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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第四章 中等科一年の秋学期

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防衛魔法を習うよ

 午後、寮にメアリーが迎えに来る。この侍女システムって本当に面倒くさい。王宮は隣なんだから、歩いて行けないかな? てくてく歩いて行ったら不審者扱いされて、衛兵に止められるかも。

「お嬢様、この書類で宜しいのでしょうか?」

 メアリーがエクセルシウス・ファブリカの書類の入った紙袋を持って来てくれた。

「ええ、ありがとう。では行きましょう」

 防衛魔法が必要なのはわかっているのだけど、ゲイツ様に習わなくても良いんじゃないかな? なんて今でも気分的にグズグズしちゃう。これは私の前世からの悪い癖だ。しなくちゃいけないのだから、サッサと済まさなきゃ!

 グレアムが馬車を軽快に走らせて、直ぐに王宮についた。隣だからね。いつもは、ぐるっと王宮を回って後ろの離宮に行くのだけど、今回は表の左側の入り口だ。正面の豪華な入り口は王族や他国の大使や使節団しか使わないみたい。右側は騎士とか武官、左側は文官と魔法使いなのかな? 何となく出入りする人達で察したよ。

「ペイシェンス様、こちらです」

 あっ、この人はノースコートにゲイツ様を迎えに来たサリンジャーさんだ。

「サリンジャー様、ありがとうございます」

 学生の勉強の為に、わざわざ入口まで出迎えてくれたんだ。

「いえ、陛下からも命じられています。それとゲイツ様が怠けないように見張らないといけませんから」

 ああ、それはわかる気がする。初めて来た王宮に興味はあるけど、礼儀正しくきょろきょろしないで、サリンジャーさんの後ろを歩く。

 私の後ろには紙袋と手提げを持ったメアリーが付いてきている。サリンジャーさんは何も言わないので、侍女が同行するのは当たり前なんだと分かるよ。


 かなり奥まった所まで歩いて、豪華な扉の前でサリンジャーさんは止まった。でも、その扉を開けて通った部屋は意外と狭かった。多分、秘書官とかの控えの部屋だね。その奥の扉をサリンジャーさんはノックする。

「ゲイツ様、ペイシェンス様をお連れしました」

 ああ、その奥がゲイツ様の部屋みたい。チラッと見えたけど、すっごく広い。

「ペイシェンス様! あのチョコレートは素晴らしかった! もう無いのですか?」

 部屋から飛び出してきたゲイツ様が騒いでいる。サリンジャーさんが「コホン」と咳払いする。

「ペイシェンス様に防衛魔法を教えるのでは無いのでしょうか? もし、教えないのなら、溜まっている書類の……」


 慌ててゲイツ様が私達を部屋に通した。窓の前には立派な机が置いてあり、そこには書類が山積みになっている。ああ、パウエルが私にゲイツ様のサインを貰ってきて欲しいと付箋を付けたのが理解できた。あの山に埋もれてしまうからだ。

「ペイシェンス様、こちらで授業をしましょう」

 暖炉の前に立派な応接セットがある。どうやら、このソファーで本を読んでいたみたい。寝っ転がっていたのがクッションの位置で丸わかりだよ。

 メアリーは、私に書類の袋を渡すと部屋の隅に立っている。

「ああ、侍女に椅子を用意しなくてはいけなかったのだな。サリンジャー、椅子を持ってきてくれ!」

 多分、サリンジャーさんは副官に近い地位だ。侍女に椅子を運ぶなんてしないんじゃ無いかな? と思ったけど、控えの部屋から椅子を一脚持ってきた。腰の軽い人だね。


「では、二時間、授業をして下さい」

 王立学園の授業時間は一時間半だ。休憩時間は30分、昼休みは一時間。何故、二時間なんだろう?

