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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み

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動力源を調査しよう!

 こんな良い天気なのに、今日も調査隊に協力をしなくてはいけない。海水浴日和なのに残念だ。それにノースコート伯爵まで、動力源を見たいと同行している。

 今回も馬での移動だ。ガリガリのヴォルフガングや怪しいマントを羽織ったグースもかなり上手く馬に乗っている。メアリーはノースコート伯爵家の護衛に乗せて貰っているよ。あっ、私もそうすれば良かったのかも。かなり、ガイウスの丘から遺跡までの道のりは急な坂になっていて、乗馬初心者には大変だからね。

「ペイシェンス嬢、手綱を持ちましょう」

 こんな時もフィリップスが助けてくれるよ。自分の馬を操りながら、私の馬の手綱を取って誘導してくれる。本当にラッセルが乗馬クラブに勧誘するだけある。ユージーヌ卿にも持って貰ったけど、同じぐらい上手に見える。まぁ、ど素人の意見だから間違っているかもね。

「もう少しで格納庫の上だと思うのです。そう言えば、地上からの調査がおざなりになっていましたね」

 ガイウスの丘の入り口から、執政官の館を結ぶ地下道の真ん中辺りに格納庫はあった。

「土や枯葉が無いから、すぐに分かりますわ」

 一度目に大量に土や枯葉が落ちたからね。その後は、多分入り口と同じような人工の岩が剥き出しになっているんだと思う。

「おおい! ここじゃないのか!」

 先行していたベンジャミンが見つけた様だ。大きな声が響いているよ。

「どうやら見つけたみたいですね」

 先に見つけたのなら、調査を始めておけば良いのに、何故か私待ちだった。

「ペイシェンス、これを見てくれ!」

 伯父様に馬から抱き下ろして貰う。

「これが格納庫の天井部分ですわね。そして、その周りの人工岩は……かなり土と枯葉に覆われてしまっていますわ」

 ガイウスの丘からカザリア帝国の遺跡までは斜面になっている。そこには木が生えているのだけど、格納庫の上には生えていない。つまり、太陽を遮らない様にしてあるのだ。

「土と枯葉は彼方に行け!」

 動力源の一部だと思われる格納庫の天井部分の巨大な岩の周りを点々と取り囲んでいる人工岩の上に積もっている土と枯葉を取り除く。これがロマノだったら裏庭の腐葉土に貰っていくところだよ。

「おお、これは土魔法なのか?」なんてグースが騒いでるけど、土魔法は使えない筈なんだよね。反応しなかったもの。

「かなり土に埋もれていたのだな。もしかしたら、これで前よりも大きな動力が地下通路に流れる様になったのでは無いか?」

 ヴォルフガングの方が遺跡調査の経験は有るからね。見るポイントを知っている。前世の太陽光発電とは違うかも知れないけど、太陽光を動力源にしているのだと思う。だって周りには不自然に木が生えていないし、土と枯葉を除いたら、光の線がくっきりと蛍光緑に見える様になったんだもの。

 グースは、非破壊検査は不得意みたいだったけど、前よりくっきりと見える様になったのには気づいたみたい。

「これで地下通路の魔導灯が明るくなっていたら、この岩が動力源の一部だと分かるのだが……」

 グースが私を見ている。えっ、ガイウスの丘に戻って、扉を開けて、格納庫まで歩いて天井を開けて欲しいと言っているの?

「上からは格納庫は開けられないのか?」

 ノースコート伯爵は、私の体力の無さを心配したのか、皆に呼びかける。でも、残念ながら全員で周りを調べたけど、凹みも出っ張りも見つけられなかった。

「今日は、入り口まで全員で行こう。ペイシェンスに開けて貰って、魔道灯が前よりも明るくなっているのか調べるのだ」


 ガイウスの丘までは、下り坂になる。上り坂より怖いよ!

「大丈夫ですよ!」

 フィリップスに今回も手綱を持って貰う。何とか無事に下りられた。ふぅ、疲れた。

「ペイシェンス、開けてくれ!」

 ここでも私待ちだ。アンジェラの方が乗馬が上手いから代わって貰えば良かった。

「開け!」と唱えながら凹みを押すと、前よりもスムーズに開いた気がするよ。何回も開けたから、扉の開閉に邪魔な土や枯葉が無くなったからかもしれないけどね。

「わぁ、明るい!」

 中に入るまでも無く、あの薄暗かった地下通路から明かりが漏れている。でも、やっぱり中に入って確認するよ。

「これなら魔導灯は無くても歩けますね」

 フィリップスがエスコートしてくれているけど、足元もちゃんと見えるぐらいの明るさだ。

「やはり、あの格納庫の天井を取り囲んでいた岩が動力源なのだ! 戻って調べるぞ!」

 グースは元気づいて叫んでいるけど、私は付き合いきれないよ。馬で坂を上り下りしたので、精神的にも肉体的にも疲れちゃった。

「伯父様、私は館に帰りますわ」

 コソッと伝えたのに、ヴォルフガングやグースは地獄耳みたい。

「ペイシェンス嬢がいらっしゃらないと動力源の調査は進まないのですが……」

 ヴォルフガングは未だちゃんとは見えていないみたいだ。

「こんな大発見を目の前にして、帰ると言うのか!」

 グースは信じられないと叫んでいる。

「申し訳ありません。乗馬は苦手なので疲れてしまいましたの」

 サイモンは心配そうな顔をしている。身体が弱く、若死にしたユリアンヌと重ねているのかも。

「ペイシェンス、無理をしてはいけない。先に館に戻りなさい。護衛を何人かつけよう!」

 伯父様は、普段は我が儘を言わない私が帰りたいと言うのを真剣に受け止めてくれた。まぁ、私が倒れたりしたらリリアナ伯母様に叱られるからかもしれないけどね。

 メアリーを乗せている護衛と、あと二人の護衛に付き添われて、館に戻った。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 メアリーは、私より先に馬から降りて、乗馬台に下ろして貰っている側に駆け寄る。

