錬金術クラブの新メンバー!
火曜は錬金術クラブデーだ。
「ご機嫌よう!」
今日もカエサル部長はクラブハウスにいるけど、大丈夫なのかな?
「父上から、ミシンを早く作れと言われたのだ。ペイシェンスとミハイルが中心になって作っているが、どこが問題なのだ? ああ、でもその前にチョコレートと半貴石の加工をしてくれ」
部屋の隅に樽が3個あるんだけど?
「一気に3倍になりましたね」
カエサル部長は、肩を竦めている。
「まぁ、あれを見たら、増やすだろうな。本当にチョコレートの人気は凄くて、店先で喧嘩になりそうだとパウエルが悲鳴をあげていた」
あっ、言っておかないと駄目だよね。
「あのう、今週末にマーガレット王女とパリス王子、リチャード王子とリュミエラ王女がバーンズ商店にデートに行くかもしれません。私とパーシバル様、サリエス卿とユージーヌ卿も同行するかも?」
カエサル部長が頭を抱え込んでいる。
「マーガレット王女とパリス王子は、そういう仲なのか?」
先ずは、そこなんだね!
「私もちょっと忙しくて、お側を離れる時間が多かったから……この件を、パーシバル様とも話し合いたいのですが……」
ふぅと深い溜息をついた。
「マーガレット王女はパリス王子の立場をご承知なのだな。なら、後は陛下の判断に任せるしかない」
まぁ、その通りなんだよ。私的には、マーガレット王女がラフォーレ公爵家のチャールズ様と結婚されたら良いなぁと、漠然と考えていたのだけどね。
「ソニア王国と縁が結ばれるのを喜ぶ者もいるだろうが、エステナ聖皇国とも近くなる。パリス王子は、クレメンス聖皇の甥だからな!」
ローレンス王国は、エステナ聖皇国に脅威を感じている貴族が多い。カエサル様も前から警戒していたからね。
「私も初めはそういった目でパリス王子を見ていたのですが、エステナ聖皇国を一番嫌っているのはパリス王子かもしれませんわ」
カエサル部長は、間近でパリス王子と接している私の意見を聞きたがった。
「愛人に入れ上げている父王様にも腹立ちを感じておられるのも確かですが、母王妃様にも苛立ちを感じておられます」
「なるほどなぁ、エステナ聖皇の妹という矜持を捨てられない母親、それに反発を感じて愛人に走る父親か……地獄の子供時代だな。まぁ、同情はするが、そこにマーガレット王女が嫁がれるのは大変だと思う」
そうなんだよね! だから、私はできれば諦めて欲しい。
まぁ、私達があれこれ言っても仕方ない話なので、チョコレートの加工をするよ。
「滑らかになれ! 滑らかになれ! 滑らかになれ!」
はぁ、少し疲れたかも?
「こちらの半貴石は急がないぞ」
箱いっぱいの半貴石、でもこのくらいなら大丈夫。
「スワロフスキービーズになれ!」
キラキラと輝くスワロフスキービーズになったよ。
ちょっと疲れたから、1時間目は、魔法を使うのはやめて、ミシンの設計図を考えよう!
「ペイシェンス、無茶をさせたな」
カエサル部長の合図で、店員が樽と半貴石が入った箱を運び出した。
「いえ、良いのです。それと、学生チームのマットレスの数が増えそうです。大学生の参加者分も欲しいとリチャード王子が言われているので」
「それは、かなり急がせないといけないな」
そっちは任せるよ。
「シュラフは手作りできる分だけにしようと思っています」
ミシンは間に合うかわからないからね。
「うむむ……ミシンを作ろう!」
カエサル部長は、ミシン作りが何処で引っ掛かっているのか、一緒に考えてくれた。
「この上糸を送るのと、下糸との調整が上手くいっていないのだな。だから、糸がぐちゃぐちゃになってしまうのだ」
そうなんだけどさぁ、そこをなんとかできないかなぁとミハイルと悩み中なんだよ。
「ううん、上糸調節はここに付けたら良いのかも? 下糸はボビンケースのねじで締めたら良いと思いますわ」
朧げな記憶を引っ張り出して、図を描く。
「上糸調節は、回してその隙間を広くしたり、狭くして、上糸の送る量を調節するのだな。ボビンケースにはネジをつけて、そこで下糸の量を調節するのか……やってみよう!」
ミハイルは機械に強いけど、カエサル部長も強いよ。
私の曖昧なイメージを元に上糸調節とボビンケースのねじ付きの設計図を描く。
2時間目に、ベンジャミンとエドがやってきた。
「エド、錬金術クラブによく来てくれるのは嬉しいが、授業は良いのか?」
カエサル部長が心配しているよ。
「ええ、何科目か修了証書をもらったので、空いているのです」
ふうん、とベンジャミンが興味を持ったみたい。
「エドは、かなり修了証書を取っているみたいだな。どうせなら、学年飛び級すれば良いのではないか?」
エドは困った顔をする。
「私には妹がいるのです。来年の1月に入学するのですが、1週間で学年飛び級するから絶対に待っているようにと約束させられたので、学年飛び級はできないのです」
カエサルも首を傾げる。
「妹と同級生になる為に飛び級しないのか? それにしても、妹は自信家だな」
エドは少し考えてから説明する。
「妹と言っても双子なのです。だから、本当は私と一緒に今年入学しても良いのですが、父は厳密な考え方で、数分の差で、来年の入学にしたのです。誤魔化すのは良くないと言って……」
なるほど、年越しで出産したんだ。確かに、どちらかに合わせてもおかしくないよね。
キース王子やマーガレット王女と同じ学年に同性の上級貴族が妙に多いから、誤魔化している親もいると思う。
ベンジャミンも、変な兄妹だと首を傾げている。
「では、来年は2人揃って、初等科2年生なのか?」
はい! と頷いているエドが良いなら、良いのかも?
