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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第四章 中等科一年の秋学期
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輸出する物

 港近くまで歩く。ここら辺は倉庫街みたい。

「あれらがガラスの倉庫ですね。見てみますか?」

 ちらりと見たけど、大きな木の箱、コンテナにガラスが詰まっているだけだ。

 その中には藁やモミの梱包材が詰まっているのだろう。

 前世のプチプチを思い出したけど、作る価値があるのかな? カエサル部長と要相談だ!

「ここは、良いでしょう」

 パーシバルも、ここを見学しても得るものはなさそうだと思ったみたい。資料だけで十分だね。


「彼方が魔道具の店みたいですね! バーンズ商会がサティスフォードにも支店を作ってくれたのです」

 何軒か魔道具の店が並んでいるけど、バーンズ商会の店の前には護衛が立っている。高価な品物だからかな?

「へぇ、バーンズ商会は王都ロマノと領地にしか店舗はないと思っていたが……」

 ラッセルは詳しいみたい。

「ええ、このところカカオ豆やスパイスや魔石の購入が多くて、地元の商店から購入する為と、魔道具などを販売する支店を開設して下さったのです」

 それは他の店に影響しないかな? 大手のスーパーが進出して、地元の商店街がシャッター街になるのって前世では問題だったよ。

「サティスフォード子爵は、バーンズ商会が支店を開設するのに反対はされなかったのですか?」

 パーシバルは、すぐに問題に気づいたみたいだね。ラッセルとフィリップスもハッとしている。

「ええ、それについては地元の商店主からも陳情がありました。香辛料などは、当分の間は地元の店から購入してくれるそうです。まだ、品の良し悪しとか価格は勉強中だからと言われましたが……」

 領主としたら、バーンズ商会からの税金収入は大きいから逃したくないだろう。でも、地元の商店も保護したい。難しいね!

「いずれはバーンズ商会が南の大陸からの船と直接交渉しそうですね」

 フィリップスも問題に気づいたみたい。安価なスパイスを手に入れるには直接取引の方が良いけど……どうなるのかな?

「バーンズ公爵と面会する機会を得た時に、私なりに地元の商店の保護についても話したつもりです。あの御方は、ローレンス王国の全体の経済の底上げを考えておられます。だから、商店主を圧迫する気はないと言われたのですが……」

 その約束がいつまで保たれるのか少し不安なようだ。

「バーンズ公爵は、信頼には信頼で返す御方だと思いますわ」

 まぁ、もうすぐ12歳の子供の評価だけどね。

「バーンズ公爵と面識のあるペイシェンス様にそう言って貰えると、この判断が間違いではなかった気がします」

 満足そうに頷くと、バーンズ商会の支店に向かう。自分の決断が間違いではなかったと信じることにしたようだ。


「サティスフォード子爵様、今日は何か御用でしょうか?」

 護衛も領主が一緒だし、パーシバルやラッセルやフィリップスの身なりも立派だから、何も聞かずにドアを開けてくれた。まぁ、一応、私も貴族の令嬢の格好だしね!

「ああ、エバンズ。今日は王立学園の学生達を案内しているのです。ローレンス王国からの輸出品を見せて下さい」

 まだ、バーンズ商会はスパイスの買取は控えているみたいだね。

「こちらの魔導灯は一番人気ですが、新製品のカッパも人気急上昇中です」

 ああ、もう夏休みに作ったフロートと同じ素材の商品が並んでいるよ。

 王都のバーンズ商会にチェックしに行く暇も無かったんだ。

「これは……」

 フィリップスは、海水浴でフロートやボディボードで遊んだから、すぐに気がついたようだ。

 目配せしたら、口を閉じてくれた。フィリップスは勘が良いから楽だね。

「これは、王都のエクセルシウス・ファブリカが開発した新製品の数々なのです。私としては、カッパは冬の寒い地方で雪除けに良いかと思っていたのですが、パウエル支配人は航海にも便利だろうと言われたのです」

