弟達と再会
土曜の朝食後、馬車が迎えに来てくれる予定だ。朝一に帰りたいが、馬を借りて来なくちゃいけないしね。寮は閑散とした雰囲気だ。本来なら入寮しない王族やその取り巻き貴族のほとんどが王宮や屋敷に帰っているからだ。
「まぁ、家の食事よりボリュームあるから、食べておこう」
教科書は貰えるようなので、弟達に持って帰る。ナシウスなら飛び級し放題だと思う。ダンスと体育には苦労しそうだけどね。お金(金貨)を貯めて、ナシウスに早めに能力チェックを受けさせたい。練習も必要だと思うし。それに家庭教師を雇えたら良いな。男子の体育って私の思っていたのと少し違うみたいなんだ。走ったりするのは一緒だけど、ちらっと上級生の体育を見たけど、剣術とか馬術とか……馬もいないのに馬術は無理だね。
貴族の子息の嗜みはお金が掛かりそうだ。剣とか売り払ったのか見ないよ。それに父親に勉強は教えられても、ダンスや音楽や剣術は無理じゃないかな?
ダンス、音楽、美術は私が教えよう。ハノンは売ってしまっているけど、鍵盤の模型はある。でも、それでは音が出ないから練習は無理かも。ペイシェンスはハノンで練習していたから、ペラい模型でも指の練習とかできていたんだ。安いので良いから手に入れなきゃ。ハノンがあれば、生活に潤いが出るよ。音楽は演奏するしか聞けないんだもん。CDが恋しいよ。
『お金が欲しい!』結局、そこにかえる。
部屋にメアリーが迎えに来るまで、金策を考える。靴下のかけはぎは、私のお小遣い程度にしかならない。内職はお金にならないけど、勿論するよ。弟達が入学する時に制服とか必要だもの。
でも、ハノンとか馬を買うには、執事のワイヤットを巻き込むしか無さそうだ。
「ワイヤットなら何とかしてくれるでしょう」
王立学園に来て、弟達の教育に必要な物が見えた。それに、私の為にもハノンと絵の具も欲しい。
陶器に絵付けする内職とか有れば、一挙両得なんだけどなぁ。これもワイヤットに相談してみよう。
「それと家の経済状況を把握したいなぁ。これはワイヤットの守備が堅そうだ」
これ以上落ちるとこなさそうなグレンジャー家の経済状況だけど、道具などを売って凌いでいるだけでは無さそうだ。親戚とかの援助も少しだけだけどあるみたい。この制服をくれた親戚とか、会った記憶が無いんだよね。
ペイシェンスの幼い頃の記憶では朧げだけど、客が訪問したりしていた。でも、貴族社会って、幼い子は親戚が来ても挨拶とかしないのかな? 少し成長した頃には父親はもう免職されて、誰も訪ねて来たりしなくなっている。だから、閉ざされた応接室とか劣化は進んでないから、修復は後回しにしていたんだよね。まぁ、万が一訪問客が来たら困るから、今度しておこう。
「メアリー、遅いなぁ」
学園の前まで出ておきたいけど、それは駄目なんだそうだ。侍女も居ないのに、マナー違反だって。ペイシェンスを説得できれば、魔法実技の空いた時間とか、皆がクラブ活動している放課後とかに下町に行けないか考える。下町までかなり距離がありそうだけど、料理人のエバは毎日市場で働いていたんだよね。辻馬車を使ったとは思えないから、歩けば歩けるのか? あっ、下町まで行かなくても、貴族も生活物資とか買うよね。中間街があるかも。庶民の高級住宅街とか、中流階級の街とか。下町は様子を見てからだね。このへんの事情は夕食の着替えの時とかにメアリーに聞こう、なんて考えてたら、やっと迎えに来た。
馬車が遅く感じるよ。弟達と1週間会って無いんだもの。
ペイシェンスが『お行儀が悪い!』と騒いでいるが、馬車から飛び降りた。ジョージが御者席から降りて、馬車の階段を引き出すの待っていられなかったんだもん。
「お嬢様、お帰りなさい」
玄関の扉はワイヤットが開けてくれた。
「お姉様!」
ナシウスとヘンリーが階段を駆け降りてくる。転んじゃ駄目だよ。
「ナシウス、ヘンリー、元気にしていましたか?」
2人を抱きしめて、幸福感に浸る。もう離れたくないよ。この子達の為にもグレンジャー家の経済をどうにかしなきゃね!
お昼は、学園の食事より少ないけど、かなり改善されている。もしかして私が帰って来たからかも? 普段、弟達が何を食べているかチェックしなきゃ。それに、温室の野菜も育てないといけないし、内職もしないと。
それより、弟達とも勉強したり、遊んだりしたい。ナシウスよりやんちゃなヘンリーと温室に行っても良いかも。
なのに、食後は父親に呼ばれた。あっ、王立学園から手紙が来たんだ。飛び級、無駄だったと悄然として、書斎のドアをノックする。




