横領、詐欺?
パーシバルは、マナーを守って10時までは訪問しないけど、ゲイツ様はそんな思いやりは無いね。
父親も少し迷惑そうだ。朝食も眠そうだったし、昨夜は夜更かししたみたいだ。
挨拶だけして、早々に書斎に篭った。
「ペイシェンス様、調査したら大変な事が分かったので、報告に参りました」
それは、有難いけど、できたらパーシバルと一緒に聞きたい。
「ゲイツ様、今少しお待ち下さいませんか? できればパーシバル様とお聞きしたいのです」
少し不満な顔をしたけど、ワイヤットが気を利かせて、コーヒーとチョコレートを持ってきた。
「この黒い飲み物は何でしょう?」
私はコーヒーの説明をする。
「好みで砂糖や生クリームを入れて飲んでも良いですが、チョコレートとの相性も良いから、そのままでも良いかもしれません」
私は、チョコレートと一緒ならブラックの方が良いと思う。
「では、チョコレートとコーヒーを頂きましょう」
今回は、昼食会があったから新作は無い。でも、ドライフルーツにチョコレートを掛けたのって、美味しいよね。
オレンジピールにチョコレートが掛けてあるのと、コーヒーって最高に合うと思う。
「ああ、本当ですね! チョコレートとコーヒーは相性がとても良いです」
あっ、注意しておかないといけない。
「コーヒーは、目を覚まさせる効能があると聞きましたから、夜は控えた方が良いですよ」
ゲイツ様は、少し考えて頷く。
「なら、昼に飲めば良いですね。退屈な書類仕事は眠くて仕方ないのです」
まだ少ししか無いけど、コーヒーの粉をお土産にあげよう。ネルドリップ方式だから、遣り方は書いておけば大丈夫だよね。
なんて話しているうちにパーシバルもやってきたよ。
「ゲイツ様、いらしていたのですね」
ははは……何となく三角関係みたいだけど、違うよね?
「ええ、私がわざわざグレンジャー家の困窮の理由を調査したのに、ペイシェンス様は貴方と一緒に聞きたいと言われて、待っていたのですよ」
いや、パーシバルはマナー通りに10時に来たのだ。9時台に来るのはマナー違反だよ!
「お父様をお呼びしようかしら?」
ゲイツは肩を竦める。先に聞いてから教えた方が良いのかな?
「グレンジャー子爵は、このような事に興味が無いと思います。できれば執事を呼んだ方が良いかも知れません。私でも調査しきれなかった所は詳しいでしょうから」
私がワイヤットを聞き質すのは駄目なのに、他家のゲイツ様なら良いの? ペイシェンスが反対しないのに驚くよ! 男社会だからかな? 大人だから?
「いえ、グレンジャー子爵にも聞いて貰った方が良いと思います」
パーシバルは、常識的な判断をする。興味が無かろうと、グレンジャー家の当主なのだからね。
父親とワイヤットが揃った所で、ゲイツ様が調査報告書を取り出した。
「ここの前の執事、ダンカンでしたか? 彼は、ここに雇われていた頃から、多額の横領をしていましたね。まぁ、それは瑣末な話ですが、グレンジャー子爵がカッパフィールド侯爵と揉めて免職になった時から、動きが怪しくなっているのです」
父親も、免職になった時に辞めた執事のダンカンの掌返しを思い出したのか、眉を顰めている。
あの当時は、母親の体調も思わしくなくて大変な時期だったからね。
「どうやら彼は、貴族至上主義者の手先になって、不当に高い屋根の葺き替え工事や、それを高利貸しに借りたりと、多額の借金をお土産にして、他の貴族に雇われたみたいです。勿論、そんな事を許したりしませんよ」
えええ、もしかして……ワイヤットの顔を見ると苦々しそうだ。
「ワイヤット、そんな借金の話など私は知らない!」
いや、借金だけでなく、家計の話は全くノータッチじゃん!
