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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第一章 王立学園初等科

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マーガレット王女の側仕え

 楽しい時間はあっという間に過ぎる。ナシウスは飛び級したことを凄く褒めてくれた。嬉しかったなぁ。ヘンリーは今一つ飛び級の意味をわかっていない様だったけど「お姉様は賢いのですね!」と褒めてくれた。ナシウスの言ったままだけど、可愛いからキスしちゃうぞ。

 もう日曜の午後だ。つまり、寮に帰らなくてはいけない。後ろ髪を引かれる思いで馬車に乗る。

「お嬢様、マーガレット王女様の側仕えだなんて、素晴らしいですわ」

 メアリーはもう足が地についていない状態だ。

 「私に務まるか不安ですわ」これ、本心だ。

「お嬢様なら大丈夫です」

 そう、ペイシェンスだったなら大丈夫だっただろう。でも、ペイシェンスは死んでしまった。死んでいるにしては、あれこれうるさいけどね。

 寮に帰りたくないのに、馬車は無情にも着いた。

「お嬢様、マーガレット王女様にご挨拶されないといけませんわ」

 なりたくない側仕えなのに、メアリーに注意されて、よけい嫌になった。

「ええ、分かっているわ」

 メアリーを帰して、今夜はゆっくりと2年の教科書を読むつもりだ。だが、相手は引かない。

「お部屋はご存知なのですか? 寮の管理人に尋ねて来ますね。それまでに、部屋を訪問しても良いかと、お手紙を書いておいて下さい」

 側仕えになれば部屋に行くのに前もって許可などいらないが、顔さえご存知ないかもしれないのだからと、メアリーにあれこれ注意された。

 メアリーが必要だと買った上品そうなレターセット。靴下のかけはぎ何足分なんだろうと、溜め息をつきながら、ペイシェンス任せで訪問の許可を取る手紙を書く。

「お部屋は3階の特別1号室ですわ。お手紙、届けて参りますね」

 下働きばかりしているけど、メアリーは母親のユリアンヌの実家から嫁入りについて来た侍女だ。本来の仕事に水を得た魚の如く生き生きしている。

「お嬢様、今から来て下さいとのことです」

 はぁ〜、溜め息は幸せを逃すとか言うけど、吐かなきゃやり切れない時もあるよね。メアリーは期待の籠った目をしたまま帰っていった。

 特別1号室、扉も部屋番号のプレートもゴージャスだ。ノックしたくないけど、待たせるのはマナー違反だとペイシェンスがうるさい。なるべくお上品にノックする。

 カチャと音がして、メイドが扉を開けてくれた。

「ペイシェンス・グレンジャーです」

「どうぞ、お待ちになっております」

 メイドがいるなら、側仕えはいらないんじゃないかと思うのだけど。

 特別室はどうやら二部屋続きのようだ。入った部屋にはベッドは置いてなかったので、奥の部屋にあるのだろう。寮の備え付けの家具とは違う豪華なソファーに、マーガレット王女は座っていた。

