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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第四章 中等科一年の秋学期

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月曜は準備!

 月曜、ホームルームでフィリップスとラッセルからサティスフォード行きについて話しかけられた。やれやれ、これは決定みたいだね。

「サティスフォードには行ったことがないのだ」

 ラッセルがはしゃいだ声を出す。シーッ、シーッって言いたくなるよ。

 他の文官コースの学生まで一緒なのは避けたいからね。集団社会見学になっちゃう。

「あまり大勢になるとサティスフォード子爵に迷惑を掛けますわ」内緒だよと約束させる。

「ペイシェンス嬢、夏休みに続いてご親戚のお宅にお邪魔することになって、申し訳ない気持ちです」

 フィリップスにサティスフォード子爵家では港に着いた貴族の接待に慣れていると教える。

「そうなんですね。少し気が楽になりました」

 ラッセルは、全く気にしていないね。貴族は助け合うものだと思っているのかな? それか、親同士が知り合いなのかも? 

 私は貴族同士の繋がりも全く知らないんだ。グレンジャー家は、やっと親戚と付き合いだしたばかりだからね。

「父とサティスフォード子爵は同じ乗馬クラブ出身なのだ」

 ああ、そういう繋がりもあるんだね。前世でもクラブのOB会とかあったよ。

「そうか……父は読書クラブだからなぁ」とフィリップスはガッカリしている。

「まぁ、ナシウスの大先輩になるのですね」と言ったら、喜んでいたよ。

「それに、ナシウス君は私と同じ歴史研究クラブにも属しますからね!」

 その件については、錬金術クラブメンバーは文句を付けたいみたいだけど、本人の好きなクラブを選べば良いと思う。

 まして、OBになっても付き合いが続くなら余計にね!


 外交学2では、フォッチナー先生が基本的な貿易交渉について授業した。関税の問題は前世でもあったけど、異世界でも大問題みたいだね。

「課題でも関税は問題になるだろうが、ここでは今の税率で討論してもらう。関税率まで討論していたら、来年になっても終わらないだろうからな」

 パーシバルとフィリップスが眉を顰めた。そこを攻めるつもりだったのかも? 

 遠方のカルディナ帝国からも色々な物が輸入されているのは、昨日のカルディナ街の見学で分かった。

 でも、ローレンス王国からの輸出品は何だろう? 小麦とかは、ソニア王国からの方が近いよね。

 やはり魔道具かな? 魔道具とかは単価が高いから、関税も高くしやすい気がするよ。そこを攻めたい気持ちは理解できる。一つ手を封じられた気分だ。

「フォッチナー先生、それではカルディナ帝国側が不利になりませんか?」

 パーシバルが手を挙げて発言している。青組の学生からもブーイングだ。

「我が国の関税は、我が国が決める!」

 ああ、ラッセルが反論したら、赤組の学生が「そうだ! そうだ!」と尻馬に乗って騒いでいるよ。

 やれやれ、ディベートまでずっとこの調子なのかな?

「ちょっと待ってくれ。魔道具を輸入するのはカルディナ帝国側だろ? だったら、そこの関税はカルディナ帝国が決めるのではないか?」

 ああ、パーシバルの発言で、侃侃諤諤の騒動になっちゃった。

「それより、カルディナ帝国ではちゃんと特許料を支払っていないのが大問題だ! 輸入した魔道具の劣化版を作って売っている!」

 ああ、海賊版は問題だよね。それに特許料はちゃんと払って欲しいよ! 

 この件では、私はラッセル側に賛成の立場だね。ディベートでは関係無いのかもしれないけどさ。

「パン!」とフォッチナー先生が手を叩いて、静める。

「特許料の件は国際法で議論してくれ! それも外交学の一部ではあるが、この秋学期のテーマではない。脱線しないように」

 パーシバルとフィリップスは、肩を竦めている。

 海賊版の問題は、カルディナ帝国の文化面が遅れていると言われている原因の一つだ。

 それは確かに大問題だと思うけど、カルディナ帝国が文化的に遅れているとは思わない。

 私は違う文化だし、違う宗教なのだと思う。二人はそれも理解しているみたいだけど、他の学生はどうなんだろう? 

 エステナ教じゃないと未開だとか思っていないだろうか?

「カルディナ帝国の法律は、元カザリア帝国の各国の法律とは違う。それと皇帝の権力が強いから、法律より皇帝の考えが優先される場合もある。しかし、今回はそれは考えないで議論して欲しい」

 ふう、皇帝が強い権力を持っているんだね。それは住み辛いんじゃ無いかな?

「商売熱心なだけじゃないのかしら? カルディナ帝国から逃げたいのかも?」

 私がポツリと呟いた言葉に、パーシバルが興味を持ったみたい。

「そうですね。商売熱心なだけなら、カルディナ街など作って他国に住み着いたりしないかもしれません。皇帝の権力が強いと言うことは、その親族達や官僚などの権力も強いのでしょう。一度、睨まれたら住みにくいのかもしれませんね」

 フォッチナー先生がそれを聞きつけて、カルディナ帝国の権力組織についての授業になった。

 ああ、なんとはなく清王朝の組織みたいだ。

 カルディナ帝国の支配民族は、元々はその地域の民族じゃないみたい。北部の騎馬民族が、南部の農耕民族を支配しているのも似ているね。

 だから、皇帝が強い権力で元々住んでいた民族を抑え込んでいるんだ。

「世界史でもカルディナ帝国の事はサラッとしか出てきませんでした。私達がカルディナ帝国側だとすれば、もっと勉強しなくてはいけませんわ」

 私が言った言葉に、フィリップスは力強く頷く。歴史大好きだもんね。

「その通りです! 図書館で調べましょう!」

 四時間目は空いている。錬金術クラブに行きたいけど、それは放課後にしよう。

 マーガレット王女は、放課後はグリークラブだからね。それに、明日の火曜は放課後まで一日中錬金術クラブだもん。


 染色2だけど、もう染めているから織物だ。柄物をかなり頑張って織ったよ。

 それと、巨大毒蛙の皮を染められるかダービー先生に聞いたんだ。

「綺麗に染めるには、まずは漂白しなくてはいけません。薄緑色が残っていてはムラになりますからね。それと、熱に強い皮ですから、なかなか染まり難いですよ。濃い色は難しいので、綺麗に漂白して淡い色に染める方が良いと思うわ」

 出来るだけ鮮やかな色にしたいのだけど、難しいのかな? 

