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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み

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私のお嬢様? 前編 メアリー視点

 私はメアリー、グレンジャー子爵家のペイシェンスお嬢様の侍女です。

 ペイシェンス様のお母様、ユリアンヌ様のご実家であるケープコット伯爵領の農家の五女として産まれました。

 10歳になった時、ケープコット伯爵家の下女見習いとして働き始めたのです。それは、ケープコット伯爵家に勤めている叔母のケイトが両親に頼まれたからだと後から聞きました。私の家は貧乏人の子沢山で、つまり口減らしとして働きに出されたのです。

 小さな村育ちでしたので、ケープコットの町を見た時はびっくりしましたし、お屋敷の立派さにドキドキとしたのを今でも覚えております。

 私は下女見習いとして、掃除や洗濯などを先輩達から教えて貰いました。家でも家事の手伝いはしていましたが、ケープコット伯爵家の遣り方は違うので、凄く戸惑い、不安になりました。

 13歳の時に、下女見習いから子守り助手になりました。可愛いサイモン坊ちゃまが私の担当です。

「メアリーは陰日向なく働くから、私が推薦したのよ」

 叔母のケイトは、そう自慢していましたが、給金はあまり変わりませんでした。でも、床を這いつくばって磨くより、子守の方が楽しいのは確かでしたね。

「サイモン坊ちゃまが昼寝中に、この繕い物をしてちょうだい」

 私は裁縫が得意で、よくこの様に他のメイドから頼まれる様になりました。少しお小遣いにもなるし、たまにはお菓子を貰えたりするので、喜んで繕い物をしていたら、運が開けたのです。

「メアリーは、裁縫も得意だし、簡単な文字も読み書きできるのね。ユリアンヌ様が王都のグレンジャー子爵家に嫁がれるのだけど、侍女見習いとしてついて行きなさい」

 家政婦長のカリナ夫人に突然言われて、驚きましたが、侍女のアンナは厳しいけど裁縫とか教えてくれていたので、私は引き受けることにしました。それに王都を見てみたかったのです。

「まぁ、メアリーは侍女見習いだなんて、大出世ね! いずれは侍女になれるかもよ!」

 叔母のケイトに言われて、下女とメイドと侍女の違いに気付きました。叔母のケイトはメイドなのですが、侍女になりたいと羨ましそうな目をしていましたが、字があまり読めないのと、裁縫が苦手なので、侍女は無理かもしれませんね。


 王都での生活は、夢のようでした。私の主人であるユリアンヌ様は、お身体が弱く、時々寝込まれてしまうのだけが心配で、先輩のアンナと心を痛めていたのです。

「この回復薬をユリアンヌ様にお渡ししてね」

 でも、グレンジャー子爵夫人は、優れた薬師だそうで、回復薬をよくユリアンヌ様に下さいました。その回復薬の効果で、ユリアンヌ様も寝込まれる事が少なくなりホッとしたものです。

 先代のグレンジャー子爵は、学問の家柄に相応しく、文部大臣をなさっておられ、ユリアンヌ様の旦那様であるウィリアム様も文部省にお勤めで、生活は豊かで、静かな学者の屋敷の生活は心地よかったです。

 この平和は一年と続きませんでした。ローレンス王国全土に流行病が広がったのです。

 子爵夫人は、薬師として夜遅くまで回復薬を作っておられました。でも、私達はそれを手伝うどころではありません。ユリアンヌ様が流行病になられたからです。

「この流行病は、若い人は症状が重くならないのです」

 ケープコット伯爵家から遣わされた医師の言葉にホッとしましたが、風邪でもユリアンヌ様は一週間は寝込まれるので、アンナと私はお世話に専念しました。

 そんな中、子爵夫妻も流行病に罹られました。私は、ユリアンヌ様の回復ばかり気にして、そちらはおざなりに聞いていたのですが、段々と症状が重いと知って心配しておりました。

「子爵夫妻が亡くなられた!」

 執事のダンカンさんが言われた時、皆が驚きました。優れた薬師の奥様の薬があるから、大丈夫だと思い込んでいたのです。

 

 それからは、ウィリアム様が子爵となり、ユリアンヌ様との間にペイシェンス様、ナシウス様と産まれて、グレンジャー子爵家は新たな世代になっても繁栄の道が続くと思っていました。

 ただ、ヘンリー様を産んだ直後からユリアンヌ様はベッドで過ごす日が多くなり、何故か子爵様が王宮に出仕されなくなりました。

「私はケープコットに帰りますが、メアリーは、どうしますか?」

 ある日、私の先輩であるアンナに突然尋ねられて、意味が分からず混乱したのを今でも覚えています。

「グレンジャー子爵家とケープコット伯爵家は断絶するみたいです。私はダンカンさんにクビにされたので、実家に帰るつもりよ。また地元で侍女の口を探すわ」

 このところ、下女やメイドや下僕が姿を消しているとは思っていましたが、まさかアンナまでとは!

「私には帰る家がありませんし、ユリアンヌ様やペイシェンス様のお世話をしたいと思っています」

 アンナは、グレンジャー子爵がケープコット伯爵家の寄親のカッパフィールド侯爵に楯突いたから、免職になったのだと教えてくれました。

 なので、ケープコット伯爵家から来たアンナは真っ先にクビにされたのです。私もクビを言い渡されましたが「帰る家がありません」と、泣きついてなんとかクビは免れました。侍女と侍女見習いとは賃金が違うからかもしれませんし、病弱な奥様の世話も必要だからクビを免れたのかも?

