少し休憩!
集団討伐で500頭以上の魔物を討伐した。解体部隊だけでは、運べないから、冒険者チーム、騎士チーム総出でお片付けだ。
「ゲイツ様は良いのですか?」
ゲイツ様とサリンジャーさんは、女子テントには入れないから、食事場のテントでメアリーが、私達に温かい紅茶とシュトーレンとチョコレートを出してくれている。
「もう、ヘトヘトですから、体力の残っている人達に任せますよ。それも含めて集団討伐なのですから」
確かに魔法使いチームが一番疲れているかも?
「美味しいですね! 来年からは、シュトーレンをいっぱい持ってきます」
あっ、それも良いけど、ブランデーケーキも日持ちするよね!
「あっ、またペイシェンス様は美味しい物を考えていますね? 私を苦しめて楽しいのですか?」
ふふふ……、他にも美味しい物がいっぱいあるよ。
「魔物の肉でカレーを作ったら美味しそうですよね。贅沢だけど、こんなにあるなら、良いと思うわ」
ダン! とゲイツ様が机を叩いた。
「美味しいに決まっています。ペイシェンス様、それも作ってください」
じゃがいも、ごろごろ入ったビッグボアカレー、絶対に美味しいよね!
「ああ、こう言う人でないとゲイツ様の弟子にはなれないのですね」
アイラがポソッと呟く。
「えっ、私が変わっているように聞こえたのだけど?」
横で、ルーシーが頷いている。
「まぁ、ゲイツ様に言う事を聞かせられるのは、陛下とペイシェンス様だけですよ」
サリンジャーさん、それって違う気がするよ。
「私は、ゲイツ様に振り回されているだけですわ」
全員が「違う!」と首を横に振る。
「ペイシェンス様は、私の友達だから、いくらでも私を振り回しても良いのです。一生の付き合いですから」
えええ、それは困るよぉ! サリンジャーさんが「お願いしておきます」と言っている。
「いえ、お世話係はサリンジャー様でしょう!」
丁重にお返しするよ!
「サリンジャーは、私とペイシェンス様の世話係だな」
サリンジャーさんが凄く落ち込んでいるよ。
「これ? お飲みになりますか?」
ポシェットから上級回復薬を取り出して、サリンジャーさんに渡す。
「これは、金曜に取っておきます。ペイシェンス様も取っておいた方が良いですよ」
ふう、大変そうな予感!
「あっ、パーシバル様だわ!」
恋する乙女の目は、どんな集団の中にいても愛しい人を見つけられる。
「私は、少し手伝ってきます」
私が席を立つと、ルーシーもアイラも解体部隊の手伝いを始めた。
「ペイシェンス、大活躍だったみたいですね!」
パーシバルも怪我をしていないみたい。良かった。
「パーシー様、いっぱいの魔物でしたね」
ああ、こんな討伐の会話でも楽しい! 恋愛脳だよ。
「ペイシェンス、ゲイツ様は何か言われていませんでしたか? 去年とは全く違うのです。寒さが厳しいせいだと言う人もいますが……」
ああ、パーシバルも何か変だと感じているのだ。
「木曜辺りに先陣が着くそうですわ。本隊は金曜から土曜に着きそうだと、ゲイツ様は言っておられました」
パーシバルの顔が少し厳しくなった。ソッと耳元で「スタンピードなのですか?」と囁く。
「さぁ? 爆走していると言われたのです。凶悪な魔物から逃れるのではなく、魔物が暴走していて、それに驚いた魔物も暴走していると……」
少しだけホッとしたみたい。
「ペイシェンスは、お疲れでしょうから、テントで休まれても良いのですよ。血は苦手だと言われていたし」
「パーシー様のお手伝いをしたいのです!」
疲れていたけど、パーシバルの顔を見たら元気になったからね。
一緒に解体所に行ったけど、これは無理かも?
「運ぶ方を手伝いましょう」
そうだね! グロ耐性は、ペイシェンスにはないみたいだから。
ルーシーとアイラは、笑いながら解体を手伝っている。逞しいね!
私は、あの大きな魔物を荷台から下ろす手伝いをした。
風の魔法で浮かせて、運ぶのだ!
「ああ、重い衣装櫃、こうやって運べば良かったのよ!」
メアリーと一緒にヨチヨチと運んだのだ。
「解体所の手伝いは、もう良いでしょう!」
ほぼ運び込まれたみたいだからね!
掲示板には、参加した人数割りした魔物の討伐数が加算されていた。
「ふう、やっと冒険者チームを抜きましたよ」
やはり、魔法使いチームがトップで、その下が騎士団チーム、そして学生チーム。冒険者チームは、こんな順番なんか気にしていないみたい。
「あら、私の討伐数がとても増えていますわ」
集団討伐なのに変だね?
「ああ、集団討伐でも活躍度合いを考えられますからね。一気に3位になりましたね」
それは、騎士チームがいっぱいの魔物を追い込んでくれたからだよ。
2人で、こんな話をするだけでも楽しい!
