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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み

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調査隊が到着!

 次の日は、朝から古文書の写し作りだ。今回は一度やっているから、二台目のキャビネットに納めてあった大きな紙をミハイルとフィリップスが予め作る。不器用なベンジャミンは、この作業から外されたよ。

「ペイシェンス、すごいスピードだな!」

 一部だけ写すのだから、横のテーブル二台で、次々と原本と白紙をずらっと並べてあるのを、生活魔法で次々と写していく。並べるのが追いつかないと、ベンジャミンとブライスに呆れられたよ。

 アーサーとカエサルは、ファイルを元に戻したり、写しをファイルしていく。ベンジャミンは雑だから、この仕事からも外されて、同じクラスメイトのブライスと組まされている。

「ええ、昼からはアンジェラに刺繍を教える予定ですもの。明日には帰るから、寂しくなるわ」

 刺繍と聞いて、カエサルの目が光る。

「マギウスのマントの刺繍をするのか!」

 まだ銀糸を作ってないよ!

「いえ、普通の刺繍ですわ。それと、調査隊が到着したら、また扉の開閉係なのでしょうか? できれば夏休み中に、絵画刺繍とマギウスマントの刺繍を仕上げたいし、熱気球の模型だけでも作りたいのですが」

 それは嫌だなと思っていたが、カエサルが笑った。

「調査隊には生活魔法の使い手も選ばれているさ。子爵令嬢を扉の開閉係にして調査するなど、人聞きが悪いからな。そんなに人材不足なのかと侮られたく無いだろう」

 まぁ、錬金術師なら魔法使いにコネがありそうだものね。やったね! これからは、午前中は勉強(錬金術の研究)、昼からは弟達と夏休みを楽しむよ!

「ペイシェンス、お前、呑気な事を考えているだろう。この古文書と写しを見たら、王宮魔法師が飛んでくるぞ! 普通の生活魔法では無いと分かるからな」

 ああ、ライオン丸はうるさいね!

「ペイシェンス嬢、それに歴史学者も飛んで来ますよ。修復不能な古文書が新品になるなんて夢の魔法ですからね」

 あっ、そう言えば陛下が王都に帰ったら、王宮に来て欲しいと言っていたのは、何か重大な宝物の修理依頼かも。

「私は、弟達と夏休みを楽しみたいのです!」

 ベンジャミンに鼻で笑われたよ。

「無自覚なのが、一番の問題だな。夏休みに何個も特許を取るような商品を作り、遺跡の通路を発見し、扉を開け閉めし、古文書を修復し、写す。これだけやらかして女準男爵(バロネテス)だなんて、やはり若いからか? いずれは女男爵(バロネス)になるんじゃ無いか?」

 痛い! 心に突き刺さるよ! やはり、異世界の常識不足で、やらかし過ぎたかも?


 午後からはアンジェラとお淑やかに刺繍の時間だ。うん、アンジェラは初めてだから、クロスステッチを教えるよ。それができたら、ラインステッチで名前を刺繍させよう。

「なぜ、伯母様やラシーヌ様まで?」

 女子トークしながら、刺繍しようと思っていたのに、伯母様達も一緒だ。

「ペイシェンスの刺繍を見ていたら、したくなったのですよ」

 リリアナ伯母様は絵画刺繍をしている時にガン見していたもんね。ラシーヌは、娘のアンジェラが頑張るなら、母親として負けていられない気分なのかな?

