学食の問題点?
地理のテストを受けていたから、学食に着いた時はトレーを持った学生が長い列に並んでいた。
「ああ、こうやって自分で運ぶんだな」
ラッセルも学食で食べた事がないみたい。フィリップスもだね。
「私は何回か学食で食べた事があります。騎士クラブに昼休みも行く時は、学食の方が早く食べ終わりますからね」
意外にもパーシバルは学食経験者だった。
「パーシバル様、何か問題を見つけられましたか?」
ラッセルの質問に首を捻っている。
「いや、早く食べたい時に利用しただけだし、量も……そうか、私は十分に感じだけど、一緒に食べた騎士クラブのメンバーは少ないと文句を言っていたな」
ええ、少ないの? 多いと思うけど?
「食べてみれば分かるかな?」
学食のおばちゃん達は、テキパキとトレーにシチューとサラダとパンを置いていく。長い列だけど、そんなに待たないから、これは文句をつけられないと思う。
「フォークやナイフやスプーンは自分で取るのか。水も自分で注ぐのだな」
私は、これぐらいは文句を言うレベルでは無いと思うけど、違うのかな?
色々と注意しながら観察するけど、先ずは食べよう!
「まぁまぁだな」ラッセルのコメントに全員が同意する。
「上級食堂程は美味しくないけど、苦情が出るほど不味いとは思わない。それに、量も十分に感じる」
フィリップスが感想をまとめる。
「でも、苦情が出ているのだな」
ラッセルは完食して、空の皿を眺めている。そこに答えは書いて無いよ。私は、ふと思い出したんだ。
「皆様、学食では自分で片付けるのですよ」
ヒントを出したけど、気づくかな?
「ペイシェンス様? 何でしょう?」
パーシバルは、私の口調で何か変だと気づいたみたい。
「片付けてみれば、分かりますわ」
トレーを戻す棚に私達もトレーを置く。やっぱりね! 学食の問題の一つは分かったよ。
「うん? 残している学生が多いな? ああ、女学生には量が多いのか!」
ラッセルは、問題の一つに気づいたね。
「なるほど、ペイシェンス嬢が片付けてみれば分かると言われた訳ですね。騎士コースや育ち盛りの男子学生には量が少ないけど、女学生には多すぎるのか」
フィリップスも分かったみたい。
「でも、早くサービスするのだから、同じ量になってしまうのは仕方ないのでは?」
パーシバルの言葉で、全員が黙り込んじゃった。
「あっ、私は女学生の意見を聞いて来ますわ」
少し離れた席にハンナとリリーが座っている。その横に座って話しかける。
「ハンナ様とリリー様はいつも学食なの?」
二人は、前のグレンジャー家よりは豊かな生活をしていると思うんだけど? 何となく持ち物や制服で生活レベルって推測できるんだよね。
「まぁ、ペイシェンス様はいつも上級食堂でしょう? どうして学食に?」
リリーの質問に正直に答える。
「経営の授業で学食の改善が宿題に出たの。だから、食べに来たのよ。気づいたのは、女学生には量が多いし、騎士コースや成長期の男子学生には少ないのかなってぐらいなの。これではレポートが不合格になっちゃうわ」
ハンナがクスクスと笑う。
「あの人達はいくら食べても満足しませんわ。それに女学生でも、このくらい平気で食べる人もいます」
私も完食していたし、ハンナもほぼ食べている。
「寮の食堂はお代わり自由なの。学食でもそうすれば良いのかしら?」
リリーが少し嫌な顔をした。何だろう?
「それでなくても騎士コースの男子学生達は徒党を組んで長いこと席を占領しているのに、お代わり自由になったら、授業が長引いて遅れたら座れなくなるわ」
ああ、前世の大学の学食でも運動会系のクラブが席を独占して、他の学生が迷惑していたね。
周りを見渡したら、もう食べ終わっているのに席で話している学生も多い。昼休みだから、それでも良いけど、少し遅れて来た学生は空いている席を探すのに苦労しているみたい。
「ねぇ、もし改善してくれるなら、上級食堂ほど高級でなくても良いから、お茶とか飲める所が欲しいわ。私達も食べたらすぐに席を譲らないといけないから、友達とゆっくりできる場所が欲しいの」
徒党を組んで大声で話している男子学生の横ではゆっくりできないよね! これは、パーシバルにシメて貰おう!
