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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み

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地下通路の視察

 昼食は視察を控えているので、陛下がいらっしゃる割には素早く終わった。私は、普段も美味しい海の幸が出ているけど、それよりも豪華な昼食を楽しんだよ。馬糞雲丹、大好き!

「伯爵夫人、とても美味しかった」

 陛下に褒められて、リリアナ伯母様もホッとしたみたい。

「では、陛下、ご案内致します」

 先ずは地下通路の視察だ。今回はリリアナ伯母様もラシーヌもついてくる。馬車での移動だから楽だね。

 あっ、入り口の近くには大きな白いテントが張ってあり、中はまるでサロンだよ。テーブルに椅子にお茶のセットもある。

「さぁ、アンジェラ、開けてくれ」

 アンジェラの横には父親のサティスフォード子爵と母親のラシーヌが付き添っている。

「大丈夫よ。いつも通りにすれば良いのだから」

 緊張しているアンジェラに微笑みかける。

「ええ、開け!」

 凹んだ部分を棒で押しながら、アンジェラが唱えると、ゴゴゴゴゴ……と岩が二つに割れて、地下通路へと続く階段が見えた。

「おお、これは凄いな」

 うん、初めて見たら驚くよね! 陛下のお付きの人も驚いているよ。あっ、ユージーヌ卿は興味があるのか、覗き込んでいる。それとも、中を警戒しているのかな?

「私が先に立って案内致します」

 ノースコート伯爵を先頭にして、地下通路に降りる。

「アンジェラ、なるべく開けていてね」

 テントの中でリリアナ伯母様やラシーヌと寛いでいるアンジェラに一声かけて、私もナシウスと一緒に地下通路に入る。

「私達は、ここで開閉システムを調査しておく」

 錬金術クラブメンバーは肩の凝る王様の視察から一抜けして、入り口付近に魔法陣が隠されていないか調べるみたい。

「今日は、開閉システムに手を出さないで下さいね。灯の方が良さそうだわ」

 万が一、壊したら大事だよ。

「そうだな。それに調べるなら、壊れかけている遺跡の方が良いかもしれない」

 ミハイルは灯りに興味があるみたいだけど、他のメンバーは魔石を使うのに不自由していないからか、派手な開閉システムの方が気になるみたい。と言う事で、メンバーは格納庫の先の遺跡の出入り口を調査をしようと走り出した。

「ペイシェンス嬢、急ぎましょう」

 メンバーと話しているうちに、陛下一行はかなり先まで進んでいる。フィリップスは、私の足元を魔道灯で照らしてくれている。優しい紳士的な態度だよ。

「お姉様、お手をどうぞ」

 石畳みになっているけど、少しでこぼこしたり、階段もあるから、ナシウスがエスコートしてくれる。優しい弟だよ! マジ天使!

「おお、ペイシェンス来たな!」

 格納庫には陛下一行が待っていた。

「ペイシェンス、天井を開けてくれ」

 伯父様に言われて、壁の出っ張りがある所へ行く。

「皆様、なるべく壁沿いに移動して下さい。一度目ほどではなくても、土や枯葉が上から落ちてくるかもしれませんから」

 陛下をユージーヌ卿が壁沿へと移動させるのを待ってから「開け!」と唱えながら、出っ張りを押す。

 ゴゴゴゴゴ……、あっ、開けるのを見るのは初めてだよ。少し土と枯葉が落ちてきたけど、このくらいなら大丈夫。

「コホン、コホン!」何人かは口を開けたまま見上げていたみたい。ナシウスは、ちゃんと口を閉じていたよ。

「おお、これは素晴らしいな。カザリア帝国の技術は、今よりも進んでいたのだ。なんとかして、解明したいものだ」

 まぁ、扉の開閉システムは派手だからね。それより、このシステムを維持している方法が知りたいよ。魔石なら魔力が抜けてしまうよね? だって千年以上前の遺跡だもの。

「ノースコート伯爵、よく報せてくれた。感謝するぞ!」

 まぁ、黙っていても、いずれはバレるよね。一個、二個の遺物(オーパーツ)なら大丈夫だっただろうけど、規模が大き過ぎるし、カエサル達がいたからね。公爵家や侯爵家や伯爵家が、全員、王家に黙り通すとは思えないもの。

「いえ、陛下の視察を賜りまして、光栄でございます」

 これで閉めて、視察は終わりだと思ったけど、陛下は執政官の館跡の入り口にも行く。こちらは、壊れているんだけどね。

「陛下、此方の扉は壊れていて、一瞬しか開きませんが……」

 それに階段も無い。そう言えば、ここに来たのは初めてだ。

「内側にも開閉システムを起動させる凹みか出っ張りがある筈だ」

 ノースコート伯爵の命で、全員が探す。私は魔道灯を持ってきていないから、それを見ているだけだよ。だって、ここまで歩いて、少し疲れたんだ。かなり距離があるし、空気が澱んでいるのを浄化したからね。

「これではないか!」

 先に来ていたカエサル達が見つけたよ。此方も凹みだった。格納庫のだけ出っ張りなのは、何故なのかな?