「これを刺せば良いのですか?」

 アンジェラ用のクロスステッチは、簡単な花の図案だ。クロスに刺していけば、三色スミレになるように下絵を描いている。

「ええ、好きな色にすれば良いわ。糸通しを使ってね」

 リリアナ伯母様は、糸通しに感激している。まぁ、微妙なお年頃だからね。

「これは便利だわ!」

 バーンズ商会で売っていると宣伝しておくよ。女子会には少し年上の方もいるけど、刺繍しながら話す。

「ペイシェンス、貴女は女準男爵(バロネテス)になったので、嫁に貰いたいと思う方も増えるでしょうが、そんな爵位目当てな方はやめておいた方が宜しくてよ」

 ああ、微妙な話だよ! 異世界ではプライバシーの尊重とか無いのかな? 私が返答しづらくて困惑していたら、伯爵がやってきた。

「ああ、刺繍をしていたのか、邪魔をして申し訳無い。リリアナ、明日には調査隊がノースコートに到着するのだ!」

 手紙を手に伯父様が騒いでいる。これで、リリアナ伯母様の縁談からは解放されるね。ラシーヌも受け入れ準備の手伝いを申し出たので、サロンには私とアンジェラだけだ。

「それで、ペイシェンス様はどなたがお好みなのでしょう?」

 えええ……アンジェラって恋バナ好きだったの? まだまだ子供だと思っていたよ。ここで何を話したのかは、乙女の秘密! 内緒だよ。


 次の日、ノースコートに調査隊が着いた。私は異世界ではもっとゆっくりと物事が進むと思っていたけど、凄いスピードだよね。それか、陛下は視察する前から調査隊の派遣を考えていらしたのかな?

 今日は総出では出迎えないけど、カエサル達とフィリップスは、嬉々として玄関から飛び出して行く。

 ノースコート伯爵夫妻とサミュエルは、調査隊を受け入れる為に、玄関に出迎えているけど、私は弟達とアンジェラと子供部屋で待機中だ。

「今日、アンジェラは帰ってしまうのね」

 万が一、生活魔法の使い手が調査隊にいなかった場合を考えて、格納庫の天井も開けなくてはいけないので、アンジェラも出立を延ばしていた。

「ええ、こちらにいる方が面白いことがいっぱいですが、仕方ありませんわ。ペイシェンス様、サティスフォードにも遊びに来て下さいね」

「ええ、行きたいですわ!」

 ナシウスとヘンリーは窓から調査隊を見ていた。

「あっ、あれが歴史学者じゃないかな? 彼方は、きっと錬金術師だよ!」

 上から見ても分かるのかな? ヘンリーは目も強化できるからね。

「ヘンリー、それは偏見だよ。怪しいマントを着ているから錬金術師だと決めつけるなんて。それに痩せているから学者だとは限らないさ」

 私も扉の開閉システムと灯りの動力源には興味があるけど、あまり調査隊とは関わりたくない。ベンジャミンに言われるまでもなく、やらかし過ぎてしまったのを反省しているからだ。今更だけどね。

 その上にマギウスのマントも作ろうとしているし、熱気球も空に浮かべたいと思っている。マギウスのマントは、サリエス卿に剣術指南のお礼にと考えて作りだしたんだから、仕上げるよ。熱気球も田舎で実験した方が良いんだよね。王都ロマノの王立学園で実験したら、すぐに見つかってあれこれ質問が来そう。あれっ、反省してないじゃん! どうしようかな?

「ペイシェンス様、あの方はヘンリー様と似ておられますね」

 アンジェラも窓から調査隊を見ていたみたい。マナー的にはお勧めできないけど、ヘンリーに似ている人と聞いて、私も窓に近づく。

「金髪に青い目、ローレンス王国ではよく見るタイプですわ」

 なんて言ったけど、ドキンとした。だって何とはなく雰囲気がヘンリーと似ているんだもの。ヘンリーが大人になったらあんな感じになるのかなって気がするよ。

「ヘンリーというより、お姉様に似ている気がします。男性と女性なのに不思議ですね」

 ナシウス、やめてよ! あっ、でも言わんとする所は分かる。ヘンリーはもっと明るくて犬派なんだよ。調査隊の彼は、もっと静かで猫派のイメージ。私もどちらかと言えば、家でごろごろしていたい猫派だよ。まぁ、ショッピングに行きたがるから、たまに町を散歩したがる猫だね。

「ご親戚でしょうか?」

 アンジェラの言葉で、リリアナ伯母様が前に言っていたケープコット伯爵家には錬金術師が多いってのを思い出したよ。

「まさかね?」

 リリアナ伯母様の視線が二階の窓に向かう。全員が窓際から素早く離れたよ。お客様を上から見下ろすなんて、マナー違反だからね。しまったな! 姉として、弟達を監督しなきゃいけない立場なのに、一緒に見下ろしていたよ。

「お嬢様、アンジェラ様、ノースコート伯爵がお呼びです」

 メアリーが呼びに来た。二人を呼ぶって事は……えええ、もしかして生活魔法の使い手は連れて来ていないのかな?

