参加するなら?
一応、剣の基本的な使い方を教わったから、私はこれで良い。
「後の魔法の乗せ方はゲイツ様から教わりますわ。庭に被害が出ると困りますから」
パーシバルと弟達は頷いている。白い花の咲く木が酷い事になったのを見ているからね。
「そんなに威力があるのですか?」
ああ、ユージーヌ卿は興味津々だ。
「この剣が凄いのですよ」と言ったら、目が真剣になる。
えっ、ここでは駄目だよ!
「騎士団の練習場なら思いっきり魔法を乗せても大丈夫なのだが……」
ははは、サリエス卿もやってみたいのかも?
今度は、ユージーヌ卿も練習に加わって、ヘンリーのスピードのある剣を楽しそうに躱している。
パーシバルはナシウスと練習しているから、私とサリエス卿は見学だ。
「あのう、冬の魔物討伐で不便な事はありませんか? もし参加するのでしたら、少しでも改善したいのです」
サリエス卿は腕を組んで考えていた。
「遠征の時は、不便な事ばかりだからな。それに、そのくらいは皆も覚悟しているだろう」
ああ、体育会系の考え方だ。
「あのう、女性のテントは別にあるのでしょうか?」
これ、聞きたかったんだよ。
「勿論だ! 風紀が乱れると困るからな」
良かった! サリエス卿に詳しく訊こう。
「騎士団のテント、魔法使いのテント、学生達のテント、冒険者達のテントがある」
なるほど、それで? ええっ、それでおしまいなの?
説明下手だよ!
「あのう、騎士の方は従者を連れて行かれるのですよね?」
当たり前だと頷いている。
「私は、侍女を連れて行くのですが、大丈夫でしょうか?」
サリエス卿が困って頭を掻いている。
「ユージーヌ卿に訊いた方が良いな!」
そうだね! 質問する相手を間違えていたよ。
「ペイシェンス様は、どの団体に属するのでしょう?」
ううん? 王立学園の学生かな?
「ゲイツ様の馬車に乗るのでしょう?」
パーシバルは、よく覚えているね。
「なら、魔法使いですね。彼方は、かなり自由ですから、侍女を連れて行っても大丈夫でしょう。騎士は主人の世話も戦闘もできる従者を連れて行きます」
へぇ、従者は戦闘もできないといけないんだ。
「まぁ、ゲイツ様の側ならペイシェンス様も大丈夫でしょう。誰も文句を言わないでしょうし、侍女にもちょっかいを出したりしません」
ええっ、パーシバル、そんな感じなの? メアリー、危険じゃないかな?
「ははは、ゲイツ様はゲストに指一本触らせたりしない。それに誰もそんな恐ろしい事はしないだろう。去年はビッグボアだけで100頭以上討伐されていたからな」
小屋みたいなビッグボアが100頭! そりゃ、冬中魔物の肉が食べられる筈だよ。
「へぇ、凄いんですね」
私の感想に、サリエス卿、ユージーヌ卿が呆れている。
「王宮魔法師だからな。ローレンス王国で一番強いのは明らかだ」
「魔法使いは、騎士より強いのですか?」
私の疑問に、3人の激論になった。
「私でも、下級王宮魔法使いには勝てると思います」
パーシバルが先ず発言した。
「いや、上級王宮魔法使い1人なら勝てるぞ!」
サリエス卿が吠える。
「下級王宮魔法使いなら、3人纏めて相手できます!」
ユージーヌ卿も、なかなか言うね!
「なら、ゲイツ様にも何人か纏まれば勝てますね?」
えっ、全員が酢を飲んだような顔になっているよ。
「ははは、無茶を言ってはいけない。だが、今年こそは討伐数を魔法使いチームよりも多くしたい」
オー! とユージーヌ卿も気合を入れている。
「学生チームも負けませんよ。こちらはロマノ大学との混合チームですからね」
学生会長だからパーシバルも気合入っているね。
「私は、王立学園に属していますから、応援しますわ」
だって婚約ほやほやだもの! パーシバルを応援するのは当たり前だよね。
「では、学生チームにあのマットレスをお願いします。睡眠をちゃんと取れると、次の日の討伐が捗りますから」
何人ぐらい要るのかな?
「何個、必要でしょう?」
パーシバルは、去年は180人参加したと答えた。
「中等科の騎士コース全員と魔法使いコースの有志ですね。女学生は何人ですか?」
指を折りながら数える、前に言っていたカミラやアリエッタと数人の騎士コースと魔法使いコースの女学生だ。
「まだ参加募集を打ち切ってはいませんが、女学生は10人以上にはならないと思います」
ユージーヌ卿は、女子騎士コースの学生の引率をするみたい。
「カミラやアリエッタは良いけど、他の騎士コースの女学生は討伐に参加するのは早いのではないか? 足手纏いになったら危険だ」
パーシバルも難しい顔をしている。
「ユージーヌ卿が足手纏いだと感じたら、キャンプに残して、解体や雑事をさせて下さい。それも、騎士見習いならしなくてはいけない事ですから」
それなら、一番の足手纏いは私に決定だよ。
「私もキャンプで、雑事をしても良いのですが……」
全員が溜息をつく。
「それなら討伐に参加する意味がありませんよね。絶対にゲイツ様から離れないと約束して下さい。彼の横なら、何があっても大丈夫だと安心できます」
魔法使いコースの討伐に参加する女学生の心配は誰もしないの?