 前世の気球は色とりどりだったし、空に浮かんだ時に目立つ方が良い。

「赤とか青とか緑とか黄色に染めるのは無理でしょうか?」

 ダービー先生は、腕を組んで考えている。

「カルディナ帝国の布のような鮮やかな色に染めたいのです」

 カルディナ街で買った布は、ローレンス王国の布より鮮やかだ。染色方法が違うのだろうか?

「ああ、あれは素晴らしい技術ですわ。でも、絹だから鮮やかな色になるのですよ。皮だとどうしても色はくすんでしまいがちですわ」

 そうか、前世のは化学繊維だったもんね。

「皮の上に絹の生地を貼れば鮮やかになりますよ」

 ダービー先生は提案してくれたけど、大きな気球だとは知らないんだね。それに絹は熱に弱そうだから却下だ。

「皮を染めるのは難しいですけど、鮮やかな色に染められたら需要も多いと思います。ここに染料の資料が有りますから、参考にしてみたら?」

 今は、皮は鞣して薄いベージュ、茶色、焦茶。そして漂白した後に染めて、白、黒、緑、青、赤、茶色ぐらいしかないみたい。それもかなりくすんだ色だ。

「明日は錬金術クラブで一日中染物かもしれないわ」

 染料を用意したいけど、錬金術クラブには無さそう。バーンズ商会で売っているかな? 

 明日には間に合わないよね? 私がどうしようかと悩んでいたら、ダービー先生が笑っている。

「ペイシェンスは、巨大毒蛙の皮を染めたいのね。それも鮮やかな色に!」

 そうなんだけど、何かな? 無謀だと笑っているの?

「手芸クラブには漂白する溶液と染料がいっぱいあるわ。皮を鮮やかな色に染める方法を考えてくれるなら、提供するわ」

 えええ、ラッキー! 巨大毒蛙の皮は錬金術クラブで購入済みなんだよ。

「ダービー先生、お願いします。火曜は一日中フリーなので、朝一に手芸クラブに漂白剤と染料を貰いに行って良いでしょうか?」

 ダービー先生に、染め方を教える代わりに材料の提供をしてもらう事になった。

 私は染色は好きだけど、商売にしたいわけじゃ無い。趣味でちょこっとしたいだけだから、教えるのは良いんだよ。

 これで、鮮やかな色の皮が普及したら、ペンケースとか小物を作りたいな!

 

 スキップしながら図書館に向かう。鼻歌を歌いたい気分だよ。

 明日は一日中、錬金術クラブで巨大毒蛙の皮を染めるんだ!

 図書館では、パーシバルとフィリップスがカルディナ帝国の歴史を調べていた。それと現在のカルディナ帝国についてもね!

「これを纏めて、青組の皆に配った方が良いですね。歴史と現在のカルディナ帝国を知らないと、ディベートに不利ですもの」

 ノート纏めは慣れている。大まかなカルディナ帝国の歴史と現在の支配組織図、そしてローレンス王国の外務省にあたる鴻臚寺について調べて纏める。

「これをガリ版で10人分刷れば良いのね!」

 私の簡単に2枚に纏めた原稿を、フィリップスは感激して見ている。普通でしょう? 

「こんなに分かりやすい歴史図と組織図は見たことがありません! 世界史のノートといい、ペイシェンス嬢は、本当に優れた頭脳の持ち主ですね!」

 図で表すのって無いのかな? そう言えば教科書も文字ばかりだよ。ちょこっと挿絵があるだけだね。

「やはり青組の勝利の女神はペイシェンス様ですね!」

 パーシバル、そんなことを言っても何も出ないよ! ああ、チョコレートを少し持っているから、あげようかな?


 放課後は、錬金術クラブに行って、明日の準備をしたよ。カエサル部長は、手芸クラブから無償で漂白剤や染料を貰って良いものか悩んでいたけどね。

「私は染色は好きですけど、それで食べていこうとは思っていませんの。あくまで趣味の一環ですわ。だから、鮮やかに皮を染める方法が見つかれば、それを教えて、楽に手に入れる方が良いのです」

 それに、明日になれば分かると思うけど、きっと漂白剤は臭いと思うよ。苦情が出そうだから、黙っているけどね。

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― 新着の感想 ―
『明日は一日中、錬金術クラブで巨大毒蛙の皮を染めるんだ!』←ちょっとパワーワード過ぎやしないだろうか(笑) 電車の中で読んでなくて良かった・・・ いつも楽しく読ませていただいてます。
[良い点] ペイシェンスは相変わらず忙しいけど人間関係などがすごく安定してきて、無理を強いられたり嫌なことに勧誘されたりおっさんから求婚とかもなくなったし、パーシバルと関係は近いにしても恋愛面にのめり…
[良い点] 「明日は一日中、錬金術クラブで巨大毒蛙の皮を染めるんだ!」 美少女が嬉しそうにスキップしている場面なのに まさかこんなことを思ってるなんて……w ペイシェンスがイキイキしている場面が増…
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