「ええ、坂道だったので緊張して馬に乗っていたから疲れただけよ。それに、もう一往復したくなかったの」

 怠けたとも言えるけど、疲れたのも本当だ。

「部屋で休みたいので、お茶を持って来てね」

 もうすぐお昼だけど、それより休みたい。馬の上で緊張しっぱなしだったから、喉が渇いているし、くたくたなのだ。

 メアリーがお茶とクッキーを運んで来てくれたので、少しつまんでからベッドに横になる。

「疲れたから休むと伯母様や弟達に伝えてね」

 やはり乗馬は苦手だ。狩りに招待されても断ろう! 私は、NO! と言う事を覚えなきゃと思いつつ、眠りに落ちた。


 やはり若いって素晴らしいね。一眠りしたら疲労から回復した。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 ベッドの横の椅子に座っていたメアリーがホッとした様に声を掛ける。

「ええ、もう大丈夫だわ。メアリー、ちゃんと昼食はとったの?」

 ええと頷くけど、本当かな?

「調査隊の方達や伯父様は?」

 メアリーは、少し肩を竦ませる。

「先程、使いが来て、ガイウスの丘までランチボックスを運んで行きましたわ。あの岩が大発見だなんて、変ですよね」

 調査隊の一行と伯父様は、興奮して館へ昼食に帰らなかったのだ。先に戻って正解だよ。ランチボックスを食べて、また調査を続ける体力は私には無いからね。

「あっ、アンジェラが扉の開閉をしているのかしら?」

 それならアンジェラが気の毒だと思ったけど、地上から調査しているみたい。

「そろそろお茶の時間ですが、どうされますか?」

 弟達は、サミュエルとアンジェラと乗馬訓練をしていたみたい。私ももっとするべきなんだろうけど、当分は馬に乗りたくないよ。

「下に降りてお茶をします」

 リリアナ伯母様にも心配を掛けたからね。

「ペイシェンス、大丈夫なのですか?」

 サロンに入った途端に言われたよ。

「ええ、一眠りしたら疲れも飛んでいきましたわ」

 ナシウスとヘンリーも心配そうだから、頬にキスをして「大丈夫ですよ!」と言っておく。

「ペイシェンスは、乗馬が苦手だから疲れるのだ」

 サミュエル、その通りだけど、親切心を忘れないで欲しいな。

「ペイシェンス様、私が行けば良かったのですが……」

 アンジェラが済まなそうな顔をしている。

「確かにアンジェラの方が私よりも乗馬は上手いですわ。でも、動力源を見てみたいと私は思ったのです」

 まぁ、もう見たから良いよ。あの取り囲んでいる岩がパネルになって太陽光エネルギーを集めているんだ。そして、それらを格納庫の斜め上のバッテリーに貯めて、地下通路を照らしたり、扉の開閉に使っているのだ。

「お姉様、あの扉の開閉システムの動力源が見つかったのですか?」

 ナシウスが目を輝かせている。

「ええ、あの格納庫の天井部分を取り囲んでいる人工岩で太陽光を取り込んで、その力を使って開閉したり、魔導灯をつけているみたいですわ。そうだわ、人工岩の上に積もっていた土や枯葉を退けたから、地下通路の中も明るくなったのですよ」

 サミュエルとヘンリーも「行って、見てみたい!」と騒いでいるけど、今日は可愛い弟達の為でも行きたいとは思えない。

「それが解明されたら、人々の暮らしに役立ちますよね!」

 ナシウス、それを言われると弱いよ。その通りなんだもの。

「伯父様に聞いてから、行きましょうね」

 サミュエルの唇が不満そうに突き出されているけど、リリアナ伯母様が注意してくれた。

「調査隊は陛下が派遣された正式なものですよ。お父様が許可されないと見学できません」

 まぁ、その通りなんだよね。カエサル達は古文書の写しを作るのに協力したから、調査隊に参加させて貰っているのだ。

「父上は許可して下さるでしょうか?」

 サミュエルの問いに、リリアナ伯母様は微笑む。勉強嫌いを拗らせていたサミュエルとは思えないよ。

「貴方が真剣に頼めば、許可して下さると思うわ」

 それにサミュエルは、いずれはノースコートを継ぐのだ。この調査は長くなりそうだし、しっかりと把握しておいた方が良いだろう。

「お姉様、私やヘンリーは駄目でしょうか?」

 ナシウスの灰色の目が曇る。ヘンリーもしょんぼりしている。そんなの見てられないよ。

「私からも伯父様に頼んであげますわ。調査隊の邪魔をしなければ、見学させて貰えますよ」

 二人がニッコリする。やはり、明日も乗馬する羽目になりそうだ。弟達の監督として付き添わないと駄目だし、疲労が回復したら動力源についてもっと調べたくなってきたんだよね。本当に現金だね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 乗馬はね……ほぼテイム可能にまでなったけど、巨大バイクみたいなもんだからね……。 まったく現ペイシェンス? ほとんど死んでいる(物理)んだから身体強化&回復くらいさっさとやんなさい。 マ…
[一言] 毎回 楽しく読ませていただいてます♪ そろそろ 調査隊にウンザリしてきました。 ペイシェンス 怒っても良いと思います。 早く 学園生活に戻って欲しい でも、可愛い弟達に会えなくなるのは 私も…
[一言] 今日とかペイシェンス居なくても良くない?土魔法のアーサーが土とかどかせば良いと思うんだけど。 なんでもかんでもペイシェンスを関わらせるのは不自然に思えます。 お金を貰ってるわけでもないし…
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