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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第四章 中等科一年の秋学期

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カルディナ街の養鶏場

 一時間半の授業が終わったので、女官が2回目のお茶とお菓子を持ってきた。

「ゲイツ様は、陛下に養鶏場の浄化をする様にと進言されたのですね。立派ですわ」

 私の褒め言葉に「まあね!」と興味無さそうな返事をする。

 仕事関係の褒め言葉にはうんざりしているみたいだね。

「それで、教会の奴等が真面目に浄化してくれれば良いのですがね。そうだ、私とペイシェンス様で養鶏場の浄化を調査しませんか? サボっている証拠を、偉そうなモンタギュー司教に突きつけてやるのです」

 それは、しなくてはいけない事だとは思うけど、私は目立ってはいけないんじゃないの?

「ゲイツ様!」やはり、サリンジャーさんに叱られたよ。

 あれっ、何かが引っかかった。

 何だろう? 教会は養鶏場の浄化をする。それは、そうだけど……!

「あのう、教会が浄化する養鶏場はエステナ教徒が運営している所だけなのでしょうか?」

 ゲイツ様は、優雅に手に持って飲んでいたティーカップとソーサーを机に置いた。

「あああ、そうだ! ロマノにはカルディナ街がある。あいつらは、異教徒の養鶏場までは浄化しないだろう!」

 何かがずっと引っかかっていたのだ。サリンジャーさんも真剣な顔になった。

「それは拙いですよ! ロマノで流行病だなんて困ります。それに、カルディナ街の迫害理由になるのも問題です」

 ゲイツ様も「教会の奴等は、異教徒達のカルディナ街を前から潰そうとしていたからな」と頷く。

「ペイシェンス様、私とカルディナ街の養鶏場の浄化に回りましょう。次回からは、生活魔法の使い手を派遣しますが、急がなくてはいけません」

 まだ暑いけど、いつ寒波が来るのかわからないのだ。

 それに、カルディナ街から流行病が発生したりしたら、あの人口密度は怖い。

 あっという間に大流行しそうだ。そして、近くの下町に広がりそう。

「カルディナ街の養鶏場は何軒あるのでしょう?」

 サリンジャーさんが調べに行った。


「ふふふ……ペイシェンス様とカルディナ街へお出かけですね!」

 流行病を防ぐ為だよ! でも、あの高級茶店には行っても良いかもね。

「三軒ほど登録されていますが、小さな個人の養鶏場までは分かりませんね。ローレンス王国ほどは、カルディナ帝国では養鶏場の浄化を重視していないでしょうから」

 それとサリンジャーさんは黒いローブを二枚持ってきた。

「これをペイシェンス様と侍女は羽織って下さい。ゲイツ様のお供の下級王宮魔法使いに見えるでしょう」

 メアリーはピッタリだったけど、私にはダボダボだ。

 ベルトをキツく締めて、ブラウジングさせる。格好が悪いけど、そうしないと引きずっちゃうんだもん! 

 サリンジャーさんも付いてくるつもりなのか、いつもは羽織っていない黒いローブを着ている。

「えええ、お前も付いてくるのか?」

 ゲイツ様も、部屋の隅のコート掛けから黒いローブを羽織りながら、嫌な顔をする。

 もしかして、私が高級茶店の事を考えていたのがわかったのかも。本当に困るよ!

「私は、ゲイツ様の副官ですから、当たり前です。それにカルディナ街から戻って来ないと困りますからね」

 あらら、高級茶店は無理みたいだね。


 ゲイツ様の馬車でカルディナ街に向かうけど、護衛のグレアムは馬丁の横に乗っている。

 それに、他にも王宮の護衛が馬車の前後を馬で走っている。ゲイツ様って、本当に偉い人なんだね。

 この前、モラン伯爵家の馬丁が馬車を預けた領事館に着いた。

「カルディナ帝国の領事はいるか?」

 サリンジャーさんが話をつけるみたい。ゲイツ様は、楽しいお出かけが、真面目な仕事に代わって少し不機嫌そうだ。

「これは、王宮魔法師のゲイツ様が、粗末な領事館までお越しとは、何事でしょう」

 カルディナ帝国の領事は、驚いている筈なのに、まるで日常茶飯事のように落ち着いた素振りだ。狸だね!

 ゲイツ様はうんざりした様子で黙っているので、サリンジャーさんが説明する。

「ローレンス王国の養鶏場建設の許可が難しいとは聞いていましたが、流行病の原因になったからだとは知りませんでした。カルディナ帝国でも養鶏場は清潔にするようにとの皇帝陛下からのお言葉がありますが、それを忠実に守っているとは言えません。我が国の導師にも気をつけさせます」

 ああ、まだ真剣には受け止めていないみたいだね。ゲイツ様が怒っているよ!

「前の流行病の時に、先代の国王陛下御夫妻が亡くなられたのだ。その時の気候に今年はよく似ている。教会にも浄化を強化するように陛下も言われたが、カルディナ街を護りたいなら、これから私が浄化するのを邪魔しないで欲しい。それと、今後は定期的に浄化させるし、その費用は領事館に送るから支払うように」

 サリンジャーさんが、領事に登録された三軒以外の個人の養鶏場を調べているのか? と質問する。

「カルディナ帝国では、個人で鶏を飼うのは合法ですから……」

 ああ、駄目だ! ピキッとゲイツ様の堪忍袋の緒が切れる音がするよ。

「では、無許可で飼われている全ての鶏を殺すしかないな!」

 領事が反論しかけたが、諦めた。

 流行病の発生地になって、風評被害でカルディナ帝国人が殺されるより、個人が無許可で飼っている鶏が殺される方が百倍マシなのだ。

 だが、しぶとい!