 プラチナブロンドに緑の目は、キース王子と一緒だね。綺麗な王女様だ。

「ペイシェンス・グレンジャーでございます」

 制服のスカートを持って、お辞儀をした。

「貴女がお母様が側仕えに選ばれたペイシェンスなのね」

 お母様が側仕えに選んだ? つまりは自分は選んでいないって事かな? だったら、側仕えはしなくて良いかも? なんて気楽な事を考えた。

「さぁ、座りなさい」

 ソファーの向かい側に座る。メイドが紅茶を高そうな金の縁取りがついた茶器で出してきた。

「ゾフィーはもう帰って良いわ」

 あれっ、メイドは帰るの? もしかして、メアリーと同じで寮の送り迎えに付き添っていただけなの? 不安が込み上げてくる。

「紅茶は嫌いなの?」

 いえ、好きですよ。特に上等な茶葉の紅茶はね。

「いただきます」

 香り高い紅茶にうっとりする。でも、そんな場合じゃない。マーガレット王女に聞いておかなくてはいけない事がある。

「あのう、私は側仕えについて何も知らないので、教えていただきたいのです」

 雇用条件を最初に聞いておかないと、お互いに不満がつのるものね。

「先ずは、私をマーガレット様と呼ぶことね。いつも一緒にいるのに、王女様とか堅苦しくて嫌なのよ」

 堅苦しいのは私も嫌いだけど、寮の食堂で『マーガレット様』とか呼んでいたら、ルイーズ辺りが知って怒りそうだ。

「では、お部屋ではマーガレット様と呼ばせていただきます」

 マーガレット王女は私の言葉の意味を悟って、仕方ないわと受け入れた。

「学年が違うから授業は別だわね。でも、お昼は一緒に食べましょう。貴女を上級食堂サロンで見かけたことが無いけど、まさかダイエットしているの? 必要ないと思うわ」

 どうせガリガリですよ。ほっといて!

 「いえ、私は普通の食堂で結構です」と断ったけど、王女は断られるのに慣れていないようだ。

「まぁ、でもAクラスの女子は皆、上級食堂サロンで食べているでしょ」

 お金が無いとは言いにくいが、このままでは平行線だ。

「グレンジャー家は質素倹約な家風ですから」

 マーガレット王女が黙った。嫌な予感がする。

「そうなのね! なら、私も下の食堂で食べましょう。父上が寮生活をする様に命じられたのは、私達が一般の人達の暮らしを知らないと考えられたからなの」

 勘弁して下さい! 混雑した食堂でマーガレット王女と一緒に食事は、視線が痛くて喉に何も通りそうにない。それぐらいなら、上級食堂サロンで上級貴族達と食べた方がマシだ。

「申し訳ありません。グレンジャー家には上級食堂サロンで食べるお金が無いのです」

 恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。

「まぁ、そうなの? そうならそうと正直に言って欲しかったわ。でも、側仕えなのだから、貴女の食事代も私が持つのは当然なのよ。分かっているとばかり思っていたわ」

 許して貰ったのは良かったが、できれば下の食堂で食べさせて欲しかったよ。

 それから、あれこれと要求をされた。寮の朝食、夕食は一緒に食べること。これは簡単そう。特別室の掃除は下女がしてくれるから、しなくて良い。生活魔法は得意なんだけどね。

「私は音楽が好きなの。ペイシェンスは音楽も合格したのよね。ハノンを演奏して欲しいわ」

 部屋に鎮座している豪華なハノンを弾くのは良いけど、かなり拘束時間が増えそうだ。本当にCDプレイヤーが欲しい。

「それと、数学が苦手なの。宿題を手伝ってね」

 おいおい、上級生だろう!

「ペイシェンスはまだクラブに入っていないわよね。音楽クラブに入りなさい。一緒にクラブ活動をするのも側仕えの仕事よ」

 ルイーズはコーラスクラブだったよな。ニアミスしそう。

「ええっと、それから……」

 マーガレット王女の要求にあっぷあっぷだ。救いの鐘が鳴った。夕食だ!

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― 新着の感想 ―
中間を含む下だと平等主義、個人主義が普通だから、あんまり意識されない(逆に反社まで落ちると別だが)が、日本もある程度大きな組織や会社に属して中間よりちょい上以上に属すれば、人脈が大事ってのは変わらない…
うわぁ 拒否権もないし一銭にもならない側仕え、クソめんどくせぇ・・・ 結局授業スキップして家に帰れないなら、マジで飛び級にメリットがないし目をつけられたせいでデメリットが多すぎて辛いなこれ 名誉で飯…
 もらえるのは名誉と物品か…まあ、必要経費が浮くと思えば。  父親の免職は、あの性格だと何かしらの皺寄せなのかな。国王を尊敬しているなら汚職とかはしなさそう。清貧も受け入れてるようだし。
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