。 [一言] 討伐を通して、どんどんゲイツ様の株があがっています。流石宮廷魔法師様。陛下が、夏休みの…
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