 まるで沈没する船からネズミが逃げる様に、グレンジャー子爵家から使用人がいなくなりました。


 執事のダンカンさんが去った時の衝撃は忘れられません。先代の子爵からも、そして今の子爵からも絶大な信頼を得ていたのに、辞めるなんて!

「私が執事として、グレンジャー子爵家を支えていきます」

 子爵様の従僕だったワイヤットさんが執事になりました。この時から、グレンジャー子爵家は節約生活になりました。ダンカンさんは、文部省の官僚の俸給と子爵家の年金で屋敷を管理していたのですが、ワイヤットさんは年金だけでやっていかなければならないのです。

 これに不満を持った使用人が何人か辞めました。なんと、執事に続いて家政婦長まで逃げてしまいました。

「あんな下町育ち(スラム)のワイヤットなんかに指図されたくないですわ」

 家政婦長の捨て台詞に、私はドキンとしました。ワイヤットさんの厳しい目つきが少し怖かったからです。

「ふん、先代からの御恩も忘れて逃げ出す口実にしたいだけだろ。私は、ワインをこっそりと横流ししていたダンカンさんより、ワイヤットさんの方が百倍マシだよ!」

 料理人のエバの啖呵に救われた気がしました。私も、厳しいけど裏表なく子爵の世話をしているワイヤットさんを信頼したいと思っていたのです。

「ふん、あんな浮浪児を拾ってくる様なウィリアム様だから、免職になるのです。カッパフィールド侯爵様に楯突くなんて、子爵様も馬鹿な真似をなさったものだよ。王都で誰もが噂していますわ。他の就職先が見つからなくて泣きついてきても知りませんよ」

 他の就職先が見つからないのは、とても不安だけど、ユリアンヌ様を見捨てる訳にはいきません。

 

 貧乏暮らしのグレンジャー家ですが、お子様方は健やかにお育ちで、それだけが明るい話題でした。何故なら、ユリアンヌ様はどんどん弱って、ベッドから起き上がれない日が増えていたからです。

「ケープコット伯爵家の治療師に来て貰えませんでしょうか?」

 グレンジャー家に来てくれる治療師よりも、子供の頃からユリアンヌ様の体調管理をしてくれていたケープコット伯爵家の治療師に診て貰いたいとワイヤットさんに頼みましたが、絶縁中なので無理でした。どんどん弱っていくユリアンヌ様は、自分の命が長くないのを悟られていたようです。

「ペイシェンス、貴女にお願いがあるのです。ナシウスとヘンリーの面倒を見てやってね」

 ペイシェンス様は、ユリアンヌ様にそっくりの金髪に青い目の可愛いお嬢様です。ただ、体質も似ておられるのか、体力があまり無さそうなのが心配です。

「お母様、ナシウスとヘンリーの面倒は見ますわ。でも、早く良くなって下さい」

 ペイシェンス様もまだ幼いのに、泣くのを我慢して笑顔でユリアンヌ様と約束しておられました。

 子爵様も王都の優れた治療師を何人も呼んでおられましたが、年金の殆どを使い果たしても回復は望み薄だと絶望された姿は痛々しくて、ワイヤットさんだけがお側で励ましていました。


 ユリアンヌ様が亡くなられて、子爵様は書斎に籠られてしまいました。残されたペイシェンス様は8歳、ナシウス様は6歳、ヘンリー様はまだ4歳なのです。奥方を亡くされたのはショックだろうけど、父親としてしっかりしていただきたいと思いました。

「ワイヤットさん、家庭教師が必要ですわ」

 一年前から家庭教師がいない状態は、貴族としては異常です。ケープコット伯爵家では、勉強の家庭教師、音楽、ダンス、絵画などの芸術系の家庭教師、そして男の子には馬術と剣術の家庭教師がついていました。

 ユリアンヌ様は体調の良い時に、ペイシェンス様に教えていらしたし、子爵様も時には勉強を見ていらしたのですが、今は放置されています。

「それは、その通りだが……雇う金が無いのです。子爵様が親戚にお貸しになられたので……」

 その言葉で腑に落ちました。いくらユリアンヌ様の治療費が嵩んだにしても、グレンジャー家は貧乏すぎると不思議に思っていたのです。先代の子爵は文部大臣を長年勤められ資金も貯めておられた筈ですもの。

「人が良いのも困りものですね」

 本来なら、家庭教師を雇えないなら父親のグレンジャー子爵がお子様方の教育をするべきなのですが、ユリアンヌ様の死を乗り越えておられませんでした。

 そんな時、子供部屋でペイシェンス様が弟君達の勉強を見てあげておられました。

「ナシウス、ヘンリー、お姉様が勉強を見てあげますわ」

 ペイシェンス様がナシウス様に文字と数字を教えて、ヘンリー様に本を読み聞かせておられるのを見て「ああ、ユリアンヌ様との約束を果たそうとペイシェンス様は努力されている」と涙が溢れました。

 この時、私も、微力ながらお手伝いしようと決意したのです。

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この時系列が悪い意味でマダオ父を救い、ダメなままにしているなあ。 本来の運命なら、妻に続いて娘が栄養失調からの凍死という、100パーマダオのせいで死んでた訳で、育児能力なしとして下の息子二人は、姉達に…
[良い点] メアリー視点ウルッときました(;´・_・`)ゞァセァセ [一言] たまに別の視点からも新鮮ですよね。タイトルで視点を切り替えられるのですごく読みやすいです。新旧折衷なファンタジー世界が楽し…
[気になる点] もしユリアンヌままが、ペイシェンスだけじゃなくウィリアムぱぱに『子供たちを頼みます』って言っていたらどう転んだかなぁ? [一言] なんだろう?ハリセン持って後頭部をすぱーんとぶん殴りた…
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