モリーとマリー!
パーシバルが帰ったから、私は放置していたモリーとマリーの件を解決しなきゃね。
「メアリー? モリーとマリーは?」
メアリーが眉を顰める。何かあったのかな?
「あの子達は召使い部屋のお風呂に入れていますわ。信じられませんが、半年以上もお風呂に入っていないのです!」
あああ、それは困るね! 清潔第一だよ。
「まぁ、お湯で身体を拭いたりはしていたようですが、グレンジャー家にいる限り、不潔は許せません」
風呂に入り、メイド服に着替えた2人が連れて来られるまで、私はパーシバル様が持って来たマントに守護魔法陣を描いておく。
3枚目だから慣れている! サラサラと描いて、刺繍をし始めたら、メアリーが2人を連れて来た。
「まぁ、モリーもマリーもよく似合っているわ」
ドレスメーカーの所で見た時は、髪の毛は下ろしていた。でも、キチンと結い上げて、メイド服を着た2人は、なかなか美人さんだよ。
「服まで支給して頂いて、ありがとうございます」
やはりモリーの方がしっかりしているね。マリーは横で頷いているだけだ。
「私は、メーガン・ドレスメーカーでドレスを作っているのだけど、デザインがありきたりで不満だったの。2人は、縫うのはできるでしょうが、型紙とかは作れるの?」
これが重要なのだ。モリーは自信なさそうに黙る。
「私はできると思います。させて下さい!」
おお、大人しいマリーは型紙も作れるみたい。
「では、まずはこの服を作って欲しいのです」
メアリーに私の乗馬服を持って来て貰う。アンジェラにプレゼントするつもりなのだ。ほぼ、同じ身長だからね! グッスン! 2歳下だけど、追い抜かれそうだよ。
「まぁ、素敵な乗馬服ですね!」
マリーは、すぐにキュロットスカートの利点に気づいたみたい。
「布は、これを解いて縫い直して欲しいのだけど、大丈夫かしら?」
何代か前の夫人の喪服だけど、新品にしているし、物は良いからね。
「ええ、勿体無い! 高級な絹ですが、宜しいのでしょうか?」
勿論だよ!
後の下宿の引き揚げとか、賃金とかは、メアリーとワイヤットに任せる。
私は、パーシバルのマントと刺繍の道具をバスケットに入れて、これは私が持って寮に向かう。
メアリーは、婚約者のマントを誰にも触らせたくないと言ったら、笑って許可してくれた。
ここら辺の基準は、よくわからない。
それにしても、メアリーとグレアムはこのままで良いのかな? この前、リチャード王子に聞きそびれたよ。マーガレット王女とパリス王子の件であっぷあっぷだったからさ。
ふう、マーガレット王女は、どう考えておられるのかな? もう少し国際問題や内政問題を勉強したいと言われていたけど、縫うのが遅すぎるのだ。
くけ台、キャメロン先生には渡したけど、運針が下手だと効果は薄いかも……。
やはりミシンを作らなきゃ! 何故、糸が絡むのかな? 何か引っ掛かっているけど、それが何か分からない。
ゲイツ様に暗記術を習えば、前世で見た事も思い出せるのかな? うううん? 確かミシンにはミシン糸があったと思うけど、どう違うの?
「ツルツルしていたような気がする! 巻き方が違うのかしら?」
手縫いの糸よりも表面が硬かったような?
「ああ、喉に魚の骨が引っ掛かった気分だわ!」
上糸調節器やボビンケースのネジで調節しても、少し縫ったら、ぐじゃっとなってしまう。
エステナ神も転生させるなら、スマホの検索機能とかつけてくれたら良かったのに……はぁ、可愛い弟達と出会えたのは感謝しかないし、素敵なパーシバルという婚約者もいるのだ。
これ以上を、求めるのは駄目だよね。
「ミシン糸を蝋でコーティングしてみようかしら?」
ツルツルな感じにはなるよね? この蝋は、動物性の安いのでも良い。
なんて、悩んでいるうちに王立学園に着いた。
次の月曜から、冬の魔物討伐で、1週間はマーガレット王女の側にいられない。
まぁ、パリス王子も討伐に参加だから、その点は安心なのだけど。
「メアリー、2人の教育をお願いしておくわね。お針子として、私のドレスを作って貰うつもりなのだけど、メイドとしても働けるように教育して欲しいの」
メアリーは、引き受けてくれたから、2人については任せよう。
本当は、家政婦と秘書も必要なのだ。家政婦は、結婚するまでに見つければ良いけど、秘書は緊急に必要だよ。
やはり、家から通った方が自由時間が多くなるのかもね。
メアリーを帰して、パーシバルのマントに刺繍をしていたら、マーガレット王女が寮に来られたみたい。
特別室に行くと、おお、勉強中だった! ディスク型のオルゴールは流しているけど、家政数学の宿題と予習をしている。
「ああ、ペイシェンス! 良いところに来てくれたわ。お母様と話し合って、2年生からは文官コースも取ることにしたの。でも、それには条件があって、家政コースのかなりの単位を取らないと駄目だと言われたのよ」
卒業できないと大問題だからね。
一番苦手な家政数学を勉強するのは、良いけど、単位的に考えるなら得意な科目の修了証書を狙う方が良いかも?