「少し時間を下さい。無許可の鶏を提出させます。我が国の民は、金勘定にうるさい。鶏が殺されたら、怒ります」

 ふうん、まだ領事は流行病の怖さをわかっていないみたいだ。

「死んだ鶏の賠償は、領事館がしたければ、すれば良い。元々、違法なのだ。ここはローレンス王国なのだから、その法律に従って貰う」

 サリンジャーさんも、言う時はビシッと言うね。

「まぁ、そういう事になりますな」と領事も諦めた。

 このしぶとさ、私にあるかな? 外交官に向いていないかも?


 先ずは登録されている3軒の養鶏場を浄化して回る。2軒は、まぁ、マシだったけど、最後の1軒は酷かった。これは良くないよ!

「皇帝陛下も養鶏場を清潔に保つようにと仰られているのに、何というザマだ!」

 領事は、自国民には厳しいね! 

 青褪めた養鶏場の人達は土下座して、頭を土に付けている。

「鶏の住まいを綺麗にし、病の素を断て!」

 ゲイツ様の詠唱も短くなったね。うんざりしたのかも?


「許可を得た養鶏場がこの様なら、無許可で飼っている所は駄目ですね」

 不機嫌なゲイツ様の代わりに、サリンジャーさんが文句を言う。

「ですが、どうやって無許可の養鶏場を探すのでしょう」

 領事を冷たい目で見たゲイツ様は、初めて会った時の傲慢さ全開だよ。

「それを、其方に教える必要は無い。今後、無許可で鶏を飼わないように徹底するのが、其方の仕事だ」

 ビビっている領事を置き去りにして、カルディナ街のメインストリートに出る。


「ペイシェンス様は無許可の養鶏場が分かりますか?」

 えええ、そんなのわからないよね?

「ふふふ、よく見て下さい。ペイシェンス様の探索魔法の応用ですよ」

 ああっ、真似っ子だ! ソナーを飛ばしているよ。それと、鶏の居場所にマーカーを付けている。

 やっと追いついた領事は、カルディナ街のあちこちに付いた真っ赤な丸いマーカーに驚いている。

「殺すのも面倒ですから、そちらで集めて処理して下さい。うっかり鶏以外も殺したら、国際問題になりそうですからね。言っておきますが、今度カルディナ街に来た時に、無許可の養鶏場があったら、街ごと焼き払いたくなるかもしれません」

 それこそ国際問題になっちゃうよ!

 あれれ、私が一緒に来る理由なんか無かったんじゃないの? 

 なんて考えていたら、領事が脅しに怯えたのか、領事館の武官をマーカーの場所に急がしている間に、とっても厄介な課題を貰ったよ。


「鶏は集めても、養鶏場は汚いままでしょう。ペイシェンス様の生活魔法なら、浄化できます」

 えええ、ゲイツ様がしたら良いじゃん!

「浄化は、ペイシェンス様の方が上手いですよ。それに、今日は浄化をいっぱいしましたからね」

 一個ずつマーカーのある場所に「綺麗になれ!」と掛けていく。

 途中から丸いマーカーを見つけるための移動が面倒になって「マーカーの場所、綺麗になれ!」と唱えたら、強烈に汚い場所があったのか、魔力がグングン吸い取られたよ。

 メアリーが支えてくれて助かった。


「領事、疲れたから、そこの茶店でお茶をします。浄化の手間賃ですから、代金はそちら持ちで良いですよね!」

 領事は、街を焼くと脅されたのが忘れられないのか、黙って頷いている。

 ゲイツ様はお金に興味が無い割には、せこいね! 

 サリンジャーさんは、私が魔力を使い過ぎたのを察したのか、休憩を認めたよ。


「さて、茶店にはどんなお菓子があるのでしょうね! ペイシェンス様は来たことがあるみたいですね」

 やはり、考えがダダ漏れは困るよ! 

 金には興味が無いけど、美味しいものには興味があるんだね! 

 夕食が食べられない程、食べちゃった。

 だって、横でゲイツ様が次々と追加注文するんだもん。釣られちゃうよね!

 ハッと我に帰る。外は暗くなっている。時計がやはり必要だよ。

「あああ、しまった! 音楽クラブだったのだわ」

 マーガレット王女に叱られる! 

 困っている私に、ゲイツ様が亀ゼリー、梅ゼリー、胡麻団子、青梅の甘露煮、ピリ辛海老春巻きなどの詰め合わせをお土産にくれたよ。領事館つけだけどね。


「ペイシェンス、音楽クラブをサボったわね!」

 綺麗な黒い箱にびっしり詰められた異国のスイーツに、マーガレット王女の怒りは解けた。

「まぁ、ゲイツ様のお供なら仕方ありませんわ。それに流行病の予防ですからね!」

 リュミエラ王女と一緒にスイーツを摘んでいる。

 今日はお茶もカルディナ帝国の烏龍茶だよ。

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― 新着の感想 ―
他国と頻繁に流通してるのだから国内だけどうこうじゃ解決しないと思う
[良い点] いつも更新沢山ありがとうございます。さくさく進む日常が好きです。 数日貯めてから読むのを楽しみにしています。 [気になる点] 王女様の王族意識のなさが気になります… 国の為の仕事をしてき…
[良い点] 更新お疲れ様です。 サリンジャーさんは流石という感じですが、なんやかんやでゲイツ氏もペイシェンスの将来的に見習う点は有りそうですね。今回みたく相手の領域にガッツリ踏み込んで交渉する二人の…
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