王妃様のお願い
王妃様の部屋に案内された。
「ペイシェンス、パーシバル、婚約おめでとう」
婚約を祝す為に呼ばれたのかな? さっき出かける前にも言われたけど、時間が無かったし、お礼を言えなかった。
「ありがとうございます。それと母の形見のティアラを下さり、感謝しております」
深くお辞儀する。
「ペイシェンス、パーシバル、お座りなさい」
2人で座ると、王妃様は微笑んで話し始めた。
「あれは、私の実家のモライア様が買って保管されていたのです。ユリアンヌをとても可愛がっていましたからね。私は、それを譲って貰っただけですわ。ユリアンヌのティアラは、ペイシェンスが社交界デビューの時に付けるのが相応しいと思ったから」
モライア様って、ゲイツ様の実母だよね。母親の再従姉妹になると聞いたけど。
「モライア様にお礼状を書かなくてはいけませんね」
王妃様は、ふふふ……と笑う。
「モライア様は、幼くして手放したゲイツ様の事を常に気にかけておられます。本当はペイシェンスに妻になって欲しかったのでしょう」
えええ、横にパーシバルがいるのに、そんな事を言わないでよ。
「御免なさいね。私も少し嫌味を言いたい気分になってしまったの。ペイシェンスを息子の嫁に欲しいと願う方は多かったのよ」
パーシバルは、微笑んで答える。
「ペイシェンス様を得たのですから、少しぐらいの波風は覚悟しています」
格好いい! 惚れ直しちゃう。
「そうね、その覚悟がマーガレットには足りないのだと思うわ。それと、ペイシェンスのように相手を信じる強さもね」
こちらが本題だね。私も、まだまだ信じる強さが足りないのだ。
「ペイシェンス、パーシバル。マーガレットの覚悟が足りないなら、私はソニア王国の次期王妃など無理だと反対するつもりです。恋愛感情だけで、王妃の座は保てるものではありませんからね」
ひぇぇ、厳しい言葉だけど、マーガレット王女の事を愛しているからだよね。
「では、マーガレット王女の覚悟が決まれば、賛成されるのですか?」
えっ、そういう意味なの?
「王女として生まれた義務ですからね。でも、今のままでは、駄目です。パリス王子の魅力だけを見ているのでしょう。それでは、あの複雑な親子関係も理解できませんし、嫁いでもパリス王子の役にたてませんわ」
つまり、マーガレット王女も不幸になるし、国の為にもならないと王妃様は考えているのだ。
「あのう、パリス王子とマーガレット王女は、よく話し合う必要があるのではないでしょうか?」
王妃様とパーシバルに苦笑された。
「パリス王子に誘惑する機会を与える事になりますよ」
そうか、駄目なのか。パーシバルに呆れられたよ。
王妃様は、少し考えて口を開いた。
「ペイシェンス、パーシバル、良いかもしれません。今は表面上のパリス王子の魅力だけをマーガレットは見ています。彼の複雑な生い立ちとか、影に隠れた感情を読み取った上で、好きだと言えるのかしら?」
勿論、2人きりにはさせられない。つまり、私とパーシバルが常に付き添うのが求められる。
「あのう、パリス王子と距離を置かせたいのなら、寮を出て、王宮に戻られたら、王妃様の監視下に戻られるのでは?」
ふっと微笑みが深くなる。
「今、距離を置かせたら、パリス王子に恋焦がれるだけになります。もっと相手を冷静な目で観察しなければならないのです」
つまり、寮生活のままだね。私は、側仕えとして、より一緒に行動しなくてはいけないって事だよ。
「マーガレットをお願いしておきます」
王妃様に頼まれたけど、少し荷が重い。
王宮を辞したけど、気持ちが重たいまま別れたくないので、公園を散歩する。
後ろからメアリーがついてくるけど、会話の内容は聞こえないから、マーガレット王女とパリス王子の話や、カリーナ妃について話し合う。
「カリーナ妃は、何故、自分の子供の能力を見極められなかったのかしら? 能力が無いのに、王位に就けても、苦労するだけだと思うわ」
パーシバルは、少し驚いた顔をした。
「王の愛人なら、普通に持つ野望だと思いますが、ペイシェンス様には理解できないのでしょうね。素直な気持ちのままでいて下さい」
あっ、少しお子様扱いされている。
「少しは理解できますわ。カリーナ妃は、シャルル陛下の気持ちを確かめたかったのでしょう。王妃様と離婚する気持ちがあるのか、本当に自分を愛しているのか? でも、私なら絶対に子供を利用しませんわ。それに、そんな優柔不断な男は捨てて、自分で子供達を厳しく教育し直します」
パーシバルが爆笑した。
「いや、全く違う考えで生きておられますね。それに、そちらの方が私は好きです!」
2人で笑ったら、重苦しい気持ちも飛んでいった。
「ふふふ、浮気はしないと言われたのを信じていますからね!」
「分かっています。捨てられるのは嫌ですからね」
いちゃいちゃするのって楽しいね! それに、あのまま別れるのは嫌だった。
「明日は、前に話していた屋敷を見に行きませんか? 父も、暫く空き家になっていたようだから、荒れているなら別の屋敷にした方が良いと言っていました」
明日は、新居探しだよ! テンション上がるね。
屋敷に着くと、頬にキスをして、パーシバルは帰っていった。
さぁ、エバはツナを作れたかな?