「子爵様にはご報告致しましたが……」
ああ、ワイヤットの言葉が届いていなかったのだ。
「そうか……あの頃は、ユリアンヌの体調が思わしくなくて……まさか、治療費も借金だったのか?」
ワイヤットは、黙って頷く。
「まだ、借金は残っているのか?」
それは、無さそう! ホッとしたよ。
ワイヤットは、一度応接室から出て、家計簿を持ってくる。
「これをご覧になって、私の不正があれば首にしてください」
父親は、家計簿の見方も知らないみたいだから、ゲイツ様が受け取って、パラパラと見る。
「この金利は違法です。ふふふ……業者を捕まえましょう。それと、ダンカンはもう捕縛してありますから、不正な工事業者、それと唆した貴族も一蓮托生です」
ええええ、仕事早いよ!
「ワイヤットは、前のダンカンが残した借金の為に苦労していますね。でも、この不当に高利な利息を払ったのは失敗です。訴えれば良かったのですが……あの時のグレンジャー子爵家では、握り潰されたかもしれません。ユリアンヌ様のティアラを売りに出したので、少し疑っていたのですが、潔白だとわかりました」
それと、私は固定資産税もわかってホッとしたよ。金貨100枚! 凄く高いけど、払えない額じゃ無い。
思い起こせば、教会に払う金貨1枚も惜しかったのにね。やはり、もっと小さな屋敷に引っ越すべきだったと思う。
ここら辺の判断ミスも困窮の理由だよ。あの広い図書室を確保できる屋敷に住み続けたかったのだろうけど、書籍を手放すべきだったのだ。
それに、やはりなけなしの貯金を全部モンテラシード家に貸すべきでは無かったね。
母親の治療費も凄く高額だ。ここでも、借金している。
この借金の利息を払う為に、ティアラを売っているのか……仕方ないかもね。
私のも金貨50枚! ひぇぇぇ、転生した当時の具と味のないスープ、このせいかも?
年金は1月に払われるから、12月に転生したのは、痛かったな! 私の準男爵の年金は、初回特典なのか9月に振り込まれているけどね! ラッキー!
「ワイヤット、全て私の責任だ。これからは、ちゃんと話して欲しい。ナシウスとヘンリーの為に貯金をしなくてはいけないのだから」
あっ、私は自分でなんとかする感じだね。まぁ、何とかできるけどね! 準男爵の年金や特許料があるのは、父親も知っているから。
「子爵様……できれば書籍代をもう少し減らして頂ければ……」
ああ、それはその通りだよ!
全員が苦笑したけど、父親は酷くショックを受けたみたいだ。
「この数年は、ほぼ新作を買っていないのだ」
えっ、買っていたのか! やはりね!
「いえ、普通の貴族の家の数十倍は書籍費が掛かっています」
まぁ、年に1冊程度しか買わない貴族もあるから比較は難しいけど、控えて貰おう。
「あっ、私の本をこちらに贈りましょう。私は新作は全て届けて貰っていますが、一度読めば十分ですから」
暗記するからだね! でも、本好きは何度でも読み返したいけど、違うみたい。
「それは、ありがたいです!」
ワイヤットが先にお礼を言ったよ。父親は、学長になったからと大量の本を買っているみたい。
「まぁ、それなら書籍代を浮かして、貯蓄に回せるな」
渋々、父親が承諾した。是非、そうして欲しい。
ダンカンの記憶は、ペイシェンスにもあまりないから、逮捕されても可哀想だなんてちっとも思わない。
それに、あんなに貧乏じゃなかったら、ペイシェンスも肺炎を拗らせて亡くならなかったのかも? 体力なかったから、肺炎にはなったかもしれないけどさ。
「ゲイツ様、色々と調査をしてくださって、ありがとうございます」
グレンジャー家の貧乏な理由、そしてこれからの解決策もできたから、安心してパーシバルとの生活を設計できるよ。
「それは、良いのです。調子づいていた貴族至上主義者を懲らしめてやれますからね」
ダンカンを唆した貴族は許せない! 本人も許さないけどね。
「不当な利息を取っていた業者から、金銭を取り戻す手続きもついでにサリンジャーにさせておきましょう」
ゲッ、忙しそうなサリンジャーさんに? 今度、上級回復薬とチョコレートを差し入れしておこう。