「ペイシェンス様、授業は一時間半です。後はお茶をしながら話しましょう」

 まぁ、今回は書類にサインして貰わないといけないから、良いんだけどね。それと、聞きたい事もある。

「ううむ、ペイシェンス様はどちらから練習するのが良いのか悩みますね。肉体的な防衛魔法か、精神的な防衛魔法か?」

 どちらもヤバそうだ。

「決めた! 逃げ足も遅そうだから、肉体的な防衛魔法からにしましょう」

 本当の事だけど、失礼だよ。


「肉体的な防衛魔法には大まかに言って二種類あります。物理的攻撃と魔法攻撃から身を護る方法です」

 意外なことにゲイツ様の防衛魔法の授業は真面目だった。でも、ここで防衛魔法を習えるの? 立派な家具とか大丈夫なのかしら?

「ああ、ここには私が保全魔法を掛けていますから、地震や火事があっても大丈夫ですよ。それに、本格的な実技は魔法実技室でします」

 やはり、精神的な防衛魔法を先に習うべきなんじゃ無いかなぁ? 考えている事がダダ漏れだ。


「では、先ずは物理的な防衛魔法からにしましょう。この紙ボールを投げますから、それを止めるのです。先ずは見本ですね」

 机の上の紙をくちゃくちゃに丸めてボールにしたけど、それって大切な書類じゃ無いの? 

「さぁ、私に向かって投げて下さい」

 まぁ、必要な書類なら、後で叱られるのはゲイツ様だよ。私はゲイツ様に向かってボールを投げたけど、届かなかった。

「酷い! こんなに運動神経が鈍いなんて」

 前世でもボール投げは苦手だった。ドッジボールは逃げ専門。

 それに、この部屋は広すぎるんだ! 途中に落ちた紙ボールを拾って、かなり近づいた場所から投げる。今度は届いた筈だけど……えええ、50センチ前に落ちている。


「よく見て下さい」

 紙ボールを投げ返された。お手玉したけど受け止められたよ。本当にペイシェンスは運動神経が鈍い。ゲイツ様が溜息をついている。

 今度は、投げる方じゃなく、ゲイツ様の手前の防衛魔法に注意を集中させる。

「ああ、防衛魔法(バリア)だわ!」

 ふふんと得意そうなゲイツ様、子供っぽいよ。

「では、やってみましょう。当たっても痛くありませんから、大丈夫ですよ」

 今度は、私に向かってゲイツ様が紙ボールを投げる。ええっと「バリア!」間に合わなかった。紙ボールが私の頭に当たった。

「もっと早く作動させないといけませんね。矢や槍だと貫いた後で防衛魔法が掛かる事になりますよ」


 それからは、本当に真面目に防衛魔法の練習をした。疲れたよ。

「まぁ、一回目としては十分でしょう。常に防衛魔法を掛けていても良いのですが……これも慣れです。瞬時に危険を察知して……それも苦手そうですね」

 女官がお茶を運んで来てくれた。シャーロット女官じゃ無いけど、もっと年配の人だ。

「あのう、この書類を預かって来ているのです。バーンズ商会のパウエル支配人がサインして欲しいそうです」

 私がメアリーから受け取った紙袋を渡したら、うんざりした顔で読みもしないでサインする。

「えええ、読まなくても良いのですか?」

 ちゃちゃちゃとサインしたのを私に返して、ゲイツ様は笑う。

「これにはペイシェンス様のサインとグレンジャー子爵のサインがあるので、信頼しています。それに、私は名目だけの代表ですから、これで十分でしょう」


 あああ……後ろにサリンジャーさんが、滅茶苦茶怒った顔で立っている。知らないよ!

「ゲイツ様!」一言に全てが込められている。

「おお、サリンジャーは気配を消すのが得意だな」

 ゲイツ様は笑って誤魔化しているけど、きっとお説教されそう。


 そうだ! ゲイツ様に質問があったんだ。流行病の件。

「あのう、質問があるのですが良いでしょうか?」

 そろそろ二時間になるし、サリンジャーさんが仕事をさせようと控えているからね。

 今回は錬金術クラブの方は後回しだ。より、緊急性がある方を聞こう。

「ペイシェンス様は私の友達ですから、何でも聞いて下さい。サリンジャー、控え室に行っていなさい」

 仕事をサボる為なら、何でも教えてくれそう。

「この前から年配の方々が夏の暑さがいつまでも続く気候が、十数年前の流行病の年と似ていると話されていて、とても心配なのです。私の祖父母もその時に亡くなっているので……」