「明日はサンドイッチを寮に持って行くから、少し台所でチェックをします。マーガレット王女やリュミエラ王女やパリス王子やキース王子やオーディン王子、それにアルーシュ王子も食べられるのですからね!」
並べた王女と王子の多さに、メアリーが驚いている隙に、台所へ急ぐ。
「エバ、コンフィはできた?」
頷いて、鍋を差し出してくる。うん、できているね。綺麗なピンクベージュのコンフィだ。
でも、一切れが大きくない? 一体どのくらいの大きさの魚なのかな?
「これにキュウリのピクルスと玉ねぎの微塵切りをマヨネーズであえるの。それをサンドイッチの具にすると、とても美味しいのよ」
未だ信用していないみたいだけど、コンフィを少し切って味見をする。
「まぁ、チキンの蒸した物に似ていますが、それよりも柔らかいです。魚臭さは感じませんね」
そうなんだよね! 納得してくれて、良かったよ。これから、マーガレット王女は精神的に大変かもしれないから、せめて美味しい物を食べて元気を出して貰いたい。
それと、食欲魔人の初等科の王子2人と学友達には、ガッツリとしたサンドイッチも考えている。
「このレシピでカツをあげて、千切りキャベツとソースを掛けたサンドイッチも作ってね。ソースのレシピも渡しておくわ。少しとろみがある方が良いの」
カツサンドなら、満腹感があると思う。
「あのう、ハンバーグを挟んでも美味しそうですが?」
ああ、ハンバーガーを忘れていたよ!
パーシバルが届けてくれた籠をチェックする。高級な食パン、卵、ハム、野菜……バンズは無い。
ハンバーグサンドイッチも悪くないけど、ハンバーガーが食べたい。
「エバ、小さな丸い柔らかなパンは焼ける?」
前は、天然酵母を使っても、小麦粉の質が悪かったから、少しだけ柔らかなパンしか焼けなかった。
「ええ、もしかして、それにハンバーグを挟むのですね! 一口大のパンに小さなハンバーグ! 美味しそうです!」
一口大で無くても良かったけど、こちらではお上品にしなくてはいけないからね。
「パンを焼いたら、半分に切って少し焼くの。それにレタスを敷いて、ハンバーグを乗せ、玉ねぎの微塵切り、ピクルスを薄く切って乗せるの。トマトソースを煮詰めたのを掛けて、上のパンで挟んで出来上がりよ」
そうだ! バラけないようにスティックを刺した方が良い。
カツサンドとハンバーガーは、スティックを刺した方が食べやすそう。
卵を浄化して、工房に向かう。そういえば、卵の浄化器は未だ作ってなかったね。
夕食まで、工房で可愛いスティックと沸くポットと金属のコップを20個作る。これは冬の討伐用だよ。
そうだ、モラン伯爵と父親は話し合ったのかな? 後で聞かないといけない。
それと、パーシバルのマントを作らなきゃ。
「忘れていたわ! 巨大毒蜘蛛の糸を加工しなくてはいけないのよ」
もつれた塊の巨大毒蜘蛛の糸に「真っ直ぐになれ!」と唱えたら、綺麗な糸になった。
銀のコーティングは、また後にしよう。