うん、でもパーシバルも少し汚れてきているよ。そっと、生活魔法で綺麗にしておこう。
「ペイシェンス、臭かったですか?」
パーシバルが少し距離を置こうとする。
「いえ、大丈夫ですが、スッキリした方が良いかと思って……余計な事だったでしょうか?」
ぎゅっと抱きしめてくれた。
「いえ、とてもありがたいです。討伐が長引きそうで、困っていたのです」
良い感じだけど、メアリーが「コホン!」と大きな咳払いをするし「見せつけるなよ!」とベンジャミン達もやってきた。
この掲示板の前でいちゃついたのは、場所が悪かったね。
「えっ、皆様、とても汚れているわ! 綺麗になれ!」
冒険者チームは、かなり横に逸れる魔物を討伐したみたい。
「雪が降り止んだのは良いが、ぬかるんでいたからな!」
全員が綺麗になって良かったよ。近づきたくない感じだったからね。
パリス王子やアルーシュ王子、そしてザッシュも綺麗にしておくよ。
「ほう、生活魔法は便利だな。なんとかして身につけたい」
アルーシュ王子、頑張ってね! えっ、私を見ないでよ!
「生活魔法は、ジェファーソン先生ですわ」
えっ、全員が受けるつもりみたい。まぁ、何とはなく下に見られている生活魔法の地位向上には役立つかもね?
「そういえば、ペイシェンスの弟達は生活魔法が使えるようになったのか?」
カエサル、よく覚えているね!
「ええ、ナシウスは浄水を作るのも上手いですし、騎士になるヘンリーには清潔を心がけて欲しいですもの!」
大きな溜息が漏れた。
「ペイシェンスの弟に産まれたら、凄くお得な感じがする」
えっ、ベンジャミンは裕福なプリースト侯爵家の跡取りじゃん! 貧乏なグレンジャー家に産まれたら大変だよ!
「美味しい物も食べ放題だしな!」
アルーシュ王子もあの貧乏生活には耐えられないと思う。
カエサル部長とパーシバルは、グレンジャー家の窮乏生活を知っているから無言だよ。
「やはり、ベンジャミン様は文官コースでもっと学んだ方が宜しいですわ」
私の言葉にベンジャミンは抗議しているけど、他のメンバーは頷いている。
その夜は、カレー風味のスパイスを掛けて食べた。
「ペイシェンス様の料理はいつも美味しいな! サリエス卿と近くの家に住もうと言っているのだ」
ユージーヌ卿は、本当に漢気があるよ。
「もう新居を探されているのですね?」
ああ、そうか! 私の年齢が幼いのと、パーシバルが大学を卒業するのを待つ私達と違って、すぐにでも結婚できるのだ。
「ああ、うちの母が凄く積極的だ。私は、馬がちゃんと休める馬房があれば十分なのだが」
あっ、パーシバルが手狭だと言った一軒目の家は?
「グレンジャー家の近くに空き屋敷がありましたわ。そこは食堂が少し狭いから、他の屋敷に決めましたが、庭は広かったです」
新居とも近いよ!
「それは良いな! 討伐が終わったら、サリエス卿と見に行こう! あああ、しまった次の週末は義兄上の結婚式だった」
テンションだだ下がりのユージーヌ卿なんて珍しいね。
「私は、新婦のサマンサ様のブライズメイドをする予定なのですよ」
ハハハ……と真から嫌そうな笑いだよ。
「私は、サリエス卿に泣きついて、それだけは許して貰ったのだ。だが、母にドレスを着ろと命じられている。義兄上は好きだし、領地の立て直しを待ったサマンサ様も尊敬している。結婚を祝したい気持ちはあるが、ドレスはなぁ……」
ああ、その気持ちは少し理解できるよ。ユージーヌ卿に似合うドレスもあると思う。でも、今の流行は昔と違ってスッキリしてきているけど、レースが多めだからね。
「今回の結婚式には間に合わないですが、腕の良いお針子を2人雇ったのです。私も、今のお嬢様ルックは嫌なので、自分の好きなドレスを縫って貰うつもりです。ユージーヌ卿のドレスも作れるように頑張ります」
凄く期待されたよ!
「それは嬉しい! どうしてもドレスを着なくてはいけない場面もあるのだが、砂糖菓子のようなレースが付いているのは蕁麻疹が出そうになるのだ!」
これは、重症だね! エリザベスと相談して、前世の格好良いドレスの許容範囲を調べなきゃ!
色々なデザインは覚えているけど、こちらの美意識やマナーもあるから、その擦り合わせをしないと恥をかいちゃう。
まだまだ討伐は続くけど、終わったら、カルディナ街に新米と調味料を買いに行き、ビッグボアのすき焼きパーティを開くぞ!
そして、エリザベスと相談して、可愛いけど、お嬢様ルックじゃないドレスをデザインして、マリーとモリーに作って貰う!
ああ、それにじゃがいもゴロゴロのビッグボアのカレーライスも食べたい!
心のメモ帳に書いておくよ!