「パーシバル様、あの煩い団体は騎士クラブかしら?」
パーシバルは、ハッとしたようだ。すぐさま騒いでいる男子学生の側に行くと、シーンと大人しくなった。
「まだ食べていない学生がいるのだから、席を譲りなさい」
鶴の一声だね。そそくさと席を立って学食から出て行った。でも、毎日パーシバルに学食で番をさせるわけにいかないよね。それに騎士クラブだけじゃなさそう。
「ラズモンド部長に言っておきます」
まぁ、新部長に叱られたら、少しの間は大人しくなりそうだけど、問題の解決にはならないよ。
「お茶とかできる場所が必要なのだけど、それは予算的に無理かしら?」
一連の騒動を少し離れて見ていたラッセルとフィリップスがやってきて、上の上級食堂で話すことにする。
「食事は済ませたから、お茶とデザートだけ頼む」
パーシバルが全員のお茶とデザートを頼んでくれた。
「そうね、こんな風にお茶が飲めるカフェがあると良いのだけど……予算オーバーになるかしら?」
しまった! ハンナとリリーに何故上級食堂を使わないのか聞くのを忘れた。でも、ちょっと聞きにくいかも? 微妙な問題なんだよね。
「お茶を有料にしたら良いのでは? それなら予算内で改善できるのでは無いか?」
ラッセルの案は良さそうに聞こえる。でも……
「上級食堂と同じにならないかしら?」
それからは全員で意見を出し合う。
「そうだわ、学食を実際に使っている学生にアンケートを取れば良いのよ。何に不満を持っているのかは分かると思うわ」
ざっとしたアンケートを書く。
『学食に満足か? 満足 ほぼ満足 普通 少し不満 不満』
『食事の量は? 多い 少し多い 適量 少し少ない 少ない』
『食事の味は? 満足 ほぼ満足 普通 少し不満 不満』
『メニューは? 満足 ほぼ満足 普通 少し不満 不満』
『席の数は? 満足 ほぼ満足 普通 少し不満 不満』
興味深そうに三人が私の書くアンケートの草案を見ている。アンケートって無いのかな?
「丸をつけるだけの簡単なアンケートなら、協力してくれると思いますわ。それぞれのアンケートの下にコメントを書けるようにしておけば、何か不満や改善点のヒントになるかもしれません」
これを学食で配って箱に入れてもらうつもりだけど、うまくいくかな?
「ペイシェンス嬢、これは画期的な考え方です。いつも学食を利用している学生の意見がわかりますね」
フィリップスに褒めてもらったけど、ラッセルが天井を向いて毒づいている。
「やはりフォッチナー先生に直訴して、ペイシェンスを赤組に変えて貰おう! そちらにはパーシバル様とフィリップスがいるだけでも有利なのに、ペイシェンスの分析力が加わったら絶望的だ!」
パーシバルとフィリップスはけたけたと笑う。
「くじ引きで決まったのだから、仕方ないですよ。それにしても、このアンケートという方法は初めて見ました。ペイシェンス様はグレンジャー家の図書室の書物を全て読まれているのですか?」
あっ、アンケートって無いんだ! やらかしたかも? でも図書室の書物のお陰にしておこう。
「いえまさか! 専門的な書物にはまだ手をつけていませんわ。興味を惹かれた物を手当たり次第読んでいるだけですの」
前世でも書店でぶらぶらして興味を惹く本を買って帰って読んでいた。当たりもあるけど、ハズレもあったね。
「他の質問項目はありますか?」
3人が考えて口を開いた。
「何故、上級食堂を使わないか?」
ああ、それが一番難しい質問だね。
「金銭的余裕が無い学生ばかりではなさそうなのだ」
そうなんだよね。制服ウォッチしてみると、オーダー制服を着ている学生も多いんだ。既製服の制服とは生地が違うから、よくみると分かる。私やナシウスのは、モンテラシード伯爵家のお下がりだから、元はオーダーだよ。
「やはり上級食堂はAクラスしか使っていないから、金銭的な余裕があっても使うのを躊躇うのかもしれませんね」
パーシバルが纏めてくれたけど、改善案が難しくなったよ。もし、有料カフェを作ったとしても、今度はBクラス限定になってしまうかもしれないのだ。
「もっと気楽に使える感じでお茶を飲める場所があれば良いのだけれど、これは学食の改善とは違うのかしら? アンケートで学生の不満を調査するだけでなく、そこで働いている人に聞けば何かわかるかも?」
全員がハッとしたみたい。
「それは思いつきませんでした。そうか、働いている人は一番よく知っているのですね」
パーシバルも考えてもいなかったみたい。貴族の坊ちゃまだからね。
「仕事の邪魔になってはいけないから、これも簡単なアンケート方式にすれば負担にならないと思うの」
今の学食の問題点を洗い出すだけでなく、働いている人達からの改善案が知りたい。だから、アンケートを作るのに注意が必要だ。余計な仕事が増えるのでは無いかと疑惑をもたれないように細心の注意をしなくてはね。
「では、アンケートの内容については全員で考えて寄せ合おう。実施日とかも決めたいから、今度の経営の授業を期限にしませんか?」
パーシバルの提案に全員が賛同して解散だ。今日のデザートはプチケーキだったよ。でも、私的にはまだまだ砂糖が多く感じた。こちらのデザートの改善案なら砂糖を少なくするのだから予算内で色々と提案できそうなんだけどね!