 私とアンジェラは、お淑やかにサロンへ入る。

「ヴォルフガング教授、グース教授、こちらが姪のペイシェンス・グレンジャーと姪の子のアンジェラ・サティスフォードです」

 紹介されたので、スカートをちょんと持って挨拶する。

 ヴォルフガングは、フィリップスが切望していた歴史学者だね。針金みたいに細いけど、ちゃんと食事しているのかな? 異世界に転生した時に飢えたから、食事に関しては敏感なんだ。

 グースは、黒いマントを羽織った錬金術師だった。まぁ、ヘンリーの第一印象通りだね。

「そうか、この二人が扉を開けてくれるのだな!」

 えええ……生活魔法の使い手は、調査隊に含まれていないの? ずっと、扉の開閉係は困るのです! 弟達と遊べないじゃん! 私とアンジェラの視線から非難を感じたのか、グースが吠える。

「いや、生活魔法の使い手は後日に着く予定だ! だが、私達は一刻でも早く調査したいと考えたのだ」

 わっ、グースは大声だね。ベンジャミンが二人に増えた気分だ。

「グース教授、令嬢の前で大きな声を出さないで頂きたい。生活魔法の使い手が着くまでは、ご協力願うのですから」

 歴史学者のヴォルフガングは、優しい口調だけど、目が私にロックオンしている。吠えるグースより怖いよ。

「ノースコート伯爵、早速ですが地下通路の調査を始めたいのです」

 わぁ、グースは昼食の時間だと分からないのかな。

「それは、昼食後にいたしましょう。それと、他のメンバーも二人に紹介しませんと」

 グースは一瞬、不満そうな顔をしたけど、グッと飲み込んだ。ここはノースコート伯爵領なのだ。調査をスムーズにする為にも、伯爵のご機嫌を損ねてはいけない。

「そうですな。年甲斐もなく、カザリア帝国の生きているテクノロジーを我が目で見られると思うと気が急いてしまいました。助手のマイケル・コリンズとサイモン・ケープコットです」

 二人は紹介されて、椅子から立ち上がってお辞儀をした。やはり、サイモンは母親の実家ケープコット伯爵の身内みたい。向こうも何も言わないから、こちらからも何も言わないよ。絶縁中だからね。フン!

「私の助手も紹介しておこう。ユーリ・マクギャバンだ。おお、そこにいるのはフィリップス・キャシディだな! 去年のサマースクールに参加していた学生だ。夏休みで、他の助手は聖皇国の遺跡に行ってしまっていたのだ。手伝って欲しい!」

 フィリップスは飛び上がって喜んでいるよ。

 生活魔法の使い手が着くまでは、当分は扉の開閉係だね。トホホ。

「私は、もう少しここにいられそうですね!」

 アンジェラが残ってくれるのだけが、楽しみだよ。従兄弟のサイモンとは仲良くなれそうにないしね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 乙女の秘密♥️
[一言] ペイシェンスなら次々功績をあげて陞爵すると陛下も思ってそう。 老カッパフィールド侯爵に逆らったら陰湿な嫌がらせをされて、 領民まで苦しむ事になるから、シャーロッテ伯母様も寄子でない けれど…
[一言] やっぱり、こんなけやって準男爵ってケチだよね。 女性で年少だからだろうけど。一度前例ができると前例を基準にしてケチつけやすくなるし(あの人はあれだけの功績があって準男爵なのだから、そんなに褒…
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