 お茶を優雅に飲んでいたゲイツ様は、にっこりと笑う。

「ペイシェンス様は、やはり賢いですね。私の周りをうろついている教会関係者に爪の垢でも煎じて飲ませたいですよ。養鶏場の浄化をサボっているのを心配されているのですね。陛下にガツンと言って貰いましょう」


 少し安心したけど、もう一点聞いておきたい。

「あのう、養鶏場の浄化は生活魔法でもできるのですが、それはやはり手を出してはいけない領域なのでしょうか?」

 ゲイツ様は、ハッとした顔をして「ハハハハッ」と笑った。

「そうか、ペイシェンス様の生活魔法なら浄化もできますね。ふうん、他の貴族の生活魔法で養鶏場の浄化も可能かどうか試してみないといけません。ああ、教会も少しは臍を曲げるでしょうが、どうせ養鶏場の浄化なんてしたくないと本音では思っているから良いんじゃ無いですか? そのくせ金に汚いから、ローレンス王国の卵は高値止まりなんですよ! 卵が高価だからアイスクリームを毎日作るのは駄目だと執事に文句を言われたのです」

 まともな話から、スイーツの話になっちゃった。

 金に興味がないゲイツ様だけど、アイスクリームを毎日作らせて執事に叱られたんだね。

 金の問題だけじゃ無さそうだけどさ。他の物を食べなかったんじゃないの?

「まぁ、ペイシェンス様は目立たない方が良いから、今は手を出さないでおきなさい。何かしたいのなら、そうですね。確か、下級薬師の資格は取っていたのですね。上級回復薬をいっぱい作っておくと良いですよ。風邪にも効きますからね」

 流行病の発生元の浄化は、陛下に進言してくれるそうだし、これから生活魔法の使い手で浄化出来るかもテストしてくれそう。流行病が発生しないで、卵が安くなると良いな!


「ありがとうございました」お礼を言って、王宮を辞そうとしたけど、年配の女官が王妃様からの伝言とマントを持ってきた。

「チョコレート、とても美味しかったです」とメッセージカードに書いてあった。エバに見せてあげよう! きっと喜ぶよ。

「ゲイツ様、ちゃんと王妃様にチョコレートを渡されたのですね」

 二箱とも食べちゃったかな? と少し疑っていたんだよ。

「勿論、渡しましたよ。後で、すっごく後悔しましたけれどね」

 後でするから後悔なんだよ! ゲイツ様は学園まで送って行くと言ったけど、サリンジャーさんに捕まった。お仕事頑張ってね!


 年配の女官が出口までマントを持って付いて来た。メアリーにマントの入った箱を渡した年配の女官に見送られて、王宮から学園に戻った。

 サインして貰った書類は、ワイヤットからパウエル支配人へ届けて貰う。

 マントはメアリーが屋敷に持って帰る。新しい守護魔法の刺繍をして、カエサル部長に試してもらわないとね。


 意外と、防衛魔法の授業は嫌ではなかった。

 偶にあるよね。やる前は、何とはなく憂鬱だけど、してみたら然程でも無い事って。

 それに、役に立つと信じたい。今のままでは駄目だから、練習しないとね。

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― 新着の感想 ―
防衛魔法は確かに必要だとは思うけど、会いたくないゲイツに習わなくても ぶっちゃけ守護魔法陣のローブでも自分用に作製したら事足りるのでは?と思った
[気になる点] >新しい防衛魔法の刺繍をして、カエサル部長に試してもらわないとね。 刺繍するのは守護魔法陣じゃなかったっけ?同じものなのかな?
[一言] 運動神経ない民なので共感しかない。 ボール投げてもとばず、逆上がりできず、登り棒に上れず、自転車に乗ると塀に突っ込みました。
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