ゲイツ様と遠縁?
やっと部品が出来たので、組み立てようと思ったけどタイムアップだ。
「お嬢様、お茶の時間です。伯爵夫人も遅れないようにと言われています」
本当にメアリーが居なかったら遅刻しているね!
「綺麗になれ!」全員に掛けておく。ヘンリーと別れるのは辛いけど、リチャード王子がいらっしゃっているからね。お昼も別だったし、ずっと滞在されると寂しいよ。
「ヘンリー様のお世話は任せて下さい」
メアリーがついていてくれるから、安心なんだけど……ぐっすん!
私達がサロンに着いてすぐに一行が帰ってきた。
「おや、ヘンリー君がいませんね。ああ、リチャード王子がいらっしゃるから子供は別なのか?」
ゲイツ様は、初めは傲慢で嫌な人だと思ったけど(今でも我儘だと感じている)割と弟達には優しいんだよね。まぁ、馬を射る為かもしれないけど、私は弟達に優しい人には好意を持っちゃう。
「ペイシェンス? 王宮では十歳未満の子供は別に暮らすのが普通なのだが、もしかして私が来たから変更したのか? そんな事は気にしないで良い。伯爵夫人、いつも通りにして下さい」
リチャード王子が、子供がマナーを守れるなら朝や昼やお茶は一緒でも良いと許可してくださったので、ヘンリーも子供部屋から降りてきてお辞儀をする。
「ヘンリーはペイシェンスにそっくりだな」
そう笑っておられるけど、二人の教授達はどう調査を進めるのか心配で、お茶も喉を通らないみたいだ。
サイモンはグースが口を開こうとするのを必死に止めようとして、クッキーの皿を渡したりしている。リチャード王子がマナー違反に厳しいのは、昼食の時に分かったからね。港町の宿屋暮らしは避けたいのだろう。
「伯爵夫人、そろそろ話し合いを持つ時間です」
リチャード王子も二人の教授をこれ以上は待たせないみたい。別室に調査隊は移動する。
「ゲイツ様は行かれなくて良いのですか?」
サロンに残ってクッキーを食べているゲイツ様に尋ねる。
「リチャード王子が決められる。私は、それに従うだけだ」
従うだけだなんて、ゲイツ様らしくないね。でも、リチャード王子があの動力源を調査しないなんて考えられない。ヴォルフガングが騒ぐのを聴きたくなかっただけかも?
「それより、熱気球はどうなったのですか? あっ、私を除け者にして作り始めているのですね!」
こういう子供っぽい態度を改めたら、ゲイツ様の事をもう少し尊敬できるんだけどね。
「夕食まで熱気球を作ろう!」
カエサル達と弟達はサロンから出て行った。残ったのは私とゲイツ様だけだ。
リチャード王子は、ゲイツ様と一緒に調査隊と話したいんじゃないかな? 本当にここに残ってて良いの? 私は、後で話そうと言われたから、染め場に行かずに残っているんだけど。
「ペイシェンス様、私に命令できるのは陛下だけですよ。リチャード王子の決定に従うのは、陛下が監督官に命じられたからです。それに、リチャード王子が話したがっているのは、ペイシェンス様ですからね」
そんな事を言われていたから残っているのだけど、逃げたいな! 護衛とか要らないよ。
「だから、私と婚約すれば護衛にもなりますよ」
ゲイツ様は、かなり私の考えを読んでいる。困ったものだ。
「本当にペイシェンス様とは波長がよく合います。血縁では無いのに不思議ですね。祖父ともここまでは同調しませんでした。ナシウス君やヘンリー君とも同調し易いですが、グレンジャー家とは関係はないか……ええっと、母方はどちらですか?」
聞かれたくない質問だよ。ノースコートには従兄弟のサイモンもいるからね。
「ケープコット伯爵家ですわ」
サイモンが居る前で話すより、居ない時の方が良い。
「うん? 調査隊に、そんな名前の人がいましたね? でも、彼とは同調するとは思えませんが……」
ゲイツ様は、少し考えていたが、ハッと手を叩く。
「ふふふ……では、ペイシェンス様は私の三従兄弟になるのですね。高祖母の妹がケープコットに嫁いだ家系図を思い出しました」
三従兄弟? 何、それ?
