カルディナ街を楽しもう!
カルディナ街の食料品店をきょろきょろしながら物色する。
「後は、酒類と……ああ、なんて色鮮やかなんでしょう!」
食料品の中にちょこちょこと布屋が並んでいる。その色鮮やかさに、ノックダウンだよ。
「この染色技術は素晴らしいですね」
パーシバルも驚いている。メアリーも目が釘付けだ。
「お嬢様、小物とかアクセントに良いかもしれませんわ」
これまでは黙ってついて来たのに、メアリーも興奮しているのがわかるよ。
「ええ、この生地でドレスを作るのは難しいかもしれませんが、アクセントや小物やバッグなら可愛いかも」
ああ、パーシバルとグレアムが肩を竦めている。女性の買い物が長くなりそうだと諦めたんだね。では、買うよ! ピンク、コーシャスピンク、赤、黄色、空色、濃いブルー、緑、オレンジ、エメラルドグリーン、様々な色合いの生地を少しずつ買う。
「これらを1メートル毎、お願いします」
メアリーの鼻息が荒い。興奮しているんだね。それに、私はこの色鮮やかな布にビーズ刺繍をして小さなバッグを作るつもりなんだ。メアリーも楽しんで作りそう!
「おや、まだこんな所に居たのか?」
サリエス卿が弟達と合流する。ああ、ナシウスとヘンリーが変わった革の籠手をつけている。
「もしかして、サリエス卿が買ってくださったのですか?」
お金は私が払うと言ったけど、サリエス卿に拒まれた。
「あんなマントを貰ったお礼には些少すぎるが、このくらいは買わせて下さい」
まぁ、良いのかな?
「お姉様、喉が渇きました」
ヘンリーの顔が真っ赤だ。きっと初めて見る物に興奮しているんだ。それに今年はまだ暑いからね。何処かでお茶できると良いのだけど。流石に私でも屋台で弟達に飲み食いさせる気にはならないよ。
「ここの店員に聞いてみましょう」
パーシバルに話しかけられた女性の店員は頬を赤らめて、もう少し先に高級茶店があると教えてくれた。わっ、興味が湧いてくるよ。どんな茶菓子があるんだろう!
途中の店で、干果物がいっぱいあったけど、これは後にしよう。ヘンリーやナシウスの喉の渇きを癒す方が先だよ。喉が渇いたと思った時は、もう脱水状態の始まりだからね。
「あそこですかね?」
店員が教えてくれた高級茶店は、エキゾチックな建物で、前世の台湾の九份みたいだ。人気アニメの舞台になった感じの建物だよ。
何段かの階段を上ると、スッと扉が開けられた。カルディナ帝国の服を着たドアマンが通してくれる。もしかして、客を選ぶのかしら?
「7名様ですね?」
あっ、メアリーとグレアムが首を横に振っているよ。でも、せっかくなのだから一緒にお茶をしたい。
「いや、3人と4人に分けてくれ」
パーシバルが気を使ってくれた。メアリーとグレアムを、弟達の子守りとして席に着かせるつもりだ。私は、弟達と同じテーブルが良いけど、メアリーとグレアムがお茶ができないよりはマシだね。
「こちらへどうぞ」とスマートに案内されるよ。
パーシバルとサリエス卿と私、そして弟達とメアリーとグレアムだ。
メニューは……良かった。ローレンス語とカルディナ帝国語の二つ書いてある。
「午後のお茶セットにしてみましょう。これを7つ」
パーシバルがさっさと注文してくれた。だって私だと時間がかかりそうだもんね。何が出てくるのか楽しみ!
ああ、ワゴンに乗って午後のお茶セットが運ばれて来た。この茶器は前世の中国風だね。綺麗なお姉さんがサービスしてくれる。急須に茶葉を入れて、お湯を入れ、一回捨てるのも一緒だ。
「えっ、捨てちゃうの?」ヘンリーの声が聞こえるよ。
「ええ、一回目は捨てるのです。そして二回目からのを飲むのですよ」
綺麗なお姉さんに説明されて、ヘンリーの顔が真っ赤だ。子供でも綺麗なお姉さんが好きなんだね。
色鮮やかな赤のドレスは、横のスリットから脚がチラチラ見えている。チャイナドレスだよね。とは言え、太腿までは開いていないよ。膝までだけど、ローレンス王国では成人した女性は脚を見せないからね。十分、刺激的だ。
「さぁ、どうぞ」
小さな茶器には綺麗な細密画が描いてあった。これは内職でよくやったから分かるよ。薄くて軽い。かなり高価な茶器だね。
「まぁ、とてもスッキリするわ」
南の大陸のお茶はジャスミンティーだった。こちらのは、烏龍茶っぽい。それもかなり高級茶葉なのか、金色に澄んでいる。
何回もお代わり自由みたい。茶器は小さいからね。
「こちらは、マンゴーの干物、胡麻団子、梅ゼリー、ココナッツ団子、海老煎餅、亀ゼリー、ピリ辛海老春巻き、焼豚饅です。お気に召した物は別に注文できます」
黒い木の賽の目になった容器に、小さく綺麗に並べてある。焼豚饅も二口大だよ。ヘンリーやナシウスなら一口だね。
「亀ゼリー?」
サリエス卿が変な顔をしている。
「あの巨大亀では無いと思いますよ」
パーシバルも亀は食べたいとは思わないのかな?