「マーガレット様、古典と歴史とマナー3と第一外国語と栄養学の修了証書を取りましょう!」
マーガレット王女は、音感が良い。サミュエルにやったやり方の応用だけど、デーン語の歌で覚えよう。
「デーン語は、オーディン様に手伝って貰えるかも?」
えっ? マーガレット王女からオーディン王子の名前が出てくるの珍しいよね。
「そうですね、母国語ですから上手いのは当然ですし、良いと思います」
ネイティブスピーカーとの会話は良いと思うよ。
古典はかなり勉強しているし、歴史はカードをリュミエラ王女と一緒にゲーム感覚で勉強したら捗ると思う。
マナーは、修了証書を取れそう。後は、栄養学と刺繍と習字と美容……そして料理と裁縫は、秋学期は諦めよう。
習字はいけるかも? 刺繍は……ちょっと無理かも? よし、栄養学と美容の修了証書を目指そう!
マーガレット王女に家政数学の説明をして、宿題をやってもらっている間に、栄養学の教科書を読む。
栄養学は、一度も授業を受けてないから内容も知らなかったからね。
「ああ、これは簡単だと思うわ。この教科書は栄養学1なのね。2と3を手に入れたら大丈夫そう!」
少し纏めて手助けすれば、マーガレット王女はかなり暗記力もあるから大丈夫そうだ。
美容は髪の毛を整える練習をしないと合格できない。仕方ない、私がヘアーモデルになって練習して貰おう!
こんな時は、生活魔法があって良かったと思うよ。どんなに悲惨な髪型になっても、一瞬でセットし直せるからね。
「マーガレット様、お勉強中なのですか?」
リュミエラ王女が少し驚いている。
「ええ、今年中に多くの単位を取って、来年からは少し政治的な事を勉強したいと思っているの」
ハッとした顔をリュミエラ王女もした。
「それは、素晴らしい考えですわ。コルドバ王国で家庭教師に勉強を教えて貰っていましたが、下の弟には政治や経済的な事も教えているのに、私は全く習いませんでした」
王子は、いずれは王になってコルドバ王国を治めなくてはいけないからね。
「ふふふ……リチャードお兄様のお話が理解できるようにならないと、困りますものね」
ふんす! とリュミエラ王女も勉強する気が湧いてきたみたい。
リュミエラ王女は、刺繍と習字は修了証書が貰えそう。
料理と裁縫は、無理そう。ほぼ、マーガレット王女と同じだね。
古典も修了証書を取っているし、第一外国語はあと少しみたい。
「育児は修了証書を取るつもりだし、栄養学も取りたいわ。教科書を貰ったの」
おお、それは良いね!
「マーガレット様もリュミエラ王女も私が栄養学を纏めますから、暗記して下さい。歴史はカードをお互いに出し合って、ゲーム感覚で覚えたら楽しく勉強できますよ」
リュミエラ王女が「私も王女ではなく様付けで呼んで欲しい」と言った。
「ええ、では他の方がいない時だけ」
マーガレット王女がクスクス笑う。
「ペイシェンスと会った日に、私が言った言葉と返事も同じね」
ああ、そうだったかも? 長い付き合いになったね。
「来年からは、ジェーンが寮に入るし、側仕えのアンジェラと学友達も入るみたい。それを聞いたエリザベスとアビゲイルも入ってくれるのよ」
おお、それは賑やかになりそう。
「マーガレット様、カレン様を忘れておられるわ」
あっ、それは……まぁ、半分決定かな?
「エリザベス様が寮に入って下さるのは嬉しいですわ。ドレスのデザインとか相談にのって貰いたいのです」
あああ、マーガレット王女の緑の目がキラリとした。
「ペイシェンス、新しい流行を生み出そうとしているのね。今のドレスは、お母様が子供の頃に着ていたのとほぼ同じなのよ。社交界のドレスはかなり変化したのに、お嬢様ルックは同じだなんておかしいわ」
そうなんだね。屋根裏部屋にある何代か前のドレスは、コルセットで腰を締めて、ドバァとスカートが広がったスタイルで、今のスマートなドレスとは違うとは思っていた。
「今のドレスメーカーは、母が使っていた所で、少しデザインが気に入りませんでしたの。丁度、そこのお針子を雇いましたから、新しいデザインのドレスを作って貰おうと考えているのです」
2人の目が輝く。
「良い考えだわ。少し変化が必要ですもの」
この件は、皆も不満に思っていたみたい。アップタウンの若い服を飾っていたドレスメーカーと協力できたら良いな。