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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第四章 中等科一年の秋学期
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何をやっているのだ!

 ゼイゼイ、今日は全員が疲労困憊だよ。それに、夜も警戒しなくてはいけないから、順に休憩する事になっている。

「ペイシェンス様は、夜は寝てください。明日は本隊がやってきますから」

 寝れるのは良いけど、本隊は……ああ、もう考えるのは止めよう。


 今夜は煮込み料理だった。寒い上に魔物討伐も凄い数だったからね。

「ああ、やはり野菜が必要なのよ」

 ニンジン、じゃがいも、玉ねぎが美味しい。まぁ、ビッグエルクも良い味だけど、肉はもう十分な気分だから、野菜を先ず食べちゃった。

 全員、喋る元気も無いから、黙々と食べてテントに帰る。


「明日も頑張りましょう!」

 パーシバルと一緒に居たいけど、もう瞼が重い。

「お休みなさい」と言って別れて、女子テントに行こうとしたけど……誰かがゲイツ様に何か言っている?


「あれは、キース王子とオーディン王子に見えますけど……」

 幻で無ければ、本人だよね? 横のパーシバルは頭を抱え込んでいる。

「初等科は魔物討伐に参加してはいけないと言ったのに……」

 私も、ゲイツ様に何を言っているのか興味があるから、パーシバルと一緒に側に行く。

「だから、スレイプニルがやってくるのだ! 私の勇者(アンドレイオス)が騒いで、どうしても宥められず、逃げ出そうと馬房を壊してしまった。これは、絶対にスレイプニルの群れが来るのを察知したからだ」

 そう言うオーディン王子は、嘶くスレイプニルの手綱を持って宥めようと必死で、息もあがっている。


「何をやっているのだ!」

 ああ、騒ぎを聞きつけたリチャード王子がキース王子を叱りつける。

 今日は、全員が疲れているし、気が立っている。

「リチャード王子、ここでは話せないから、彼方のテントで話しましょう」

 パーシバルは学生会長として、2人の責任者の立場でもある。

「キース様、私の代わりに、説明して下さい。私は、勇者(アンドレイオス)を宥めなくてはいけないから」

 キース王子は、兄のリチャード王子に睨みつけられて困惑している。オーディン王子に巻き込まれたみたい。

「いや、私にはスレイプニルの習性など説明できない。手綱を持っておくから、オーディン様が説明してくれ」

 手綱をオーディン王子から受け取ろうとしたけど、元々気が立っている勇者(アンドレイオス)は、嫌がって後脚で立ち上がる。


「スレイプニルって、後脚が4本あるのですね」

 6本脚があると聞いていたけど、私は腹に付いていると勘違いしていた。

 魔物辞典には、スレイプニルが載っていなかったのだ。もう、飼い慣らされているからかな? それかデーン王国にしかいないからかしら?

「何を呑気な……ペイシェンス! お前なら、大人しくできるのではないか?」

 叱ろうと振り向いて私を見たキース王子は、青葉祭で馬を大人しくさせたのを覚えていた。

「えええ、これは馬ではないでしょう?」

 私にはスレイプニルが魔物に見えるよ。

「いや、スレイプニルは馬だ! ペイシェンス、大人しくさせてくれ!」

 無理じゃない? 

「ペイシェンス様、スレイプニルは馬です。戦馬は、スレイプニルと掛け合わせて作るのですから、馬の一種であるのは確かです」

 ゲイツ様がいつの間にか、私の横に来て、説得する。

 そうか、馬なのだ! 馬なら生活に必要だから「大人しくしなさい!」とビシッと言い聞かせなくてはね!


「おお、ペイシェンス! 凄いな!」

 リチャード王子が褒めてくれたよ。

 大人しくなった勇者(アンドレイオス)をリチャード王子の従者が素早く手綱を持って馬房に連れて行く。

 こんな寒い中で汗だくだったから、拭いてやらないと駄目みたい。


「ご機嫌よう」これで、私はテントで休めるね。

 後は、リチャード王子とパーシバルが何とかするでしょう。

「ちょっと、何処へ行くのです? ペイシェンス様も一緒に話を聞いて下さい」

 えええ、眠いよ。

 ゲイツ様に、お偉い様が会議するテントにドナドナされてしまった。


 話は、オーディン王子がしたけど、要約すると、大使館から勇者(アンドレイオス)が暴れていると連絡があり、キース王子と行ったら、馬房を壊して走り出そうとしていた。

 それに飛び乗ったオーディン王子を心配して、キース王子は馬に乗って追いかけ、王都の外に出た。

 夜になって危険だから、キース王子に基地キャンプに案内してもらったって感じだよ。

 オーディン王子は、かなり疲労していて、時々デーン語が混じっているけど、経過はわかった。


「基地キャンプが何処にあるかは、調べていたのだ。来年は、冬の魔物討伐に参加するからな」

 少し得意そうなキース王子の発言に、パーシバルは難しい顔をしている。

 リチャード王子が、キース王子に雷を落とす。

「先ず、お前がオーディン王子を止めなかったのが間違いだ」

 それに、オーディン王子が抗議する。

「私は叱られても仕方ないが、キース様は巻き込まれただけです。それに、ここに来れなかったら、危なかったかも! 何匹かは討伐したが、日が落ちてからは逃げるだけで精一杯だったから」

 自分のミスを認められるのは良いね!