 航海に便利な救命胴衣、浮き輪、ゴムならぬスライム長靴、スライムカッパ。大きい物では救命ボートも置いてある。

 撥水加工された布は巻いて何本も立てかけてある。

 夏休み、色々と作ったなと自分でも感心するよ。

「それと、王都のバーンズ商会でも引き受けていますが、マントやコートの撥水加工も好評です」

 ウハウハが止まらない様子のエバンズ支店長だ。

「魔道具は魔導灯が多いみたいですね」

 ラッセルの質問に、エバンズ支店長は肩を竦める。

「南の大陸ではまだ魔道具は普及していませんからね。でも、蝋燭よりは魔導灯の方が便利だから少しずつ広がっています」

 それにしても、本当に基本的な魔導灯だけだ。カンテラタイプというか、錬金術1で組み立てた簡単で大量生産されている物だ。

「他の店では違うタイプの魔導灯も販売しているようですが、バーンズ商会ではこのタイプですね」

 サティスフォード子爵が質問している。

 私は、自社工場を持っているのかもしれないと思った。

 今度、バーンズ公爵と話す時に聞いてみたいな。

 あっ、それか他の地元商店の保護かな? エクセルシウス・ファブリカの商品は、ここにしかないからね。

 店の隅に私が考案した湯たんぽと糸通しが置いてあった。

「湯たんぽも、これからの季節はよく売れそうですが、南の大陸では必要ないかもしれませんね」

 それより、糸通しの置き場が悪すぎるよ。エバンズ支店長は、必要性をあまり理解していないのかも?


 中を見て回っているうちに、客が入ってきた。

「これは、ドロースス船長!」

 こちらに目礼して、子爵が許可したので、いそいそとエバンズ支店長は、日焼けしたドロースス船長の元へと急ぐ。

 船長っていうより、片目眼帯のせいで海賊っぽい風貌だけど、横の甲板長にメモを渡すように指示している。見た目より、商売熱心みたいだ。

「いつもの魔導灯以外の新製品を紹介して欲しい」

 エバンズ支店長が新製品の説明をしている。

「この撥水加工した布の製品は全て貰おう。南の大陸はもうすぐ雨期だ。荷物の運搬に便利だろう」

 即決だね! 

「こちらの金物は何だ?」

 目が良いね!

「こちらは、ローレンス王国では好評な湯たんぽでございます。夜、お湯を入れてカバーしたのを布団の中に置いておけば、暖かく眠れます。そして、朝はそのお湯で顔も洗えるのです」

 南の大陸は、暑いと聞いているから必要ないかな?

「航海中は寒いから、10個ほど貰って試してみよう。そうだ、砂漠の夜は冷えると聞いた。100個買おう!」

 砂漠かぁ! キャラバンとかあるのかな?

「これは、何だ?」

 湯たんぽの横、隅に置いてあった糸通しにも目を付けた。

「ああ、これは糸を針に通す道具です。王都ロマノでは評判が良いみたいですよ」

 一応は説明しているけど、エバンズ支店長はどれだけ便利な道具なのか理解していない。それでは伝わらないよ!

「針仕事をする人にはとっても便利な道具ですのよ!」

 横からだけど、口を挟んでしまった。

「おや、小さなお嬢さんは使っているのかな?」

 サッとパーシバルとフィリップスとラッセルが私とドロースス船長の間に入る。

「おや、騎士がいっぱいだ!」

 面白そうに笑う。エバンズ支店長は、得意先のドロースス船長と領主の客人とが揉めるのではと冷や汗をかいている。

「針仕事をする人達の為にこの糸通しは作られたのです。それにバーンズ公爵は、作った人の意図をよく理解して、とても安価で販売して下さっていますわ」

 甲板長は、糸通しを手に取って、ふむふむと頷いていた。

「船長、これは優れ物です。南の大陸でも、コルドバ王国でも、針仕事をする女の人はいっぱいいます」

 ガハハ……と笑ったドロースス船長は「糸通しを全部買う!」と言った。

「そこのお嬢さん、貴女は偉い人になるよ。こんなに小さい頃から、貧しい女の人の事を考えられるのだから。もう少し大きくなったら、私の船に乗せてあげよう! 名前は何て言うのだ?」

