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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第一章 王立学園初等科
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スイーツを焼こう!

 王宮の馬車の馬丁が屋敷に丁重に送ってくれた。こんな時でも執事のワイヤットは冷静に対処する。

「お嬢様、お帰りなさい」

 扉を開けて、いつもと同じように出迎えてくれた。

「ワイヤット、ゾフィーから籠を受け取ってエバに渡して下さい」

 令嬢は、自ら籠を台所に持って行ったりしないのだ。ゾフィーが籠を渡し、馬車に乗るのを確認する前に、私は弟達を抱きしめていた。もう離れたくないよ。

 夕食までの短い時間、会えなかった日々の話を聞く。

「お姉様、トイレが使えるようになったのです。今まで屋敷にトイレがあるとは知りませんでした」

 ワイヤットは先ず魔石を買ってくれたのだ。生活改善で一番先にするのは当然だね。それに8歳のナシウスもそろそろオマルは恥ずかしく感じていたのだろう。嬉しそうだ。

「それと剣の稽古をジョージと始めたんだよ」

「ヘンリー、木剣を部屋で振り回すのはやめなさい」

 子ども用の木剣は多分ジョージの手作りだ。薪で作ったんだろう。もう少し大きくなったら、もっとしっかりした木剣が必要だろうけど、今はこれで十分だ。

 オマル洗いから解放されたジョージなら剣の稽古に付き合う時間はあるだろう。

「後は、馬とハノンね」

 絵は絵の具は無いけど、デッサンから教えよう。ダンスはステップぐらいは教えられる。馬は飼うと餌も必要になるから、後回しになるのも仕方ない。古いハノンを手に入れるように、ワイヤットに遠回しに要求しよう。

「お嬢様、王宮の馬車で帰られたなんて、マーガレット王女様の側仕えを立派に果たしておられるのですね。それにしても、何故、卵やバターなどを下さったのでしょう」

 髪をとかして貰っていたが、籠の事を忘れていたのを思い出す。弟達を見たら他の事は二の次になっちゃうんだ。

「あれは王妃様から頂いたの。弟達にお母様と作ったおやつを焼いてあげたくて」

 メアリーの手が止まった。

「王妃様にお会いになったのですか?」

「ええ、マーガレット王女の側仕えの顔を見たいと言われたのよ」

 感激で手が震えるメアリーだが、髪を整えてくれた。夕食は前より少し多くなっていた。野菜が温室で採れるので、付け合わせが増えたのだ。突然の帰宅でもこの量なら、いつも同じように食べているのだろと安心する。そう言えば弟達エンジェルも少しふっくらとしていた。抱き心地アップだよ。ムフフ


 土曜の午前中は、弟達と勉強だ。それと温室で野菜の手入れも一緒にする。ナシウスには運動も必要だからね。

「スイーツを焼こう!」昼食が終わり、使用人達も食べ終わった頃を見計らい半地下の台所へ向かうけど、手前の女中部屋のメアリーに捕まった。

「お嬢様、台所になど」と止めるが、私には王妃様が付いている。

「王妃様に母と作ったおやつを弟達に食べさせる約束をしたのよ。だから、約束を果たさなくてはね」

 「王妃様が……」メアリーが唖然としている間に台所に入る。台所も無駄に広い。家族4人、召使い4人の料理には広すぎるね。

「エバ、王妃様から卵やバターや砂糖や生クリームを頂いたの。弟達にお母様に教えて頂いたオヤツを作ってあげるのよ」

 とは言え、ペイシェンスも幼かったので記憶は曖昧だ。薄いオヤキというかパンケーキっぽいのを焼いているボヤけた感じしか無い。

「パンケーキを焼くわ」

 異世界の調理道具には慣れてないので、先ずは記憶に残っているし、簡単なパンケーキにする。

「お嬢様、パンケーキとは何ですか? それとどうやって作るのでしょう」

 料理人のエバを無視する事はできない。あんなに苦労を掛けたのだ。それに私の記憶にあるスイーツをこれからも再現してもらう必要がある。

「卵をといて、牛乳を入れて、砂糖と小麦粉を入れて混ぜて、フライパンで焼くだけよ」

 そう、道具がどこにあるのかも知らないんだよね。

 結局、エバに指示を出しながらパンケーキを焼く。

「ふくらし粉、あるかしら? 無いなら、卵を泡立てて……泡立て器はあるの?」

「泡立て器、前はあったのですが……」

 壊れて以来買っていないとエバは悲しそうに首を横に振る。

「大丈夫よ。生活魔法で泡立てるから」

 一瞬で卵の白身はふんわりと泡立った。

「まぁ、便利な魔法ですね」

 そう、スイーツ作りは泡立てる事が多い。生活魔法は便利だよ。

「フライパンにバターを1欠片入れて、溶けたらパンケーキ液をオタマに1すくい」

 火は火傷でもしたらと、メアリーに止められたので、エバに指示をしながら焼いて貰う。

「表面にぷつぷつ穴がいっぱいになったら、ひっくり返すのよ」

 良い香りが台所に満ちる。

「これに、バターと蜂蜜は無いから、砂糖を少しふって出来上がり。生クリームを泡立てたのを添えても良いわね。お茶にしましょう」

 生クリームを少し泡立ててエバに渡す。お茶の習慣はグレンジャー家では節約されていたが、今日は復活させたい。

 ワイヤットに父親にもお茶をすると伝えて貰う。

「お茶でしたら、食堂ではなく応接室が相応しいですね。暖炉に火を入れておきましょう」

 応接室も修復済みで良かった。4人でパンケーキと薄いお茶を飲む。

「お姉様、とても美味しいです」

「うん、美味しい」

 「ヘンリー、ほっぺに生クリームが付いてますよ」拭いてあげる。

 父親も美味しそうに食べている。一家団欒だね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペイシェンスにとってはお母様との思い出なのだけれど。 弟たちにとっては母が食べさせてくれた事、小さくて多分覚えていないから『姉が作ってくれた母のパンケーキ』となってしまうのでしょうが、それで…
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