「曾祖父母の兄弟の曾孫ですよ。まぁ、八親等だから他人とも言えます。だから、結婚に障害はありません」
パーシバルは再従兄弟だけど、結婚に障害も無いよ。それより、そんな家系図をよく覚えていたね!
「ペイシェンス様は友達だから特別に教えてあげましょう。魔法で記憶もできるのですよ。秋学期に防衛魔法と一緒に教えてあげます」
それは凄く便利だと思うけど、自由時間が少なくなるのは困るよ! ああ、でも法律とか覚えるの魔法でできたら助かるよね? 本気で外交官を目指すなら、国際法と第二外国語も履修しなくてはいけないのだ。
「結果的には時間の短縮になりますよ」
その通りなんだけど……迷う!
「この記憶術をナシウス君やヘンリー君に教えたら、感謝されると思いますけどね」
うっ、弱味を握られている。あれっ、何故、こんなに親切にしてくれるのだろう?
「私は、ペイシェンス様の友達ですからね。他の人にこんな事はしません!」
友達? こちらからは何も出来ないのに良いのかな?
「お願いします」としか言えないよね。
「でも、サイモン様とは、何故、同調しないのでしょう?」
私と同調するのが母方からの薄い血筋だからなら、サイモンも同じだよね?
「彼は、頭が硬いからでは? 私は、薄い血筋ではなく、ペイシェンス様の柔軟な発想に惹かれているのだと思います。そして、弟君達は貴女の影響を受けて育っているからでしょう」
何だか、よく分からないけど、かなり考えを読まれているのは分かったよ。要注意だ!
「それに、感謝するのなら古文書の写しをお願いします。授業料の先払いで結構ですから」
うん、やはりゲイツ様とは合わない。なんて考えているのが読まれたのかな?
「ペイシェンス様、酷いですよ。それに友達なのに名前で呼んで下さらないなんて水臭い。プリームスと呼んで下さい」
それは……年上なのに名前呼びは無いよね? 第一人者? 凄い名前だよ。忍耐とは大違いだね。
「でも、目上の方を名前で呼ぶのは難しいですわ」
ここは、ハッキリと断っておこう。
「目上と言われる程の歳ではありませんよ。私は、ペイシェンス様と同じように飛び級して王立学園もロマノ大学も卒業しましたからね。さて、幾つに見えますか?」
えええ! 年齢あてクイズって苦手なんだよね。前世でも「幾つに見える?」とか聞かれて、少し若く言うのがベストだったんだけど、間違えて上に言っちゃうと気まずい雰囲気になったりしてさ。
私と一緒って事は、初等科は一年で終えて、中等科は二年? まぁ、私はマーガレット王女に合わせるから三年掛かるけどね。13歳で卒業して、ロマノ大学も飛び級したんだよね? 今年、王宮魔法師になったわけじゃなさそうだけど……えっ、まだティーンエイジャーなの?
「19歳ですか?」
にっこりと笑って「惜しい、18歳です!」と笑う。
ええええ……そんなに若いのに、教授達にあんな態度なの? あれっ、リチャード王子と1歳違いなんだね。
「だとしても7歳も歳上の方を名前では呼べませんわ」
まぁ、チャールズ様はアルバートのお兄様だから名字だとややこしいから例外だよ。
「あれ? もうすぐ12歳になられるのでは? だとしたら6歳差ですね!」
いや、それでも歳上に変わりは無い。
「誕生日プレゼントを贈らなくてはね! 何が欲しいですか?」
プレゼントより絡まないで欲しい。
「酷いです!」
なんて馬鹿な話をしているうちに、リチャード王子と調査隊の話し合いは終わったみたい。ああ、やはりヴォルフガングが騒いでいる声が廊下に響いている。グースは自分寄りの決定だったからか、リチャード王子がいらっしゃるからか静かにしているようだ。
「ペイシェンス様、リチャード王子がお呼びです」
リチャード王子の従僕が呼びに来た。うっ、何だか怖いよ!
「ペイシェンス様、大丈夫ですよ。私が付き添いますから」
ありがたいような、迷惑なような……微妙! いつの間にかサロンの隅で待機していたメアリーも一緒に部屋に向かう。リチャード王子は独身の男性だから変な噂はお互いに困るみたい。あちらはリュミエラ王女との縁談があるから、特に注意した行動をとっているのだろう。