 横で聞いていたサティスフォード子爵が、エバンズ支店長にドロースス船長は信頼できるのかと目で尋ねる。

「ドロースス船長は、コルドバ王国の商船隊を率いておられます。一番大きな商船、エルドラの船長で、今年からサティスフォード港にも寄港されるようになりました」

 それを聞いてから、サティスフォード子爵は名乗る。変な相手にいちいち領主が名乗る必要は無いからね。

「ドロースス船長、私はこの地を治めているパトリック・サティスフォードです。先程、話をしたのは私の妻の従姉妹のペイシェンス・グレンジャー女準男爵(バロネテス)です」

 ドロースス船長の片目がキラリと光った。

「そうか、もう女準男爵(バロネテス)に叙されているのか。では、先程は失礼しました」

 サッと片膝を突くと、私の手を取って触れるかどうかのキスをした。

 パーシバル達が、ハッとしている。その所作は一介の商船の船長ではない。

「貴方はもしかして!」

 パーシバルは、何か気がついたみたい。でも、ドロースス船長が残った青い目をウィンクして黙らせた。後で聞こう!


 狡猾(ドロースス)だなんて、怪しいよね。偽名っぽい。 

 なんて考えていたのに、港から馬車までの露天で、キャッサバやコーヒーやパイナップルを見つけて、馬車に戻るまで忘れていたよ。

 だって、キャッサバが有れば、あの大好きだったタピオカミルクティーが飲めるんだもん! 夏は、あれがないとね。もう、秋だけどさ。太いストローも作らなきゃ!

 それにコーヒー! 紅茶も好きだけど、コーヒーも大好きなんだよ。

 食欲に負けるのは良くないよね。


「パーシバル様は、あのドロースス船長の正体をご存知のようでしたね」

 馬車に乗った途端、サティスフォード子爵の方が先に質問している。自領に寄港している船長の正体だもの気になるよね。

「いえ、私の推察が当たっているかどうか? ただ、コルドバ王国海軍のイオネオス・グランド提督ではないかと思ったのです。リバイアサンとの戦いで左目を負傷され、退官されたと聞いていましたから」

 その話通りなら、勇敢(イオネオス)って名前に相応しいけど、リバイアサンなんて本当にいるんだ! ヘンリーは海軍には入って欲しくないよ!


「そうか、海軍を退官されて商船隊を率いられているのか!」

 サティスフォード子爵とラッセルとフィリップスは、退官した時の報奨金が凄かったのだろうと騒いでいたが、パーシバルは黙っている。

「今年からサティスフォードに寄港されるようになったのは……」

 私がソッと呟いた言葉に、パーシバルは頷いた。やはり、自国のリュミエラ王女が他国に嫁ぐのを心配しているのかな? それとも何か他の訳でもあるのかな? 

「ペイシェンス様、本当に気をつけて下さいね。確かグランド将軍は独身だと記憶していますから」

 ハハハ……それは無いよ。ドロースス船長は、身のこなしはダンディだけど、ショタコンの私の守備範囲外だからね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ペイシェンスはやっぱりあほの子なんだなぁ…自分が守備範囲外でも相手が守備範囲内だと思ったら縁談は来るのよ?断れない相手だったらどうするのさ(;・∀・) ペイシェンスの危機管理意識を育て…
[気になる点] ペイシェンスが作る太めストロー、2022年の現実の日本で売り出したらヒット商品になりそう←これは虚構なお話と忘れている読者 [一言] 更新楽しみにしています。
[一言] 毎日楽しく読ませてもらってます(^ν^) ペイシェンスは相変わらずのお転婆ぶり。 自分が考案した物が商品になり、そしてたくさん売れてるのを見たらテンション上がりますよね。(おまけにチョコレ…
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