「ペイシェンス、押してみてくれ」

 棒を伯父様から渡されて、それで凹みを押しながら「開け! 階段も出ろ!」と唱える。だって、執政官達が地下通路に毎回落ちていたとは考えられないもの。壁から階段の板が出ていたんじゃ無いの?

 やはり、天井はパッと開いて、パッと閉まった。壊れているね。でも、階段というか、板がスルスルと十数段も出たんだ。まぁ、それも一瞬だったけどね。

「おお、あれは階段だな。ガイウスの丘の入り口は石の階段だったが、こちらは違うのか」

 陛下も驚いていたが、錬金術クラブメンバーは大騒ぎだ。

「外の凹みでは階段など出なかった。内側の方がまだ生きている機能が多い!」

 カエサルが喜んでいるけど、壊れているのは一緒だよ。五十歩百歩だ。

「それで、空飛ぶ魔道船の壁画は何処にあるのだ?」

 この入り口の開閉システムが壊れていなかったら、上に上がれば良いけど、一旦、ガイウスの丘に戻って遺跡に行かなくてはいけない。私は、ここでリタイヤしたいよ。だって地下通路とはいえ、遺跡まで往復したんだもん。途中には高低差を埋めるために階段や坂もあったから、既に疲れている。

「ペイシェンス、大丈夫か?」

 サミュエルに遅れがちで歩いているのを心配されたよ。

「サミュエルは、先に行きなさい。陛下は、ノースコート伯爵家にいらっしゃっているのですから」

 ナシウスとフィリップスに付き添われて、やっと出た時には、皆が馬車に乗ろうとしていた。その前に、テントでお茶が振る舞われたみたいだ。

「ペイシェンスも一緒に行こう!」

 ご遠慮したいけど、陛下から言葉が掛かると拒否し難い。

「陛下、ペイシェンスは疲れているみたいです。地下通路の空気の浄化もずっとしてくれていましたから」

 伯父様が庇ってくれたよ。

「そうか、なら無理はしない方が良い。其方の意見を聞きたかったのだが……カエサル、アーサー、ベンジャミン、ブライス、フィリップス、ミハイル、其方達の意見は館に帰ってから聞く時間を取るぞ」

 全部を取り上げられそうに無いと分かって、ベンジャミンが喜んでいる。また、カエサルに横腹を肘で突かれたよ。交渉はこれからだもんね!

 一行を見送って、私はリリアナ伯母様達とお茶を一杯飲んでから、館に戻る。

「さぁ、早めの晩餐になるから、ペイシェンスはお風呂に入って着替えなさい」

 陛下は泊まらずに離宮に帰られるけど、簡単な晩餐会はあるみたい。遺跡から帰ったら、ノースコート伯爵やカエサル達とも話し合わないといけないし、忙しそうだね。

 私は、メアリーに世話されて、お風呂でリラックスしている。

「ふう、疲れたわ」

 異世界の人達は体力がありすぎるのか、ペイシェンスの体力がなさ過ぎなのか?

「お嬢様が遺跡まで往復出来る様になられたのは、とても進歩ですわ」

 やはり、元ペイシェンスは体力が無かったみたい。今の私も体力は、アンジェラよりも無いけどね。

「どうすれば体力が付くのかしら?」

 メアリーは令嬢に体力なんか必要ないと答えると思ったけど、違った。

「体力が無いと、舞踏会で困りますよ。ダンスは体力を使いますからね。そうですわ、ダンスの練習をされては如何でしょう」

 ダンスの修了証書は、カエサルのリードのお陰で取れたんだ。その後は、青葉祭か弟達に教えるぐらいしかしていない。

「ダンスねぇ……」

 あまり気乗りがしない返事をしたら、メアリーに叱られた。

「ダンスが上手くないと、社交界で楽しめませんよ」

 その社交界を楽しみたくないんだなんて、メアリーには言えないな。

「さぁ、お風呂から出て下さい。髪の毛をいつもより複雑な形にしたいのですから」

 こんな時のメアリーには逆らわないよ。だって、侍女の仕事に誇りを持っているからね。やはり、ロマノに帰ったら下女を雇おう!

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ペイシェンスの体力の無さは私には分かりますよ! 私は子供の頃、好き嫌いが激しくて食事が満足に取れずガリガリでした。 ちなみに今は丸々してますが(笑) ペイシェンスちゃん、美味しい物をたくさん…
[一言] 連日更新お疲れ様です。 今は学生で未だ11歳だから良いけど、社交界の問題もあるし、結婚するにしろ就職するにしろ体力がないと困りますからねぇ (*-ω-) 忙しさにかまけて体力作りを怠ってい…
[気になる点] 陛下ご一行が遺跡視察に行ってる間ヘンリーは一人でお留守番なんですね。年齢のせいだとはいえかわいそうに感じました
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