「まぁ、亀の肉は美味しいけどな」
やはり魔物の肉は食べるんだね! スッポンみたいな味かな? 一度しか食べた事ないんだよ。高級食材だからね。お肌プリプリになるって本当かな?
「亀ゼリーは、美容に良いと女の方に評判です」
私が食べるのを嫌がっているとお姉さんは思ったみたい。
それより、梅ゼリーだよ! ローレンス王国には梅は無い。少なくとも私は見たことが無いんだ。桜はあるのにね?
「ええ、後で頂きますわ。それと、この梅ゼリーは、梅干しで作られたのですか?」
お姉さんは、少し驚いたみたい。
「ええ、カルディナ帝国では梅干しや、青梅の甘露煮がとても人気です。これは色が可愛いので梅干しを使っています。青梅の甘露煮も用意できますよ」
それは食べたい! 私の顔を見て、パーシバルが全員分を注文してくれた。気が利く男子って好きだよ!
一口ずつお菓子を食べて、お茶を飲む。ああ、贅沢している感じだよ。それに、綺麗なお姉さんが次々とお茶を注いでくれるからね。
「この焼豚饅、とても美味しいです!」
ナシウスとヘンリーは食欲魔人だからね。サリエス卿が焼豚饅を追加注文してくれている。自分も食べたいのかもね!
青梅の甘露煮は「ああ美味しい」と溜息が出たよ。
「これは、何処かで売っていますか? お土産にしたいのですが」
カルディナ帝国人は商売熱心だ。全ての茶菓子が購入可能だった。でも、全てを買うのはやめて、リリアナ伯母様に梅ゼリーと亀ゼリーと青梅の甘露煮を買ったよ。家には青梅の甘露煮。これは日持ちすると聞いたからね。
リリアナ伯母様は、週末のブライスとミハイルの家のお茶会の付き添いだし、ヘンリーの家庭教師を探してもらっているから、そのお礼の気持ちだよ。良い家庭教師を探して欲しいからね!
「私も母に買って帰ろう!」
サリエス卿もお土産を色々と買ったけど、ピリ辛海老春巻きは、自分の酒のアテじゃ無いかな? 小指の先程の海老春巻きは、ビールとよく合う感じだ。
まだペイシェンスは子供だから、お酒は飲まないけど、いける口だと良いな。前世の私はかなりお酒が好きだったからね。まさか、それで死んだとか無いよね? 肝臓の数値も健康診断で引っかかった事なかったんだもん!
綺麗なお姉さんに質問して情報を色々とゲットしたよ。この人達も上級メイドと一緒で綺麗なだけでは無い。賢くて情報もいっぱい持っている。
喉の渇きも癒せたし、小腹もいっぱい。その上、お土産も買ったし、情報も貰えた。
私も自分のお土産分は払おうと思ったけど、サリエス卿が全て払った。パーシバルは、後でお菓子でもあげたら良いですよって笑うけど、良いのかな? 貴族の付き合いは、これから勉強だね。きっとパーシバルは、高級なお酒かなんかを届けそう。
干マンゴー、干いちじく、クコの実、ココナッツパウダーやアーモンドパウダー、杏の干したの、干棗椰子を乾物屋で買う。
それに漬物屋で、梅干し、ザーサイ、菜葉の漬物を買った。それに辛味噌じゃない、甘味噌も買ったよ。普通の味噌はまだ見つからない。どこかにありそうなんだけど……言葉の壁が悔しい!
「おお、ここは酒屋だ!」
サリエス卿は、かなりお酒が好きみたい。私も一緒に見ているけど、利き酒はやめておく。サリエス卿は、あれこれ一口ずつ飲んでは、何本か買った。
「どれが一番クセがありませんでしたか? 料理に使いたいのです」
サリエス卿に任せて、一本買う。ペイシェンスはまだ11歳だから、お酒は飲ませられないよ。
「そろそろ帰りましょう。寮に行かないといけませんからね」
ああ、もうそんな時間なんだね! 楽しいと時間が経つのが早いよ!
「サリエス卿、パーシバル様、ありがとうございました」
私と一緒に弟達も頭を下げる。本当に楽しかったよ!
「ハハハ、ペイシェンス様はとても楽しまれていましたね。ユージーヌ卿を茶店に案内しようかな?」
その前にプロポーズだよ! 忘れないでね。
「カルディナ帝国人の商売への熱気を感じましたね。外国でこれなら、自国ではもっと活発なのでしょうか? 外交学2の課題が楽しみになってきました」
あっ、そうそう! これは第二外国語と外交学2の課題のための調査なんだよ。それと経済学も含まれているよね。ショッピングに夢中になっていた。