「あのう、魔法使いコースの女学生の引率は誰がされるのでしょう?」
パーシバルも、上級魔法使いの誰かだろうと知らないみたい。
「ペイシェンス、魔法使いコースで参加しようなんて考える女学生は、戦闘狂だから心配しなくても良い。あまり、近寄るなよ。ヒャッハーと魔法を飛ばしまくるからな」
全員が頷いている。そういうタイプが参加するんだね。同じテントでやっていけるかな?
「まぁ、ある意味では騎士コースの腕がイマイチな女学生よりは役に立つ。ああ、少し揉んでやらないといけない!」
ユージーヌ卿、そう言う感じの人なんだ。さっきは優しく剣の握り方から教えてくれていたのに……。
「ユージーヌ卿、程々に!」
サリエス卿が注意しているよ。あら、2人でいちゃいちゃしている。
工房で箱に入れていたマットレスを出して膨らませる。
ナシウスとヘンリーが張り切って膨らませてくれたよ。
「ああ、これなら持って行くのも簡単だし、寝心地も良い」
欲しそうなサリエス卿とユージーヌ卿には、プレゼントしよう。
「こちらのシュラフは、暖かいですね」
パーシバルにはちょうど良い大きさだけど、サリエス卿には少し小さいかも?
「騎士団の方は体格が良い人が多いのですか?」
サリエス卿は、普通みたい。もっと大きな人もいるって事だね。
「では、このサイズと、大きなサイズが必要なのですね。これは、今年の討伐には少ししか作れないかもしれませんわ」
ミシンがまだ出来上がっていないからね。手縫いだと数は作れない。
「パーシバル様、サリエス卿、ユージーヌ卿のは作りますから、安心して下さい」
マットレスは、やはり分厚い方が良いと全員が言った。
「マットレスは、学生チームのは全員分できそうです。騎士団チームのは、早い者勝ちになりそうですね」
午後からバーンズ公爵と要相談だ。
午後からバーンズ公爵家に行くから、少し早めの昼食にする。
今日のメインは、チーズフォンデュだ。小さい一人鍋を各人の前にワイヤットとジョージがセットしていく。
「まぁ、変わった料理ですね」
少し肌寒くなったから、あったかい料理は美味しいよね。
「パーシバルは幸せだな。ペイシェンスは料理が上手いから」
サリエス卿、その発言は拙いのでは? と心配したけど、ユージーヌ卿は気にしていない。
「ペイシェンス様の料理を毎日食べたいです」
ああ、グラッとくるほど漢気があるよ。
「ユージーヌ卿には負けそうです。私の婚約者を誘惑しないで下さい」
パーシバルも笑っている。
パン、ニンジン、ソーセージ、蕪、ジャガイモを、スティックに刺して、チーズを絡めて食べる。
「ペイシェンス、これは初めて食べるよ」
父親も驚いている。
「お姉様、とても美味しいですね」
ナシウスのは、ソーセージ多めにしてもらっているけど、ほぼ無くなっている。
ヘンリーも黙ってほぼ完食だ。
「やはり、冬の魔物討伐で肉をゲットしますわ」
パーシバルが「ほどほどにして下さい」と心配そうだ。
「えええ、ペイシェンスが冬の魔物討伐に参加するのか?」
ああ、父親に報告するのを忘れていたよ。
「ええ、ゲイツ様から攻撃魔法の実地訓練をした方が良いと誘われたのです」
ここに来て、反対されるのかも。なら、行かなくて良いのかもね?
「そうなのか? 私は魔法使いについては、王立学園で魔法実技と魔法学で得た知識しかない。王宮魔法師のゲイツ様が、そう言われるのなら、そうなのだろう。だが、くれぐれも気をつけるのだぞ」
やはり、放任主義だよ。これって、参加決定なのかな?
「何かお困りの事があれば、私に言ってください」
やはり、ユージーヌ卿は、ハンサムウーマンだね。
「ユージーヌ卿、ペイシェンス様は私の婚約者ですからね」
パーシバルの一言で、全員が笑った。
デザートのブラウニーのアイスクリーム添えは、皆が絶賛してくれたよ。
「これは、本当に美味しいな。私も、ペイシェンスの料理を毎日食べたいよ」
サリエス卿に、パーシバルが「いつでもお越し下さい」なんてふざけて言っている。
それって、新婚家庭みたいだよ! 少し頬が赤くなっちゃった。