「それに、クラリッサも錬金術クラブに入りたいと言っています」
それまでは、変わった兄弟関係だなぁと、話半分に聞いていたカエサル部長が、真剣な目になる。
「それは、本当か?」と問いただす。
「ええ、本当はクラリッサが錬金術クラブに入りたいと先に言っていたのです。だから、入部したと言ったら、怒られてしまいました」
かなり強烈な性格みたいだ。
「うちの弟も来年入学なの。もしかしたら学年飛び級するかもしれないから、宜しくお願いしておくわね」
エドが少し考えている。
「わたしはBクラスですから、同じクラスにはならないかもしれませんね」
カエサル部長が、間違いを正す。
「学年の代わりにクラス編成がある。エドが多くの修了証書を貰うほど優秀ならAクラスになるだろう」
この件は、担任に相談するように勧める。
「それでクラリッサは、何故、前から錬金術クラブに入部すると決めていたのかな?」
まぁ、普通の女の子は錬金術クラブに入るとは思わないよね。カエサル部長が興味を持ったみたい。
「実は、母方の叔父が錬金術クラブに入っていて、今はロマノ大学で錬金術学科の助手をしているのです」
うっ、錬金術学科と言えばグース教授を思い出しちゃう。
「もしかして、叔父はマイケル・コリンズか?」
ベンジャミンが訊ねる。
「ええ、ご存知なのですか? 妹は錬金術師になりたいと憧れているのです」
はぁ、それは良いけど、少し複雑な気持ちだよ。
「私は知らなかったが錬金術クラブのOBなのだな」
ああ、もしかしてサイモンもOBなのかも?
「ええ、妹は何としても王立学園に在学中に特許を取って学費を貯めたいと必死なのです。父は古い考え方なので、私のロマノ大学の費用は出してくれるでしょうが、妹のは出さないと思いますから」
酷い! と思うけど、こちらではよくある話なのかも。
女の子は、王立学園を卒業したら結婚して家に入るのが普通みたいだから。
「まぁ、特許はなかなか取れないし、取ったとしても直ぐに金にはなり難いのだ」
今のクラブメンバーは、アイスクリームメーカー、アイロン、自転車、冷蔵庫、冷凍庫でかなり儲けているけどね。
「それはわかっています。叔父も在学中に特許を取ったけど、ほんの少ししかお金は入らなかったと忠告していましたから。でも、他に父を説得できる材料はないのです」
頑張って欲しい! 応援するよ。
「なら、エドも頑張って特許を取るような発明をしなくてはな!」
はい! と頷くと、金髪のオカッパが揺れて可愛い。
「妹は、エドに似ているのか?」
あっ、ベンジャミン、気になるよね!
「ええ、そっくりなのです。髪型も同じにさせられているから。来年、同じ学年になれたら、切っても良いと言われています」
先に入学したから、かなり怒って我儘をお兄ちゃんに強制しているみたい。
「我儘な妹だなぁ!」
ベンジャミンの素直な感想に、エドは「そうなんです」と肩を竦めた。でも、仲が良い兄妹みたいだ。頑固な父親は困るけどね。
その上、エドも機械に強い! カエサル部長が描いた上糸調整の設計図を見て、途中にバネを入れた方が良いのでは? と提案してくれたよ。
この日、午後からアーサーとブライスも来て、全員でミシンの製作を頑張って、第一号機の試作品が出来た。
「でも、まだ糸が絡んでしまいますわ」
何とか縫えるようにはなったけど、すぐに糸が絡むし、切れてしまう。
「放課後、ミハイルとマックスが来るのだが……ペイシェンスは音楽クラブなのだな」
後ろ髪を引かれるけど、2回連続でサボったからね。
「ええ、それに機械は弱いからお任せします」
それと、恋愛に発展し掛けているマーガレット王女とパリス王子も気になるから、今は音楽クラブはサボれないよ。