焼肉のタレ!
弟達と過ごしていても、食いしん坊の私は、メアリーの留守を利用もしたくなる。
バーベキューといえば、美味しいタレが必要でしょう!
パーシバルやカエサルに聞いたけど、どうも魔物の肉は塩とほんの少しの胡椒で味付けしてあるだけみたいなのだ。
それでも、とても美味しかったみたいだけど、折角、カルディナ街で調味料を買ったのだからね。
「ここで使わなきゃ、どこで使うのよ!」
醤油ベースのタレ、少し脂が乗っている魔物の肉には合うと思う。
それと、肉に飽きたら味変だよ! これは辛味噌ベースにして、ピリ辛タレにする。
で、私の一番好きなポン酢! 柑橘系のレモンやオレンジは、もう時期ハズレで高いから、醤油とワイン酢で作るつもり。少しだけ蜂蜜を入れても良いかもね。
ゴマダレも欲しい! でも、胡麻はあまり見かけないから、胡桃をすりつぶして出汁で伸ばして、醤油で味付けかな?
弟達にハノンの練習をさせながら、私はエバに渡すレシピを書く。ふん、ふん、ふん♪
「お姉様、また新しいレシピですか?」
ヘンリーは、食いしん坊だからね。
「ええ、キャンプ地では魔物の肉が食べ放題だと聞きましたの。でも、1週間も同じ味だと飽きてしまうから、ソースを変えたら良いかなと思ったのです」
ナシウスもハノンを弾いている手を止めて、私の横にやってきた。
両側に弟を座らせて、ああ、幸せ! 天使達に挟まれて、ここは天国だね!
「討伐した魔物の肉を貰えたら、このソースで食べましょうね」
ナシウスも食べ盛りだからね。嬉しそうに頷いている。
エバにタレのレシピを渡す。ゴマダレ、いや胡桃タレ以外は、割と簡単にできると思う。
「これを、このくらいの容器に入れて持って行きたいの」
手で、これから作るタレの瓶の大きさを示す。
「お嬢様、それでは足りなくなるのは目に見えていますわ。少なくともゲイツ様は、ソースの瓶を欲しがるでしょう」
うっ、それは考えていなかったよ。
「では、この大きさの瓶を何本かずつ作るわ!」
これは、ポットの箱に入れたら良かったな。
また、箱に入れて配らなきゃいけないみたい。
私は、工房で割れ難い容器を作る。はぁ、焼肉のタレ屋になった気分だよ。
事前に考えていた家庭用のタレの瓶じゃなく、業務用のタレの瓶になった。
「綺麗になれ!」一応、浄化してからエバに渡す。
おお、調理助手が多いから早いね! エバは上手く調理助手を使いこなしているみたい。
私が工房で瓶を作っている間に、タレを作っていたよ。
「醤油ベースのソースと酸っぱいソースはいっぱい作りました。胡桃は少しだけです。辛味噌は、味噌が無くなってしまいました」
辛味噌はまた買いに行こう! あっ、そろそろ新米が届く季節だけど、カルディナ帝国はそれどころじゃないかも?
討伐から帰ったら、パーシバルと買いに行きたいな。
一時期は、カルディナ街も封鎖されていたみたいだけど、それも解けただろう。
少しずつ小皿で味見する。
「醤油ベースは、これで良いわ! 美味しいもの。辛味噌は……辛いわね。でも、お肉につけたら美味しいでしょう。酸っぱいソースは、美味しいわ。胡桃ソースは濃厚で美味しい!」
あれ? これは味噌ベースみたいだけど?
「味噌を出汁で伸ばして、砂糖と醤油で味を整えてみました」
えええ、エバのオリジナルなの?
「まぁ、辛味噌より好きかも? エバ、腕を上げたわね!」
前世では、激辛も好きだったけど、ペイシェンスの舌は辛いのが少し苦手みたい。甘味噌の方が口に合う。
「スパイシーな粉も用意したのですが、どうしましょう?」
えええ、エバは本当に料理人の鑑だよ。小皿のカレー風味の粉を、指につけて舐める。
カレー風味だけど、塩味と、少しオレンジの皮やナッツや乾燥ハーブの刻んだのが入っている。
ちょっと、前世のクレイジーソルトのカレー味版だよ。これを掛けたらお肉が美味しくなる!