「来てしまったのは仕方ないが、明日には王都に帰りなさい」

 夜にデーン王国の王太子を追い出すわけにはいかない。

勇者(アンドレイオス)は、北からスレイプニルの群れが来るのに気づいているから、それと合流するまでは王都には帰らないだろう」

 あああ、それは困るよ! オーディン王子も帰らないって意味だよね?

「もしかして、この暴走を引き起こしているのは、スレイプニルの群れですか?」

 ゲイツ様の質問に、オーディン王子は口籠ったが、決心したみたいに話し出す。

「魔物の群れは、スレイプニルの暴走に驚いて、ローレンス王国に雪崩れ込んでいるのだろう。だが、普段はスレイプニルの群れが暴走することは無いのだ。何かに追われているのかも?」


 全員が緊張する。それってスタンピードだよ!

「そんなに凶暴なオーラは感じないのですが?」

 ゲイツ様の一言で、少しだけ緊張が解けた。

「スレイプニルの天敵は、雪狼ニックスルプスでしたね?」

 リチャード王子が眉を顰める。

「それはスレイプニルの群れを襲うのか?」

 オーディン王子が、説明する。

「普段は、雪狼(ニックスルプス)はスレイプニルの群れを襲ったりしません。もっと弱い魔物を襲う方が簡単ですから。群れから逸れたスレイプニルを襲うから、天敵と言われているだけです」


 ゲイツ様が、ふっと息を吐いた。

「多分、雪狼(ニックスルプス)をフェンリルが率いて、スレイプニルを追い回して遊んでいるのでしょう」

 フェンリルって、災害級の魔物じゃなかったっけ? 全員が強張った顔だけど、ゲイツ様とサリンジャーさんは、リラックスした雰囲気だ。

「ゲイツ様、フェンリルがスタンピードを引き起こしているのですか?」

 リチャード王子が質問する。

「いや、これはスタンピードではありませんよ。そんな凶悪な感じはしません。多分、幼いフェンリルが遊んでいるだけです。少しお仕置きすれば、フェンリルは尾っぽを巻いてデーン王国に逃げて帰りますよ」

 その後は知らない! とゲイツ様は肩を竦める。


「フェンリルを討伐できないのですか?」

 リチャード王子は、ゲイツ様が逃したフェンリルがローレンス王国の他の地方を荒らすのを心配している。

「討伐はできますが、この凶悪さを感じない雰囲気は子フェンリルだと感じます。下手に殺すと、親が復讐しにやって来ますよ」

 傍迷惑な子フェンリルだよ! 

「ペイシェンス様、雪狼(ニックスルプス)の毛皮は、魔法防衛が高いですから、弟君達の鎧の材料に良いです。討伐して手に入れましょう」

 ええええ、魔法が通じない魔物なんて、無理だよ。私は首を横に振る。

「大丈夫ですよ。首を落とせば、大概の魔物は討伐できますから」

「遠慮しておきますわ!」

「そんな遠慮は無用です。それにフェンリルを追い払ったと評判になれば、誘拐しようなんて誰も考えません。一回、魔法を当てれば、追い払うのは私がやります。それでも、フェンリルを追い払う一撃を与えたのは事実ですからね」

 遠慮ではなく、私は断っているのだ。良いアイデアだと満足そうなゲイツ様だけど、嫌だよ。

「そんな噂が立ったら、パーシバル様に婚約破棄されてしまうわ!」

 災害級の魔物を追い払う婚約者なんて噂がたつの嫌だよね?


「私は、そんなことで婚約破棄などしませんよ。ペイシェンス様はもっと私を信じて下さい。それに誘拐の危険が遠ざかるのは良いと思います」

 パーシバルに抱き寄せられて、説得されるけど、雪狼(ニックスルプス)やフェンリルなんか討伐したくない。

「魔法攻撃が効かない雪狼(ニックスルプス)なんか討伐できませんし、フェンリルなんて怖いですわ」

「良い案だと思ったのですが、怖いなら仕方ありませんね」

 ゲイツ様は惜しそうな顔をしていたが、諦めてくれた。他の人も、それなら仕方ないと認めてくれたのに、オーディン王子が私の前に跪いた。

 嫌な予感! オーディン王子は、スレイプニル愛が強いのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] チョコレートを食べさせれば雪狼もフェンリルも討伐できそう チョコレートは全力でゲイツ様が阻止するだろうけど
[良い点] 騒ぐ、アンドレイオスをペイシェンス嬢がビシッと言って聞かせた。 スレイプニルは何度か話題になっていましたが、彼女が目の前で見るのは初めてですね。 [気になる点] 子フェンリルが小型クルー…
[一言] スレイプニルを確保して弟達にプレゼントするとか? 子フェンリルは新居の番犬にする為に「従いなさい」で従魔にしてしまうとか? 雪狼の素材は沢山討伐して入手しましょう(決定事項です)
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