「これは、絶対に美味しいわ!」
私は工房に帰って、ふりかけの瓶を真似したのを何本か作る。
ドバァと掛けたくないから、穴が空いた中蓋をつけたよ。
スパイスは高価だから、これは普通の家庭用の大きさだ。
また箱に詰めていく。今回は弟達も手伝ってくれる。
先ずは、ソースの味を紙に書いて貼ってから、詰める。
「醤油ベース、ポン酢ベースは2本ずつ。後のは1本ずつよ」
残ったのは、私の箱行きだ。だって女子は自分だけ美味しい物を食べるのは駄目だからね。
「お姉様、とても楽しそうですね!」
ああ、ヘンリー、そうだと良いのだけど。私が魔物を倒せるか? まだ自信ない。
それと、知らない女の子と同じテントなのも気になっている。特に戦闘狂だと言われている魔法使いコースの女学生、一緒のテントでやっていけるかな?
ユージーヌ卿が一緒なのは嬉しいけどさ。
ははは……帰ってきたメアリーに焼肉のタレセットを、パーシバル、サリエス卿、サリンジャー様の屋敷に持っていって貰う前に、一言叱られたよ!
「もう、エバとミミだけではないのですよ。ファビもいますのに、台所に行かないでください」
ああ、前よりハードルが高くなった気分。ファビはまだ来たばかりだから、メアリーは気を使っているみたい。
「はい、はい!」
あっ、メアリーに睨まれたけど、箱を急いで配りにいく。
今夜は、パーシバルも呼んで簡単な出陣式だよ。縁起の良い勝ち栗とかトンカツとかをアレンジして、エバに作って貰う。
前菜は、ツナのテリーヌ、野菜の断面が綺麗な星形になる様に作ってある。
スープは寒くなったから、じゃがいもと蕪のポタージュ。あったまるね!
メインは、トンカツ! ならぬビッグボアのカツレツ。ソースは、あっさりポン酢味で、洋芥子が付けてある。
「このソースはさっぱりしているな!」
珍しく父親のコメントだ。
「これは……カルディナ街で買った調味料ですね!」
パーシバルは気づいたみたい。
「お姉様は、いろいろなソースを作られたのですよ」
ナシウスの言葉にパーシバルが微笑む。
「屋敷に届いた第二弾の箱ですね! まだチェックしていなかったのです。これは楽しみですね! 1週間も魔物の肉の焼いたのばかりだと、飽きてきますから」
だよね! ただ、パーシバルの所は大所帯だから、足りなくなるかもね?
「初めは塩味のを食べますよ。飽きてきたら、ソースを使います。それに、煮込みもあった筈です」
そうか、煮込みが時々出るのか! でも、カエサルは、そんな事は言っていなかった。
「煮込みは早い者勝ちですからね!」
ああ、それは壮絶な戦いが繰り広げられそう。
デザートはモンブランだよ。こちらにはモンブランという山はないから「栗の裏漉しを乗せたケーキ」かな?
「ペイシェンス様の作るデザートは超一流ですね!」
エバが作っているのだけど、女主人の腕が良い事になるみたい。
「この栗の甘露煮は、瓶詰めにしてありますから、お土産にお持ち帰り下さい」
モンブランの上には、栗の甘露煮が必須だからね!
裏漉しした栗を生クリームと混ぜたのを、絞り袋に入れて、細い線になるような口金をつける。
スポンジケーキの土台に生クリームを少し盛った上に小山みたいに絞って、上に栗の甘露煮をちょこんと乗せてある。
「これは美味しいな!」
父親も気に入ったみたい。
まだ早いけど、明日の朝は出発が早いから、ここでお開きだ。
「ペイシェンスはゲイツ様の馬車が迎えに来るのですね。絶対に側から離れないで下さい」
もう、パーシバルときたら、心配症なのだから。
「私は、少し攻撃魔法の練習をするだけですわ。できたら参加賞の魔物の肉と羽毛を貰いたいと思っています」
くすくすとパーシバルは笑う。
「お願いですから、安全な場所に居てください。私は、学生達と一緒に行動しますから、お側にいられませんから」
キャンプ地では、少しは一緒にいたいな。
「お食事は?」
それは、一緒に食べれる時もありそう。
「パーシー様もお気をつけて!」
お互いに心配しあって、いちゃいちゃしちゃう。
「もう、こんなに冷えてしまって、帰りますね」
クシャン! とくしゃみが出たから、パーシバルは、素早くキスして帰っていった。
その夜は、お風呂に入って早く寝た。朝には出発だからね。